勇者の名産地
失われし都
「ここが遺跡の中心か……」
砂に埋もれた大通りを真っ直ぐ進んでいくと、大きな神殿らしき建物があった。
神殿の入口へと続く30段ほどの大階段の脇に、槍を構えたプリミティブな彫像が並んでいる。どことなく、古の香りを漂わせる遺跡だ。
「ミーナ! ミツカ! ミッタ! いないのかー!?」
カトリは三人の名前を呼びながら大階段を昇っていく。
「おっと、危ない……!」
階段の途中に亀裂が走っていた。その下にあるらしい地下空間が見えている。
落ちたらかなり痛いだろう。亀裂はそのまま階段の脇まで続いていて、その先の土台の一部が崩落していた。
神殿はかなり大きな建物だった。階段を昇りきると、そこからほぼ都市遺跡の全貌が見渡せた。カトリはひとしきりその光景を眺めてから神殿の中へ入っていった。
「こんにちわ……おじゃまします」
礼儀正しく挨拶をしてから入る。中に人が居ないとわかっていても挨拶はする。農民の習性の一つだ。
神殿の中は、外に比べると涼しかった。砂埃で汚れてはいるが、石の床には赤い絨毯が敷かれ、壁には精緻な彫刻が施され、いかにも高貴な場所といった様子だ。
神殿の奥の方には祭壇があった。長方形の磨いた石を三段に重ねただけの、シンプルだが重厚な印象のある祭壇だった。そしてその前に、ミーナが一人で立っていた。
「ミーナ!」
カトリが声をかけると、ミーナはそのセミロングの髪を揺らしながら振り向いてきた。
「カトリ?」
彼女の瞳には、昨夜のような神秘的な印象はなく、今はどこか戸惑っているようだった。
「無事だったんだな! 二人はどうした? 一緒じゃないのか?」
三人が離れ離れになって行動するのは珍しかったから、カトリはまず最初にそのことを聞いた。
「え、ええと……」
「どうしたんだ、ミーナ。一体何があったんだ!」
ミーナはいつもの強気な態度ではなかった。しかしカトリは知っていた。一人でいるときの彼女は、このようにどこかおどおどしているのだ。
三人揃わないと調子が出ないのである。
「あ、あたしね、さっき目が覚めたところなの。気付いたらこの祭壇の前で寝てたの……」
「寝てた?」
アーリヤの話では、三人はカトリとハナちゃんを置いてさっさと遺跡に行ってしまったとのことだったが。
「どういうことなんだ……記憶がないのか?」
「さあ……。あたし達どうなっちゃったんだろう。カトリは何か知ってる?」
「俺はそのことをお前らに聞こうと思っていたんだ」
「そうなの?」
カトリはぼりぼりと頭をかいた。何となくむずがゆい。こいつら三人揃っている時は蛮族のように振る舞うのだが、一人になると途端に女らしくなる。
「とにかく、ミツカとミッタを探そう」
「う、うん……そうだね!」
カトリはさらに神殿の奥へと進んでいく。
ミーナはカトリの服の袖をキュッと掴んでその後に続いた。
一人では何をしてよいかわからないのである。
* * *
祭壇の奥にある区画は、人が住む場所になっていた。
身分の高い者が暮らしていたのだろう。石造りの大きな部屋がいくつもあって、それぞれに豪華なベッドが置いてあった。無論、放棄されてから長い年月が経っていて、どの部屋も砂埃で汚れていた。
「ここは……調理場か」
そこは洗い場とかまどと調理台がある部屋だった。肉きり包丁が床に落ちていたりと、人が住んでいたころの面影を残している。
特に何もないようなので、カトリ達はすぐに調理場を後にした。その先に、上と下それぞれに続く階段があった。
ミーナが前に進み出て言った。
「行くしかないわね!」
「ど、どっちにだよ?」
「うーん、どっちかなー?」
「おいおい……」
自分で行くしかないとか言っておいて、どっちに行くかは決められない。
長女のミーナは積極的で、なんでも我先にとやろうとするのだが、実際はとても優柔不断なのだ。
「じゃあ上よ!」
「根拠とかないんだろうなあ……。まあ別にいいんだけどさ」
カトリはしぶしぶと言った感じで昇る方の階段に足をかける。
「いやちょっとまって、やっぱり下かも!」
「どっちだよ!」
「うむむー! わかんない! どうしたらいいの! どっちかには行きたいの!」
「めんどくさい奴だな! じゃあ俺が決めるよ。俺が上に行くからお前は下だ」
「おおっ、二手に分かれるのか、確かにその方が効率が良いな!」
「だろう? それで、一通り調べたらまたここで合流な」
「わかった! 案外頼りになるな、カトリ!」
そうしてカトリは上へ、ミーナは下へと向かった。
魔物はいないようだし、単独行動でも特に問題はないだろう。
砂に埋もれた大通りを真っ直ぐ進んでいくと、大きな神殿らしき建物があった。
神殿の入口へと続く30段ほどの大階段の脇に、槍を構えたプリミティブな彫像が並んでいる。どことなく、古の香りを漂わせる遺跡だ。
「ミーナ! ミツカ! ミッタ! いないのかー!?」
カトリは三人の名前を呼びながら大階段を昇っていく。
「おっと、危ない……!」
階段の途中に亀裂が走っていた。その下にあるらしい地下空間が見えている。
落ちたらかなり痛いだろう。亀裂はそのまま階段の脇まで続いていて、その先の土台の一部が崩落していた。
神殿はかなり大きな建物だった。階段を昇りきると、そこからほぼ都市遺跡の全貌が見渡せた。カトリはひとしきりその光景を眺めてから神殿の中へ入っていった。
「こんにちわ……おじゃまします」
礼儀正しく挨拶をしてから入る。中に人が居ないとわかっていても挨拶はする。農民の習性の一つだ。
神殿の中は、外に比べると涼しかった。砂埃で汚れてはいるが、石の床には赤い絨毯が敷かれ、壁には精緻な彫刻が施され、いかにも高貴な場所といった様子だ。
神殿の奥の方には祭壇があった。長方形の磨いた石を三段に重ねただけの、シンプルだが重厚な印象のある祭壇だった。そしてその前に、ミーナが一人で立っていた。
「ミーナ!」
カトリが声をかけると、ミーナはそのセミロングの髪を揺らしながら振り向いてきた。
「カトリ?」
彼女の瞳には、昨夜のような神秘的な印象はなく、今はどこか戸惑っているようだった。
「無事だったんだな! 二人はどうした? 一緒じゃないのか?」
三人が離れ離れになって行動するのは珍しかったから、カトリはまず最初にそのことを聞いた。
「え、ええと……」
「どうしたんだ、ミーナ。一体何があったんだ!」
ミーナはいつもの強気な態度ではなかった。しかしカトリは知っていた。一人でいるときの彼女は、このようにどこかおどおどしているのだ。
三人揃わないと調子が出ないのである。
「あ、あたしね、さっき目が覚めたところなの。気付いたらこの祭壇の前で寝てたの……」
「寝てた?」
アーリヤの話では、三人はカトリとハナちゃんを置いてさっさと遺跡に行ってしまったとのことだったが。
「どういうことなんだ……記憶がないのか?」
「さあ……。あたし達どうなっちゃったんだろう。カトリは何か知ってる?」
「俺はそのことをお前らに聞こうと思っていたんだ」
「そうなの?」
カトリはぼりぼりと頭をかいた。何となくむずがゆい。こいつら三人揃っている時は蛮族のように振る舞うのだが、一人になると途端に女らしくなる。
「とにかく、ミツカとミッタを探そう」
「う、うん……そうだね!」
カトリはさらに神殿の奥へと進んでいく。
ミーナはカトリの服の袖をキュッと掴んでその後に続いた。
一人では何をしてよいかわからないのである。
* * *
祭壇の奥にある区画は、人が住む場所になっていた。
身分の高い者が暮らしていたのだろう。石造りの大きな部屋がいくつもあって、それぞれに豪華なベッドが置いてあった。無論、放棄されてから長い年月が経っていて、どの部屋も砂埃で汚れていた。
「ここは……調理場か」
そこは洗い場とかまどと調理台がある部屋だった。肉きり包丁が床に落ちていたりと、人が住んでいたころの面影を残している。
特に何もないようなので、カトリ達はすぐに調理場を後にした。その先に、上と下それぞれに続く階段があった。
ミーナが前に進み出て言った。
「行くしかないわね!」
「ど、どっちにだよ?」
「うーん、どっちかなー?」
「おいおい……」
自分で行くしかないとか言っておいて、どっちに行くかは決められない。
長女のミーナは積極的で、なんでも我先にとやろうとするのだが、実際はとても優柔不断なのだ。
「じゃあ上よ!」
「根拠とかないんだろうなあ……。まあ別にいいんだけどさ」
カトリはしぶしぶと言った感じで昇る方の階段に足をかける。
「いやちょっとまって、やっぱり下かも!」
「どっちだよ!」
「うむむー! わかんない! どうしたらいいの! どっちかには行きたいの!」
「めんどくさい奴だな! じゃあ俺が決めるよ。俺が上に行くからお前は下だ」
「おおっ、二手に分かれるのか、確かにその方が効率が良いな!」
「だろう? それで、一通り調べたらまたここで合流な」
「わかった! 案外頼りになるな、カトリ!」
そうしてカトリは上へ、ミーナは下へと向かった。
魔物はいないようだし、単独行動でも特に問題はないだろう。
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