永久なるサヴァナ
1on1
ハイエナ男は、鋭い爪がギラつくその腕を、一直線に振り下ろしてきた。
ロンは素早く横に跳ねて、ぎりぎりのところでそれをかわす。
男の爪先が地面に突き刺さり、その甚大な威力でもって地面を深くえぐった。
「ぐるあぁっ!」
素早く体を回転させて、今度は後ろ足による回し蹴り。
ロンは鋭いバックステップでそれをかわす。
ハイエナはさらに二歩三歩と踏み込んで、右へ左へ渾身の拳打を振り回す。
ロンはひたすらそれを回避。一旦オオカミの姿になってトウモロコシ畑に突っ込む。
そしてハイエナになって追ってきた男の鼻先に、後ろ足で土をひっかけた。
「ペッ!」
相手はその目くらましを払いのけ、密に生える植物の茎を押しのけて、ひるむことなく襲い掛かってきた。ロンは獣の状態でひたすら逃げる。
畑を突っ切ったとこでハイエナが飛び掛ってきた。上段から振り下ろされる強烈な一撃。かわした直後に、再びクレーターが刻まれる。
ロンは獣人形態に戻って足を止める。
「くそっ、やたらとパワーがありやがる……」
服に飛び散った土砂を払いながら、ロンは静かに距離をとった。
「ちょこまかと。逃げ足だけは一人前だな!」
「だてにサヴァナで生きちゃいねえよ」
獣人形態に戻り、獰猛な闘志をむき出しにしてくるハイエナ。
すでにその眼に理性はなかった。完全にロンを屠る気でいる。やるかやられるかの抜き差しならない勝負である。
本来ならば最大限の気力をふりしぼって構えるところだが、ロンの全身にはまったく力が入っていなかった。
逃げるわけでも、反撃するわけでもなく、相手が攻撃してくるのを待ち構えている。
両手の力を抜いてダラリと垂らす。
そして振り子のように揺らして相手の狙いをにぶらせる。
弛緩しきったその構えは、相手にはまったくやる気がないように見えるのだった。
「ふざけてんのか、てめえ!」
苛立ちが限界に達したハイエナは、ロンの誘いに乗って闇雲に突進してきた。ロンはそれをギリギリまで引き付けてから横にかわす。そして軽く足先を引っ掛ける。
突っ込んだ勢いのまま前方に転倒する男。
ロンはすかさず足を踏みつけた。
「あぎゃっ……!?」
その痛みで、男は雷に打たれたように飛び起きるハイエナ。
「くそがぁ!」
足を傷めた分、動きが鈍くなった男は、それでも怒りに任せてロンに掴みかかってきた。
徐々にロンのペースになってきた。涼しい顔でその攻撃をかわすと、今度は靴の先で思いっきり相手の脛を蹴った。
「アッー!」
男はたまらず脛を押さえ、その場でぴょんぴょん飛び跳ねた。
「油断してんじゃねーよ。ここはサヴァナだぜ?」
歯を軋ませて怒るハイエナ男を尻目に、ロンはオオカミになって走りだした。
「おらおら! こっちだ!」
「グオアアアー!」
尻尾を振って挑発し、ジグザグに走ってわざと追いつかせる。
完全に冷静さを失った男はハイエナの形態をとり、片方の後ろ足を引きずりながら解読不能の唸り声を上げて追いかけてきた。ロンを捕まえようと飛び掛り、その直前でかわされて頭から地面につっこむ。そんなことを幾度も繰り返す。
ハイエナは急速に体力を消費していく。
「頃合か」
そろそろ反撃できそうだと判断したロンは、足を止めて相手を待ち受けた。オオカミのまま後ろ足で地面を掻き、突撃の準備をする。
「ガアアアアア!」
そしてハイエナがその身を宙に躍らせた瞬間、その体めがけて突っ込んでいった。
「グルオオオオ!」
二匹の獣が空中で乱交差する。刹那の時に爆ぜる攻防。
爪と牙、無数の攻撃が一瞬にして繰り出され、見えない闘志の塊となって宙に閃く。動物の毛がバラバラと飛び散る。
「グオオッ!?」
相手の攻撃はすべて、ギリギリのところで届かなかった。一撃必殺の攻撃も、当たらなければ意味がない。大してロンの攻撃は、すべてが相手の肉に突き刺さっていた。
「おらおらどーしたあ!」
着地したロンは、すかさず四本の足で地面を叩き、身体を左右に揺さぶってフェイントをかけた。どうしてよいかわからなくなった相手が、一瞬その動きを硬直させる。
そこを見計らってロンはもう一度突撃を仕掛けた。
急所の喉下めがけて、最強の一撃である牙を剥き出す。決まればそれで決着である。
「グウゥ!?」
しかし相手は獣人形態となり、両腕でガードをかけてきた。
その腕にロンはガッチリと噛み付く。牙が深々と肉に刺さり、血飛沫とともに悲鳴があがる。
男がたまらず手を振り回す。ロンはそれに逆らわず、むしろその力を利用して遠くに飛んだ。
着地して相手を見据える。ハイエナ男はすっかり息が上がっていた。
「さて」
ロンは半獣の形態に戻って男と対峙。
「覚悟は出来ているよな?」
殺る権利を持つ者は、殺られる覚悟のある者だけ。それがサヴァナの不文律。オオカミの瞳がギラリと光り、ハイエナ男はただその場で息を荒げる。
ロンは素早く横に跳ねて、ぎりぎりのところでそれをかわす。
男の爪先が地面に突き刺さり、その甚大な威力でもって地面を深くえぐった。
「ぐるあぁっ!」
素早く体を回転させて、今度は後ろ足による回し蹴り。
ロンは鋭いバックステップでそれをかわす。
ハイエナはさらに二歩三歩と踏み込んで、右へ左へ渾身の拳打を振り回す。
ロンはひたすらそれを回避。一旦オオカミの姿になってトウモロコシ畑に突っ込む。
そしてハイエナになって追ってきた男の鼻先に、後ろ足で土をひっかけた。
「ペッ!」
相手はその目くらましを払いのけ、密に生える植物の茎を押しのけて、ひるむことなく襲い掛かってきた。ロンは獣の状態でひたすら逃げる。
畑を突っ切ったとこでハイエナが飛び掛ってきた。上段から振り下ろされる強烈な一撃。かわした直後に、再びクレーターが刻まれる。
ロンは獣人形態に戻って足を止める。
「くそっ、やたらとパワーがありやがる……」
服に飛び散った土砂を払いながら、ロンは静かに距離をとった。
「ちょこまかと。逃げ足だけは一人前だな!」
「だてにサヴァナで生きちゃいねえよ」
獣人形態に戻り、獰猛な闘志をむき出しにしてくるハイエナ。
すでにその眼に理性はなかった。完全にロンを屠る気でいる。やるかやられるかの抜き差しならない勝負である。
本来ならば最大限の気力をふりしぼって構えるところだが、ロンの全身にはまったく力が入っていなかった。
逃げるわけでも、反撃するわけでもなく、相手が攻撃してくるのを待ち構えている。
両手の力を抜いてダラリと垂らす。
そして振り子のように揺らして相手の狙いをにぶらせる。
弛緩しきったその構えは、相手にはまったくやる気がないように見えるのだった。
「ふざけてんのか、てめえ!」
苛立ちが限界に達したハイエナは、ロンの誘いに乗って闇雲に突進してきた。ロンはそれをギリギリまで引き付けてから横にかわす。そして軽く足先を引っ掛ける。
突っ込んだ勢いのまま前方に転倒する男。
ロンはすかさず足を踏みつけた。
「あぎゃっ……!?」
その痛みで、男は雷に打たれたように飛び起きるハイエナ。
「くそがぁ!」
足を傷めた分、動きが鈍くなった男は、それでも怒りに任せてロンに掴みかかってきた。
徐々にロンのペースになってきた。涼しい顔でその攻撃をかわすと、今度は靴の先で思いっきり相手の脛を蹴った。
「アッー!」
男はたまらず脛を押さえ、その場でぴょんぴょん飛び跳ねた。
「油断してんじゃねーよ。ここはサヴァナだぜ?」
歯を軋ませて怒るハイエナ男を尻目に、ロンはオオカミになって走りだした。
「おらおら! こっちだ!」
「グオアアアー!」
尻尾を振って挑発し、ジグザグに走ってわざと追いつかせる。
完全に冷静さを失った男はハイエナの形態をとり、片方の後ろ足を引きずりながら解読不能の唸り声を上げて追いかけてきた。ロンを捕まえようと飛び掛り、その直前でかわされて頭から地面につっこむ。そんなことを幾度も繰り返す。
ハイエナは急速に体力を消費していく。
「頃合か」
そろそろ反撃できそうだと判断したロンは、足を止めて相手を待ち受けた。オオカミのまま後ろ足で地面を掻き、突撃の準備をする。
「ガアアアアア!」
そしてハイエナがその身を宙に躍らせた瞬間、その体めがけて突っ込んでいった。
「グルオオオオ!」
二匹の獣が空中で乱交差する。刹那の時に爆ぜる攻防。
爪と牙、無数の攻撃が一瞬にして繰り出され、見えない闘志の塊となって宙に閃く。動物の毛がバラバラと飛び散る。
「グオオッ!?」
相手の攻撃はすべて、ギリギリのところで届かなかった。一撃必殺の攻撃も、当たらなければ意味がない。大してロンの攻撃は、すべてが相手の肉に突き刺さっていた。
「おらおらどーしたあ!」
着地したロンは、すかさず四本の足で地面を叩き、身体を左右に揺さぶってフェイントをかけた。どうしてよいかわからなくなった相手が、一瞬その動きを硬直させる。
そこを見計らってロンはもう一度突撃を仕掛けた。
急所の喉下めがけて、最強の一撃である牙を剥き出す。決まればそれで決着である。
「グウゥ!?」
しかし相手は獣人形態となり、両腕でガードをかけてきた。
その腕にロンはガッチリと噛み付く。牙が深々と肉に刺さり、血飛沫とともに悲鳴があがる。
男がたまらず手を振り回す。ロンはそれに逆らわず、むしろその力を利用して遠くに飛んだ。
着地して相手を見据える。ハイエナ男はすっかり息が上がっていた。
「さて」
ロンは半獣の形態に戻って男と対峙。
「覚悟は出来ているよな?」
殺る権利を持つ者は、殺られる覚悟のある者だけ。それがサヴァナの不文律。オオカミの瞳がギラリと光り、ハイエナ男はただその場で息を荒げる。
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