猫たちの惑星

ナガハシ

午睡の後 -白猫-

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 また何やら奇妙な夢をみたが、久方ぶりの心地良い昼寝だった。


 陽はもう随分と高くまでのぼり、こうして窓際の机に寝そべっていると暑いくらいだ。
 ふぐりは床の座布団の上に寝転がり、四肢をだらりと投げ出して、なんともだらしない格好で寝ている。
 僕が机から飛び降りると、その気配で彼は目を覚ました。


「んあ? 朝か?」
「昼だよ。外も随分と暖かくなってきただろう。少し出かけないか?」


 僕がそう提案すると、ふぐりは窓際に駆け上がり、窓枠を爪で器用に引っ掻いて開けた。


「無用心だね、鍵はしないの?」
「オヤジさんがずっと家にいるからな」


 僕たちは外に出ると、塀を伝って家屋の反対側に回る。
 途中で、書斎のような部屋の前を通り過ぎる。
 部屋の中には本がギッシリ詰まった棚が所狭しと並んでいて、まるでここまで書物の匂いが漂ってきそうな雰囲気だった。
 しっかりとした作りの木製風の机があり、その上にも開きかけの分厚い書物が何冊も散らばっている。


 そんな部屋の中を、この家の主人と思しき男の人がウロウロしていた。
 作務衣を来て、ふちの黒い眼鏡をかけている。
 少し白髪の混ざった髪の毛をいじりながら、なにやら調べ物をしている様子だ。


「何をしているのだろう? 狩りにはいかないのかな?」
「ああしてあれこれと考えるのがあの人の狩りなのさ」


 表玄関の前の通りに出る。
 どこまでも続く格子状の路地には人っ子一人いない。
 この時間帯はいつもこんな感じだ。
 この街の人々は、どういうわけかあまり外に出たがらない。
 食べ物に困ることが無いからだろうか?
 僕の知るかぎり、この街に人の食料は十分すぎるほどあるみたいだし。


 僕がボンヤリと思いふけっているうちに、ふぐりは勝手にどんどん進んで行く。
 どうやらあの富豪の家へと向っているようだ。


「あのジジイがどうなるか、一つ最後まで見届けてやろうぜ!」


 彼の鼻息は、昨日以上に荒々しい。


「そういやおまえ、名前つけられちまったな。良かったのか?」
「まんざらでもないんだ」
「はくび、か! なんか良い響きだな! いかにも頭が良さそうだぜ」
「うん、僕もそう思うよ」


 名前はともあれあの女の子、どこかで会ったことがあるような。
 気のせいだろうか? 
 僕は有るのか無いのか解らない記憶を探りつつ、ぼんやりと空を見上げる。


「なーに鼻のした伸ばしてんだー?」


 はて、鼻の下を伸ばしているように見えてしまったのだろうか。


「そんなことはないが」
「貴子ちゃんはオレっちのものなんだからな! 勝手に惚れちゃダメだぜ!」
「だからそんなことではないって……」


 野良猫が人の子に恋などするものかと、僕はフンと鼻をならした。















コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品