5000兆円と金髪ロリサンタで令和日本をぶっ壊す 〜魔法のがま口財布は最強チートアイテムだった!〜

ナガハシ

聖なる夜の夢

 それから数年の月日が流れた。
 俺は相変わらず一人身で、今も物流倉庫の中を這いずり回っている。


 それでも稼ぎはボチボチで、週に一度はうまいラーメンを食べることが出来る。
 ラーメンは高級品となったのだ。
 一杯1万円するラーメンだってザラにある時代の到来だ。


 サハラ砂漠の真ん中では、今も巨大なCO2吸収設備が稼働しているというが、俺にとってはどこか遠い国の話だ。


 アフリカ・インド・東南アジアでは、人口増加の速度にやや歯止めがかかってきているという。
 将来的に、地球の人口が100億を超えることはなさそうである。


 極端な円安で日本買いが進んだことは、世界中にエコ技術を普及させる効果があったようだ。
 消費電力を抑えられるということは、その分、コストを節約できるということでもある。
 日銀のディーラーさんには、たぶん、酷い迷惑をかけてしまったと思うけど。
 それもまた、今となっては遠い昔の話だ。


 結局、あの金髪ロリサンタは俺の前には姿を表していない。


 そもそも俺は、サンタクロースの存在なんて信じてはいない。
 きっとあれは、変わらない日常に倦んでいた俺の見た、幻覚のようなものだったのだろう。
 世界中の子供たちが信じようとも、俺はけして信じないだろう……。


 そうして今年もまたクリスマスがやってきた。
 何故、クリスマスはやってくるのだろうか。
 クリスマスは生物なのか……。


 そんなことを考えながら、カップルのいちゃつく街を後にし、最寄りの駅から家に向かう。
 そして、長年住み慣れた安アパートの扉を開ける。


 すると……。


「メリー・クリスマース!」


――パーン!


 あの金髪ロリが、俺の家で寛いでいたのだった。
 サンタのコスプレをして、クラッカーをぶちかましてくる。


「どうしたのじゃ? そんな辛気臭い顔をして?」


 勝手に頬の筋肉がひくついた。
 コノヤロウとバカヤロウが同時に脳裏を行き交って、巡り巡って鼻水が出た。


「誰だお前」


 気づけは、またそのセリフを行っていた。
 ロリは口をとがらせる。


「サンタさんじゃよぉー。忘れたんかい!」
「不法侵入で警察を呼ぶぞ」


 未成年者監禁でタイーホされてしまうかもしれんがな。


「ふふふ、呼んでも無駄なのじゃ。何故ならワシは、18歳になったのだからの」
「マジか……」


 どうみても小学生にしかみえないのだが。
 というか、意味がわからないのだが……。


「俺は夢を見ているのか?」
「そうじゃよ」


 そうなのか……ガッカリだ。


「家に帰ってきたら、知らない金髪ロリが寛いでいる。そんなのは夢じゃ!」
「はっきり言うなよ!」


 悲しくなるだろー!?


「しかし、夢見ることは大事なことじゃ。夢を見たからこそ、人はここまで歩んでこれたのじゃ」


 なんだか、哲学的なことをいい始めたぞ?
 求めよ! さらば与えられん!


 だが。


「そうか……」


 俺は、ロリが言いたいことが何となくわかるのだった。
 一年も一緒にいたんだからな。


「みんなで見る夢は、現実になるな!」
「そうじゃ!」


 5000兆円というお金は、俺にそのことを教えてくれた。
 あると思えばある、無いと思えばない。
 お金とはつまり、そのようなものだ。
 人を動かす、夢にすぎない。


 そして金髪ロリサンタもまた、そのようなものだったのだろう。
 彼女は、俺にとっての夢なのだ。


「どこほっつき歩いてたんだよ」
「いやあ……親父殿に、財布を人にやったことがバレでの、強制的に修行させられておったのじゃよ」


 どぎついのをかまされたわけだな。
 ざまぁ!
 俺がどんだけ寂しい思いをしたかと!


「で、修行は上手く行ったのか?」
「うむ、そいでの。また貰ってきたのじゃ」
「え……?」


 なんか……嫌な予感。


「ほれ! 5000兆円!」
「うわあああー!!」


 そして俺は逃げ出した。
 5000兆円なんて、もうまっぴらだ!


「ホホー! 何故逃げるー! まてー!」
「勘弁してくれ!」
「何を勘弁するというのじゃ! ワシらは結婚するのじゃろ! ならば一蓮托生というもの!」
「いやだあああー!」
「まてまてーい!」


 サンタになんかなりたくない!
 俺は、雪の降り始めた夜の道を、どこまでも走っていった。
 ロリもまた、どこまでも俺を追ってきた。


 すれ違う人達が、何事かと振り返る。
 サンタのコスプレをしたロリに追い回される俺。
 それを見る目は、何とも言えず生暖かい。


 まだ当分は普通に暮らしたい。
 彼女とのメリー・クリスマスは、世界が本当に平和になる時までお預けだ。


 誰もが、普通に良い夢を見て眠れるようになる、その日まで――。


「捕まえた!」
「ぐわっ!」


 お預けだ!






 おわり

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