レアスキル「TS」は、普通に考えて「ダンジョン攻略」には役に立たない

ナガハシ

普通にアイドル

 イワンさんは、諸々の事情により船に残ることに。
 俺と成子さんは、ミノリさんの運転するエコカーで、一路、秋葉原へと向かった。


「その人はどんなスキルを持っているんです?」
「アイテムボックスよ」
「おお、それは凄い!」


 鑑定と並ぶ鉄板スキルじゃないか!


「しかも容量は無限大だっていうから驚きよ、激レアを超える、神レア級のスキルといえますわね」
「そんなすごい人が秋葉原に……」
「しかもアメリカ人の女の子ですわ。日本の地下アイドルにあこがれて、留学してきたという筋金入りなのですわ」
「え、学生なんです?」
「ピチピチの16歳よ」


 まじですか!
 それは……楽しみだ!


 ふふふ、俺の中身が男であることは黙っていよう……。
 そうすれば一緒にお風呂に入ったりできるかも、ムフフ……。




 ◇ ◆ ◇




 てな感じで、俺がアホなこと考えているうちに秋葉原に到着した。
 適当な地下駐車場に車を停めて、駅から少し離れた場所にある雑居ビルの地下に入る。


 うーん、秋葉原。
 何もかもみな懐かしい。
 学生の頃はよく、ゲームを買いにやってきたものだ。


「ごきげんよう」
「あら! 成子さんじゃないですか!」


 まっすぐ楽屋に向かっていくあたりに、成子さんの顔の広さを感じる。
 やっぱり……お嬢様はアレかな……アキバ系なのかな……。


「ちょっとナリータに用があって来たのだけれど、もう居るわよね?」
「えっ! ナリータちゃんですか。あの子なら最近、辞めちゃったんですよ!」
「なんですって!」


 おや、思わぬ展開に?


「そんな! ここはあの子にとって放課後の部活みたいな場所でしょう!?」
「え、ええ……そうなんですけど、突然何も言わずに……」
「どうしてなのかしら……」
「さあ……ただ最近、何かを思い詰めているようには見えたんですけど……」


 成子さんは、しばらく深刻な表情で何かを思案していたが、やがてスマホを取り出した。


「ちょっと、ナリータの学校に連絡を取ってみるわ」
「ふむ……」


 そうして、そのナリータという子の通っている学校に話をつけること十数分。
 通話を終えた成子さんは、おもむろに首を横に振った。


「もうひと月も学校にも行っていないし、寮にも戻っていないそうよ」
「え!? ヤバイんじゃないですか!?」
「そうね、何かの事件に巻き込まれたと見ていいわね」


 成子さんがそう言うと、楽屋にいたメンバー達が一斉に顔を青くした。
 どうやらみんな外国の人ようだ。
 そういうアイドルグループなんだろうな。


「警察とか、親御さんとかには?」
「すでに連絡が行っているそうよ」


 じゃあもう、俺達に出来ることは……。


「ナリータのスキルのことを知っている人はまだ、そう多くはありませんわ。誰か、彼女に危害を加えそうな人に心当たりはなくて?」


 成子さんがそう聞くと、その場にいた一人が手を上げた。


「以前、彼女につきまとっていたファンがいて、警察沙汰になったことがあったんです。何でも、寮の前まで着いてきたって」


 なんだってー!
 追っかけの風上にもおけないやつだ!


「それで、他のファンの方が、住所まで特定して晒し上げてくれて、本人もそれで懲りたのか、もう会場には現れなくなりました」
「ひとまず、その人のところに伺ってみましょうか。何か知っているかもしれません」


 そうして俺たちは、教えて貰った場所へと向かった。




 ◇ ◆ ◇




 千葉県のとある住宅街の一角である。
 いかにもポロなアパートに、その元ストーカーの人の自宅があった。


「ごめんくださいまし」


 チャイムを鳴らした上で、成子さんは鈴を転がすようなお上品な声で、ドアの向こうへと声をかける。


「ど、どちらさまで……」


 意外と普通な、眼鏡をかけた学生風のオタクが現れた。
 一応、身構えてはいたのだけど、なんだか拍子抜けだ。


「私、ナリータちゃんの知り合いの成子というものなのですが」
「ひっ! あのことならもう十分に反省しましたよ! 勘弁してください!」
「いえいえ、別に責めにきたわけではないのです。実は今、ナリータちゃんが行方不明になっておりまして……」
「えっ!」


 そのオタクの驚き方に、不審さは全く無かった。
 本当に、素で驚いているようだった。


「そんな! 何があったんですか! 僕のナリータちゃんに!」


 うわあ……僕のとか言っちゃって。
 よく見ると彼の部屋の中は、ナリータちゃんのポスターで一杯だった。
 うわあ……なんて熱心なファンなんだ。


 でも普通に可愛いな。
 アメリカ人っていうから、もっとこう、ボン・キュッ・ボンな感じかと思ったけど、小柄でロリな子だった。
 長くてしっとりした感じの銀髪で、なんともお人形さんのような雰囲気がある。
 めちゃくちゃ庇護欲そそるな。


「警察にも連絡が行っているのですが、私達も独自に探そうと思っているのです。なんでも良いので、手がかりになりそうなことを話してくれませんか」


 うーん、ストーカーならば、さぞかしナリータさんのことを知っているだろう。
 ストーキング中に、他のストーカーを発見するなんてこともあったんじゃないか?


「いえ、その……彼女のことなら靴のサイズや、細かい仕草の意味まで知っていますけど……。そんな……さらわれてしまうなんて……」
「あら、どうして攫われたと思いますの? もしかしたら、単に行方をくらませたのかも」
「そんな! あんな可愛い子が誘拐されないわけがないじゃないですか!」


 にわかに息が荒くなる男。
 しかしなんだか、要領を得ないな。


「え! もしかして、僕を疑っているんですか! だったら家の中に入って見ていって下さい! 僕の自慢のナリータちゃんグッズを、是非とも見ていって下さい! はぁはぁ!」
「そ、そう?」


 おっと、流石の成子さんも引いているぞ。
 せっかくなので俺たちは、彼の自慢のコレクションを見せてもらうことにした。







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