レアスキル「TS」は、普通に考えて「ダンジョン攻略」には役に立たない

ナガハシ

普通に突入

 俺はそんなミノリさんの電波キャッチしたらしい。
 船の上で昼飯のバーガーを食べていた時に、ビビッときた。


「ん!? いま、誰かが呼んだ!?」
「ワタシにも聞こえマシター!」


 どうやらイワンさんもキャッチしたらしい。
 これはスキル持ちの仕業に違いないと、即座に認識したね。


「早速オシゴトデース!」
「困っている人がいるもんな!」


 というわけで俺とイワンさんは、食べかけのバーガーとコーラをほっぽり出して、声のした方へと向かった。




 ◇ ◆ ◇




 場所はあっさり突き止められた。
 大扉の上にあるガラス窓が破壊されている倉庫があったのだ。


――いやああああ!
――むりいいいい!


 しかも中から、女性の悲鳴が聞こえるじゃないか。


「ちょっと、これはマジなんじゃ……」


 ガチでやばい犯行現場だったらマズイんじゃないか。
 いかにイワンさんがロシア人で土魔法を駆使するとは言え、流石に分が悪いかも。
 かといって、警察を呼んでいるような暇もなさそうだ。


「オオーウ! この扉、鍵がかかってマース!」


 イワンさんの怪力でもこじあけられない頑丈な扉だ。
 体当たりを試みるも、びくともしない。


「く……ここまできて……!」


 この中にひどい目にあっている女の人たちがいるというのに、どうにもできないなんて。
 俺は無駄とは知りつつも、扉をこじ開けずにはいられなかった。


 すると――。


――ガラガラガラ!


 なぜか突然、重い鉄扉が開いたのだった。


「ホワッ!?」
「あいた!?」


 なんでだ? どうしてだ?
 俺の能力で開いたというのか?
 そんな馬鹿な……。


「オー! 鍵穴が『カギ』に変化してマース!」
「なんだってー!?」


 言われて見てみれば、鍵穴があった場所が、そこから突き出すような形の「カギそのもの」になってしまっている。
 まるで、女の人から男の人に性転換したみたい……やだー!


「お前ら、どうやって開けた!」


 声のした方を見ると、そこにはキザったらしい白スーツを着たお兄さんがいた。
 その後ろでは金の延べ棒を持った怪しい人たちが、女の人2人にむかって、グイグイとその延べ棒を押し付けているところだった。


 なにをやってるんだ!?


「すんません! まさか開くとは思って無くて!」


 なんだか想像以上にヤバイ現場なようなので、俺はそう言ってソロリと後ずさるが。


「ワタシ、わかりマシーター! 密貿易デース!」
「イワンが言っちゃあおしまいだよ!?」


 あんた密航者だろうが!


「ちっ! 人に見られてしまってはこれまでだ。ずらかるぞ!」


 と言ってその人達は、案外あっけなく退散を始めるが。
 金の延べ棒の回収に手間取っていた。


「ニガシマセーン! アースメイカァアアー!」
「ちょ! イワンさーん?」


 イワンさんの両手から土砂が吹き出す。
 あっというまに倉庫の入り口が塞がれてしまった。


「うおおお! なんてことをー!」


 パニック状態に陥るお兄さん達。


「サア! ウノ! おまわりさんデース!」


 いやいや! イワンさんまで捕まっちゃうよ!?


「ま、まて! 警察は勘弁してくれ! 事情を説明する! これはただの内輪もめの茶番で、犯罪でもなんでもないんだ……」


 お兄さんはそう言うと、地べたにしゃがみこんでガックリとうなだれた。




 ◇ ◆ ◇




「ナルホドー、そう言うことデシタカー」
「金持ちの考えることは、良くわかんないっすねー」


 俺とイワンさんとキザなお兄さん。
 あと、成子っていうお嬢さんと、そのメイドのミノリさん。
 5人で車座になって話し合う。
 お付きの人たちは、イワンさんが盛った土砂を片付けている。


「別にこの人、結婚相手としてそんなに悪い人とは思えないんすけどねー」


 俺だって名前くらいは聞いたことのある、なんとかホールディングスのお坊ちゃんだぞ?


「いえ……でも……やっぱり結婚は思いの通じた人とでないと……」
「なるほど?」


 この成子さんという方は、「金」に魅了されているものの、心までは盗まれていないようだ。


「おにーさんもおにーさんだ。普通に男としてアプローチすればいいのに」


 あくまでも普通にな。


「うむ……今にして思えば、まったくその通りだ。彼女の『金狂い』は業界でも有名だから、つい、そっちの方向で攻めてしまった」


 まあ、ある意味、因果応報だったのかな?
 何事も、ほどほどにしないとね……。


「で、2人はどうするんすか、これから。心を入れ替えておつきあいします?」


 俺がそう問いかけると、チラチラと互いの様子を伺う男と女。
 しかしどうにも、微妙な塩梅のようだ。


「いえ、きっとこの方とは資産運用の方針が合わないでしょう。辞めておいたほうが宜しいかと思っておりますわ」
「まあ、僕も同感ですね。金投資に極振りするなんて、いくらなんでもやりすぎだ……」
「あら貴方、金は素晴らしいものですわよ。何があっても価値を失いませんもの。それこそ、ダンジョンが現れたって……」


 確かに、ダンジョンが現れてから株式市場は荒れまくっているわけだが、金相場だけは堅実な値動きをみせているのだ。
 このお嬢さん、案外しっかり者だったりして。


「いやでも金は、それそのものは何も産まないんだ……正直言って、面白みにかける」
「まあ! 金をつまらないと言う方は、いつか金に泣きますことよ!」


 うーん、なんだか長くなりそうなので、そろそろ退散するとしようか。
 入り口の土砂も、あらかた片付いたようだし。


「んじゃ……俺たちはこの辺で」
「お待ちなさい」


 だが、お嬢さんはそれを許してくれないようだった。


「あなた達は、私達の秘密を知ってしまいました。ミノリのテレパスを感じて来てしまったのでしょう?」
「いや、誰にも言いませんよ……?」
「うふふふ、口では何とでも言えるものですわ。私とミノリの能力は、どのような闇の手にかかるかもわからぬ代物。そう簡単にお帰しするわけにはいきませんわ」


 と言って成子さんは、近くに転がっていた画鋲のようなものをつまみ上げた。


錬金アルケミー


 その呪文とともに、成子さんの指先に黄金の輝きが走る。
 なんと、ただの画鋲が、金の画鋲に変わってしまったではないか。


「ふふふ、この秘密を知られたからには、もはや貴方がたは部外者ではありません。私達の関係者として、緊密な間柄となってもらいます」
「え、ええーと……」


 ミノリさんの能力は何となく理解していたけど、そっちの方は知らなかったぞ?
 イワンさんもキョトンとしている。
 なんでわざわざそんな。


「う、ううーん……」


 まあ、この「金狂い」お嬢さんと縁を繋いでおくのも、悪くはないか……。


「じゃあ、俺達の身の上とかも話した方がいいっすね」
「そうね! なんだか面白いことをされていそうですし!」


 俺とイワンさんは、視線で互いの意思を確認すると、公海上に浮かぶ人工島のことを話していった。







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