レアスキル「TS」は、普通に考えて「ダンジョン攻略」には役に立たない
普通に世界
少し、時を遡る。
その日、仕事が遅くなった俺は、夜中のラーメン屋で麺をすすっていた。
(うーん、この一杯のために生きている……)
そんなことを考えていた時のことだ。
店に備え付けのテレビで、緊急速報が流れた。
『た、ただいま入ってきたニュースです。いま全世界に……え? えっ? その、ダンジョンが? え? 出現したとのことです』
「む?」
「むーん?」
夜中だったから、店には俺と店のオヤジしかいなかった。
二人して、テレビに釘付けになった。
『原因は、わかっておりません。凶暴な生物の出現が……は? 確認されておりますので、決してダンジョンには近寄らないでください』
ニュースキャスターのお姉さんは、読み上げている原稿の意味がわからないようだった。
巨大地震が来たときでさえ狼狽えないプロのニュースキャスターが、可哀想になるくらいに動揺していた。
何かのドッキリか? いまどき?
とか一瞬思ったが、そんなことがあるわけがない。
ニュース速報を流す時のあの効果音を、そんな下らないことのために使ってはいけないのだから。
いつもならスープまで飲み干すところを、俺は麺だけすすってそそくさを店を出た。
帰り道の途中で、自衛隊と思しきヘリが、南に向かって飛んでいくのが見えた。
まもなく夜空の一角が赤くなり、どうやら工業地帯の一角で火災が発生したらしかった。
電車も止まったようだった。
家までは歩いてもうすぐの場所だったから良かったけど、あと1時間帰るのが遅れていたらと思うとゾッとした。
それから3日間にわたって、都市機能は完全にマヒした。
ダンジョンは少なくとも117カ国で確認され、世界中の軍隊を動員しての封じ込め作戦が開始された。
ドラゴン――というものが本当にいるのだなと思った。
空を羽ばたく巨大なドラゴンと、何機ものF−22との空中戦がテレビ中継され、まるで映画でも見ているような衝撃を全世界のお茶の間に与えた。
何十発というミサイルを受けてようやく地に落ちていったドラゴン。
アメリカ空軍もまた無傷ではなく、3機ほど撃墜されてしまったらしい。
レーダーでは捕捉できないはずのステルス戦闘機を、ドラゴンは目視で追尾して叩き落としたのだ。
オーガ、コボルト、ゴブリンと言った地上の魔物もまた強かった。
特にオーガは身の丈10メートルを超え、対人用の武器ではまるで刃が立たず、倒すにはRPGや対物狙撃銃と言った高火力兵器が必要だった。
住み慣れた都市の大通りを、大量の戦車が進んでいく。
そして白昼堂々行われる銃撃戦。
そんな光景が世界各地の都市で繰り広げられ、人々は自宅や避難場所に篭って、その一部始終を見守ったのだった。
アメリカ、ロシア、中国では、核兵器までもが使用された。
しかしながらダンジョンの表層を破壊しただけで、かえって魔物の大量発生を引き起こしてしまった。
そこで次は、特殊部隊をダンジョンの奥深くに潜入させる作戦を決行した。
地中深くに小型原子爆弾をセットして、タイマー起爆で爆発させるためだ。
すると流石にダンジョンは沈黙し、その跡地に巨大なクレーターが刻まれることになった。
日本では12ヶ所のダンジョンが確認された。
最も厄介だったのが、川崎工業地帯に出現したダンジョンだった。
このダンジョンのせいで、日本中の工業生産がストップしてしまったのだ。
速やかに対策チームが編成され、魔物の掃討と、潜入作戦が試みられた。
あのゴジラ映画のおかげだろうか。
政府の対応は思いのほかスムーズで、おかしな御用学者が出てくることもなかった。
災害出動の名目で、普通に自衛隊と警察が動員された。
そしてどこの国よりも早く、ダンジョンの構造を解明することに成功した。
川崎ダンジョンは地下約500メートルの深さまで続いており、最深部にはなぜか「ガチャ」が置いてあったのだ。
そのガチャを回すとダンジョンは消滅した。
潜入していた人たちはみな、不思議な力で地上に帰された。
その川崎ダンジョンのガチャから出てきたカプセルには『重力操作』というスキルが入っていたらしい。
慎重な科学調査が行われたわけだが、中身のスキルは結局、蓋をあける操作をした研究員のものになってしまった。
その仕組の一切は、まったく解明できなかったようだ。
また、しばらくすると、夢の中でガチャを引いたと言う者達が現れ始めた。
その多くは、ただ水を出せるとか、風を起こせるといったレベルの、大したものではなかったのだが、世界に衝撃を与えるには十分だった。
まるで、寝て覚めるたびに世界が変わっていくようだったのだ。
こうして世界は、今までとはまるで違うものになってしまった。
さらに2ヶ月ほどして、欧州に拠点を置く某研究機関が、声明を発表した。
なんでもその研究機関、カラビ=ヤウ空間という領域を探る実験をしていたのだが、その時うっかり、異世界への入り口を繋いでしまったのだという。
11次元宇宙がなんとやらと、小難しい話をしていたが、その原因というのは結局のところ「手が滑った」というものであった。
研究所の人たちは謝りまくっていたが、俺にはさっぱりわからなかった。
ただ、うっかりにも程があるよな……とだけ思った。
その日、仕事が遅くなった俺は、夜中のラーメン屋で麺をすすっていた。
(うーん、この一杯のために生きている……)
そんなことを考えていた時のことだ。
店に備え付けのテレビで、緊急速報が流れた。
『た、ただいま入ってきたニュースです。いま全世界に……え? えっ? その、ダンジョンが? え? 出現したとのことです』
「む?」
「むーん?」
夜中だったから、店には俺と店のオヤジしかいなかった。
二人して、テレビに釘付けになった。
『原因は、わかっておりません。凶暴な生物の出現が……は? 確認されておりますので、決してダンジョンには近寄らないでください』
ニュースキャスターのお姉さんは、読み上げている原稿の意味がわからないようだった。
巨大地震が来たときでさえ狼狽えないプロのニュースキャスターが、可哀想になるくらいに動揺していた。
何かのドッキリか? いまどき?
とか一瞬思ったが、そんなことがあるわけがない。
ニュース速報を流す時のあの効果音を、そんな下らないことのために使ってはいけないのだから。
いつもならスープまで飲み干すところを、俺は麺だけすすってそそくさを店を出た。
帰り道の途中で、自衛隊と思しきヘリが、南に向かって飛んでいくのが見えた。
まもなく夜空の一角が赤くなり、どうやら工業地帯の一角で火災が発生したらしかった。
電車も止まったようだった。
家までは歩いてもうすぐの場所だったから良かったけど、あと1時間帰るのが遅れていたらと思うとゾッとした。
それから3日間にわたって、都市機能は完全にマヒした。
ダンジョンは少なくとも117カ国で確認され、世界中の軍隊を動員しての封じ込め作戦が開始された。
ドラゴン――というものが本当にいるのだなと思った。
空を羽ばたく巨大なドラゴンと、何機ものF−22との空中戦がテレビ中継され、まるで映画でも見ているような衝撃を全世界のお茶の間に与えた。
何十発というミサイルを受けてようやく地に落ちていったドラゴン。
アメリカ空軍もまた無傷ではなく、3機ほど撃墜されてしまったらしい。
レーダーでは捕捉できないはずのステルス戦闘機を、ドラゴンは目視で追尾して叩き落としたのだ。
オーガ、コボルト、ゴブリンと言った地上の魔物もまた強かった。
特にオーガは身の丈10メートルを超え、対人用の武器ではまるで刃が立たず、倒すにはRPGや対物狙撃銃と言った高火力兵器が必要だった。
住み慣れた都市の大通りを、大量の戦車が進んでいく。
そして白昼堂々行われる銃撃戦。
そんな光景が世界各地の都市で繰り広げられ、人々は自宅や避難場所に篭って、その一部始終を見守ったのだった。
アメリカ、ロシア、中国では、核兵器までもが使用された。
しかしながらダンジョンの表層を破壊しただけで、かえって魔物の大量発生を引き起こしてしまった。
そこで次は、特殊部隊をダンジョンの奥深くに潜入させる作戦を決行した。
地中深くに小型原子爆弾をセットして、タイマー起爆で爆発させるためだ。
すると流石にダンジョンは沈黙し、その跡地に巨大なクレーターが刻まれることになった。
日本では12ヶ所のダンジョンが確認された。
最も厄介だったのが、川崎工業地帯に出現したダンジョンだった。
このダンジョンのせいで、日本中の工業生産がストップしてしまったのだ。
速やかに対策チームが編成され、魔物の掃討と、潜入作戦が試みられた。
あのゴジラ映画のおかげだろうか。
政府の対応は思いのほかスムーズで、おかしな御用学者が出てくることもなかった。
災害出動の名目で、普通に自衛隊と警察が動員された。
そしてどこの国よりも早く、ダンジョンの構造を解明することに成功した。
川崎ダンジョンは地下約500メートルの深さまで続いており、最深部にはなぜか「ガチャ」が置いてあったのだ。
そのガチャを回すとダンジョンは消滅した。
潜入していた人たちはみな、不思議な力で地上に帰された。
その川崎ダンジョンのガチャから出てきたカプセルには『重力操作』というスキルが入っていたらしい。
慎重な科学調査が行われたわけだが、中身のスキルは結局、蓋をあける操作をした研究員のものになってしまった。
その仕組の一切は、まったく解明できなかったようだ。
また、しばらくすると、夢の中でガチャを引いたと言う者達が現れ始めた。
その多くは、ただ水を出せるとか、風を起こせるといったレベルの、大したものではなかったのだが、世界に衝撃を与えるには十分だった。
まるで、寝て覚めるたびに世界が変わっていくようだったのだ。
こうして世界は、今までとはまるで違うものになってしまった。
さらに2ヶ月ほどして、欧州に拠点を置く某研究機関が、声明を発表した。
なんでもその研究機関、カラビ=ヤウ空間という領域を探る実験をしていたのだが、その時うっかり、異世界への入り口を繋いでしまったのだという。
11次元宇宙がなんとやらと、小難しい話をしていたが、その原因というのは結局のところ「手が滑った」というものであった。
研究所の人たちは謝りまくっていたが、俺にはさっぱりわからなかった。
ただ、うっかりにも程があるよな……とだけ思った。
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