レアスキル「TS」は、普通に考えて「ダンジョン攻略」には役に立たない

ナガハシ

プロローグ 〜女神にざまぁを〜

「ガチャの国へようこそ……ちっ! またザコか」


 気がつくと、目の前にエロイ女神さまがいた。
 腰ほどもある長い髪は、紫がかった妖艶な色合い。
 神話の世界に出てきそうな白い服を来て、いかつい金の椅子に腰掛けている。
 スラリと伸びた足を組んで、こちらに突き出している。


 っていうか、何だよガチャの国って。
 ここは洞窟の奥のようだが?


「いきなりザコとは酷いいいようだな、俺には富津宇乃ふっつ・うのっていう名前が普通にあるんだが」
「どうでもいいわ」


 といって女神は、鼻をいじった。
 そして毛を何本か抜くと、妙にセクシーな仕草でフッとやった。
 なんて女神さまだ。


「さっさとそのガチャ回していなくなりなさい。後かつかえているんだから」


 言われて後ろを見てみるが、そこには誰もいない。
 どこまでも続く洞穴が広がっているだけだ。
 そして、地べたにしゃがみこんでいる俺の側には、なぜか古めかしいガチャの機械が立っている。


「これを回せってーの?」
「そうよ。もうニュースとか見て知っているでしょ? スキルガチャよ」
「ああ……そう……」


 ここのとこ、ダンジョンとやらが世界中に出現して大変なことになっている。
 そして、夢の中でガチャを引いて力を得たという者が続出しているのだ。


 でも、女神様が出てくるなんて聞いてないけどな。
 それもこんな……いよいよネタが尽きたかのようなクソ女神を……。


「名前くらい言ったらどうなんすか?」
「は?」
「初対面の相手には、普通、そうするものでしょう?」


 俺だって、ちゃんと名乗ったし。
 それをいきなり鼻毛をブチブチ……。
 人のことを生き物とすら思ってないのかよ。


「いやいや、どーでもいいから、さっさとガチャまわしなさいよ」
「やだ!」
「はぁ?」


 俺がはっきり拒否すると、女神さまは露骨に眉間にシワをよせた。
 せっかくの美人が台無しだ。
 いや、もともと台無しだが……。


「自分の名前も名乗れない、はしたない女神の言うことなんて普通、聞きますか?」
「いやいや、どーでもいいし! 心底、どーでもいいし! 私はね、何万何億っていうアンタみたいなザコを見てきているの! わかる!? はっきりいってね、もうその辺の石ころ以下なのよあんた達!」


 あー、随分とストレスを溜めておられるようで……。


「じゃあ、そんな仕事やめちゃったらどうです?」
「辞めてれるもんなら辞めてるわよ!」


 ふむ、なるほど、神の国にも社畜はいるのか。
 俺と同じですね。
 でも、そうやって人に当たり散らしていると、結局自分の首を締めることになるんですけどね。
 ストレスがストレスを呼び……。
 どんどん性格がひねくれていって、最後は周囲に不幸を撒き散らすだけの存在になるのだ。


 あーやだやだ。
 神の国がそんなんだから、現実世界もクソなんだろうな。


 だから、そんな女神様には心の中でひっそりと「ざまぁ……」を。
 あと、せっかくの夢の中なのだから、ひとつ盛大に……「ざまぁ」を!


「ここ、夢の中なんですよね?」
「それが何なの?」
「じゃあ、夢の中で何したって、犯罪にはなりませんね!?」


 と言って俺は立ち上がった。
 夢の中だからか、俺は服を着ていなかった。
 つまり、すっぽんぽんだ。
 おあつらえ向きだぜ……グフフフ!


「え?」


 俺は、「普通に健全」な男子である。
 年齢は24歳。
 社会人になって3年目。
 まだまだ元気いっぱいのお年頃だ。


 そんな私のきかん坊が、見た目はセクシーな女神様を前にして、黙っていられますかね。
 いやない!


「ちょ、ちょっと何考えて……!」
「俺もちょうど、上司に嫌味言われてイライラしていたところだったんです!」
「え……! いや……! ちょっとまって……マジなの!?」
「そいつをあんたでスッキリ解消させて頂きます!」


 両手をワキワキさせながら女神ににじり寄る。
 良心の呵責はまったくなかった。
 ふははは、やってしまえーい!


「そそそ、そんなことをしてただで済むと……」
「いただきまーす!」
「いやああああああー!」


 そうして俺は、女神さまを夢の中でグルングルンまわした。
 気の済むまで、何度も何度も。
 まるで洗濯機のように、グルングルンと。


「ほーれほーれ!」
「うぎゃああああー!」


 はしたなく涎をたらしてアヘる女神を、容赦なく蹂躙する。
 そしてその後に、俺をガチャをまわしたのだった。
 お望み通りにな!


 ガラガラガラ!


 ぽんっ!


「おお、本当に出てきた……!」


 すぐ近くでピクビクと痙攣している女神様をよそに、俺はガチャカプセルをパコッと開く。


 すると中から「TS」と書かれた紙切れがでてきた。


「なんじゃこりゃ……」


 TSってなんだろうな。
 普通に始めて耳にするが……。


「く、くくく……ざまぁみなさい」


 女神様がゆらりと起き上がって言う。


 え? 俺がざまぁされるの?
 何かやばいスキルなの、これって。


「夢の中とは言え、私はガチャの国の女神……。その女神にあのような狼藉……ただで済むと思わないことよね……ふ、ふふふ」
「結構楽しんでいたくせに」


 子供みたいにキャーキャー言っちゃてさあ。


「たたた、楽しんでないわよ!」
「あと、女神さん、なんか汗臭いから風呂入った方がいいっすよ」
「えっ!?」


 慌てて自分の身体をクンクンしはじめる女神。
 おや、ちょっとは可愛いじゃないですか。


「というか、ガチャの国ってなんなんです? どうして俺達の世界にダンジョンができちゃったんです?」


 一体何を企んでいるんですかね?
 大迷惑なんですけど。


「ざ、ザコの知ったことではないわ!」
「あー! またザコって言ったー!」
「ザコはザコよ! あんたたちの住む世界なんか、この多元宇宙の中でもド底辺なんだから!」


 んー、良くわからんが、失礼なことを言われてるのは確かだ。
 もう一度グルグルしてやろうか……。


「それに、どうせ知っても無駄よ! この夢のことはすぐに忘れてしまうんだから!」
「いや、俺って結構、夢の内容覚えている方だから。女神さまの足の匂いも忘れませんから!」
「わわわ、忘れなさい! それは絶対に忘れなさい! 最近忙しくてお風呂もろくに入れてなかったのよー!」


 顔を真っ赤にして叫ぶ女神様。
 ふふふ……いい眺めだぜ。
 やはり駄女神は、半べそかかせるに限る!


「も、もういい加減、夢から覚めてもらうわよ!」


 と言って女神様は、俺の目の前でパチンと指を鳴らした。
 するとあっという間に、俺の意識は失われていった。
 その後に訪れたのは、ただ安らかな眠りであった。








 こうして俺は、謎のスキル「TS」を手に入れたのだった。







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