50年前に滅びた世界で

たかき

第3話 異世界人とのコンタクト

女の子ががれきに挟まって倒れている。流石に第一異世界人がこんな子供、それもがれきに挟まって倒れている子だとは思いもしなかった。というかこの子大丈夫だろうか。うめき声をあげているみたいだし、見たところ100%ダメっぽいな。

「はぁ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「……っえ!」

こちらの問いに対し、その子はとても驚いたような表情を見せた。俺が何かしたとでもいうのだろうか。まだ召喚されて何もしていないというのに。

「ひ、人……?」
「人です。アイアムヒト……だよな」

相当驚いていたので、自分が本当に人間なのか一瞬心配になってしまった。一応体を触ったりなんか手を見てみたりしたのだが、特に変わったところはなかった。別に異世界に召喚された結果ゴブリンの姿になってしまったとか女になったとかそんなことはなかった。

「あ、えっと……た、助けてください」
「わかりました」

やっぱり大丈夫ではなかった。木材とかに挟まれているので大丈夫ではないと思ったのだが、その通りだった。このまま眺めてみるのはちょっと趣味が悪すぎるので、さっそく救助を始めようとする。

「えーっと、どうしよう」

その子を出すためにはどうすればいいのかを考える。
とりあえず単純にこの子の上に乗っかっている木製の柱を持ち上げてみることにした。案外何とかなるかもしれない。

「ふん……お、重い!」

その子にのしかかっている木材はかなりの重量だった。思った以上に重い。だが全く動かないというわけではなく、若干の隙間ができる。
体勢を変え、もう一度力を入れる。ミシミシと音をたてながら、さっきよりも大きな隙間ができる。
これで、挟まっている状況からは脱することができたはずだ。

「ぬ、抜けられます?」
「うん……」

挟まっていたその子は匍匐前進をし、がれきの山から抜け出そうとする。

「……よし、抜けられたか……!」

彼女ががれきの山から脱出できたことを確認すると、柱に入れていた力を弱め、そして手を離した。離した後も、柱はミシミシと音を立てていた。
一気に崩れたりしないよな。念のため、少し離れたほうがよさそうだ。
救助した子は、荒々しい息をしながら既にがれきの山から少し離れている壁に力なく寄りかかっていた。俺も近くへと移動する。

「はぁ、はぁ……助かった……」
「えっと、ケガはないかい?」

心配そうな口調でその子に聞く。もしかしたら挟まれた時とかにどこかケガをしたりしているかもしれない。
もし骨折とかしていたら……俺にできるようなことはあるだろうか。異世界に救急車はやってこなさそうだし、応急処置もほとんどできないだろうけど、それでも心配せずにはいられなかった。

「けがは……してないけど……」
「けど?」
「その……取り合えず水を……」
「水?」
「のどが……カラカラで。あり、ますか?」
「ちょ、ちょっと待ってね……」

どうやらこの子は水分が不足しているみたいだ。挟まってからどれくらいたつのかはわからないが、ずっと挟まっていたのならそりゃそうなるだろう。
早速学生鞄から、出かける前に入れておいた水筒を取り出す。

「……どうぞ、あったかい奴だけどいい?」

あたふたしながらも水筒のコップに麦茶を注ぎ、彼女の口の前まで持っていく。アツアツのお茶だ。

「ありがとうございます……ふぅ……あったかい……」

その子はお茶をぐびぐびと飲み干すと、もう1杯いいですかと言った。それを快諾してお茶を再び注ぐ。今度はゆっくり飲んでいる。

(この子は一体……)

その子がお茶を飲んでいる間に、どんな子なのかを観察してみる。
髪は金色よりの茶髪で、サイドテールの髪型をしている。身長は130㎝いかないくらいで、年齢は10歳ぐらいだろうか。普通にかわいい。服装は上は水色のカーディガンと白色のシャツのようなものを着ており、下は赤と藍色のチェックスカートと黒のハイソックスの組み合わせである。ただ、そのどれもがボロボロだったり、汚れていたりしていた。

「あ、えーっと、大丈夫かな。本当にケガとかはしてないかい?」

コミュ力は高い方ではないが、それでも人前でそれなりに話すことはできる。おどおどとしながらもその子に話しかける。

「少し痛いですけど……大丈夫、です」

彼女はけがはしていないと改めて否定した。無理をしているのではないかと思ったが、見た感じ傷を負っているところはないみたいだ。しかし、彼女はなぜあそこで挟まっていたのか、そもそもなんでこの屋敷にいたのだろうか。まさかこの子が俺を召喚したとか? いやでも、それなら挟まっていた理由は……
と、ここで、ぎゅるるるという小さな音が聞こえた。お腹の音だ。自分は朝もしっかり食べたし、特におなかはすいていないのだが。となると……

「えっと……気にしないで、ください」

顔を少し赤くしながら恥ずかしそうにしている。今の音はこの子から出た音みたいだ。
この子はのどが渇いているだけでなくお腹もすいているに違いない。ここはお茶だけでなく学生鞄の中に入れていたお菓子を分けるべきだろう。

「えーっと……ポテチでも食べる?」
「……ポテチ?」

どうやらこの子はポテチを知らないみたいだ。異世界にポテチがあるのかはわからないが、ポテチの味を知らないだなんて人生の0.4%ぐらいは損している。もったいない。
さっそく学生鞄に入っているポテトチップス(ピザ風味、チーズ2倍)を取り出し、封を開ける。

「ほら、食べていいよ」
「……うん」

彼女は恐る恐る、袋からチップ1枚を取り出し、口の中へ入れた。パリッという音が辺りに響く。ザクザクという咀嚼音が続いた。彼女の表情がみるみるうちに変化していく。

「おいしい……すごく、おいしい!」

かなり気に入ったみたいで、今度は3枚同時に口の中に入れた。ボリボリと夢中に食べている。
ごっくんとのどを通すと彼女はまた2枚ポテチを取り出し口の中に入れた。咀嚼音が辺りに響く。
これは製造メーカーに感謝せねば。おいしそうに食べていた彼女は不意に我に返ったのか、少し恥ずかしそうな顔を浮かべた。

「えっと、その……ごめんなさい」
「いいよいいよ、どんどん食べちゃって」
「あっ……ありがとう、ございます」

そういうと、彼女は再びポテチを2枚とった。動物への餌付けという訳ではないが、自分があげたものを美味しそうに食べてくれているというのは悪い気分ではなかった。自分もチップを2枚とり、口の中へ入れる。コンソメやうすしおも中々だが、やっぱりピザ風味のこれが一番だ。1時間立たないぐらい前にロールパンを食べていた気がするが、日本からこの異世界に飛ばされたことによって実質ゼロカロリーになるので問題はない。カロリーは異世界にやってこないのだ。
しばらく、この子と一緒にポテチを食べることにした。



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