50年前に滅びた世界で

たかき

第2話 異世界初の

俺の名前は加藤優斗。どこにでもいるのかはわからないが、自分語りをすると黒髪で身長は167㎝、血液型はA型で誕生日は6月13日、1人っ子で運動は可もなく不可もなく、勉強は微妙でテスト前にもソシャゲで爆死したり深夜アニメをリアタイで観賞したりエゴサ担当大臣にリプを送ったりしているアニメやラノベが好きな16歳の高校生1年生だ。ネット上では他にもハーバードに飛び級で入学しただとか年収3000万はあるだとか港区の高層マンション1フロア丸ごと借りているだとか言っているが、今のはすべて嘘である。
俺は先ほどまで高校に向けて自転車をこいでいたのだが、突如謎の光に囲まれた。いや、マジで意味不明である。
あの光はどうなったのだろうか。どれほどの時間がたったのかはわからないが、恐らく十数秒はたっただろう。周りから熱は伝わってこなくなった。
もしかしたらあの光は消えているかもしれない。腕で覆うのをやめ少しづつ目を開ける。自分の周りでは、幻想的な光の玉が空中を浮遊していた。その玉は少しずつ光を失っていた。周囲を見渡すと、どういうわけか自分は石造りの部屋の中にいた。それも自転車とともに。自転車はすぐ近くに横に倒れていた。窓や照明らしきものは見当たらない。どうやら、このままだと真っ暗になりそうだ。

「えっと……スマホは」

ポケットに入れていた藍色の保護カバーで覆われているスマートフォンを取り出す。スリープ状態から電源を入れ、指紋認証でロックを解除する。ホーム画面には某心がピョンピョンするアニメのキャラの集合絵を背景に、世界最大級の検索エンジンや基本設定用アプリ、ニュースアプリやソシャゲなどのアイコンが列をなしている。その中から懐中電灯のアプリを起動し辺りを照らす。
周囲を照らしたころには、周りの光は完全に消えていた。どうやらここは地下室のようで、学校の教室ほどの広さの部屋だが、窓はどこにもない。壁には貴族や国の紋章みたいなのが描かれている旗が掲げられていた。
そして特記すべきは地面に描かれている魔法陣だろう。幅は4m以上はある。かなり古いみたいだが、形はくっきりと残っている。幾何学的な模様がなかなかの美しさを醸し出していた。とりあえず1枚写真を撮る。

「いや、どういうこっちゃ……」

先ほどまで日本の、それも首都東京で高校に向けて自転車を飛ばしていたというのに、なぜこんな石畳の部屋にいるのだろうか。どこかの将軍様が統治する独裁国家に拉致されたのだろうか。それともラノベの主人公よろしく異世界に召喚されたのだろうか。きっと後者だろう。いや後者であってほしい。後者に違いない絶対そうだ。床に魔法陣があるので、恐らく召喚魔法的なもので異世界にやってきたのだと思う、間違いない。
しかし、ここが本当に異世界なのなら少し疑問が残る。召喚されたのなら神様が出てきてチート能力もらったりありがたいお言葉を告げたり、お姫様やら王様やらくっころ騎士やらが勇者様だのなんだのはやし立てるというイベントが起きると思ったのだが、どうやら周りには誰もいないみたいだ。

(とりあえず部屋から出てみるか……)

何はともあれ、誰かに会うところから始めなければ。コミュニケーションをとるのはあまり得意ではないが、流石にこの状況では誰かに会ってみたくなってしまう。なぜここに人がいないのかはよくわからないが、ひょっとしたら外にお姫様やらなんやらがいるのかもしれない。
1つしかない木製の扉を開け、前に現れたのは石畳の階段。階段の上の方にもう1つ木製の扉があったが、そこから光が差し込んでいた。どうやら地上に出ることができるみたいだ。いつまでもここにいてもしょうがないので、上へと昇ることとした。

「……自転車を持ち上げなきゃいけないのか」

光に包まれたときチャリンコと一緒だったからか、自転車と共に異世界へと来てしまったようだ。チャリをそこらに置いておくわけにもいかないので、一緒に持ち上げていくことにした。
ライトをつけたままのスマホを学生鞄が入っているかごに入れると、両手で自転車を持ち、階段を上る。足元に注意を向けながら慎重にだ。

「うぅ、ちょいときついな……」

エレベーターもなければバリアフリー対応のスロープもない。そのため自転車をもって上に上っているのだが、十数キロはある自転車を持ちながら階段を上るのは想像以上にきつい。しかし、だからと自転車をそのまま置いていくわけにもいかない。
十数段上がって、ようやくもう1つの扉の前へと上がることができた。自転車を置き、ゆっくりと扉を開ける。

「うぉ、まぶし……」

扉の外がかなり明るく感じた。目を凝らしてみると、ここは廊下みたいだ。明るい理由は窓から太陽光が入っているからみたいだ。窓にはシダが覆いかぶさっているので実際にはそんなに明るくないのかもしれないが、さっきまで地下にいたためかやはり明るく感じる。
スマートフォンのライトを切ると、改めて周りの様子を確認した。地下室と変わらず、こちらも西洋チックな感じの廊下だった。石造りの壁に木製の床と天井と、一面石造りだった地下室とは少し印象が違うが。

「……誰かいませんかぁー」

自分の声が、人気のない通路を突き抜ける。大きな声ではないが、ほかに物音はしないので自分の声が妙に大きく聞こえた。
返事はなかった。チャリに鍵をかけ、カゴに乗せていた学生鞄を持つと、意を決して少しずつ移動する。
廊下や部屋にはタンスや絵画、なんかよくわからない石像などがあったが、そのどれもが手入れされている形跡すらなかった。一部にはシダが生い茂っており、通路の廃れた雰囲気を形作っていた。普通に不気味である。その中で、興味を引くものがあった。

「これは……電線なのか?」

どうやらこの世界は電気は発明されているらしく、壁の上方には古びた電灯と電線らしきものが見受けられる。どうやら中世ヨーロッパ風ファンタジー世界に召喚されたという見立ては外れたようだ。といってもこの屋敷自体はいかにも中世といった感じだし、さっきも魔法陣があったので魔術的なものはきっとあるのだろう。そうでないと俺がやっていけない。

「だいぶ古いみたいだな……床抜けたりとかしないよな」

歩くたびに床がギシギシと音を立てているが、大丈夫なのだろうか。見た感じ廃墟になってかなりの時間がたっているみたいだが。突然床が抜けたりとか屋根が崩れたりとかしないよな……
床や天井へ注意を払いながらゆっくり進む。

「うへぇ、完全に廃墟だな……」

まだ先に続いているのだが、この辺りは特に滅茶苦茶になっている。俺が歩いただけで床が抜けそうな感じだし、上の木製の柱が落ちてしまったりもしている。今までもボロボロだったが、ここから先は本当に倒壊寸前みたいだ。
これ以上先はやばそうだな。そう思い戻ろうとする。
すると。

「……息?」

戻ろうとした足が止まる。何か音が聞こえた、荒い息のような音だ。うめき声だと表現してもいいかもしれない。自分の呼吸を止めてみると、その音が聞こえているのが間違いないものだと確信した。この先に、何かがいる。

「え、モンスターとかだったらどうしよう」

今の状態でゴブリンとかに襲われたら余裕で死ねる自信がある。スライムとかでも多分あのにょろにょろした奴に取り込まれて溶かされて死ぬ。これはちょっとまずいかもしれない。まだこの世界にきて誰とも話していないというのに。ここは退くべきだろうか。

「落ち着け落ち着け……もっとポジティブに考えろ」

自分に言い聞かせ、ゆっくりと進んでいく。たとえゴブリンとかのモンスターだとしても、チート能力とかで1匹や2匹ひねりつぶせるかもしれないし、モンスターとかではなく野良猫とか野良犬かもしれない。人の可能性だってある。お姫様とか騎士様とかでもいいが、この際北の将軍様でもデスゲームの主催者とかでもいい。とりあえず話ができる人に会いたい。
どうやらこの音は廊下の角の先からしているみたいだ。

「なむさん!」

使い方があっているのかどうかわからない言葉を言いながら、思い切って角を覗く。

「はぁ、はぁ……ふん……」

そこには、小さな女の子が1人いた。この声の正体は、がれきに埋まっている女の子のものだった。



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