前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

その181 レオス、そしてエクスィレオス



 「その声はソレイユ!? ど、どこにいるの?」

 脳裏に響いたソレイユの声に驚き僕は周囲を見渡す。だが、もちろんというか、その姿はどこにもない。さらに頭でソレイユが話し続ける。

 『ええと、私は天界ですよ? それより、時間が無いので要点を言います! さきほども言いましたけど、レオスさんがアマルティアに持っていかれた力は上辺だけ。魔法や魔力、身体能力といった異世界の能力ではありますけど『悪神』の能力ではありません。魔力がないから難しいとは思いますけど”あの姿”を顕現することも可能です』

 「ほ、本当に……?」

 『はい! だから”四肢”のみなさんが残っているのがその証拠です』

 言われてみれば、悪神の力を奪われたならあいつらは居ないはず、か。だから身体の内側じゃなく外に出ていたのか。

 「なら、僕の力が戻ってないのはなんでだろう……」

 『……言いにくいですけど、レオスさんは悪神の力をあまり良しとしていませんでしたよね? だから意識の奥底で封じ込められているんです』

 「え!? で、でも僕はピンチの時、力を使っていたよね!?」

 確かにあまりいい気はしない力だけど、みんなを守るためには使っていたはず。それがどうしてと考えていると、ソレイユが答え合わせをしてくれる。

 『アマルティアです。力を吸収する際、引っ張れないとわかったので、レオスさんの無意識を利用して封じ込めたんです。とんだチキン野郎ですよ!』

 「ソレイユ、そういう言葉遣いはバス子じゃないんだから良くないよ? なるほどね、まんまと思い込まされていたって訳か……。あ、メディナを復活させたのもソレイユなんだよね?」

 『もちろんです! といってもお姉ちゃんの上にいる神様に掛け合ってこの世界に介入する許可をもらうのに時間がかかりましたけどね。でも、後はアマルティアを倒すだけです!』

 「はは……」

 鼻息をならすソレイユに少々呆れてしまうが、僕達のために労力を使ってくれたのが痛いほどわかり涙がこぼれる。

 「なら、僕はこのあとどうすればいい? あいつを倒せる手段はあるの? 見た感じ、メディナとバス子が押しているけど」

 少し向こうではメディナの鎌がアマルティアの腕を吹き飛ばし、槍をすんでのところで回避する姿が見え、安堵する。しかし、アマルティアの再生能力は倒しきる前に回復してしまうのでじり貧にも見える。

 『悪神の力を受け入れてください。そ……れば、四肢が……きます。向こうに取り込まれた『エクスィレオス』がそれを手伝って……でしょう……。それと、とどめを刺す切り札はメディナさん召喚と同時にレオスさんのセブン・デイズに仕込んでいます。アマルティアが弱ったところで意識を集中してくれれば大丈……あ、あれ、ノイズが……』

 「どうしたの?」

 ザ……ザザ……と、きゅにソレイユの声が聞こえづらくなってきた。

 『アマル……邪魔……レオ……最後にひとつ……ベル……エリィさんと――』

 そしてぷっつりとソレイユの声が切れた。直後、バス子とメディナを吹き飛ばし、肩で息をしながらアマルティアが僕を睨みつける。

 『くそ、女神が邪魔を……。しかし、この世界を遮断した。もう向こう側から救援は期待できないよ? ……最高神に掛け合うとは思わなかったけどね。残念だけど終わりだ。本気で、速やかに君達を消さないといけなくなった……!』

 そう叫んで両手を自分の胸の前で組み魔力を集中させ高密度の玉を生成するアマルティア。それを剣の形に変えると、吹き飛ばしたバス子へと迫る!

 「いたた……馬鹿力ですね……! ハッ!?」

 『まずはお前からだ……!』

 「させない」

 即座にメディナが追いつき、横に並ぶ。鎌を振るため腕を曲げると、バス子から急にメディナへと向き剣を薙いだ。

 『……そう来るだろうと思っていたよ……! お互いの心配をして戦っているのはわかっているからね、利用させてもらうよ!』

 「くっ」

 メディナは咄嗟に回避したけど、お腹のあたりを切り裂かれ服の切れ端と血が舞い散る。僕はセブン・デイズと刀を握り、アマルティアへと駆け出した。

 「お前の相手は僕だろう!」

 『力のない君がどうするつもりだい? ははは! 君のせいで人巻き込まれた人が可哀そうだね、わざわざ死ににこさせられたんだから。やはり君は悪神だよ』

 ギャリィン!

 「それでも、憎みこそすれ、お前みたいに人間をおもちゃにしたことはないよ!」

 『皆殺しにしようとした男が何を言っても説得力が無いね……!』

 ガキン! キィン!

 「レオス、手助けする」

 「助かるよ!」

 『邪魔をするな! また死にたいのか!』

 「もう私は一度死んでいる。レオス達を助けるためならもう一度死んでも構わない」

 「死なせませんよ、もう!」

 キィン! ブシュ!

 僕はセブン・デイズでガードし、刀で斬りつける。メディナとバス子も荒い息を吐きながら絶え間なく攻撃をし続ける。腕を、足を、胴を斬り、突く。

 『<インフェル――>』

 「させるかぁぁぁ!」

 魔法を撃たせる暇もないほどの壮絶な接近戦。やがて、乱暴な動きになってきたアマルティアが苛立ったように叫び出した。

 『くそ……! くそくそくそ! なんでだ! なんでお前達は倒れない! なぜ裏切られても耐えられる!』

 「裏切り……?」

 後半は何のことかわからないけど、アマルティアが取り乱し始めたことはわかった。

 「僕はこの世界が好きだ。ここまで一緒に旅をしてきたエリィやベル。ルビアにメディア、バス子だって好きだ。クロウやカクェールさん、ガクさん達……。そんな好きな人を殺させるわけにはいかないだろ!」

 「まさかのプロポーズ。ポッ」

 「ええええ、わ、わたしは、その……」

 『なにが……! 絶望して人間を殺したくせに、君は……! 邪魔だ!』

 「きゃあ!?」
 
 「わー」

 バス子とメディナが薙ぎ払われ床を転がり、僕は刀を振りかぶる。

 「そんなの――」

 ガキン……!

 その瞬間、僕は悟る。

 そう、僕は悪神として人間を殺した。エリーとベルを同じ人間に殺され、悲しみを生む人間を根絶やしにしようと力をつけて悪神となった。

 ――守りたかった。そう思っていたのに、皮肉なのか、何も守るものが無くなってからの方が力は強くなっていったように思う。でも空しかった……

 そして僕はある男に。決してあきらめない男によって倒された。

 瞬間、頭からもやが消えたようにスッキリし、目の前で鍔迫り合いをしているというのに、僕はフッと笑ってしまった。

 『……!? 気でもふれたのかい! ははは、このまま……死ね、死ね、死ね……!』

 ギリギリと魔力剣を押し付けてくるアマルティア。だけど、僕は負ける気がしない。

 「そうだ、元は人間を消滅させるための力だった。でも、本当は、みんなを守るために使いたかったんだ……! 戻れ、四肢達! 僕の力よ!」

 叫ぶと同時にベルの持っていた指輪が光り輝き、力が沸いてくる!

 【おおおおお!】

 【私、復活!】

 【今こそ、主の下へ】

 【戻る時!】

 がれきから飛び出てきたデバステーターやフェロシティが口々に叫び僕に取りつく。

 『なんだ……!? どういう――』

 焦るアマルティア。さらに、驚く声が聞こえてきた。

 【そう。それでいいんだ。過ちは誰でもある。でも、レオスお前は償った。七万回という苦しい転生を経てね。罪は僕が持って行く。だから、自分の力を信じるんだ】

 声の主は『僕』だった。アマルティアの身体から聞こえてくるその声を聞いた後、僕の影が蠢く。

 「出ろ、エクスィレオス。僕の半神よ!」

 影は大きくなり、徐々にボロボロのローブを羽織った巨大な髑髏が顕現する。その大きさは約三メートル。鍔迫り合いをしていたアマルティアへ、髑髏は拳を振り下ろす。

 『馬鹿な……!? こんな力が、悪神といえどたかが人間に! 右に、いや左に避け』

 ゴシャ!

 「やった!」

 『ぶあ!?』

 バス子の歓喜の声が聞こえ、アマルティアが殴られた反動で宙に舞う。レビテーションで態勢を整える前に追撃をかける!

 「食らえ!」

 『ぐおおおお!? がはっ!?』

 二度、三度、殴りつけ床を転がるアマルティア。瞬時に再生するが、巨大な拳からは逃げられない。

 「掴んで拘束してセブン・デイズで止めを刺せば……!」

 『く、くそ……こんなはずじゃ……』

 あと一息! だけど、その時、

 「レオス!」

 「エリィ!」

 「あたしも居るわよ!」
 
 「姐さん! 貞操は無事ですか!?」

 「う、うるさいわね!」

 三階の残った通路からエリィとルビア、そして助けに入ったというフェイさんが居た。

 『は、ははは! まだ私は負けていない……! せめてお前の最愛の人間だけでも……!』

 「まずい!?」

 アマルティアはレビテーションで一気に飛び上がり、エリィへと迫っていった……!

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