前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
その161 命を賭ける
「うぐ……ひっく……なんだよ嬢ちゃん可哀想すぎるじゃねぇかよ……」
「むう……」
僕はふたりに嘘偽りなく経緯を話すと、お通夜みたいな雰囲気になってしまい、ガクさんにいたっては泣き出してしまう始末だ。神だとか荒唐無稽な話だと自分でも胡散臭いが、ふたりは信じてくれたようだ。
その後はふたりとも荷台で黙って武器を磨いたり、寝転んだりしていた。男ばかりが荷台にいるのは初めてだなと荷台に目をやるとメディナの顔を拭くガクさんがいた。
陽が暮れてしばらくしたころ、町が見えてきたので僕はふたりに声をかける。
「町が見えましたよ。危ないところを本当にありがとうございました」
「気にすんな。それよりお前はひとりでアスル公国に向かうのか?」
「はい。大切な人達が待っていますし、メディナを早く埋葬してあげたいですから」
「……」
カゲトさんは無言で目を瞑り僕達の話を聞いていた。彼は妹さんがどこかへ失踪してしまったらしく、ずっと探して居るのだそうだ。
ガクさんは領主でありながら、道楽で冒険者家業をやっているのだとか。この”ヴァベルの町”に領主の館があるのでここを拠点とした活動をしているらしい。カゲトさんとはギルドで飲んでいるところに出くわし、カゲトさんの路銀稼ぎを手伝っているとか。
「とりあえず今日はもう遅い。ギルドに寄ったら俺んちに泊めてやる」
「え、僕はこのまま――」
「いいから来い! さっきやられかけたことをもう忘れたのか? この辺はデッドリーベアみたいな狂暴な奴が徘徊している。馬を死なせたくなけりゃ朝出発しろ! ちょっと話もしたいからな」
「は、はい!」
早く行きたいけど、さっきみたいに複数頭の魔物が現れたら対処できないのはその通りか……。ギルドで換金した後、仕方なく僕はガクさんの屋敷へと向かった。
◆ ◇ ◆
「おかえりお父様! ってあら、お客様?」
「おう、晩飯を頼むぜ。ああ、こいつはアイ。俺の娘だ、それと――」
ヒュッと、ポケットから小石を取り出し、壁にぶつけると、
「痛っ!? くそう、これはバレないと思ったのに……!」
「こいつが次男のユウだ。挨拶しろよ?」
「初めまして、アイと申します」
「僕はユウだ」
「あ、レオスです。次男ってことはあと一人?」
僕がそう言うと、近くの扉から背の高いイケメンが出てきた。
「……俺が長男のボウだ。よろしくな。そろそろだと思って夕飯はすぐできる」
「おお、流石は長男だ! 仕事ができるぜ、早く俺の代わりに――」
「それはまだだ。父さんはまだ若いし、俺は勉強不足だ。おっと、客人を待たせるのは無しか、こちらへどうぞ」
ボウさんが踵を返し食堂へと歩き出す。遅れて僕とカゲトさんも歩き出すと、カゲトさんがこっそり僕に耳打ちしてくる。
「この親子はいつもこんな感じだ。母親は亡くなってしまったらしいが」
「そうなんですね……」
もしかしたらメディナと奥さんが被ったのかな、などと思いながら食事が始まる。ご飯を食べてしばらくすると、ガクさんが僕にフォークを向けながら口を開く。
「でだ、さっきの話、俺ぁ信じるぜ。世の中にゃ不思議なことがあるもんだ。聖職の強さも知っている。そいつが手も足もでないってんなら神ってのもあながち有り得なくはねぇってことさ」
「怖いですね……。そんなのが遊び半分で世界に居るなんて」
アイが俯くと、ガクさんは笑いながら言う。
「ぎゃははは! 心配するな! ちょっと行って俺がぶっ倒してきてやるからよ!」
え!? この人今なんて言った……!?
「ちょ、付いてくるつもりですか!? 確実に死ぬ方が確率が高いんですよ!? 領主が行くようなところじゃありません!」
「ああん? 俺が死ぬってのか? このガク様を舐めてもらっちゃ困るぜ!」
「はあ……レオス君、すまない。こうなったら意地でも付いて行くと思うよ……」
「ええー!? 止めてくださいよ!?」
「止められるなら冒険者家業なんてさせてないって」
ユウが別に気にした風もなく口に料理を運ぶのを見て、僕はポカーンと口を開けていた。ガクさんはそんな僕に笑いながら話を続ける。
「ま、お前の話で少し思うところがあってな。神ってやつはこの世界の人間の攻撃は効かないんだよな?」
「え? あ、はい。そう言ってました」
「でもお前の前世とやらの力は通じる。異世界の住人の攻撃もだ。で、思ったんだが『この世界にない、レオスの記憶で作った武器』は、神に通用するんじゃねぇか?」
ガクさんがとんでもないことを言いだし、僕は冷や汗が噴きだし、喉を鳴らす。確かにこの世界の道具ではないダブルビームライフルを使おうとしているからその考えはわからなくもない。
ただし、ダブルビームライフルはソレイユからもらったもので、この世界で作成したものではない。
「……やってみる価値は、あると思います……だけど、それをする時間は……」
「だよなあ……。いい案だと思ったんだが」
がっくりと肩を落とすガクさんに申し訳ないと思っていると、僕の耳元で囁く声が聞こえてきた。
【主、彼の言うことは一理あるなあ。領主ともなれば材料のツテもあるだろうぜぇ? 二日だけ滞在してみたらどうですかね?】
「デバス……! 目が覚めたんだね」
「おう、どっから声が? でも、へへ、二日ありゃなんでも取り寄せてやる」
二日か……エリィ達は大丈夫だろうか……それとももうあんなことやこんなことになっているんだろうか……
「いや、僕が信じないと……!」
僕はかぶりを振って目の前の食事を片づけ始めた。
◆ ◇ ◆
<大魔王城跡>
『ははは、大人しくしているんだね。パーティの準備は時間がかかるからね』
――アマルティアは三人を連れ去った後、三週間かかる道のりを一週間で大魔王城まで辿り着き、今しがた軟禁されたばかりであった。
「出しなさいっての……!」
ガツン! と、ルビアが閉じ込められた部屋のドアを殴るがびくともしない。ベルゼラも魔法で扉や窓を攻撃するが、やはり効果は無かった。そこへエリィが口を開く。
「強力な結界みたいなものが張られているわ。恐らく今の私達では無理ね、あれから一週間……レオス達は生きているかしら……」
「だ、大丈夫よエリィ! バス子はあの時点では無事だったし、きっとレオスさんも、助かって……」
血まみれになったレオスの姿を思い出し、俯くベルゼラ。感情では無事でいると思っていても、現実は厳しいと唇を噛んだ。
<ルビアよ、力を蓄えて置け。レオスは必ずここに来る>
「どうしてそんなことが分かるのよ?」
<……勘じゃ>
「はあ……炎の精霊様が勘とはねえ……。あはは、でもわかった。それに乗るわ。とりあえず食事は危なくて食べられないし、エネルギーを使わないよう休んでおくのがいいわね」
「そうね。ごめんなさい、ルビア、私についてこなければ巻き込まれなかったのに……」
「まあいいわよ。あたしが好んでついてきたわけだし。それに、いつかはアマルティアと対峙するときがあったかもしれないし」
「それはあるかも。大魔王の娘である私をまた操ろうとか考えそうだもんね、あのエロ銀髪」
「ふふ、ベルはいいことを言うわ! そうね、あんなエロ銀髪に負けていられないわ」
エリィがそう言うと、ルビアとベルゼラが笑い、三人はベッドに横になる。
<(レオス、いや、エクスィレオスの力……確かに持っていかれたが、気になる……そう簡単に吸収されるものじゃろうか……)>
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