前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

その142 道中とバス子



 <水曜の日>


 ――国王が倒れたという事実は変わらないが、キラールが失脚したことでハイラルの各町にも人が戻るだろう。

 そんなハイラル王国の城下町を出発した僕達は一路、僕の故郷ラーヴァに向かって馬車を走らせていた。国境まではここからさらに三日はかかるけど、雨が降ることも無く旅は順調に進んでいる。

 進んでいるんだけど……

 「ラーヴァって初めて行くよね。クロウ君」

 「そうだね。レオスの家も商売をやっているんだっけ?」
 
 「あ、うん」

 「やっぱり将来はお店をやるんでしょ? この馬車もかっこいいよね! おねえちゃん達の誰をお嫁さんにするのかなあ」

 「ふふ、もしかしたら全員かも?」

 「えー!? そ、それ大丈夫なの! わたしはクロウ君だけでいいけど!」

 「ちょ、ちょっとアニス……」

 「恋愛は争わないのが一番よね」

 「大丈夫。私達は仲がいい」

 「レオスさんなのにクロウしそう、なんちゃってー!」

 と、クロウとアニスを交えて荷台が盛り上がっていた。それはいい。いいんだけど、やはりというかどうしてもというか気になってしまい、僕は休憩中に聞くことにした。

 「えっと、ふたりはこのまま付いてくるってことでいいのかな……? 知っての通り、僕達って色々大変な感じだし、王妃様からの依頼もある。旅の男が見つかればそっちに注力する可能性が高いからできれば巻き込みたくないんだけど……」

 申し訳ない感じで、バッファローシチューを頬張るふたりに告げると、一瞬目を点にし、すぐにスプーンを取り落として叫ぶ。

 「あ!?」

 「そういえば!?」

 そしてクロウが慌てて僕達に頭を下げる。

 「す、すみません! 居心地が良くてついそのまま一緒に来てしまいました……よく考えたら、ハイラルの城下町で別れても良かったんですよね……」

 「わ、わたしも全然気にしていなかったよ……」

 気兼ねなく一緒にいれるというのは簡単ではないので、無意識にそう思ってくれるのは素直に嬉しい。そこでルビアが口を開いた。

 「リーダーはレオスだからとりあえず聞くだけ聞くけど、ふたりとも目的は無いのよね? だったらラーヴァまで行ってから考えればいいんじゃない? それとも別の国へ行く予定があった?」

 「い、いえ、僕は修行の旅をしているので特には……。拳聖のルビアさんと手合わせできて、その戦いを横で見れるのは正直ありがたいというか……」

 「わたしはクロウ君のお供だから、クロウ君が行きたいところについていくの」

 「ということみたいよレオス。どう? このまま一緒でもいい?」

 と、ルビアが僕に聞いてくる。

 「ふたりがいいなら僕はいいよ。ただ、危ないことがあるかもしれないからできるだけ自分の身は自分で守ってね」

 僕がそう言うと、クロウが真面目な顔で僕の目を見て返してきた。

 「もちろんだよ。僕は修行の旅をしているから『そういうこと』があっても仕方が無いと思っている。それは僕の力不足にほかならないから」

 なるほど、覚悟はあるってことか。

 「アニスは?」

 「わたしも、大丈夫。お爺ちゃんは怒るかもしれないけど、ついてきた時から死ぬこともあるって思ってるよ。もちろんそうならないように気を付けるけど」

 「アニスになにかあったら僕が師匠に殺されるから、アニスは全力で守るけど……」

 段々声が小さくなるクロウに苦笑しながら、僕が答える。

 「ま、お互い気を付けるってことで、しばらくよろしくね」

 エリィやバス子もいつ帰ってくるか分からないし、人数がいて楽しくないわけがないので同行してもらうことにする。いざとなれば僕がなんとかしようと思っていると、クロウが僕へ話しかけてくる。

 「ありがとう。早速だけど、後で手合わせをお願いしていいかい? ルビアさんより強いレオスと一度戦ってみたいんだ!」

 「あれ!? 拳士だから僕と戦っても参考にならないと思うんだけど……。ルビア?」

 「~♪」

 ルビアを睨むと、口笛をふきながららそっぽを向いた。確信犯か……!

 「寝る前に頼むよ!」

 「あ、うん……」

 話がまとまり、めちゃくちゃ乗り気のクロウに若干引く僕。まあ、一回戦えば満足してくれると思うので、受けることにした。

 「こてんぱんにするといい」

 「それはちょっと可哀想じゃない? せめて一撃で……」

 そして不穏なことを言うメディナとベルゼラ。こういう時、まずはバス子がボケるのになと思いながらシチューを食べる。

 あいつ大丈夫かな?


 ◆ ◇ ◆


 「戻りましたよー」

 「うお!? びっくりした!? ってアスモデウス様!?」

 「おや、少し前ぶりですね、サブナックさん。アガレス様はどちらに?」

 バス子ことアスモデウスはメディナの転移魔法によって悪魔達のアジトに戻っていた。食堂でご飯を食べていたサブナックの背後に黙って近づき声をかけた。

 「部屋にいるんじゃないか? あいつらはどうしたんだ?」

 「レオスさん達と行動している時に、とんでもない情報を得ましてね。お暇をもらって帰ってきたんですよ。残っている悪魔達にも聞いて欲しいので、会議室へ集めてもらえませんか」

 「何だってんだ……? ま、別にいいけどよ」

 「ではわたしはアガレス様を呼んできます」

 バス子がアガレスの私室へ行きノックをする。

 「アガレス様、アスモデウスです。お話があるので、会議室までお願いできませんかね?」

 バス子が扉に声をかけると、しばらくして扉が開く。執務机の前に立っていた人影が振り向きながら口を開く。

 「久しいな、アスモデウス。大魔王の娘の側近をやっていたのではなかったのか?」

 「あ、カイ君久しぶりですねー。元気でしたか? 相変わらず賢くて人懐っこいワニですねえ」

 「♪」

 バス子は扉を開けてくれたワニと戯れていた。

 「聞けよ!?」

 「ああ、すみません。久しぶりだったもので。バアル様、それとわたし達をこの世界へ呼んだ黒幕について、ですかね」

 「……!」

 サラッというバス子の言葉に、アガレスは驚愕の表情をする。

 「いいことと悪いこと半々というところですね。残っている悪魔達を交えてお話をしましょうか」

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