前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
その100 パーティの始まり
鍛冶屋を出た後、適当に大通りへと向かうため歩き出した僕達。
もうちょっと頑固親父とのいざこざがあるかと思ったけどすんなり進んでよかった。よくある展開としては素材が足りないから取ってこいとか、手伝えとかそういう類のものである。
とはいえ、すんなり行き過ぎてしまい、早い時間に暇ができてしまったので二人に尋ねてみる。
「まだ早い時間だけどどこへ行こうか?」
「適当にお散歩でもいいんじゃないですか? バス子ちゃんもどこかへ行っちゃいましたし。大きい町ですから退屈はしないと思いますよ」
「エリィの言う通りね。私も公王様から報酬を貰ったし、お買い物はばっちりよ!」
ああ、そういえば金貨50枚はベルゼラも貰ったんだっけ。大魔王の娘だと知ったらどうなっていたのか気になるけど、わざわざトラブルを増やすことも無いのでこれでいいと思う。ただ、これで僕の売り子の手伝いをしなくてもいいと考えると少し残念な気もするけど。
「それじゃ、適当に散策してみようか。何か新しい商売のヒントでもあると嬉しいかなぁ」
「ふふ、それじゃレオス君の役に立つ情報を集めましょうか♪」
と、商店街の方へと足を運ぶ……までは良かったのだけど……
「あっち、あっちに可愛い小物がありますよ!」
「このハンカチ、色がいいわね……銅貨8枚、これくらいなら……! くださーい!」
オークションのあったコントラクトの町では一緒に買い物をしなかったエリィとベルゼラがはっちゃけ、あっちにったりこっちに行ったりと女子力を発揮して僕は苦笑する。楽しそうだからいいけどね。そんなことを考えていると、服屋さんの前でエリィが立ち止まって僕を呼ぶ。
「レオス君もそろそろ新しい服を買ったらどうですか? そのコートも旅を始めた時からずっと着てますよね」
「そういえばそうだね。これ、母さんが用意してくれたコートだから実家に帰るまではこれでいいよ。一応ピュリファイでキレイにできるし」
「なるほど……でもレオス君、かっこいいから着替えて欲しいですけどね」
「あはは、ありがとう。もう二時間くらい経つけどそろそろ休憩でもする?」
お昼には早いけど喉が渇いたなと思ってどこかで休憩しないか提案をしてみると、ベルゼラが頷きながら答えた。
「天気がいいから暑いわよね。でも、もうちょっとだけダメかしら……? あそこ、あのお店だけでいいから」
ベルゼラが困り顔で買い物の続行がしたいとの声を上げたので、僕はにこりと笑い大丈夫だよと答え、お店めぐりを再開。
「はは、自分のお金があるからはしゃいでるのかな? さて、買い物は二人に任せて良さげなお店でも探そうかな? 入り口近くのカフェは朝通った時いい感じだったけど、ここから戻るには遠い……など考えながらお店を物色していると、とある方角から真っ黒な服を着た女の子がキョロキョロしながら歩いているのが見えた。
「探し物かな? 前を見ていないのは危なっかしいなあ……」
そう危惧していたのも束の間、女の子はガラの悪そうな男にぶつかった。
……んだけど、女の子は特に気にした様子もなくずかずかと先へ進み、男が慌てて肩を掴んで引き留めた。
「なにか用か?」
「人にぶつかっておいてそそくさと逃げるとはいい度胸だ。見ろ、相方が苦しんでいるだろうが!」
「いてーいてーよー。腕の骨がぁぁ」
何と嘘くさい……見え見えの演技だけど、まさか関係ないところでお約束を見せられるとは思わなかった。チンピラ二人は体も大きいし、力で抑えられたらひとたまりもないだろう。人さらいだったらことだと、僕がそちらへ向かった瞬間――
「ちょっと触れただけで痛い? やわな体。えい」
べちーん!
女の子は座り込んでいる男の頬を思いっきり引っぱたいた!?
「うぐおおおお!?」
「な、なにしやがる!?」
「次は頬が痛くなったから腕は問題ない。見ろ、よく動いているぞ」
確かに腕の骨が、と言っていた男がその手で頬をさすっているので間違ってはいないけどとんでもないことをする子である。まあこんなことをされれば当然相手も黙ってはおらず女の子を担ぎ上げた。
「なにをする。私は人を探しているのだ離せ」
「いいや、きっちりお礼をさせてもらうぞ! クソ生意気な娘め」
「急ぐぞ……おら、見てんじゃねえ!」
町の人たちも遠巻きで見ていたけどいかつい男達に何をされるかわからないと、すぐに散っていく。これだけ大きい町なら自警団かギルドが対処してくれるはず……だけど、逃げ切られるのも面倒か。
「全部見てたけどおじさん達に言いがかりだね。その子は悪くないよ」
「なんだぁ? 邪魔するなどけ!」
僕は二人組の前に立ちふさがって進行を阻止すべくぐっと構える。案の定、女の子を抱えていない方が殴りかかってきた。腰に下げてある剣はさすがにまずいと思ったようだ。
「<アクセラレータ>! とう!」
「ぐっ!? がは!?」
ただのチンピラに遅れを取るつもりは無いからサクッと顎と鳩尾に拳を入れ沈黙させる。もう一人を倒して終わりさっさと終わりにしよう
「あばばばば!?」
女の子を抱えていたら素早く動けないのは当たり前。膝を蹴ってよろけさせたところに顎を叩いて気絶させてやる。
「おっと」
ずり落ちてきた女の子をキャッチし、顔を覗き込んで尋ねる。
「大丈夫?」
「一人で倒せた。余計なおせ……ドクン!」
「え? ドクンって言った?」
「ぽー……」
「え? よくわからないけど多分強くないよ? あと擬音を口にするのは癖なのかな?」
女の子の顔は紅潮し鼻息が荒くなっている……何かの病気だろうか……
「えっと、具合が悪いなら病院へ行くけど?」
「なんだこの高揚感は。おい、私を下ろせ」
「う、うん、わかった」
なんか早くこの場を離れた方が良さそうだと思い女の子を降ろして一歩下がる。するとスッと顔色が戻り、手をを閉じたり開いたりして感触を確かめていた。
「はは、大丈夫そうみたいだね。それじゃ僕はこれで。ちゃんと前を見て歩かないと危ないよ?」
僕は苦笑しながら手を上げてその場を離れようと踵を返し、歩きだしたところで襟首を掴まれ首が締まった。
「ぐえ!? な、何するのさ」
「お前、もう一度抱っこしろ」
「ええ!? 嫌だよ、もうすでに結構目立ってるんだから! それじゃあね!」
下ろせと言ったり抱っこしろと言ったり、謎の要求をしてくる女の子を突き飛ばして急いで走る。アクセラレータを使っているから追いつけまい!
「逃がさない」
「なに!?」
そう聞こえた瞬間、僕の体に黒い糸が絡みつき、女の子の手元に引き寄せられていた。
「もう一回……ぽー……」
「なんなんだよ、もう……というか君は一体何なの?」
「もう少し待つ。すーはーすーはー」
僕の衣服に鼻をつけて大きく深呼吸する女の子。一体何なのだろう……関わらなければ良かったと後悔し始めていたところにさらに災厄が襲う。
「レオ、ス君……?」
「騒ぎを聞きつけて来てみれば……何やってるの……?」
「げえ!?」
近くで買い物をしていたエリィとベルゼラだ! 焦るな僕……エリィはベルゼラを受け入れていた……それにこの子は初めて会ったばかりだし何もしていない。僕は悪くない……! だけど僕の予想は半分当たり、半分外れた。
「レオス君から離れてください! 知らない人はレオス君に抱き着いたらダメです!」
「ちょ……力が強いわね……せーので引っ張るわよエリィ」
「はい!」
割とエリィが怒っていたのだ。ベルゼラはバス子の時はそんなこと無かったのにどうしてだろう? すると、女の子が顔を上げてエリィ達を見た。
その瞬間、そのハイライトの無い目を見開いて叫んだ。
「……! お前は賢聖! やはりこの町へ来ていたか」
「え? どちら様ですか? あ!」
「うわ!?」
凄い速さで僕を掴んだまま空中へ舞い上がり距離を置いて着地する女の子。
「君は何者なんだ? エリィを知っているのか?」
「当然だ。この前は世話になったな。賢聖よ、あの女はどこだ? それにこの男はお前の仲間だったとはな」
「この前……女? ……あ!? まさかお前……!」
「「冥王!?」」
「そうだ。さあ、あの女を連れてこい。決着をつけてやる」
「レオス君にすりすりするのをやめてください!」
冥王が僕達を追って来たのか! というかあの女って
「ルビアは今どこかに行っているよ」
「拳聖ではない。私の仮面を破壊したあの女だ」
僕だー!? あの薬はもう無いし絶対に会うことは無い……でもこんなにすぐ復讐にくるということはよほど悔しかったらしいね。
「ソレイユさんならもう会えないわよ冥王!」
「どういうこと」
「あなたが今すりすりしているレオスさん……彼がソレイユだったからよ!」
ドーン! という効果音がつきそうな勢いで指さすベルゼラ。一瞬ピクリと眉毛が動いた後、
さわさわ……
「嘘だ。ちゃんとついてる」
「そういう確認方法は止めてよ!? あの時の僕は薬で女の子に変装していたんだ。だから君の仮面を壊したのは僕で間違いない……よ! 《ファイアーボール》!」
ゴォン!
「!」
足元にファイアーボール(威力小さめ)を放って、糸をちぎって脱出をはかり、エリィ達の元へ合流する。
「男……私の仮面を壊したのが男……」
何やらぶつぶつ言っている冥王。すると通りの向こうから昨日の大男と優男、それと食堂でソーセージを爆食いしていた女の子が走ってくるのが見えた。
「ひい……はあ……き、昨日の酒が抜けていないんだよ……」
「うあああ、頭がキーンってしたぁ!?」
「情けないですねえ……おっと、どうやら目的の人物ともう遭遇しているみたいですよ」
「ありゃ……昨日の坊主じゃねぇか……ひいひい……」
何かすでにグロッキーみたいだけど、冥王の横に並び立つ三人。この人達、まさか……
「セーレと同じ謎の魔族……かい?」
「おぇ……セーレや冥王が世話になったのは君達か……うぷ……わ、悪いけど君達を……」
「はいはい、オリアスは休んでていいですから。セーレの仇、取りに来たんですよ。覚悟してもらいましょう」
女の子そういって僕達を指さしてきた。やっぱりそうか、しかし向こうから来るとは好都合だ。
「ちょうど僕も君達に聞きたいことがあったんだ」
「へ、へへ、お、俺達を倒せたら……うえ……なんでも教えてやる、ぜ」
「うーん、もう風が吹くだけで倒せそうですけど……」
「確かに……ルビアとバス子が居ないから4対3だけど、これなら簡単に倒せそうだね」
「では、冥王は私が……レオス君にすりすりするなんて……許せません……!」
基準は何なんだろう……それはともかく、町中で戦うのはまずい。何とか外へ誘導する必要があるかと考えを巡らせると、空からふわりとローブを着た人影が降りてきた。
「……仲間がまだいたのか」
「ええ、そうですね。わたしはアスモデウス。町中で戦うのは意に沿いません。どうでしょう、町の外の森で決着をつけるというのは?」
「何か企んでる、かな? でもいいよ。願ったりだ」
「拳聖は?」
「どこに居るか分からないし、このまま僕達だけで行くよ」
「そうですか? まあこちらとしては戦力が少ないことの方が助かりますけどね。では、行きましょうか冥王」
「……わかった」
さて、実力のほどは分からないけど少し懲らしめてやるとしようか。事情を知ってそうなのも出てきたことだしね?
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