前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

その97 さらば温泉村!


 村へと戻りエリィ達と合流し宿へ戻ると、すぐに出発の準備を整えて厩舎へと向かう。雨が止んだので久しぶりの陽を浴びるため村中に人が家から出ていたりする。

 「よしよし、元気そうだな」

 「ぶるる!」

 「ひひーん!」

 「大人しい馬だったからお世話が楽でしたよ。恩人様はもう出発されるのですか?」

 「お、恩人様って……」

 「えっへっへ、レオスさんは温泉の解放をしましたしね。秘密裏にやれなかったから仕方ありませんね~」

 「むう……」

 バス子が嬉しそうに僕の背中をバンバン叩きながら言う。確かに冒険者に見つかったのは僕のせいだから仕方ないか。
 まあ、出発したらすぐに僕のことは忘れると思うけどね。そんな話をしていると馬が荷台に括りつけられルビアが御者台に乗って馬車を進ませる。

 「ごめん、ありがとうルビア」

 「ふふん、いいのよ。レオスのおかげで師匠をへこますことができるんだから」

 何か不穏なことを言うなあ……師匠に何言われたんだろ……鼻歌交じりに馬車を宿の前まで移動させるのを見ていると、寝ぼけ眼であの時の冒険者のお兄さんが話しかけてきた。

 「ふあ……やっと止んだか……足止めを食ったな……お、レオスだったっけ? もう行くのか? いい天気になったけど、山はまだがけ崩れで進めないだろ」

 「ま、まあ、何とかしますよ」

 「あれだけの魔法を持っていたら大岩でもなんでも何とかできるか。なあ? はっはっは! 俺が心配するこっちゃねぇが気を付けてな。精霊に会えるなんざ一生に一度あるかどうか……じゃあな」

 片手を上げてあくびをしながら宿へ向かうお兄さんを見送り僕達も馬車へと乗り込み、ゆっくりと村の外へ歩き出した。

 「あふ……」

 「ベルゼラ、朝早かったし眠いんじゃない?」

 「ええ、魔力も使いましたし少しだけ」

 「寝てていいよ? 魔物に襲われたら僕達で何とかするし」

 するとベルゼラはお言葉に甘えてと寝息を立てる。そろそろ村の出口に差し掛かるなと思っていると、村長さん達が追いかけてきた。

 「お待ちくださいー!」

 「ルビア、ちょっとだけいい?」

 「いいわよ。どうしたのかしら? どうどう」

 ルビアが馬を止めると、村長さんが息を切らせて馬車へ追いつき荷台から顔出した僕に話し出す。何かあったかな?

 「先日は夕食ありがとうございました! それでどうしました?」

 「はあ……はあ……レオス様、すみませんお引止めしてしまい。まさかこんなに早く出発するとは思わなかったもので……これを……」

 そういって割と大きな麻袋を僕に付きつけてくる。

 「これは?」

 「食料です。ミルクや卵、野菜を入れています。少ないですが、道中召し上がってください」

 「それは助かります! いいんですか? 大雨で収穫ができなかったのでは?」

 「いえいえ、備蓄はありますし温泉を解放したお礼が夕食だけとはどうしても申し訳ないと思いまして」

 ニコニコと汗をぬぐいながらそう言ってくれる村長さんから快く袋を受け取ると馬車は再び歩き出し、村長さんは手を振って見送ってくれた。

 「ミルクは山登りもあるし馬にも飲ませてあげようかな? バッグに入れておけば腐らないし、飲むとき冷やせばきっと美味しいよ」

 「他には……じゃがいも、ニンジンとキャベツですね♪」

 エリィが麻袋の中を見て嬉しそうに言った。ラッキーだったなあ、村の特産品もゲットしたし先々の取引で使おうと思う。

 僕達はガラガラと音を立てて山を登り始める――



 ◆ ◇ ◆


 
 「……」


 先ほどレオスに麻袋を手渡した村長が家へ戻っていく……のかと思いきや、スッと近くの建物の陰に入っていく。

 そして――

 「やれやれ、やっと追いついた。かと思えば温泉は解放するわ炎の精霊と契約するわ出鱈目だな……」

 次に姿を現したその姿は、フォーアネームの町で領主暗殺を謀っていた野盗の一味……ダンタリオンだった。変装能力で村長に化けていたようだ。麻袋を渡したのはレオスだと言うのを確認するためである。

 「あの小僧、レオスとか言ったな。計画を早めるには倒すより協力を仰いだ方が犠牲が少なくて済むんじゃないだろうか? ……まあいい、追ってから考えよう」



 ◆ ◇ ◆


 「いい天気だねえ」

 「ええ……」

 「それはいいんですけど……」


 「らーららー♪」


 「姐さん、歌へたくそだったんですね……」

 ルビアが御者台に座ってくれているので、僕はエリィとバス子、それと眠っているベルゼラと荷台に座っているんだけど、天気がいいので屋根を取っ払い日向ぼっこをしながらのんびりしていたんだけど、気をよくしたルビアが歌を歌い始めた。
 それだけならよかったんだけど、これがまあ酷い音痴でとても聞いていられない。眠っているベルゼラも、

 「う、うう……お、お母様……!」

 と、何かうなされ、馬達もなんとなく足取りが重いような気がする……

 「ね、ねえ、ルビア」

 「らー♪ ん? どうしたの?」

 「うん、そろそろ変わろうかなって思って」

 一人にしておくのが良くないのだと思い、僕が御者を変わることを提案した。このままでは町に着く前に全滅してしまう。

 「まだ全然大丈夫よ? なんなら町まで御者でもいいけど? らー♪」

 「わああ!? ぼ、僕、御者をやりたいなあ! エリィやバス子とゆっくりしてよ!」

 「そう? じゃあお願いしようかしら」

 そういってくれたので僕はいそいそと御者を後退しことなきを得た。

 「やれやれ……あれ?」

 「ウッキー!」

 がさがさと崖の上にある林から猿の鳴き声が聞こえてきたので顔を上げると、あのボス猿が叫んでいた。

 「元気でやれよー!」

 「キキー!」

 「わ、ラリアーモンキーがいっぱいいます!」

 エリィが驚きの声を上げるが、ボス猿や手下が襲ってくることはなく、しばらく並走していたけどやがて追いかけて来なくなった。

 その後、山の中腹で一泊し、町がある方へ下山。夜中になったけど、ようやく町に到着することができたのだった。

 馬車の改造ができるお店を探そうとワクワクしていた僕だったけど、やはりというかついにきたというか……騒動に巻き込まれてしまうのだった。 

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