前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
その66 ひとまず休憩
<風曜の日>
カラン……
「っしゃーい」
若干気怠そうな声を出しながら宿の受付にいたおじさんが僕達を見て挨拶をしてきたので、僕達は受付へと集まる。
「すみません、泊まりたいんですけど」
「はいはい、当宿を選んでいただきありがとうございます! 部屋に優劣はありませんが、一人から多人数の大部屋はありますよ。いかがなさいますか?」
急に接客が良くなったおじさんが部屋の説明してくれた。
コントラクトの町みたいにスィートホーム。もとい、スィートルームみたいな部屋は無いらしく、部屋の大きさに関わらず二泊三日で一人銀貨三枚というお値段だ。
なのでやろうと思えば一人部屋に六人入ることもできるけど、一人頭いくらなので大部屋を選ぶのが正解だろうね。
「とりあえずベルゼラとバス子の分は僕が出しておくよ。何かあった時一回分のお給金から引くね。えっと、男一人別部屋で――」
僕がそういうと、おじさんが首を傾げて僕達を見る。
「えっと、男性はいらっしゃらないようですが、後でお連れ様が?」
「え? ……ああ!? い、いえ、間違えましたわ、僕……じゃない……たわし……でもないワタシの連れは来れなくなったんでしたわ! お、大部屋でいいよねルビア」
つい癖で部屋を分ける話をしてしまった……慌ててルビアに同意を得ると、苦笑しながら僕と入れ替わりに受付の前に立って財布を出す。
「ふう……そうね、とりあえずこれで頼むわ」
「金貨二枚お預かり……はい銀貨二枚です。そっちのペットはおまけしておきます。部屋の鍵はこちらで、突き当りを右に曲がるとラベンダーと書かれた札のある部屋になります」
「ありがと。行くわよ」
「あ、ルビア、お金」
「別にいいわ。今度まとめて返してくれれば。まだ貯金も微妙でしょ? それに三人分くらいなんとかなるわよ」
「ぐう……」
ルビアがそういうと僕はかろうじてぐうの音が出たけど、それ以上何も言えなくなってしまい、ベルゼラとバス子も後ろをついてきながらルビアに謝る。
「す、すみませんお金がなくて……」
「姐さんにツケ……踏み倒したら命が危ない……レ……ソレイユさん、早くわたしに仕事を!」
「うん。さっき目立ちたくないって言ったばかりだからね?」
するとそこでレジナさんが口を開く。
「アタシはちゃんと払うからな? お金を持っているのに施しを受けたら父ちゃんに叱られるよ。な、シルバ」
レジナさんは首から下げていたレトロながま口を取り出しながら抱っこしているシルバに微笑むと、狼姿のシルバが声を出す。
「きゅん! 母ちゃん、僕ペットじゃないよ!」
「もちろんアタシ自慢の息子だ!」
「へへ! ならお部屋は人型になっていいかな!」
「そのままでいいですよシルバちゃんは。こっちもとっても可愛いですもん♪」
「きゅーん!」
シルバの頭を撫でながら言ったエリィのセリフに納得がいかなかったのか、レジナさんの腕の中で鼻をちーんとしながら一声鳴いていた。
そして――
部屋へ到着した僕達は作戦会議を始める。
「まとまって動くと怪しまれるからバラバラに情報収集しない? 僕はギルドへ行こうと思うんだけど」
「それじゃあ私はソレイユちゃんと一緒に行きますね」
「もちろん私もですね」
何が「それじゃあ」で「もちろん」なのかは分からないけど、エリィとベルゼラは僕と一緒に来るようだ。そこでルビアが手を上げる。
「六人何だから二人一組でしょうが! レ……ソレイユはエリィとベルでじゃんけんでもして勝った方ね」
「僕の意見は……」
「無いわ。ほら、もう始まっているわよ」
ルビアが指さすと、エリィとベルゼラが不敵に笑い合っている。
「ついにこの時がきましたね……賢聖として負けるわけにはいきませんね」
「エリィさん、この勝負は譲れませんよ……私はデートを一回もしていないですし! 大魔王の娘がベルゼラがお相手します!」
「それはそれ、これはこれ……いざ、尋常に!」
「一本目!」
「「勝負」」
聖職VS大魔王の娘という好カードだけど、白熱したじゃんけんというのが実にしょぼくて平和である。だけど、あまりにも熱がこもりすぎているため僕は若干引き気味でバス子達に訪ねてみる。
「バス子はどうするの? ベルゼラが負けたら一緒に行く感じ?」
「えっへっへ、そうですねえ。姐さん、どうです? お嬢様と行くつもりでしたけど、勝ったらレ……ソレイユさんと行くでしょうし、その時はわたしと行きませんか?」
「ん。いいわよ? いつ決着がつくか分からないけど……」
「またあいこ!? どうなっているのよ!」
「やりますねベル……!」
恐ろしいくらいあいこが続いているのはとりあえず置いておき、次はレジナさんへと向き直る。すると人化したシルバが両手を上げて伸びをしながら口を開いた。
「お散歩行くならルビア姉ちゃんと一緒がいい!」
「お母さんと一緒でいいじゃない」
「ルビアお姉ちゃんは僕と一緒で拳で戦うから、一緒に行って強さのひみつを探るんだ!」
「あっはっは、シルバは父ちゃんみたいになりたいもんね」
「うん!」
「行く時は狼の姿だけどいいの?」
「いいよ!」
よほどあの裏オークション会場でのルビアがかっこよく見えたのだろう。シルバは目を輝かせて尻尾を振っていた。
窓から町の風景を見ながらエリィとベルゼラの戦いを待つ僕達は行き先と何を聞くかを話し合うことに。宿の入口に町の案内紙があったのでそれを一枚部屋に持ち込み、それを見ながら僕はギルドで決定し、ルビア達は商店街、居住区、公園などを当たってみるとのこと。
一通り決まったところでバス子が声をあげる。
「あ、決まったみたいですよ!」
僕とギルドへ行くのは――
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