前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
その64 どっちの着せ替えショー
「うわあああああああ!?」
「レオス君、どうしました!」
「レオスさん!」
僕は膝から崩れ、自分でもびっくりするくらいの叫び(声が高い)をすると、エリィとベルゼラが駆けつけてきてくれた。
「エリィ……僕、女の子になっちゃったみたい……」
「ええ!? ちょ、ちょっと失礼します……ああ!?」
僕の胸を触ってからガクリと床に手をつき、続いてベルゼラもふらりと倒れこんだ。そこへセリアさんがやってきてドヤ顔で説明を始めた。
「それは❝ソトミイレカワール❞と言って、男が女になる薬よ。おっさんや爺さんを女にしても面白くな……あまり見た目が良くないから使ったことなかったんだけど、君は中性的な顔をしているから占めた、と思って村に入ってきた瞬間からつけていたのよね」
「まったく隠せていないのは評価するべきかアホだと言うべきか悩むところだけど、この薬は凄いわね……」
「ルビアぁ……」
と、僕がルビアに助けを求めると、顔を赤くしたルビアから『きゅん』という音が聞こえたような気がした。
「ちょっと、レオスこっちへ来なさい」
直後、僕を抱えてどこかへ行こうとする! 嫌な予感しかしない!
「いやだぁあ!? 何をするつもりだよ!」
「大丈夫、ちょっと新しく買った服を試すだけだから!」
何だって!? そういえばコントラクトの町でエリィと買い物をして『新しい服を買った』と言っていた気がする……あれがフラグだったの!? 気づかないよそんなの!?
「姐さん姐さん、とりあえず今はレオスさんより公国都市へ入ることでしょう? どういうプランにするか話し合いをするべきでは?」
バス子が珍しくまともなことを言う。だが、その目からは血の涙が流れ、膨らんだ僕の胸を凝視してギリギリと音が聞こえんばかりに歯噛みしていた。
「公国都市へ入る? いつでもいけるじゃない。なんか訳アリかしら」
うーん、セリアさんが敵ってことは無いだろうし、一応相談してみるか……
「実は――」
かくかくしかじかと僕はルビアに抱えられながらセリアさんに説明すると、僕達はリビングへと通された。
「なるほど、公王様が魔族に……大魔王が倒されたのにまだ何か企んでいるやつらがいるってことね」
「理解が早くて助かります。それで僕達は公王様に付き添っている魔族に顔を覚えられていて、門の衛兵にもそれが伝わっているみたいなんです」
「そこで変装か。なるほど、この国の危機ってんなら手助けしないわけにはいかないわね!」
足を組んでニヤリと笑うセリアさんはどことなく気品があるような? それはともかく、僕の体のことについて手を上げて訪ねる。
「で、僕は元に戻れるのかな……?」
「ああ、大丈夫よ。もう一回飲めばちゃんと戻るから……多分」
「多分!? ちょ、確定じゃないの!?」
「そりゃ、あなたが初の実験台だし」
「実験台ってハッキリ言った!?」
僕が慌てて叫ぶと、エリィとベルゼラがむくりと起き上がった。
「レオス君、その姿なら門を通ることができるでしょうから一旦そのままでいいかと思います。こんな話で申し訳ありません。そしてご協力ありがとうございます」
「う、うん……」
「い、いいわよこれくらい。で、レオス君だっけ? 私の薬に間違いはない(はず)だから安心していいわ!」
今、小声で『はず』って言ったような……
とりあえず何か妙な迫力を醸し出すエリィに頷くと、続いてベルゼラがセリアさんの背後に回り、肩に手を置いて呟く。前髪で目が隠れていて表情はうかがえない。
「……ただしセリアさん。レオスさんが戻らなかったら、分かっていますね?」
「ひぃ!? だ、大丈夫よ! 絶対!」
「ならいいです」
スッとベルゼラがソファへ戻ると、僕達は慌ただしく準備を進め始めた。
ルビアは赤い髪に変えたままポニーテールを三つ網に変更。服は活発な感じではなく、セリアさんにお嬢様っぽいフリルのついたドレスみたいなのを着用。
エリィは金髪からベルゼラと同じ青い髪にし、後ろにたらす感じのツインテールに。服はルビアやバス子のようなホットパンツに黒いジャケットを着てメガネを装備する。
ベルゼラは青い髪から黒い髪へ変更し、髪を編み上げ、角を隠さない方向で決まった。服はローブを脱ぎ、元々来ていたドレスのような服へ。
「わたしはこれでいきます! どう、どうですか、この胸を強調した煽情的な服!」
「うん、バス子は金髪にしてフリフリの服ね」
「なぜぇぇぇぇぇ!?」
バス子はうきうきしているルビアにいわゆるゴスロリという感じの服へ着替えさせられていた。どうやらルビアは自分が似合わない服を似合いそうな子に着せて楽しむという趣味があるらしい。
いつもはエリィがそれに付き合うという構図で満足できていたけど、今日はその対象が僕を含めてさらに三人が追加。ルビア無双が始まったというわけだ。
そして――
「やっぱりレオス……いや、レオ子にはこれが似合うわね」
「えー、このミニスカートがいいですよ!」
「わ、私はフリフリがいいと思います……!」
わーわーとエリィとベルゼラが額に汗するルビアに抗議するが、僕は別のことで話題を変える。これ以上着せ替えに付き合っていられないからね!
「あの、レオ子はちょっと安直すぎないかな……レオバールのレオみたいでとても嫌だし」
「それもそうね」
ルビアは真顔で頷いた。エリィの一件でうざいなと思っていたようだけど、森での奇襲でさらに顕著になったようだ。
「名前は……ソレイユでいいよ。そう呼んで」
「いいですねその名前!」
僕は女神であるソレイユの名を使うことにした。以前彼女の体を乗っ取っていたことがあるから違和感はないしね。そういえばこの体、ソレイユよりも大きいかもしれない。
『……天罰ですかね』
「!?」
今何か聞こえた!? あたりをキョロキョロするも特に変わったことは無かった。
「どうしたのよ? さ、これでいいわね!」
ルビアはいつも後ろで縛っている僕の髪をほどくと、ブラシでサッと梳かして服を体に当てて選定する。どこに持っていたのかと思うくらい服を買っていて驚いたよ……
結局エリィやベルゼラも面白がって参加し、決まった服はというと――
「これでいいじゃない。女の子になったから金髪はそのままで!」
「えっへっへ……似合いますねえ……ぷぷ」
一体型の薄いピンクのワンピースにヨモギ色のカーディガンを羽織り、青いリボンで後ろ髪しばった美少女が鏡の前に居た。
「これが、僕……? フフ、可愛い♪ ……って僕は何を考えているんだぁ!」
「その調子よレオス! 正体を悟られないためには形から入ることもうんたらかんたら」
ルビアが何か言っていたけど、全然耳に入ってこなかった。
とほほ……ちゃんと元に戻れるんだろうね……?
◆ ◇ ◆
「セーレ様のおっしゃっていた追っ手が門の前へ現れたと報告がありました」
「ふむ、ご苦労。どう対処したか?」
「門前払いし、森の中へ戻っていくところが確認されております」
「結構。この町は城壁も高いですし、空を飛べる魔族でも侵入は難しいのでとりあえずはこれでいいでしょう。万が一ということもありますので監視と報告は怠らぬよう」
「は」
騎士が一礼をして下がると、セーレは椅子に座っている公王へと口を開く。
「まだ奴隷は必要ですかな、冥王?」
何故か冥王、と言い放ったセーレだが、公王は虚ろな目で返事をする。
「……そうだな、まだ必要だ。あの男くらいの人間がいると楽だがな」
「あの男?」
「お前を追い詰めたあいつだ。勇者アレンと一緒に居た時はそんな素振りは一切なかったが、あれは凄くいいぞ」
「なるほど。しかし私では太刀打ちできそうにありませんぞ? 元々戦闘が得意じゃないですからね」
「言い訳はいい。とりあえず一人送るから捕らえることも視野に入れておけ」
「それでちょ……」
「いうな。分かっている。お前たちは私の利益のために。私はお前たちの利益のために協力している。約束は守ろう」
「承知」
すると公王の首ががくんと項垂れて動かなくなった。
「さて、まだまだ忙しいですね。次は――」
セーレは公王を残したまま謁見の間を後にするのだった。
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