闇鍋スキルの乱法師

西洋躑躅

第二話:ランダマイザ


あれから暫く時間が経ち、俺も多少落ち着いた頃

「状況は理解出来たかな?」
「……あぁ」
「そんな怖い目で睨みつけないでくれよ」

それは無茶というものだろう。
こちとら神の勝手な都合で生み出されたのだから。

「常識的に考えて、本物を拉致するなんてそんなのただの人攫いじゃないか。だからこそこの対応は仕方のない事だと思うのだけど」
「俺達人間の常識と神様の常識を同列に語るな。アンタの行いは人間の常識に当て嵌めれば非人道的と言われる行いだよ」
「それは……済まない事をした」

人を異世界に連れて行こうとしても何食わぬ顔をしていた神だったが、ここに来て初めて申し訳なさそうな顔を見せた。

まぁ今まで何食わぬ顔をしていたのもただ単純に俺がその為だけに生み出された存在であったという事もあったのだろう。
神にも一応の罪悪感はあるのだなと、その表情から悟った俺はこれからの事を考える。

元の世界に俺の居場所は無い。
である以上はこの神について行くしか今の俺が存在し続ける術はない。

何時までもこのままへそを曲げ続けるよりは今の内に神と良好な関係を築いて行き、少しでも向こうの世界で生き易くするよう手を打つのがベストだろう。

「もう良いよ。戻れないなら行くしかない、取り合えずそれに関しては納得した。ただそっちの都合で生んだんなら、俺の都合も考えてくれよ?」
「分かった、可能な限りサポートしよう。そうだね、とりあえずは向こうに着いてから暫くの間は僕がガイドを務めよう」

おいおい、まさか当初の予定では異世界に送ったらそのままガイドも何も無しのつもりだったのか?。

それは流石に非常識過ぎるだろと思ったが、先程自分が言ったように人間の常識と神の常識は同列には語れない。
俺が思った”それくらいして当たり前”という考えは、神にとっては当たり前ではないという事だろう。

「そういや出向く世界については何も聞いてないけど、どういう世界なんだ?」
「剣と魔法のファンタジー世界だよ。君が想像した通りのね」
「なるほど、それならこの手のお約束、特典にチートか何か欲しいな。流石に平和の世界生まれの一般人がいきなりそんな世界に行って戦えるとは思ってないよな?」
「それについては安心してくれ、ちゃんと用意してあるよ。というか、本来はその力を試して貰うのが目的だからね」

そう告げると神の身体から光が溢れ出し、その光が俺の身体の中に入って来る。

「”ランダマイザ”――僕が用意した最高の力だよ」
「……その名前とアンタの今までの発言からして分かりきった事だけど一応聞くよ。そのランダマイザってのはまさかランダムに全てが決まるって訳じゃないよな?」
「そりゃあ勿論、全てがランダムって訳じゃないさ」
「だよな。流石に確実性も何もないそんなクソみたいな力で戦えなんて言う訳――」
「ランダム魔法、ランダム付与、ランダム召喚と自分で選択できるよ!」
「入口以降全部ランダムじゃねぇか!!」

俺は神の襟首をつかんで再び地面に引き摺り落とす。

「それはつまり魔法、付与、召喚とジャンルは選べるけど肝心の中身は選べませんって事だろうが!そんなのでどうやって戦うんだよ!お前ちゃんとテストしたんだろうな!?」
「そ、それをモニターして貰うのが君の役目であって、戦えるかどうかは運次第で」
「ふ ざ け る な !」

襟首をつかんだまま神を前後に激しく揺さぶって抗議する。

しかし元よりこの力を与えられるために生み出された以上、その前提を覆す俺の言葉が受け入れられる訳も無く、抵抗虚しく異世界転移特典はランダマイザという訳の分からない力になるのであった。

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