イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第63話 異創空間

「ねェ、シン! 待っテよ!」
 興奮した様子で、全力で俺を追うそいつ。

「待つわけない!」
 捕まらないことを目標にしている俺は、妨害の意を込めて弐ノ型 穿輪《せんりん》を撃つ。

 それを迂回し、また追尾。そして攻撃を繰り出してくる。

「あーもう、恐いなぁ」
 その狂気とも取れる感情に、冷や汗をかきながら畏怖を抱く。

「稲妻纏い伍ノ型 雷電波ァ!」
 これまでの期間に極級も問題なく使えるようになったレイが、俺を襲ってくる。

 ―――――――――

「で、次はどうするの?」
 何故こんな行動を促すような発言をしてしまったのかと、後から後悔したが、もう充分遅く、更に後悔した。

 ただ無意識に、その発言をしてしまった。

「んーどーしよっか」
 何故か今日のしたいことはこの1つだけだったらしく、まだ11時にもなっていないのに予定が尽きた。 

「……じゃ、公園かなんかでゆっくりしない?」

 これを提案した訳は、どうせこれから疲れるんだから、それに向けて体力を温存しようというもの。

 そして、あわよくばレイをずっとそこに留まらせ、これからの買い物を未然に阻止する。

「うん! いーよ!」

 決まったはいいものの、公園のようなゆっくりできるところが、どこにあるかなんて俺達は何も知らない。

 が、そんな俺達に助け舟を出すように公園への道案内表示があった。

 そこは、パラシェル公園にはかなり劣るものの充分綺麗且つ爽やかな広い公園だった。

 5つ程ある出入り口全てに『レフレス公園』と、大きく掲げられている。

 そして俺達は、大きな花壇の周りにあるベンチではなく、その中央広場がほぼ見渡せる隅の木陰にあるベンチに座った。

「はぁ……」

 全然疲れていない。むしろ元気だ。
 でも、精神的な負荷のせいで、自然とため息が出てしまった。

「シンすごいよここ! 綺麗だね!」
 この光景に見惚れ、気分が上がったのかはしゃいでいるおかげでため息はレイに認識されずに済んだ。

 そんなレイを見ている中で、次第に俺は飼い犬がドッグランではしゃいでいるのを傍観している気分になった。

 レイの放った言葉すらも、「わんわん」と聞こえてくる。

 レイがはしゃぎ、俺が飼い主になった状態が10分ほども続き、貴重な時間を無駄遣いさせることに成功した。

「……あ、そうだ。ウェンズさんの魔道具店で買ったんだけど、こんなの持ってるんだった」

 急に冷静になったかと思うと異空間収納から何かを取り出し、それはウェンズの商店で買ったものだと言う。

「へぇ? んでどんなもんなの?」
 急に静かになって言うほどのものかと、俺も興味が湧いた。

「えぇと。その空間を認識して、レプリカみたいな本物そっくりの空間を創って、その範囲内にいる生物を創った偽空間に飛ばす……みたいな? その空間を異創空間? って言うんだって」

 ……多分この話し方からするに、レイ自身もよく分かっていないんだろう。

「まぁ、つまりはリアルと同じ仮想空間を作ってそこにフルダイブさせるみたいな……現実と隔離する……パラレルワールドみたいなもんか」

 上手い例えが全然見つからないな。

「ん? でも、なんでそんなもん買ったの?」
 レイが何故わざわざそれを買ったのか。必要な使い道が全く思い浮かばないから気になった。

「ウェンズさんに勧められたからつい買っちゃった」

 ……なんでこんなもん勧めたんだ……?
 でなんでレイも買うんだ?

「ちなみにおいくらで?」
 空間を創るなんて言うものだ。安いとは到底思えないけど。

「えとね、1200万くらいかな」
「なんだ、ちょっと高めだけどそんなしないね」
「でしょ? 面白そうだし」

 高かったら叱ってたとこだけど、思ったほどではなかった。
 だからこれは水に流すとしよう。

「でさ、どうせならこれ使わない? 食事前の運動したいし」
「使うって……ここで? 迷惑にならない?」

 俺達以外の人が一緒に異創空間に飛ばされれば、空間から出られなくなる。

 迷惑以外の何物でもないだろうに。

「大丈夫、これ飛ばす人も指定できるんだって。使用者は絶対みたいだけど」
「なんだ、なら安心」

 相変わらずすごい性能だ。ウェンズさんとこの魔道具。

「範囲はこの公園にするから、意外と魔力いるな……シン、ちょっと手伝って」

 この公園を囲うほどの範囲にするための魔力がレイだけでは心許ないので、俺もすぐに手伝うことにする。

「指定、私とシン。範囲、この公園内。期限、使用者が解除するまで……何か不服ある? シン」

 決めた設定の最終確認をレイがしてくる。何もないと、躊躇わず伝えた。

『起動』
 魔道具から機械音のような声が響くと、ほんの一瞬、意識が飛ぶ感覚がした。

 異創空間に入ると、朝気持ちよく目覚めたようにすっきりとしていた。

「で、ここに来て何するの?」
「うん、──しようよ!」

「……え?」

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