イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第55話 いつか、その時まで──。

「零には、私の存在を、秘密にしておいてくれない?」
「……え?」

 その全く予想外の案に、俺は絶句してしまった。

「な、なんで?」
「零はさ。学園の為に頑張ってるでしょ?」
「う、うん」

「なら、私が動揺させて、零が思うように動けなくなって、足手纏いになって、悲しむなんて様子。見たくない」
「そ……」

 そんなことはない。

 そう言おうとしたが、やめた。

 ……ったく。妙に他人想いなところは、相変わらずだな。

 零にこのことを伝えられない悲しさを感じたが、相変わらずのところを見ると、懐かしく、温かな気持ちにもなった。

「……分かったよ。でもその言い方だと、対抗戦が終わったら、自分で明かすつもりなんだろ?」
「うん。だから、もう一つ、頼みがあるの」

「何?」
 真姫の頼みを、内容を聞く前から受け入れることを決めながらも、続きを促した。

 いつだって真姫の行動には、必ず正当な理由が付いていた。そういう公正な判断ができる人間だ。彼女は。

 だから、俺はそれを信じる。



 ……いや、違うか。

 俺はただ、罪滅ぼしがしたいだけだ。

 真姫がいない事実を認めたくなくて、必死に考えないようにしていた。

 その存在を……忘れようとしていたんだ。

 そのことが自分でも赦せなくて、それでも誰かに赦して欲しくて、何か、罪滅ぼしになるようなことを探していた。

 そして見つけたのが、真姫のこの頼み。

 俺はただ、赦して欲しくて、協力しようとしていただけだ。

「あのね——————」

「……分かった」

 ―――――――――

 真姫の部屋から出ても誰にも見つからないよう、外に誰もいないか探査魔法で確認し、最後に、挨拶をする。

「その、ごめん。こんなことしかできなくて」
「ううん、いいよ。久しぶりに真を話せただけで、十分だよ」
「そっか……ありがと」

 口ではこんなことを言っているが、本当はこんな自分が情けないとしか思えない。

「それと」
「ん、どうしたの?」

 ドアノブに手を掛けながらも、まだそれを捻らない俺を見て不思議そうに聞く真姫。

「次からは、俺は『桜井 真』じゃなくて、『シン サクライ』。分かった?」

「うん、分かったよ。じゃあ、私も『花宮 真姫』じゃなくて『マキ ハナミヤ』だね」

 名前をこうする理由は、俺達が王に言われたことを真姫に話してあるので真姫も知っている。

「じゃ」
「じゃあ」

 この一言で、頼んだよ、任せろ、絶対また逢おう、ありがとう、嬉しかった、など。
 いくつもの想いが、俺と真姫の間を交差する。

 ドアノブを捻り、廊下に出る。

 その瞬間、俺と真姫は、桜井 真と花宮 真姫ではなく、『シン サクライ』と『マキ ハナミヤ』になった。

 ——次に、俺は『桜井 真』。レイは『光崎 零』。マキは『花宮 真姫』に戻るのは、いつになるんだろう。

 ふと、そう思った。

 ―――――――――

 俺が部屋に戻ると、レイとセレスがいた。

「あの……なんでいつも当然のように、2人は俺の部屋にいるんですかね?」

「……なんとなく?」
 素朴な疑問を持ったような顔をして、首を傾げながら答えるレイ。

「……なんとなくで俺の部屋に入るのやめてくれよ……」
「あれ、私達が部屋にいて困ることでもあるの?」

 煽るように笑うレイ。

 これに俺は、いつもならないと即答するが、今回は対応を変えた。

「うんあるから部屋から出てけ」

「なっ……!」
「へっ……!?」

 この答えが予想外だったのだろう、一期に顔を紅潮させる2人。

 ……とりあえず早くいなくなって?

 レイと一緒にいるとマキのことがバレる気がしてならない。

 だから、その時までは出来るだけレイといる時間を減らさなくては。

「まさかシン! ソウイウ本を隠してるの!?」
「えぇ!?」

 ……これは失敗だったか。

「そんなもの持ってるなんて! これは幼馴染みとして没収しなくてはっ!」
 急にやる気を出して部屋に探りを入れ始めるレイ。

「何? それを奪って見るつもり? 随分と興味津々だね?」

「うっ……そんなこと言うってことは、ホントに持ってるんだ?」

「持ってて何か悪いことある? それに持ってたとしてなんでレイが怒るの? この年の男子が持ってちゃダメなの?」

「うっ……うぅ~~~!!!」

 俺が責めるように言ったことにより、叫びながら走っていくレイ。

 ……ごめんね、全部この部屋から追い出すための嘘だから。

 ほんとは持ってないよ?

 レイを責めてしまったことに罪悪感を抱きながらも安堵する。

 だが、事態はまったく安堵できない状況だった。

「シン……持ってたんですか……!?」
 セレスが、信じられないものを見るような目で俺のことを見ていた。

「あっ……!!」
 ヤバイどうしよう。

「あの、これは違うから! ほんとは持ってないから! 信じて!」
「……」

 セレスは未だ、俺に疑いの目を向けている。

 それからなんとか熱弁し、どうにかあれが嘘だと言うことを認めてくれた。

 ならばなんでレイにあんな仕打ちをしたのか問われたが、それには答えることが出来なかった。

『シンが理由もなく人を傷付けるわけがない』と、嬉しいが、この場では厄介な発言をされ、このことは忘れてくれと、素直に謝るしかできなかった。

 セレスに何か事情があることを察されたが、追及はしないでくれた。

 その代わり、しっかりとレイにいつか説明することを約束させられた。

 ……当たり前だよ。あのことは、マキが済んだ後に、俺の口からも説明する。

 ―――――――――

 朝起きて、なんとなくシンの部屋に行く。

 でも、シンは部屋にいなかった。

「散歩でもしてるのかな?」

 シンが影魔法で起きるようになってから、私の方がお寝坊さんみたいになっちゃったな……。

 これが、私の最近の悩み。

「私も、魔法使って起きよっかな……」
 シンに早起きで負けるのが悔しくて、最近はそんなことまで思うようになってしまった。

 とりあえず、シンが戻ってくるまでセレスと一緒に部屋で待つことにした。

 しばらくすると、シンは戻ってきた。

「あの……なんでいつも当然のように2人は俺の部屋にいるんですかね?」

「……なんとなく?」
 これは本気でなんとなくだ。

「……なんとなくで俺の部屋に入るのやめてくれよ……」
 別にいーじゃんよ。

 ……!

 シンの様子が、おかしい。

 いつもと、何か違う。

「あれ、私達が部屋にいて困ることでもあるの?」
 私はいつも通り、シンで遊ぼうと、煽り口調でそう言うと、普段なら絶対に返ってこないような回答が返ってきた。

「うんあるから部屋から出てけ」

「なっ……!」
「へっ……!?」

「まさかシン! ソウイウ本を隠してるの!?」
「え!?」

 私の言葉で、セレスも驚く。

「そんなもの持ってるなんて! これは幼馴染みとして没収しなくてはっ!」

「何? それを奪って見るつもり? 随分と興味津々だね?」

「うっ……そんなこと言うってことは、ホントに持ってるんだ?」
 まさかそんなことを言われるとは思わず、動揺するが、頑張って抵抗し続ける。

 ……そういうフリをした。

 まぁ、動揺も、抵抗も嘘ではないから、シンでもこれがわざとだと見破るのは難しいだろう。

「持ってて何か悪いことある? それに持ってたとしてなんでレイが怒るの? この年の男子が持ってちゃダメなの?」

 この言葉で、予想が、確信に変わった。

 シンは、私を追い出そうとしている。

 こんなことするなんて、悲しいけど、何か理由があるんだろう。

 そうしなければならない理由が。

 残念ながらその理由は分からないが、シンなら、きっと説明してくれる。

「うっ……うぅ~~~!!!」

 そう信じているから、シンの思惑通り、部屋から出た。

 ……待ってるよ。

 その時まで。

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