イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第48話 国王からの呼び出し

 俺とレイの追いかけっこは、レイが先に体力が尽きたので休戦ということになった。

 いや、普通、俺の勝ちで終わりじゃね?

 まぁ、レイだからしょうがないか。

「ほら、そろそろ別荘戻ろうよ」
「うん……結局見つけられなったね」

 なんか、浮かない表情をしてると思ったら、隠し通路的存在を見つけられなかったことに、残念がってただけか。

 良かった。少なくとも、さっきよりは楽になったみたいだ。

 別荘に戻ると、もうみんな集まっていて、俺達が一番最後らしい。

「シン、なんか収穫あった?」
 戻ったら最初に、マギアスが話しかけてきた。

「いや、なかったよ。そっちは?」
「こっちもなかったよ。先輩達の班も何もなかったって」
「そっかぁ……」

 ちょっと残念だな。

 でも、普通に考えてみれば、そりゃそうなんだよな。
 だってアストリア家がしっかり調べて何も掴めなかったのに、俺達がそんな簡単に何か分かるわけもない。

 分かってたけど、残念なんだよ!

 その夜、みんなでセレスと先輩達の作ったご飯を、いつものように食べながら、今日の出来事を情報交換した。

 俺達が話したことは、みんなに気を遣わせるのも嫌なので、レイが何度もこけたとか、レイがお腹ぐーぐー鳴らしてたとか、レイが迷いかけたとか、真実味のある嘘をついて誤魔化した。

 レイにはものすごく否定された。
 おかしいな……?

 ―――――――――

「はぁ……アルスベリアでの合宿もあっという間だったね」
 残念そうにベッドに寝転がっているレイが言う。

 最終日くらい、いつものように桜の会を開こうとなったのだ。

「学園対抗戦って、まず2週間くらい使って国内予選やるんだよね?」

 俺達がこの約2週間、頑張ってきた目的の『学園対抗戦』について、自分の知識をセレスとおさらいする。

「はい。と、言っても、この国では、ソルセルリーが一番の難関、強豪とされているので、ソルセルリーはシードとされ、実際に国内予選で戦うのは決勝に進んだ一つの学園とのみです」

「え、じゃあ一回勝てば本戦に進めるってこと?」
「そゆことになる!」

 片手をピンと上げて肯定するセレス。

 小さい子みたい。

「なんかズルみたいだな」
「それだけの実績と歴史があるから。私達の学園は」

 ま、シードの理由なんてそんなもんか。

「それで、本戦では6ヶ国から一学園ずつ代表としてやるんだっけ」
「そだよ!」

「そういえば、まだこの国以外の国について知らないな。今教えてくれる?」

「いいよ! この大陸には国が6個あるの!」

 さっきも6ヶ国って言ってたしな。

「まずはこのサンクテュエール王国ね」
 そりゃあこの国は流石に分かるよ。

「次に、アギュオス帝国。貴族制度が最も厳しい国で、完全に皇帝が主権を握ってます!」
 わー……なんか悪印象。

「で、フォラリア共和国。国民が自由に行動出来る、というか、制限があまりない国!」
 おー自由国。

「更にレギオス帝国。皇帝、貴族制度はあるけど、言う程厳しくはないの。でね、軍事力がこの国の次に高い国!」
 この国の軍事力、やっぱこの世界でもすごいんだ。

「それにギラスレイト公国。いくつかの貴族が支柱となってる国で、魔法技術の平均が世界的に見ても高いの!」
 ほう。

「そして最後に、カール公国。そこは、資源が豊富な国なの!」
 なるほどなるほど。

 てかセレス、テンション高いな。

「ふあ~……」
 そんな時、レイが可愛らしいあくびを繰り出した。

 ありゃ、もうおねむですか。

「じゃあ、もう眠くなったみたいだし、ここでお開きにしよっか。セレスも、教えてくれてありがとね」
「はーい」

 ―――――――――

「あうぅぅぅ…………」
 昨日の元気なセレスとは違い、気力のないセレス。

 ほんとに、乗り物に弱いんだなぁ。

「先輩、またセレス寝かしてきますね」
「あ、うん。ごめんね」
「大丈夫ですよ」

 今回は、レイが手伝うとは言ってこなかった。
 前ので俺が一人で出来るのを、ちゃんと分かってくれたか。よかったよかった。

 前と同じように、お姫様抱っこをしてセレスを寝かしに行く。
 今回は嫌がらなかった。よかった。仲が深まったのかな?

 でも、また顔は赤かった。

 セレスをベッドに寝かせると、忍冬《すいかずら》と冬青《そよご》が話しかけてきた。

【殿! 僕達が王女のこと見守ってるから外行ってていいよ!】
「あ、そう……?」

 セレスはそれで大丈夫かな?

 俺は心配で、セレスのことを見る。
「大丈夫ですから……私のことは気にしないでください」

 そう……かなぁ……。

 あ、でも女性は弱ってるとこを他人に見せたくないとも言うし……それなら俺はいない方がいいのか?

【ほらほら、殿は自由にしてていいから】
 忍冬《すいかずら》に足を押され、強制的に部屋から追い出された。

「えぇ……にしても、俺が殿でレイが姫。んでセレスが王女か……」
 なんかややこしいな。

 俺は風に当たろうかなと思い、潮風が感じられる外に出る。

「ふぅ」
 なんか……色々と疲れる合宿だったな。

 ディザイアのこと、忍冬《すいかずら》達のこと、三色の海、鬼特訓と、波乱の強化合宿だった。

 ―――――――――

 船で大陸に戻り、合宿で疲れただろうから今日はそれぞれゆっくりする。ということになった。

「……」
「ん、どしたの? シン」

 浮かない表情をしていると、レイがどうしたのかと話しかけてくる。

「いや、なんか……空気がおかしくない? あと、肌にも違和感あるし……」
「んー? そんなピリピリしたりしてるようには見えないけど?」

 不思議そうにレイが言うが、そういうことじゃないんだよな。

「違う違う。その空気じゃなくて、酸素とかの空気のこと」
「あぁ、そっち? ……確かに、なんか変……っていうか、嫌な感じ」
「でしょ?」

 一体、この感じはなんだ?

「もしかして2人とも、空気に違和感を覚えてます?」
 さっきまで、シェル先輩と操縦士さんにお礼をしていたセレスが、いつの間にかこっちに来ていて、空気に違和感を覚えているかと、鋭いことを聞いてきた。

「え、なんで分かったの?」

「実は、アルスベリア島から大陸に戻った時、全員の方がそう感じるそうです」
「え、なんで……?」

「アルスベリア島にいる時は皆さん気付かないんですが、あっちの空気が良すぎて、こっちに戻ると空気が気持ち悪く感じるんです」
「え、この国も空気キレイだと思ったんだけどな」

 ここも空気おいしいよ? 最初来た時感心したもん。

「それだけ、アルスベリア島がすごいということです」

 そんな、少し驚きなことが発覚したが、久しぶりの自分の部屋に軽い懐かしみを感じながら、ゆっくりと眠りについた。

 眠りにつき、その次に意識が戻った時、俺は猛烈な痛みと一緒だった。
「……ごほっ!!」

 一体何だと、閉じそうな瞼を必死に開けながら状況確認しようとする。

「シン、大丈夫!?」
「う、うん……」

 レイが俺の安全確認をしてくる。
 レイがこんなにも心配してくるなんて、俺、今そんなヤバい状況なの?

 視界が冴えた俺は、近くにレイがいるという情報を手に入れる。

 レイが、俺の腹部辺りに乗ってる……?

 って、なんだそういうことかよ……。

「今の痛みの原因、レイだよね?」
「うん、そーだよ」

 まるで当たり前でしょ? とでも言うように答えるレイ。

 こいつっ……。

 俺の上にレイが乗ってる。そして、俺はさっき猛烈な痛みを感じた。
 それらのことから導き出される結論は、『レイが俺にのしかかってきた』というものだろう。

「で、なんでレイはわざわざ俺を痛めつけた?」
「あれ、まず叱ってくるかと思ってたのに」
 なぜこんなことをしたのか聞くと、心外そうな顔をしてきた。

「今日はなんか気分が乗らないんだよ……。それに叱られると思ってたんならやるな」

「シンをいじるのはやめられないからさ。でも、今日はそういう日なんだ。久しぶりだね」

「レイ、どういう意味ですか?」

 俺達の会話の意味が分からなかったのか、セレスが意味を聞いてくる。

「あぁ、シンね。こう見えてかなりの気分屋なの。だからたまに、テンションがすごく高い日だったり、すごくクールな日だったりがあるんだよ。全然喋らない日だったりね」

「そうなんですか」

「まぁ大体は普通のシンなんだけどね。こういうのになるのは極稀だよ……今日のシンは、やる気のないシンかな?」
「んだよーやる気満々だぞー……」
「あ、絡みがめんどくさいシンでもあった」
「んだよー、めんどくさくないぞー」

「確かに今日のシンはおかしいですね」
 何がおかしいんじゃこら!

「ほら、もう学園行くよ」
 レイが小さい子をしつけるように俺に言う。

 ―――――――――

 学園に行くと、みんなからアルスベリア島のことについてものすごく聞かれた。

 中にはシェル先輩の水着とかけしからんことをいっぱい聞いてきたのもいたが。……ロイドがね。

 その質問に俺は気分がおかしいので全く答えず、他のメンバーがほぼ答えていた。

 忍冬《すいかずら》と冬青《そよご》のことは、驚かれるのも面倒なのでペットだと言っておいた。

 そして、その日の学園もあと少しで終わる時、ある知らせを受けた。

 『——王が、俺とレイとセレスを呼んでいる』という知らせを。

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