イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第36話 かくれんぼしたくなってきた

 レイとセレスも生徒会に入ることに異論はないみたいだし、早く先輩に報告しとこう。

「多分生徒会室にいるよな」

 ドアの前で2回ほどノックする。

「はーい」
「失礼します」
 中から返事が聞こえたので入る。

「あ、シン君。どうしたの?」
「レイとセレスのことなんですけど、おっけーでした」

「おぉー」
「ちゃんと先輩とも普通に接することも了承してくれました」
 一応だが。

「じゃ、推薦状推薦状っと」
 棚から何か書類を探している。

「あ、これだ」
 その書類を3枚出し、俺に渡してくる。

「この署名欄に名前書いてね」
「あ、はい」
 シン サクライっと。

「ほいほい。あ、そうだ。君達が転移者なのはリアも知ってるよ」
 え? なぜ?

「なんせ最初に君達に疑問を持ったのはリアだからね!」
 まるで自分のことのように胸を張る先輩。

「そうなんですか。それで、これを3枚渡したってことは、2人にも署名させて来いってことですよね」
「あ、うん。そうだよ……あーでもいいや」

 俺は意味が分からず首を傾げる。

「この部屋を案内したいし今ここに2人とも連れてきてよ」
「え、でもまだ学園長がおっけーするか分かりませんよ?」
「だいじょーぶだよだいじょぶ。どうせされるから」

「そ、そうですか……じゃあ、連れてきますね」
「はーい」
「いってらっしゃいだしー」

 ―――――――――

「連れてきましたー」
「入ってー」
「失礼しまーす」
 あれ、俺なんかリラックスしてるな。

「失礼します」
 嫌そうな表情のレイ。

「失礼します」
 あまり顔に出ていないが雰囲気で嫌なことが分かってしまうセレス。

「ほら、普通に接して」
「レイちゃん、セレス様。あの時はごめんなさい。どうか許してください」

 先輩も謝らない訳にはいかないと踏んだのだろう。

「……まぁ、今回は許しますけど」
「ありがとう」

 ふぅ、これでいざこざもなくなるかな。

「えっと、あの先輩は?」
 2人はリア先輩を見るのが初めてだからだろう。誰か聞いてきた。

「副会長を務めてるサラリア=フォン=リッドリース先輩だよ」
「そうだし! 気軽にリアって呼んでね」

「はい。私はレイです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。それと、御二方共私には呼び捨てタメ口で構いません。少なくとも今は先輩後輩の間柄ですから」

「そ、そうし? ならそうさせてもらうし。セレス」
「分かったよ」

「ちなみに、リア先輩も俺達が転移者だってことを知ってる」
「え? ちょっとシン、バレすぎじゃない?」

「俺もそれは思ったけどさ……てか、俺に言われても……」

「じゃあまずこれにサインしてね」
 俺達が話していて話が進まなかったから、とりあえずは必要なことを先に済ませようとしてくれたのだろう。

 迷惑かけちゃったかな。

 俺と同じように2人も書類にサインする。

「よし。じゃ、この生徒会室を案内しようか!」
「って言っても、こことそこのドアの奥の部屋しかないんじゃないですか?」

「ふふふふ。そう思うでしょう? まぁ、着いてきてって」
 隠し部屋でもあんのかな?

「まずここは雑談したりたまにお仕事したりのまぁ家のリビングみたいな場所だね」
 仕事がたまにでいいのか?

「で、こっちの奥の部屋が、資料がいっぱいある資料室」
 わぁ。いかにもって感じの資料室だ。刑事ドラマでよく出る資料室そのまんまだ。

「それで、この部屋の奥のここね」
 そう言って奥の方に進む先輩。ここは行き止まりだけど?

「この資料オブジェクトをこうやって3回押すと……」
 先輩がダンボールの中に手を入れ、3回ポチポチするとガチャンという音が響いた。

「はい、これでここの鍵が開きました!」
 そう言って床を指さす。

 そこには普通の床から取っ手が1つ出ていた。

「隠し部屋?」
「正解!」

 先輩は取っ手を掴み、上に引き上げる。

 そこには階段があり、それを進むと広い空間に出た。

「ここは生徒会の中でも限られた人しか知らない場所だよ!」
 ……ん?

「え? そんな場所を普通に見せていいんですか?」
「大丈夫だよ。学園長に反乱されることはないって言われたし」
「え、なんでですか?」

「よく分からないよ。でも学園長の勘? みたいなものはよく当たるみたいだから」
 謎だな。

「でも、あの人の予感? みたいなものはよく当たるみたいだから」
 ほぉー。

「それで、ここにあるのはこの世界の最重要資料だよ」
「…………はぁ?」
 いけないいけない。素っ頓狂な声が出てしまった。

「なんでこの学園にそんなものが?」
「それは私も知らないよ。ただこの学園は少し特別だから、って学園長に聞いたよ」

「セレス、なんか知ってる?」
「いえ、どろぼ……シャムル先輩と同じことしか知りません」

 ……今泥棒猫って言おうとしたな。

「私もー」
「そりゃそうだろ。レイが知ってたら怖いわ」

 あれ、そういえば生徒会室って3階だったよな? なのになんで下に下がったら2階じゃなくてこんな場所に繋がってるんだ?

 まぁ、よく分からんしいいや。すごい気になるけど。

「ってあれ?」
 まだおかしいところがあるぞ?

「どしたし? シン君」
「いや……そんな機密事項しかないこんな所を俺達に見せていいんですか?」

「あぁ。学園長に言われたんだ。シン君達のしたいことにはできる限り協力してあげてって。だから大丈夫だよ」

「……学園長が?」
「シン、何か心当たりある?」
「いや、全くない」
「私も何も知りません」

 なんで学園長が?

「じゃ、もう1つ。最後の部屋を案内しようか」
 そして来たのは最初の部屋。

「ここに最後の部屋が?」
「うん。ほら、ここ」
 先輩が指さしたのはただの棚。

「この棚を開いて、ここに石があるでしょ」
 そこには浮いている石があった。転移碑か?

「この転移碑の先には各生徒会役員の部屋があるんだ。この王国でそこに繋がってるのはこれだけ」
「部屋? なんでそんなものが?」

「ほら、忙しい時とか1人になりたい時とか、家に帰れない事情がある時とか。そういう時に自由に使っていいんだよ」

「なるほど」
「3人も生徒会役員になったら自分の部屋ができるよ」

 ここ、かくれんぼに最適な場所だな。

「まぁこれで全部だよ。私は学園長にこれ提出してくるから自由にしてて」
「はーい」

 さて、何をしようか。

「……暇だね」
「暇だな」
「暇ですね」
「暇だし」

 シェル先輩が帰ってくるまでのその間、みんなぽけーとしながら待つのだった。

 ―――――――――

「おまたせー」
 先輩が帰ってきた。

「ちゃんと提出したし?」
「したよ! 私のことなんだと思ってるの!」
「おっちょこちょいのかわい子ちゃんだし?」
「……」

「まぁまぁ。落ち着いて」

「……うん。あ、それでね、さっき提出したら2つ返事でおっけーしてもらってハンコ押してもらったよ」
 ……2つ返事でいいのか?

「だから多分もう部屋も出来てるよ」
「もう!?」

「多分できてるんじゃないかな? ……あ、ほら、出来てるよ」
 そう言って先輩が見ているのは1枚の転移碑の横に置いてある紙だ。

「えっと、1番、シャムル=フォン=アストリア。2番、サラリア=フォン=リッドリース。3番、クレイ=バスタード。4番、シン=サクライ。5番、レイ=コウサキ。6番、セレス=フォン=サンクテュエール」
 ……ほんとにできてる。てか、王女様最後でいいのか?

「これ生徒会に入った順番になってるから」
 あ、だからか。

「ちなみにこれ生徒会役員以外には見えないようになってるから安心してね」
 どういう仕組み?

 まぁとりあえず入ってみるか。

「これどうやったら入れるんですか?」
「自分の番号を思い浮かべればいいんだし」

 4番……。

 そう念じながら転移碑に触る。

 次に目を開けると、王城の部屋並みにきれいな部屋にいた。

「うお、シャワーもあるじゃん。こりゃここに住めるな」

 そのすぐ後、インターホンのようなものが鳴り、人の姿が映った。
「え、なんでここインターホンあるの?」

 恐る恐る見てみると、シェル先輩の姿が映っていた。

「……?」
 俺は困惑しかできない。

 【シン君、とりあえず入れてくれないかな?】
 それはいいですけど、どうやって?

 【プラスボタンとマイナスボタンがあるでしょ? そのプラスボタンを押して】

 ポチッとな。

 すると、玄関のような場所にシェル先輩が現れた。

「えっと、他の部屋にも入れるんですか?」
「うん。その住人がおっけーしてくれたらね」

「でも、ここで2人で会ってたらまたレイ達に怒られるんじゃ……」

「大丈夫。出る時にどこから出て来たなんて分からないし、他の部屋に入れることを知ってるのは今は私とシン君とリアだけだから」

「いや、まず会うことがまずいんじゃ……」
 先輩はおもむろにオルゴールのようなものを取り出し、それを起動する。

 その場に音楽が流れる。

「別に2人で会ってても何もまずいことないよね。だいじょぶだいじょぶ」
「そうですね」

「じゃ、お話しよ」
「分かりました」

 先輩はベッドに座る。
 そして自分の隣を軽く叩く。ここに座れという意味だろう。

 俺は逆らわずに座る。

 !? 何故か今、こんなことが前にもあり、レイ達の恐怖を感じてしまった。

 どうしてだ? ……まぁいっか。気の所為だろう。

 実は、先のオルゴールのようなものは魔道具で、相手が人の言葉を受け入れやすくなるという代物だった。そして、その言葉を受け入れるにあたっての邪魔な記憶や感情を一時的に消すという代物だったのだ。

 今も音楽は流れている。

「こんなことしてたら怒られちゃうかもね」
「ですね」
 クスクスと笑い合いながら話す。

「これ、不倫みたいだね?」
「そうですね」
 俺が普通の状態だったなら、この音楽が流れていなかったなら、この時既に距離を置いただろう。

 でも、今の俺にはそんなことは出来ない。

「ね、シン君。撫でて?」
 逆らわずに撫でる。

「なんでですか?」
「だってシン君の撫で方、気持ちいんだもん。安心できるの」
「そうですか」

 俺は優しく撫で続ける。

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