イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第34話 暗号解読!

 シェル先輩がキスをしながら自分の下半身に手を伸ばしているのが分かる。

 もう、俺は完全に逃れることが出来なくなっただろう。

 気持ちいいと感じていたが、今ではシェル先輩とそういうことがしたいと心から思ってしまっている。

 身体も、シェル先輩を求め始めている。

 そして、シェル先輩の右手があるところに到着した時、呟く。
 「リラックスして……私も初めてだから……」
 「はい……」

 今の俺には、そう答えることで精一杯だ。

 「ここかっ!!!」
 その大きな声とともに部屋の扉が開かれる。

 「レイ、手荒になってま……す……」
 その原因はレイ。そして隣にはセレスがいる。

 そのセレスも何かを見て次第に言葉を発せなくなる。

 そりゃあそうだ。

 何せセレスとレイが今目撃しているのは、もう少しで唇がつく距離にいる俺とシェル先輩、そして俺の股間に手を伸ばしているシェル先輩の右手なのだから。

 しかも、ベッドの上で。

 「「……」」
 2人は何も喋らない。

 「……はっ!」
 だが2人が部屋の扉を開けたことで、シェル先輩は正気に戻る。

 「あ……えと……これは……」
 シェル先輩はレイとセレスにではなく、俺に向かって必死に説明しようとしている。

 「あの、先輩? 俺はもう気にしませんので、まずあの2人をどうにかした方が……」
 このまま放置しておくとものすごくやな予感がする。

 「え……? あ!」
 2人のことに気付いていなかったようだ。いや、扉が開かれたんだから気付くだろうよ。こういうところおっちょこちょいって言うのか?

 「えっと、セレス様、なんでここに?」
 あ、そういえばセレス王女様だったな。最近そんなこと忘れつつある。

 「まずあなたは今シンと何をしようとしていたんですか?」
 セレス……怖いよ。笑ってるのに怖いよ! 目が全く笑ってないよ!

 「そ、それは……」
 「あ、あのさ? まず俺達の経緯を話すから、レイ達もなんでここに来たのか教えて?」
 このままじゃ危険である。

 「……まぁいいけど」
 よし。でも、来てくれて助かったっちゃ助かったよ。

 ―――――――――

 俺はさっきの出来事を2人に話した。

 「へぇ。シンはシャムル先輩の頭を撫で、可愛いと言い、抱きしめたんですか?」
 「いや、抱きしめては……」

 「顔が胸に埋まったということはそういうことですよね?」
 「まぁ、確かに……」

 「シンの女たらし」
 ひどい! そんな不名誉な称号欲しくないよ!

 「ごめんなさい……」
 俺は謝ることしか出来ない。

 「え、えっと、2人がここに来た経緯は?」
 「あぁ、帰る時シンが用事あるからって言ったでしょ」

 「言いました」
 「それでシャムル先輩が絡んでると推理した」
 探偵だ。

 「そしてやっぱり2人で会ってたから後をつけた」
 やっぱり探偵だ。

 「でもシャムル先輩に気付かれたみたいで撒かれた」
 あ、撒くために転移碑5回も使ったのか!

 「でも、セレスの力を使って先輩の家を調べてここに来た」
 権力の横暴だ。

 「と、そういう訳」
 「はぁ。それで、シェル先輩はなんで撒いたんですか?」
 「だってシン君と2人で話してみたかったんだもん」

 「な、ん、で、シンと2人で?」
 「そりゃあ知りたいことがあったからだよー」
 「知りたいこととは?」

 「なんだと思う?コウサキ レイちゃん?」
 あ、カマかけた。

 「そんなの分かりませんよ」
 あ、引っかかった。

 「レイ、今ので気付かなかった?」
 「え? 何が?」

 「シン。つまりはそういうこと、ですか?」
 お、セレスは気付いたようだ。

 「ちょ、どういうこと?」
 「だから、今先輩はなんて言った?」

 「え? なんだと思う? って」
 「その後は?」
 「えっと……コウサキ レイちゃんって…………え?」

 「そう、先輩は今カマかけたの」
 「え、でもなんで分かったの!?」

 「まずこの時期に入学すること自体おかしい。それとあなたもまぁまぁ実力あるのに名前を全く聞いたことがない。これも少しだけど妙」

 「でも、この時期に入学したことなんてなんで知ってるんですか?」
 「そりゃ生徒会長やってたらそんな情報も入ってくるよ」
 ふふんとばかりに胸を張る先輩。

 ちょ、2人のさっきが先輩の胸部に……。

 「そうですか……それで、シンとの会話は終わりましたか?」
 「いえ、まだ終わってないよ?」
 「いつ終わりますか?」

 「6時くらいかな」
 ……あと3時間くらいあるよ。

 「だめです」
 「なんで? シン君の自由でしょ? なのになんであなたが決めるの? そういう関係でもあるまいし」
 「うっ……」

 「さ、シン君話そ?」
 「え……」
 これで従ったら2人にどんな仕打ちにされるか……。

 「しょうがないなぁ」

 【シン君、今聞こえてることに対して言葉を発さないで。ただ返事は心の中で思ってくれるだけでいいから】
 突然シェル先輩の声が頭に響く。

 ど、どういうことですか?
 【ただ魔法でシン君の心と私の心を繋げただけ】

 いや、それすごいことだから! 当たり前の事のように言わないでくれますか!?

 【まぁそれは置いといて】
 置いとくのか……。

 【単刀直入に言うよ。私は古い文献のおかげであなたの世界の言語を知ってる。それでシン君に伝えたいことがあるから、ちゃんと見てね。この2人には伝えないで】

 ……? 伝えない? まぁいいですけど、その言語だとレイも分かりますよ?

 【大丈夫、ちゃんと暗号にするから。シン君の記憶を覗いてよく使う暗号も見たから】

 は、はぁ。それで、その通りにしたらいいんですね?

 って! 勝手に人の記憶探るな!

 【常に注意してないシン君が悪い。とりあえずこの後お菓子渡すね。その底を2段式のものにしておくから1人になったら見てね】

 はぁ。分かりました。

 ってか注意してたら防げるのか?

 「……シン君と話しちゃだめ?」
 「だめです」

 「しょうがないなぁ。今日は諦めることにするよ」
 「それでいいです。でも今日も、諦めてください泥棒猫先輩」

 呼び方がひどいな!

 「じゃあ、お近づきの印にお菓子あげるよ! ちょっと待っててね」
 そう言って先輩は部屋を出てどこかに行った。
 何も聞こえなかったかのようにスルーしたな。

 「……ねぇシン?」
 「は、はい」

 「今日の桜の会、覚えててね?」
 「は、はい……」
 俺は悪くない! ……はずだ。

 しばらくすると先輩は戻ってきて、クッキーの入った箱をくれた。

 そして律儀にも門までお見送りしてくれる。

 「えっと、今日はありがとうございました」
 ペコッとお礼をする。

 「……あんなことされてありがとうございましたなんですね? 嬉しかったんですかへーそーですか」

 「あ、いや! そういうことじゃなくて!」
 「もう知りません」
 「私も!」
 2人はぷいっとあっちを向いてそのまま帰路に着いてしまった。

 「あ、ちよっと待ってって! ……先輩すみません、ありがとうございます」
 「ううん。いいのいいの。その代わり、ちゃんと暗号解いてね?」

 「分かりました」
 俺がよく使う暗号って言えばあれしかないしな。

 「じゃあ、またね。シン君」
 「はい、また」

 ―――――――――

 「それで、何か言い訳はある?」
 2人はソファに座り、俺は床で正座をしている。クッキーは机に置いてある。

 桜の会ってくつろぐものじゃなかったっけ? 俺全然くつろげてないよ? 俺の部屋なのに。

 「申し訳ありません」

 俺はこの後、短い時間だが体感ではものすごく長い時間怒られた。というより責められたか。

 「……はぁ。もういいけどさ。もうあんなことだめだよ」
 「はい」

 「よろしいです」
 「はい」

 「じゃ、食べよっか、このクッキー。一応私達全員がメンバーになれたことを祝って」
 「ですね」

 ―――――――――

 一通り楽しみ、2人が部屋に戻ったあと、俺はクッキーの箱を調べる。

 「えっと、2段式になってるって言ってたから……」
 そこをいじっているともう1つの底が見えた。そこには1枚の手紙もある。

 「あった。これか」

 その内容は

 「B1。B4-5、A4-4、3-3、1-3、2-2、5-1、1-3、3-5、7-4、3-4、8-3、9-4、6-3、6-1、4-2、3-3、1-2、か」

 まず、何の何ってある中の最初の数字は子音を示している。

 あ行は1、か行は2のように。

 そして後の数字は母音を示している。

 これを合わせると、1-3だったら、う、だ。

 そしてAはそのままの音、Bは濁点、Cは半濁点だ。

 これを当てはめて読むと、
 「どてすうきなうそむせゆれふはちすい」

 で、この後これを逆にして
 「いすちはふれゆせむそうなきうすてど」

 最後に、B1って書いてあったからこれら全てを1文字前にずらすと完成のはず。

 B1ってのはビフォーワン、1つ前にするってこと。
 後だったらアフターだからAになる。

 「あしたのひるやすみせいとかいしつで。明日の昼休み生徒会室で、か」

 これ解くのめんどいからあの時言ってくれれば良かったのに。あ、俺がこれを間違って漏らさないようにってことか?

 それだったら納得だ。

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