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カオルの邂逅旅記

しろたんたんめん

復活の儀式

 カオルは電車に乗っている。少し緊張した面持ちだった。

 いま、問題の○○駅に停車をして、この前と同じように乗り換えをしようとしている。
 
 電車の扉が開き、カオルは人混みに飲まれながら、反対側に停車しえいる電車に到着した。相変わらず、人にぶつかりながら、皆必死で乗ろうとしている人だらけだった。その中で、 カオルは必死で人を掻き分けながら、無事乗ることができた。ものの数秒で無事乗ることができた。昨日はなかなかたどり着くことができなかったけど、あの距離感は一体なんだったんだろう……。

 そうして、カオルは反対側の電車にぎゅうぎゅうにつめながら、何とか電車の背もたれに捕まり、しばらくの間揺れに耐え続けた。

 席はいつも通り、快速行きの電車だ。この前みたいに、見慣れないデザインにはなっていない。窓の景色もいたっていつも通りだ。

 まぁ、さすがに同じことはそう何度も起こりはしないよな。

 カオルはほっとしながら、少し緊張していた自分が少し恥ずかしくも、笑えるような気がしてきた。

 そして、いつもの通り、会社に無事たどり着いた。カオルは真っ先に上司やチーフ野本に行き、会社に断りもせず休んでしまったことを謝った。

 上司から勝手に連絡もいれず休んだのだから、もっと、怒られたり、軽蔑されるかかなと思ったが、そうでもなかった。

 「きっと疲れがたまっていたのね……」という風に、特にこちらがわが理由を聞かなくてもそういう風に解釈してくれた。
 
 なぜ休んだのか、いざ聞かれたときに、なんていえばいいのか、カオルはうまく考えることができていなかったので、ここでまたほっとすることができた。

 そして、カオルはいつもの自分の席に戻った。すると机の上に見慣れないフィギュアがおかれてあることに気づいた。

 真っ黒いスーツに真っ黒い髪型をしている。凛々しい男性のような女性にするどい刀のような腕を広げている。なんだろうこれ……。

 するとはなさんがカオルの席に近づいてきた。長い茶色いロングの髪の毛が素敵に揺れている。
 
 しかし、表情が少し沈んでおり、申し訳なさそうなそんな表情をいていた。

 カオルははっとして、はなさんの方に向き直った。

 「橘さん……。」

 「はなさん」

 「あお、お体大丈夫でしたか?」

 「いや、こちらこそ急に休んでごめんなさい……。すごい迷惑をかけちゃったよね」

 「いえ、私は特に大丈夫でしたし……」

 「そう?本当?よかった……。」

 「あの、カオルさんそれと、私謝りたいことがあって」

 はなさんはそういい、申し訳無さそうに顔を近づけた。

 「橘せんぱい、私、この前は失礼なことをいってしまったなって……」

 「うん?いいよ全然」

 「えっ……?」

 「僕の方こそ、ごめん最近なんか元気なかったし、覇気がなかったよね」

 「え、いや、そんなことはないですけど……。いや、私のほうこそ……」

 「はなさん、そんなことより、ずっと前から思っていたんだけど、はなさんの髪の毛すごくさらさらしていてきれいだね」

 カオルはそういいにっこりと笑いかけた。それははなさんと話をしていて、カオル自身がいつも常にいだいていた感情だった。
 
 そういううちにカオルは、まるで自分自身の体がまるで数キロ軽くなったような感じだった。

 「あ、ありがとうございます……」

 はなさんは照れたようなビックリしたような表情をしている。

 「このフィギュアなに?」

 カオルはいってから何をいっているんだと、少し冷静になり、気をまぎらわすためカオルは机の上にある見慣れない人形を指し的いた。

 「あ……これですか?これなんですけど、取引先の社員さんがデザインしたフィギュアなんですって。」

はなさんはフィギュアの方を見ていった。

「」今度うちの会社と提携するアニメの大ファンみたいで……。今度そのフィギュアをコラボするとかって試作にフィギュアをつくってもらったみたいなの」

 「ふーん……、あ、それ知ってる。でも、こんなキャラいたっけ?」

 カオルもそのアニメは少し見たことがあっ
たので知っていたが、絵柄は似ているけど、確かこんなキャラクターはいなかったはずだ。まるで男性のように凛々しい目元だが、体は細く曲線美が少し見える。全身真っ黒いデザインに衣装を包んでおり、髪は少し赤黒かった。

 「あ、いや、こちらはそのお得意先の方が作られたものです。技術がどんなものなのか試しに送られたみたいですね。そのひとつのパターンがこれみたいです。」

「ふーん……。」

 「なんだか、先輩、変わりましたね」

 「え?何が?」

  カオルはびっくりして尋ねた。

 「なんだか、空気が明るいです」

 「そう……?……、ありがとう……」


 カオルは少し照れながら笑った。

 カオルは以前疲れていた時とは全く違う面もちで、はなさんと話すことができるようになっていた。
 
 なんでだろう……?

 ただ、自分自身心の奥底でなにか常に力をいれていたものが、少し消えて軽くなったような、なにか代わりにあたたかいもので満たされているようなそんな気がしていた。

 仕事に取りかかるためパソコンを開けながら、カオルは思った。

 確かに、僕は人とは少し感性を持っているような気がする。周りと一緒だと嫌だってすごく思うし、普通人がしないような格好が昔から好きだ。人に合わせたり、人と付き合うのもそんなに得意じゃないし……。

 実の親も育ての親もいない。その時点で周りが気を使ってくれたこともあった。でも、それはカオルにとってはすごく嫌なことだったりした。なぜなら、気づいてしまうから。

カオルは昔から、 些細なことで、イライラしたり、気になったりしてしまうような性格だ。カオルはそういう自分の性格が好きじゃなかった。それで人一倍傷つきやすかったり、繊細だったりするから、それだけ生きづらいんじゃないかと思っていたから。

 でも今、カオルはふと、あの時の母親の言葉を思い出す。

『カオル、たとえ辛いことがあったとしても自分の感覚を閉じてしまうようなことはしないで。あなただけの目で世界を見つめてね』

……。

 もう自分の気持ちを殺すようなことをするのは止めよう。あの電車の旅を通して思ったのはそこだ。

 自分の過去ってそうそう肯定することができないものばっかりだけど、どの道もどのシーンも、カオルにとってはどれも愛らしく、まるで美しさそのものが生き物として体現しているかのような、どれも本当に美しかった。

 カオルは手を止めて、そのフィギュアを見つめた。

 制作者は誰だろう。そして、どんな性格でどんな雰囲気なんだろう。……顔も見たことがないけど。

 でも、きっとこれは、その人が見てきた美しい記憶と景色の積み重ねで作り上げられているんじゃないのかな。

 細く凛々しく美しく立ち続けているその姿に、カオルは優しく微笑みかけた。
 
 

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