カオルの邂逅旅記
気づいたこと
カオルはただただ、真っ黒なトンネルの中を延々走り続ける電車の音を聞いていた。
  カオルは、この不思議な電車に乗り続け、自分の人生を振り返りながら、胸の中にぽっかりとした穴がまるで空いているような、虚無感を感じていた。
 高校生の時の自分のあの蒼白な表情……。
まさか、あんなにも追い詰められたような表情をしていたなんて。
 当時の自分では全く気づくことができなかった。
 
そして、そうだ、自分はあの時、本当に悲しかったし、打ちのめされていた。
 そこに気づいたとき、カオル自身の胸が痛むのを感じた。
 トンネルを通る音はだんだん激しくなっていく。
 そうだ、自分は悲しんでいたのだ。
 それはなぜか?
高校生とはいえまだ子供だった。そりゃもちろん悲しいだろう。
 じゃぁ、なぜこんな大人になった今、喪失感にさいなまれているのだろうか。
 それは、自分で自分自身を感じている以上に、悲しみを感じていたからだった。でも、それを感じすぎてはいけないということに、当時の自分は重々承知していたからだと思う。
 悲しんでばかりいたら、一人では生きていけなくなってしまうから。
 「……。」
土橋くんはいった。過去を遡ることは決して自分を責めるために行うわけじゃない。
 カオルは目を閉じ、まるで重い腰をあげるようにして、自分の過去を振り返った。
 
 カオルの本当の母親は、カオルを産んだのと同時に、亡くなってしまった。
 カオルの父親は、カオルを産む前までの間まで付き合っていたのだが、まもなくして別れてしまった。理由は知らない。
 ……知りたくもないし……。
 そんな出来事があったという情報を頼りにして、生きていくような、そんな大人にはなりたくなかった。
 カオルの母親が死んだ後、未熟児として生まれたカオルはしばらく病院で過ごした後、今の育ての親が引き取ってくれたのだ。
 その母親はカオルにとって本当の親のように育ててくれた。カオルはその人のことが大好きだった。当たり前のように親として正しく育ててくれたし、カオルはそれにたいして寂しさを感じたことはなかった。
 カオルはお母さんが、自分の本当の母親でないことは、物心ついた頃から知っていた。いつ、どこでこのお母さんが自分の本当の母親でないということを知ったのか、覚えていなかった。
 それは幼い時から、カオルにとって当たり前の常識だった。いつはじめて知ったのか、はっきりとは覚えてはいなかったというのは、きっと、育ての親がカオルを育てるにあたって、本当のことを包み隠さず話すべきだと考えて、大事なこととして、常にカオルに言い聞かせていたのだろう。
 カオルにとっては、その事実と言うのは当たり前のようにカオルの中の胸の中に固まって沈んでいた。
 カオルは目を開けた。
 かといって、じゃぁ自分が具体的に愛情に餓えていたとか、金銭的に困った経験があるとか、決してそういうことではない。
 育ての親はカオルにたいして本当の母親のように接してくれたのだ。
 しかし、その彼女はなくなってしまった。もうカオルのそばに戻ってくることはない。
 そうして、カオルは育ての母親を見送るために、全身真っ黒な服を着て立ちすくんでいた。決して着たくなかった黒色。息がつまるような黒。
  カオルは目をまた閉じた。
 目からは涙がこぼれ落ちた。
 なぜ?なぜいなくなってしまたのだろう。
 電車はまるでカオルを見守るかのように低い地響きのような音をならし続けている。
 土橋くんがいった。
 『決して自分を責めるわけではない』
 カオルはそもそも、悲しいとか、会いたいとか、そんなことを考えても会えるわけがないし、はなからそんなことを考えることはしなかった。
 なぜなら一人で生きていかないといけないからだ。
 カオルは目を開けた。
 涙がこぼれ落ち続けた。
「……。」
実際に泣き出すと、少し冷静になる自分がいた。 
この訳のわからない電車にのった当初と、それと今の自分自身とではまるで様子が違っている。
 まるで子供みたいだ……。
 カオルは目を閉じ、ゆっくりと電車の椅子の背にもたれた。
 なんだか、疲れた……。
 カオルはそのまま電車の音を静かに聞き続けた。段々と電車の音が全体的にぼんやりとしてきた。
……。
 手足の爪先がだんだんと冷たくなるのを感じた。目を閉じたまま、カオルは目の前が段々と白くなるのを感じた。
 ……? 気絶……?
カオルは一度電車のなかで気持ち悪くなって倒れたときのことを思い出した。
 景色が回り、気づけば床に寝転がっていた。あのときと同じような感覚だ。
カオルは寝ながら、人って失神するものなのか?思った。
 そのうち手足の感覚がなくなり、呼吸も浅くなった。
 カオルは呼吸をなんとか整えながら、ゆっくりと電車の音に、耳をすませ続けた。
 
 
 
  カオルは、この不思議な電車に乗り続け、自分の人生を振り返りながら、胸の中にぽっかりとした穴がまるで空いているような、虚無感を感じていた。
 高校生の時の自分のあの蒼白な表情……。
まさか、あんなにも追い詰められたような表情をしていたなんて。
 当時の自分では全く気づくことができなかった。
 
そして、そうだ、自分はあの時、本当に悲しかったし、打ちのめされていた。
 そこに気づいたとき、カオル自身の胸が痛むのを感じた。
 トンネルを通る音はだんだん激しくなっていく。
 そうだ、自分は悲しんでいたのだ。
 それはなぜか?
高校生とはいえまだ子供だった。そりゃもちろん悲しいだろう。
 じゃぁ、なぜこんな大人になった今、喪失感にさいなまれているのだろうか。
 それは、自分で自分自身を感じている以上に、悲しみを感じていたからだった。でも、それを感じすぎてはいけないということに、当時の自分は重々承知していたからだと思う。
 悲しんでばかりいたら、一人では生きていけなくなってしまうから。
 「……。」
土橋くんはいった。過去を遡ることは決して自分を責めるために行うわけじゃない。
 カオルは目を閉じ、まるで重い腰をあげるようにして、自分の過去を振り返った。
 
 カオルの本当の母親は、カオルを産んだのと同時に、亡くなってしまった。
 カオルの父親は、カオルを産む前までの間まで付き合っていたのだが、まもなくして別れてしまった。理由は知らない。
 ……知りたくもないし……。
 そんな出来事があったという情報を頼りにして、生きていくような、そんな大人にはなりたくなかった。
 カオルの母親が死んだ後、未熟児として生まれたカオルはしばらく病院で過ごした後、今の育ての親が引き取ってくれたのだ。
 その母親はカオルにとって本当の親のように育ててくれた。カオルはその人のことが大好きだった。当たり前のように親として正しく育ててくれたし、カオルはそれにたいして寂しさを感じたことはなかった。
 カオルはお母さんが、自分の本当の母親でないことは、物心ついた頃から知っていた。いつ、どこでこのお母さんが自分の本当の母親でないということを知ったのか、覚えていなかった。
 それは幼い時から、カオルにとって当たり前の常識だった。いつはじめて知ったのか、はっきりとは覚えてはいなかったというのは、きっと、育ての親がカオルを育てるにあたって、本当のことを包み隠さず話すべきだと考えて、大事なこととして、常にカオルに言い聞かせていたのだろう。
 カオルにとっては、その事実と言うのは当たり前のようにカオルの中の胸の中に固まって沈んでいた。
 カオルは目を開けた。
 かといって、じゃぁ自分が具体的に愛情に餓えていたとか、金銭的に困った経験があるとか、決してそういうことではない。
 育ての親はカオルにたいして本当の母親のように接してくれたのだ。
 しかし、その彼女はなくなってしまった。もうカオルのそばに戻ってくることはない。
 そうして、カオルは育ての母親を見送るために、全身真っ黒な服を着て立ちすくんでいた。決して着たくなかった黒色。息がつまるような黒。
  カオルは目をまた閉じた。
 目からは涙がこぼれ落ちた。
 なぜ?なぜいなくなってしまたのだろう。
 電車はまるでカオルを見守るかのように低い地響きのような音をならし続けている。
 土橋くんがいった。
 『決して自分を責めるわけではない』
 カオルはそもそも、悲しいとか、会いたいとか、そんなことを考えても会えるわけがないし、はなからそんなことを考えることはしなかった。
 なぜなら一人で生きていかないといけないからだ。
 カオルは目を開けた。
 涙がこぼれ落ち続けた。
「……。」
実際に泣き出すと、少し冷静になる自分がいた。 
この訳のわからない電車にのった当初と、それと今の自分自身とではまるで様子が違っている。
 まるで子供みたいだ……。
 カオルは目を閉じ、ゆっくりと電車の椅子の背にもたれた。
 なんだか、疲れた……。
 カオルはそのまま電車の音を静かに聞き続けた。段々と電車の音が全体的にぼんやりとしてきた。
……。
 手足の爪先がだんだんと冷たくなるのを感じた。目を閉じたまま、カオルは目の前が段々と白くなるのを感じた。
 ……? 気絶……?
カオルは一度電車のなかで気持ち悪くなって倒れたときのことを思い出した。
 景色が回り、気づけば床に寝転がっていた。あのときと同じような感覚だ。
カオルは寝ながら、人って失神するものなのか?思った。
 そのうち手足の感覚がなくなり、呼吸も浅くなった。
 カオルは呼吸をなんとか整えながら、ゆっくりと電車の音に、耳をすませ続けた。
 
 
 
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