カオルの邂逅旅記
きれつ
 
 しばらくクラスでは土橋くんの秘密基地が流行っていた。女子同士で華やかに可愛らしく作って、それを見せあったりしていた。
 男子なら、いかにも小学生が好んで作りそうな秘密基地を作っていたりしていた。
 皆、土橋くんが産み出した秘密基地ブームの波にのって、とても楽しそうにしていた。
 しかし、クラスの一部の男子からは反感をうけていた。そしてカオルは、それに薄々気付いていた。
ある日、クラスの少し不良の男子が、土橋くんが楽しそうに話している後ろで、わざと聞こえるような声でいった。
「秘密基地って……。」
 そう少しだけ呟き、他の数人のメンバーがクスクス笑っていた。その場にいるだけで、その笑い方がいかにも嫌みを含んでいるということは明らかに分かるような感じだった。
土橋くんはそこで、自らを批判するような空気感に、はっきりと気付いていたが、その時点では気にせず、他の生徒と話を続けた。
 それはその時で終わったが、それだけではなかった。
 次は、給食の時間におきた。先生がいつも生徒たちに、余ったおかずを配っていると、土橋くんがいつも勢いよく立候補をしていた。それはよくある光景だったが、その時、さっきの数人のグループの一人が、同じくおかずを貰おうとしていたところ、他のメンバー同士が目配せをして
「おい、譲ってやれよ~」
 といい、ニヤニヤとした笑いを浮かべていた。
土橋くんは、それに対して少し違和感を感じていたが特に気にするでもなく、給食を貰いなおしていた。
 カオルは、その姿をみて内心ヒヤヒヤしていたが、いたって動じない土橋くんを見て
すごいと関心しつつ、そりゃそうだよな……。どうじてやる必要なんてない、とも思っていた。実際カオル自身そんな風に思うだけでなにもない自分は本当に無責任だったけど……。
 土橋くんがあまり動じない様子をみて、面白くなかったのか、土橋くんにたいして遠回しな嫌みがだんだん増えていき、回数が増えるごとにそれは段々と直接的なものになっていった。
 土橋くんが朝教室に来ると、机の引き出しの中に、落ち葉がたくさんつまっていた。中庭の掃除をしたときに出てきているものがそのまま、突っ込んであった。
 土橋くんはそれに対して、慌てず騒がず、まるで鉛筆削りの中身を捨てているかように淡々とした動作で対処をしていた。
 周囲の生徒たちは口々に土橋くんのことを心配している風だった。でも、内心誰がやったのかどうか薄々気づいていたと思う。
 カオルはそれに対して、ただ遠くからぼんやりと傍観していただけだった。
カオルはそもそも、土橋くんの秘密基地はとても素敵だなと思っていた。実際作っていたわけではなかったけど。
 だけど、カオルは土橋くんと仲が良いのはあくまで塾でだった。教室での土橋くんはどこかカオルにとって他人みたいな距離感だった。
 このままのらりくらりと自分の中でおとしどころを見つけ、見てみないふりをしていた。しかし、ある時、カオルはどれ程自分が情けない考えをしていたのか、思い知る時が来た。
 ある日、もう2学期も半ばだんだん肌寒くなってきた頃、もう周りはほぼブレザーを着ている中、端っこの窓際の席でカオルはまだ上着を着ず、セーターだけで過ごしていた。
 肌寒い背中に秋の日差しがあたり、温もりを感じていた時、クラスでは文化祭の出し物を決める総合学習の時間になっていた。
 先生は不在で、生徒だけで出し物を決めるようになっていた。
 中々、自ら先陣をきって発表をする人が現れない状態が長引いていた。すると、土橋くんがおもむろに手をあげて発表した。
 案としては、秘密基地を作ったアプリを主とした案だった。参加した人に理想の秘密基地を校舎の屋上に作るのはどうかといった案だった。
 その瞬間、クラスの中に張り積めたような空気が流れるのを感じた。なぜなら、土橋くんの嫌がらせが増えてきた中、こういう表だった場面での発言を土橋くんもしなくなってきていたからだった。
 「秘密基地って……、お前ばかじゃないの?」
 不良グループのリーダー各の生徒がいった。
 クラスの空気が一気に固まるのを感じた。
「……。」
 はじめて直接的に土橋くんに非難の言葉が現れたと思った。
 「ふん……、確かに」
 そういって何人かの仲間が追随するようににやけた笑い声が聞こえてきた。
 「何?田舎の学校ではそんなの流行ってたの?」
「やばくね?野生児じゃねぇかよ……」
 「干し草集めてベッドとか作るんかよ」
 そういって嫌な笑い声が響いた。
 「なぁ、お前さ、うざいよ?ハブられてんだろ、空気よめよ」
そういって土橋くんに近づいていった。
 「田舎者の転校生は大体都会の空気に馴染めてないんだよ、いい加減気づけって」
そういい、急に周囲を見渡して言いはなった。
「秘密基地を是非作りたい奴いるの?手をあげてみ」
クラスの皆は気まずそうにして、誰も手をあげなかった。
 カオルは土橋くんの顔を見た。
 土橋くんはいつも通り冷静な表情をしていた。でも、内心怒りに溢れていることに気づいた。
 その瞬間、土橋くんと目が合った。
『あっ……』
 カオルはその瞬間、周囲の音が消えてなくなった。
 土橋くんは、はっきりとカオル両目を見つめていた。はっきりと土橋くんのあの茶色い目が強く美しくひかり、カオルの漆黒の目をとらえていた。
「……」
 カオルは目が離せなくなった。
 すると土橋くんは、自分をけなした相手に向き直り近づいてはっきりとこういった。
 「なんだよ、まともに言葉を話すことができる奴なんだ、遠回しに悟って欲しい言動ばっかり言う奴なんだと思ったよ」
土橋くんははっきりと相手の目を見ていった。
 「あ?!なんだよてめぇ、」
 「もっと早く聞きたかったよそういうの」
 土橋くんは食いぎみに発言しつつも非常に冷静な言い方だった。
 「なんだよてめっ……」
 「いいよ、僕のやっていることに賛成したいやつだけついてきたらいいし、ね」
そういい、土橋くんはカオルの方を見つめた。
「カオル、この前いっていた、塾の宿題だけど、教えてくれるのはいいからさ、一緒にやろうぜ?」
 カオルはその瞬間条件反射的に目をそらした。
 「え、何いってんの?」
 「えっ?お前ら一緒の塾いってんのかよ」
誰かがそう呟くのを聞いた瞬間、カオルはいた。
「いや、関係ないよおれ……」
そういった後、はっとしてカオルは土橋くんの方を向いた。
 「……」
 土橋くんはカオルを見ていた。すると、おもむろに教室を飛び出した。
 カオルは唖然としたまま、土橋くんが出ていくのを見たあと、カオルは急にはじかれたように椅子をけって教室をでて、土橋くんを追いかけた。
 なにも後先考えず、ただただ、土橋くんを追いかけた。
 廊下の冷たい空気が背中を伝いからだ全体を冷やしていた。
ビュンビュン耳の横を風をきる音が鳴り響いた。
 廊下の一番先に土橋くんが右に曲がるのが見えた。
 さすが土橋くん…足が早い……。
そんなことが頭によぎりつつ、階段を足がちぎれそうなくらい動かしてかけ降りていた。
喉がいたく、心臓がバクバクいっている……。
下駄箱の前で土橋くんが靴を履き替えようとしていた。カオルは土橋くんに近より、手を強く繋いだ。
「待って……」
すると土橋くんが振り向いた。
「……。」
「土橋くん……、おれ……。」
実際に土橋くんの顔を対面して、何をどういったらいいのか分からなくなってしまった。土橋くんは、いつも通りだった。さっきクラスでおこったことが、まるで何もなかったかのようだった。
 「あぁ、カオル、何かひさしぶりだよなぁ」
「えっ……?」
 
「話すの。」
「あぁ、まぁ……」
実際に話すのが少なくなっていたのかどうか……、頭が混乱してよくわからなくなっていた。
「あの、オレ、土橋くんが作ったアプリ、凄くいいと思うんだ、だからさっきのことは、その……」
「いや、いいんだよ、もう」
「え……?」
カオルは土橋くんの目を見た。
「いいんだよ、もう、分かってる。カオルって何かいつも一歩引いててさ、熱くなれるものとかって、そういうの共有できないタイプの人間なんだろ?」
そういいながらカオルを見る土橋くんの目が、段々と興味が無くなっていくかのようだった。目盛りで実際に計れるかのようだった。
「……。」
「俺、カオルとは親友になれるのかなと思ってたんだけどな。」
「……え……?」
「カオルって面白いやつだと思ったんだけどさぁ、何か底の底の方で、いつも重たいものをもっていて、それを必死に抱えてさ、それで周りからどう見られているか必死になって見てるよね」
それを聞いた途端、土橋くんの目に映る自分の色という色が抜けて、まるで真っ白い背景と同色になるかのようだった。
 「それでいてさ、色んな刺激にすごく弱いよね。あっというまに侵食されていく感じがするよね。他人との境界線があまりないっていうのかな」
 カオルを見つめる土橋くんは、もう以前おは全く別の人を見ているかのようだった。
「じゃ、オレもう行くよ。塾であった時はまたよろしく。」
そういい手を振って土橋くんは学校を出た。
「……。」
カオルはただただ、土橋くんの去っていく姿を見つめながら、立ちすくんでいた。
 土橋くんの言うことは、よく分からなかった。その通りだとも思ったし、そうじゃないとも思った。
 ただ、土橋くんの自分に対して、興味がなくなったということは紛れもない事実で、だから、土橋くんはもう自分に対して何とも思っていないし、さっきの教室でおきたことも、もう何とも思っていないのだと思う。
カオルはその後、教室に戻った。皆最初こそこちらの方を見て、こそこそ話をしていたり、ニヤニヤとした表情をみせたりしたが、質問されても、特に何もいわずだんまりをきめこんでいたら、すぐに皆興味を失ったみたいだった。
土橋くんは、そのあとクラスには来なくなった。でも、あの土橋くんのことだ。学校何かに来なくたって、なんてことないだろう。
その後、カオルは寒くなってもぎりぎりまでブレーザーを着ないようにしていたのをやめ、すぐに重たいブレーザーを着るようになった。長い髪をばっさりと切り、短くした。
鏡の前で自分の姿を見ると、まるで青白い顔が余計際立って死人みたいだと思った。
ガタン……、ガタン……。
電車の音が鳴り響く。
そして今、20歳を過ぎ、大人になったカオルは塾に向けての電車に、土橋くんと一緒に乗っている。土橋くんを見つめる幼き自分を見つめながら。
 そして中学生の頃の彼は、土橋くんの方を決して見ないようにして静かに出口を出ていった。
 
 しばらくクラスでは土橋くんの秘密基地が流行っていた。女子同士で華やかに可愛らしく作って、それを見せあったりしていた。
 男子なら、いかにも小学生が好んで作りそうな秘密基地を作っていたりしていた。
 皆、土橋くんが産み出した秘密基地ブームの波にのって、とても楽しそうにしていた。
 しかし、クラスの一部の男子からは反感をうけていた。そしてカオルは、それに薄々気付いていた。
ある日、クラスの少し不良の男子が、土橋くんが楽しそうに話している後ろで、わざと聞こえるような声でいった。
「秘密基地って……。」
 そう少しだけ呟き、他の数人のメンバーがクスクス笑っていた。その場にいるだけで、その笑い方がいかにも嫌みを含んでいるということは明らかに分かるような感じだった。
土橋くんはそこで、自らを批判するような空気感に、はっきりと気付いていたが、その時点では気にせず、他の生徒と話を続けた。
 それはその時で終わったが、それだけではなかった。
 次は、給食の時間におきた。先生がいつも生徒たちに、余ったおかずを配っていると、土橋くんがいつも勢いよく立候補をしていた。それはよくある光景だったが、その時、さっきの数人のグループの一人が、同じくおかずを貰おうとしていたところ、他のメンバー同士が目配せをして
「おい、譲ってやれよ~」
 といい、ニヤニヤとした笑いを浮かべていた。
土橋くんは、それに対して少し違和感を感じていたが特に気にするでもなく、給食を貰いなおしていた。
 カオルは、その姿をみて内心ヒヤヒヤしていたが、いたって動じない土橋くんを見て
すごいと関心しつつ、そりゃそうだよな……。どうじてやる必要なんてない、とも思っていた。実際カオル自身そんな風に思うだけでなにもない自分は本当に無責任だったけど……。
 土橋くんがあまり動じない様子をみて、面白くなかったのか、土橋くんにたいして遠回しな嫌みがだんだん増えていき、回数が増えるごとにそれは段々と直接的なものになっていった。
 土橋くんが朝教室に来ると、机の引き出しの中に、落ち葉がたくさんつまっていた。中庭の掃除をしたときに出てきているものがそのまま、突っ込んであった。
 土橋くんはそれに対して、慌てず騒がず、まるで鉛筆削りの中身を捨てているかように淡々とした動作で対処をしていた。
 周囲の生徒たちは口々に土橋くんのことを心配している風だった。でも、内心誰がやったのかどうか薄々気づいていたと思う。
 カオルはそれに対して、ただ遠くからぼんやりと傍観していただけだった。
カオルはそもそも、土橋くんの秘密基地はとても素敵だなと思っていた。実際作っていたわけではなかったけど。
 だけど、カオルは土橋くんと仲が良いのはあくまで塾でだった。教室での土橋くんはどこかカオルにとって他人みたいな距離感だった。
 このままのらりくらりと自分の中でおとしどころを見つけ、見てみないふりをしていた。しかし、ある時、カオルはどれ程自分が情けない考えをしていたのか、思い知る時が来た。
 ある日、もう2学期も半ばだんだん肌寒くなってきた頃、もう周りはほぼブレザーを着ている中、端っこの窓際の席でカオルはまだ上着を着ず、セーターだけで過ごしていた。
 肌寒い背中に秋の日差しがあたり、温もりを感じていた時、クラスでは文化祭の出し物を決める総合学習の時間になっていた。
 先生は不在で、生徒だけで出し物を決めるようになっていた。
 中々、自ら先陣をきって発表をする人が現れない状態が長引いていた。すると、土橋くんがおもむろに手をあげて発表した。
 案としては、秘密基地を作ったアプリを主とした案だった。参加した人に理想の秘密基地を校舎の屋上に作るのはどうかといった案だった。
 その瞬間、クラスの中に張り積めたような空気が流れるのを感じた。なぜなら、土橋くんの嫌がらせが増えてきた中、こういう表だった場面での発言を土橋くんもしなくなってきていたからだった。
 「秘密基地って……、お前ばかじゃないの?」
 不良グループのリーダー各の生徒がいった。
 クラスの空気が一気に固まるのを感じた。
「……。」
 はじめて直接的に土橋くんに非難の言葉が現れたと思った。
 「ふん……、確かに」
 そういって何人かの仲間が追随するようににやけた笑い声が聞こえてきた。
 「何?田舎の学校ではそんなの流行ってたの?」
「やばくね?野生児じゃねぇかよ……」
 「干し草集めてベッドとか作るんかよ」
 そういって嫌な笑い声が響いた。
 「なぁ、お前さ、うざいよ?ハブられてんだろ、空気よめよ」
そういって土橋くんに近づいていった。
 「田舎者の転校生は大体都会の空気に馴染めてないんだよ、いい加減気づけって」
そういい、急に周囲を見渡して言いはなった。
「秘密基地を是非作りたい奴いるの?手をあげてみ」
クラスの皆は気まずそうにして、誰も手をあげなかった。
 カオルは土橋くんの顔を見た。
 土橋くんはいつも通り冷静な表情をしていた。でも、内心怒りに溢れていることに気づいた。
 その瞬間、土橋くんと目が合った。
『あっ……』
 カオルはその瞬間、周囲の音が消えてなくなった。
 土橋くんは、はっきりとカオル両目を見つめていた。はっきりと土橋くんのあの茶色い目が強く美しくひかり、カオルの漆黒の目をとらえていた。
「……」
 カオルは目が離せなくなった。
 すると土橋くんは、自分をけなした相手に向き直り近づいてはっきりとこういった。
 「なんだよ、まともに言葉を話すことができる奴なんだ、遠回しに悟って欲しい言動ばっかり言う奴なんだと思ったよ」
土橋くんははっきりと相手の目を見ていった。
 「あ?!なんだよてめぇ、」
 「もっと早く聞きたかったよそういうの」
 土橋くんは食いぎみに発言しつつも非常に冷静な言い方だった。
 「なんだよてめっ……」
 「いいよ、僕のやっていることに賛成したいやつだけついてきたらいいし、ね」
そういい、土橋くんはカオルの方を見つめた。
「カオル、この前いっていた、塾の宿題だけど、教えてくれるのはいいからさ、一緒にやろうぜ?」
 カオルはその瞬間条件反射的に目をそらした。
 「え、何いってんの?」
 「えっ?お前ら一緒の塾いってんのかよ」
誰かがそう呟くのを聞いた瞬間、カオルはいた。
「いや、関係ないよおれ……」
そういった後、はっとしてカオルは土橋くんの方を向いた。
 「……」
 土橋くんはカオルを見ていた。すると、おもむろに教室を飛び出した。
 カオルは唖然としたまま、土橋くんが出ていくのを見たあと、カオルは急にはじかれたように椅子をけって教室をでて、土橋くんを追いかけた。
 なにも後先考えず、ただただ、土橋くんを追いかけた。
 廊下の冷たい空気が背中を伝いからだ全体を冷やしていた。
ビュンビュン耳の横を風をきる音が鳴り響いた。
 廊下の一番先に土橋くんが右に曲がるのが見えた。
 さすが土橋くん…足が早い……。
そんなことが頭によぎりつつ、階段を足がちぎれそうなくらい動かしてかけ降りていた。
喉がいたく、心臓がバクバクいっている……。
下駄箱の前で土橋くんが靴を履き替えようとしていた。カオルは土橋くんに近より、手を強く繋いだ。
「待って……」
すると土橋くんが振り向いた。
「……。」
「土橋くん……、おれ……。」
実際に土橋くんの顔を対面して、何をどういったらいいのか分からなくなってしまった。土橋くんは、いつも通りだった。さっきクラスでおこったことが、まるで何もなかったかのようだった。
 「あぁ、カオル、何かひさしぶりだよなぁ」
「えっ……?」
 
「話すの。」
「あぁ、まぁ……」
実際に話すのが少なくなっていたのかどうか……、頭が混乱してよくわからなくなっていた。
「あの、オレ、土橋くんが作ったアプリ、凄くいいと思うんだ、だからさっきのことは、その……」
「いや、いいんだよ、もう」
「え……?」
カオルは土橋くんの目を見た。
「いいんだよ、もう、分かってる。カオルって何かいつも一歩引いててさ、熱くなれるものとかって、そういうの共有できないタイプの人間なんだろ?」
そういいながらカオルを見る土橋くんの目が、段々と興味が無くなっていくかのようだった。目盛りで実際に計れるかのようだった。
「……。」
「俺、カオルとは親友になれるのかなと思ってたんだけどな。」
「……え……?」
「カオルって面白いやつだと思ったんだけどさぁ、何か底の底の方で、いつも重たいものをもっていて、それを必死に抱えてさ、それで周りからどう見られているか必死になって見てるよね」
それを聞いた途端、土橋くんの目に映る自分の色という色が抜けて、まるで真っ白い背景と同色になるかのようだった。
 「それでいてさ、色んな刺激にすごく弱いよね。あっというまに侵食されていく感じがするよね。他人との境界線があまりないっていうのかな」
 カオルを見つめる土橋くんは、もう以前おは全く別の人を見ているかのようだった。
「じゃ、オレもう行くよ。塾であった時はまたよろしく。」
そういい手を振って土橋くんは学校を出た。
「……。」
カオルはただただ、土橋くんの去っていく姿を見つめながら、立ちすくんでいた。
 土橋くんの言うことは、よく分からなかった。その通りだとも思ったし、そうじゃないとも思った。
 ただ、土橋くんの自分に対して、興味がなくなったということは紛れもない事実で、だから、土橋くんはもう自分に対して何とも思っていないし、さっきの教室でおきたことも、もう何とも思っていないのだと思う。
カオルはその後、教室に戻った。皆最初こそこちらの方を見て、こそこそ話をしていたり、ニヤニヤとした表情をみせたりしたが、質問されても、特に何もいわずだんまりをきめこんでいたら、すぐに皆興味を失ったみたいだった。
土橋くんは、そのあとクラスには来なくなった。でも、あの土橋くんのことだ。学校何かに来なくたって、なんてことないだろう。
その後、カオルは寒くなってもぎりぎりまでブレーザーを着ないようにしていたのをやめ、すぐに重たいブレーザーを着るようになった。長い髪をばっさりと切り、短くした。
鏡の前で自分の姿を見ると、まるで青白い顔が余計際立って死人みたいだと思った。
ガタン……、ガタン……。
電車の音が鳴り響く。
そして今、20歳を過ぎ、大人になったカオルは塾に向けての電車に、土橋くんと一緒に乗っている。土橋くんを見つめる幼き自分を見つめながら。
 そして中学生の頃の彼は、土橋くんの方を決して見ないようにして静かに出口を出ていった。
 
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