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カオルの邂逅旅記

しろたんたんめん

内省の旅路のはじまり

カオルは美しい両目を見開いた。よく乗る通勤電車とはまた違った、特急の電車によくあるような、落ち着いた雰囲気の車体の中にいる。窓の外は全て、深い緑色の霧とも煙ともとれない、独特な濃い光に満ち溢れている。日常生活では到底ありえない、異様な光景を目の当たりにしながらも、カオルはまさにこれこそ、自分自身が心の底から、心底落ち着ける世界だと思った。
 薄い、まるで空色のように透き通った目は、驚きと恐怖にまみれながらも、どこか自分の懐かしいふるさとに触れたような、そんな気持ちだった。
 現実世界はひどくモノクロで、こんなサイケデリックな色合いが入る余地すらない。
息がつまる毎日。ノンストップで掻き立てられていく反省と後悔の日々、、、。そんな中、圧倒的に落ち着けるような、そんな場所を自分はやはり、心の底から求めていたのだった。




 
1、内省の旅路のはじまり

朝のすみきった薄い空気のなか、空一面に美しい空色が広がっている。その下を電車が朝の光をすべてきらきらと反射させながら、走っていた。中は通勤する人たちでぎゅうぎゅうだ。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

カオルはいつも通り、仕事に向かうまでの通勤電車乗っていた。息苦しい車内の中、最近いたって体調が思わしくないのだが、今日はまだ比べて快適に息ができていることに、カオルは内心ほっとしていた。
 七月も半ば、辺りもすっかり暑くなりだしていたが、いつも仕事で涼しい室内で働いているせいか、カオル自身に季節感が全くなくなってきていた。おかげで、休みの日などは夏の暑さに当てられた日には、すぐにバテるようになってしまった。
 
 これも社会人の宿命なのか……。
 
 カオルは一人でそんなことを思いつつ、電車の窓から見える美しい空色を見上げた。

 髪の色は、毛先から頭のてっぺんまで空の色と同じくらいの薄いピンク色に染まっており、朝の柔らかい光を取り込んで揺れていた。肩にはつかない程度に美しく切り揃えており、目は優しく透き通った空色をしている。肩からショルダーバッグをかけ、半ズボンをはいてはいるが、これもれっきとした通勤スタイルだ。しかし、スマートフォンから目をそらし、空を見上げるその姿は、性別や年齢を一瞬で判断することはできないだろう。

 一昔前まではこんな格好をして平日の朝に乗るのはありえなかっただろう。しかし、カオルのこのスタイルは決していまやもう、周囲から浮くようなファッションではない。よく見てみるとあちこちに、カラフルな色合いの格好をしている人はたくさんいる。
 今現代日本は2035年、ワークスタイルや宗教、LGBTなどの性的嗜好だけでなく、今や服装においても本当に多種多様なスタイルが認められてくるようになったのだ。だから、街には、数こそはそれほどまだ多くはないにせよ、少し奇抜なスタイルで日常生活を過ごす人も増えてきている。こういう独特なファッションが、イベントや芸能界以外でも、主流になりはじめてきている今の時代、カオルは心底嬉しく思っていた。数はまだそんなに多くはないが、いわゆるベースカラーといわれる、黒、白、茶色、ベージュ、紺などのおちついた色合いを基調としたファッションや、シンプルなデザインを基準にしたスタイルが一般的だったが、今や本当カラフルな髪型や奇抜な服装をする人も増えてきた。仕事の服装も段々と自由化が進み、今やジーパンやカジュアルなスタイルから、コスプレのような格好をして仕事にいく人も増えて来たのだ。

 カオル自身は制服などの、いわゆる一般的な服装が、カオルはすごく苦手だった。そもそもファッションの規定がどのぐらいまで認められているのかといった判断を基準にして、就職先を選ぶほどだった。3年前にカオルが就職を選んだ企業も就業時のスタイルを極めて自由な、いやむしろより奇抜な格好をすることを推奨しているテーマパークの会社を担っている会社に就職をした。
 
 カオルはしばらく薄く微笑みながら空を見つめ、目を閉じ少し下を向いた。そして、ため息をついて自分の最近の疲れやすさについて考え始めた。
 
 全く……、一体なにが原因でこんなことになってしまったのだろうか。
 
 カオルが勤めている会社はテーマパークの設計を扱っており、最近若者のなかでも特に人気を集めている会社の総務部に勤めていた。その会社自体は特に極端なブラック企業というわけでもないのだが、やはり最近人気が出てきたということもあって、遅くまで残って残業をする会社員は結構いた。仕事自体は自分でもあっていたと思うし、順調に仕事にも慣れてきて、新人の教育も任されるようになってきていた。

 しかし、仕事にもなれ、職場の人間関係も特に大きな問題もなく恵まれ、社会人としての生活にも十分馴染み始めたというのに、最近になって急に人ととの関わりに対して、とても疲れるようになってしまった。というか、人と話すことそのものについて異常に気力がわかなくなり、すべてにおいてめんどくさくなるという、自分の中でもよくわからない状態になっていた。

  ガタンゴトン……、ガタンゴトン……。

「……。」

 カオルは目を閉じ、一旦周囲に鳴り響く音に集中した。その後、深く限界まで息を吸い込み、薄く息を吐いた。
カオルは一人暮らしをしており、自宅から職場までは片道1時間半で、電車一本で通える場所にある。朝の時間帯で席に座れる確率は大体半々ほどだ。今日は、席に座ることができなかったので快速電車の席の背もたれに持たれ、少しでも足の疲労をためないように腰に体重をかけていた。
 カオルが最初頭をよぎったのは年齢からくる体の疲れやすさと共に、精神的な疲れも増えたのかと思ったが、しかし、そんなわけはないとすぐに思い直した。いくらなんでもこんなに急激に疲れがでるわけがないし、肉体に関する衰えからくる症状ではないだろう。まだ20代だし。
 
 その次に考えたのは、仕事で任される範囲が増え、責任が増えたことによる精神的なプレッシャーではないかと考えた。

 もしくは、人間関係によるストレスだ。

 「……。」

  まぁ、確かに一番原因として考えられる出来事は、あるにはあった。とある出来事を境に、急になにもかもめんどくさくなったのだ。ただ出来事自体はそんなたいしたことじゃない。カオルのなかで、「え、それ?」というようなものでもあった。


 それはつい最近のことである。職場の後輩が登場人物として出てくる。

 カオルは 後輩とも、比較的よい関係を築いていた。そのなかでも特に、仕事上よく絡む後輩とは、一緒に遊びにいったりもしていた。名前は「ハナさん」とよく呼んでいる。この子とは時々二人だけで飲みにいく仲間でもあった。長い茶髪を後ろにたばねており、細いフレームのメガネをかけている。仕事の覚えも早く、勤務態度も真面目で、カオルとも気が合う、そんな存在だった。
 笑顔が明るく、素敵な子だった。仲はいいけど特に恋愛感情を抱いているわけでもない友達としてカオルは好きだけでった。それは向こうも同じだろうとカオルは判断していた。

 ある日、お昼ご飯を食べて職場に戻ろうとしていた時だった。うちの会社があるビルの3階には、自動販売機やコーヒーメーカーなどがたくさん集まっている休憩室のスペースがあった。そこを横切ろうとしたところ、ハナさんと同じ職場で且つ、ハナさんにとっては同期で、カオルにとっては後輩の女の子と立ち話をしていた。
 いつも通り軽く挨拶をして横切ろうとしたが、自分も何か飲み物を買おうと立ち止まった。そしてポケットにはいっている小銭入れを出そうとしてまさぐっていると途中で、自分の名前が出てきているということに気づいた。

 「花子はどう思うの?職場でこの男性とだたら誰と付き合いたいとかある?」その同期の子が話をふっていた。「ほら、橘さんとかどう?仲いいじゃん。」
橘とは自分自身の名字だった。
「あぁ……。カオルさん?」ハナさんは先輩であるカオルのことを、ファーストネームで呼んでいた。カオルは盗み聞きはよくないと思いつつ、自分の名前が出てしまったために、自動販売機の方にいきづらくなってしまった。いかにも女子社員が好きそうな話題で盛り上がっている。

 
「カオルさんはねぇ、確かに話も会うし、優しいし……。」

ハナさんが続けていった。

「やっぱり?だって二人ともすごく仲がいいんだもんね?」

「うーん……。カオルさんは……ないかなぁ。だって顔がかわいすぎるし、ほとんど女の子みたいじゃない?あの格好とかさ。」

「まぁ、確かにね。おしゃれだとは思うけどさすがにね。」
 カオルはその話を聞いて、あぁ、女子社員特有の噂話というか、楽しそうな話をしているなと苦笑しつつその場を離れた。特にそれを聞いて特段傷つくこともなかった。

 なぜなら、カオル自身もよく女子社員とつるんで同じような、職場の人の悪口ではないが、ネタにして話をすることはよくやっていたからだ。なので自分自身も絶対に言われているんだろうな、と考えながら話をしていたので、怒りみたいなのもわいては来なかった。なんなら、カオルも思い出しては苦笑をしていた。

 しかし、それからというもののなぜか、だんだんと仕事に集中できなくなってしまった。
 パソコンを前にして、目の前の仕事に集中しようとしても、だんだんと字の内容が頭に入ってこなくなっていた。

それを聞いた瞬間にカオルは、もう花さんを誘うことはなくなった。それだけでなく、前みたいに他愛もない話や雑談をして楽しむこともなくなった。明らかに態度が冷たくなっている自分に対して、花さんは少しと戸惑っているような感じだった。

なぜだろう。こんなことは今まで一度もなかったのに……。

カオルはハナさんに対して怒っているわけではなかった。仕事での付き合いなんて、そんなもんだろうと思うし、こちら側としても別にハナさんに対し、何か特別な感情を抱いているわけでもなかったし。

しかし、その影響はハナさんだけでなく、職場の人たち全員にも漏れなく、ひろがっていった。

なぜなのだろうか……。あれからというものの、カオルの中にあった外部の人たちと関わっていこうという気力そのものが根こそぎどこかにいってしまったのだった。

そもそも、今までカオルにとって常に当たり前にそこにあるものだったし、存在すらきがつかなかったのに、人と関わる気力や体力みたいなものが失われてしまったのだった。

ガタンゴトン……。ガタンゴトン……。
電車の音を静かに聞きながら、あと二駅で終点につく。そこから会社まではすぐだった。カオルは終点に近づくにつれて気持ちが段々と沈んでいた。

 仕事にいくのが憂鬱なのは昨日起きたある出来事のせいだ。

 カオルがハナさんに対してある資料を郵便で送る作業を頼んだ。その仕事が終わったと、カオルに対して報告しに来てくれた。カオルはその時、小さく「ありがと」と呟いただけで、それ以上はなさんに対してなにも言わなくなった。前までのカオルなら絶対にこんなにそっけない態度をとらなかった。
 
 はなさんは、そんなカオルの態度に我慢がならないといった表情でついにいってきた。
「あの……。カオルさん」

 カオルは表情を取り繕う気力さえなく、虚ろな目で見返してしまった。
 
 その表情を見ても、はなさんは怯むことなく、カオルに強くいった。

 「最近、元気がなさそうなんですけど……どうかしたんですか?」

「……。なにが?」

「何が……っていわれても……。うまく説明できないんですけど……。何か最近避けられているようなきがするんですけど……」

「そう?別にそんなことないけど。」

 そういうとはなさんは、きりっとした表情で問い詰めた。

「え、絶対なにかへんですって、なんか怒ってません?」

 そうはなさんは言い始めた。その瞬間カオルは、相手が少し強く返して来ることで、一気に残された気力が流されてしまった。

「別に僕は君と話がしたいわけじゃないんだよ。仕事で仕方なく絡んでいるだけなんだから。君だけじゃない、僕だってそうなんだから。全く……、そんな子供みたいに息巻いて来るのやめてくれる?」

「……。」

 はなさんはカオルの顔をみたまま停止していた。
カオルは明らかに言い過ぎたと思い直し、
「ごめん、ちょっと疲れているんだ……。本当ごめん……。」そうゴニョゴニョと呟いたあと、逃げるようにしてその場を立ち去った。
 カオルはその日は早退をして、職場を抜けてきたのだった。

 ガタンゴトン……。

 次、はなさんに対面したとき、一体どんな顔をしてあったらいいのだろうか。自業自得だと思いながらも、カオルはかなり、憂鬱な気分だった。でも、今日はまだ少し調子がよいみたいだし、なんとかしないと……。

 『次は◯◯駅、◯◯駅です……』車内のアナウンスを聞いてカオルは一旦窓の外をみた。
 今乗っているのは快速電車だ。このままのっていれば無事に終点までたどり着く。その事を一旦確認して、また、視線をスマフォに戻した。

……。カオルはしばらくスマフォに集中していた。しかし、いつまでだっても電車が動かないことに気づき、顔をあげて周囲の様子をうかがった。しかし、周囲の人たちはいつもと変わらない様子だった。

 『お客様に連絡します。ただいま△△駅の踏み切りに人が入り込みましたため、安全の確認がとれるため、しばらく◯◯駅にて停車いたします。出発予定は……』

カオルはそのアナウンスを聞いて、思わず舌打ちをしたくなった。もしかしたら、遅刻する可能性もあるかもしれない。ただでさえ、昨日ハナさんにあんなにひどい態度をとってしまったのに、その上遅刻だなんて……。ただでさえ会社にいくのが憂鬱だというのに遅刻すると、悪目立ちしてしまう。
カオルはなんとか遅刻をしまいと次の情報に耳を済まして聞いていた。

『お客様にお詫びとお知らせを申し上げます
。終点の□□駅には、向かいの3番ホームに向かいます、◇◇行きの電車の方が早くつく予定になります。恐れ入りますが、□□駅にお急ぎのお客様は向かいのホームに到着の電車をご利用ください。』

 それを聞いたカオルは真っ先に今乗っている電車を降りて、向かいのホームの電車へと急いだ。

 電車を降りて、向かいの電車に乗ろうとするが、周囲はたくさんの人でごった返しており、カオルは思わず立ちすくんだが、何とか遅れるわけにはいかないと思い、力付くで人混みの中を掻き分けて進んでいった。

 はやく……、到達しないと、電車がいってしまう。

カオルはいつになく人が多い人混みを掻き分けて進んだ。朝の時間帯はどこもかしこもいっぱいではあるが、このホームがこんなに混雑しているのははじめてだった。人と人との間がいっぱいで入り込む隙間がなかった。

 しかも、歩いている人すべて進行方向とは逆側を歩いている。カオルは全く前に進めないので非常に焦りながら、必死に力付くで前に進んだ。

 そうして、やっと、反対側の電車にたどり着き、そのまま人でぎゅうぎゅうになっているところに無理矢理ねじりこんだ。

 ふぅ……。

カオルはしばらく息を一瞬ゆるめたあと、電車の奥の座席の方へと、これまた人をおしやりながら進んだ。

 まったく、電車にのりこんだら、座席の通路の奥へと入るべきなのに、入り口付近に立ち止まりすぎだろう……。

 そう心のなかで呟きながら、入ろうとして、カオルは電車がいつも乗っている快速電車の内装と雰囲気が違うことに気付いた。

 「あれ?」

カオルはおもわず呟いていた。

 まず、座席がすべて新幹線のような紺色をしていた。ピンク色とオレンジ色の模様がついており、どこか懐かしいような色が広がっている。社内はとても清潔で、さっきまであんなに人が混んでいたのに、車内には人が数えるほどしかいなかった。座席の間は広くスペースが空いている。
 
 カオルは間違えたのか、と思いこの電車はなに行きなのか見ようとした。

 でも、さっきアナウンスでは向かいの方面がどうのこうのいっていたしなぁ……。

 カオルが勤めている会社まであと一駅なの
だが、電車が遅れたりすることでよくここで乗り換えをすることはあった。それにカオルが降りる駅は都会の中心地になっているので、どの電車でも大体は経由するはずだった。

 そう思っていると電車にアナウンスが流れて扉がしまった。

 中の座席の方を見つめてカオルはしばらくボーッとしながら乗っていた。両側の窓の景色が後ろに移っていく様を見ていた。
  
 先程まで必死に体を動かしたので、息が早かったが、段々といつも通りの早さに戻ってきた。少し眠気を感じ、カオルは目を閉じた。

 ガタンゴトン……。ガタンゴトン……。

  カオルははなさんのことを思い出した。とにかく、会社についたら、いつも通りに接しなくてはいけないよな。しんどかったとしてもなんとか頑張って仕事をしないと。

 ガタンゴトン……。

理由なんてなんだっていいんだ。そもそも。

 ガタン……。

 そう、いつだってそうだ。カオル目をつぶりながら思った。いつだって、立ち止まらずに進んできたんだから。今回だってそう。とにかく、頑張ろう。そうすれば、また元気になる日もくるだろう。

 ……。

 カオルは目を開けた。

「……。」

 体感的にはもうそろそろ終点につくぐらいだけどなぁ。カオルは落ち着かない様子で周りを見渡した。周囲の人たちは、特にいぶかしがる様子はない。

周囲を見渡していると、カオルは異様な光景が広がっていることに気付いた。

 両側の車窓の景色が今までみたこともないような深海のような深い青い色に染まっているのだった。そして、ところどころ、白い泡のような物体や、オレンジやピンクなどのカラフルな光がものすごい勢いでかけ広がっていた。

 カオルは口をあんぐりとあけて、ただただ、目の前の光景に立ちすくんでいた。

 恐怖がインクのようにカオルの頭から首もとへと垂れていき、胸から段々と腰の辺りまでと侵食されていった。

 それと同時に頭の隅にずっと残っていた、会社に遅れるのではないかという心配が、頭のなかで急に激しく自己主張し始め、訳のわからない事態に頭をとりかこまれた。

 あ……。

 不安と恐怖で頭がパニックに陥ったあと、
カオルは結局会社に遅れてしまうんだなぁ、と胸のうちで妙に現実的な心配をした。





 







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