勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~
第6話 スキルって何?【2】
そんな2人の内緒話も終わり。
アスヴェル達3人は、“人形”の前に到着していた。
「じゃあ早速やってみるか。まずはオレから見せてやるよ」
一歩前に出ながら腰のホルスターから銃を抜き、ミナトがそう告げた。
「あ、ちなみにこれがオレの<ステータス>な」
彼女の手元に、例の“窓”が現れる。ハルのものとほとんど同じだが細部が少し違う“記号”がそこに描かれていた。
Name:ミナト
Lv:71
Class
Main:銃士 Lv17
Sub:狩人 Lv20
 アルケミスト Lv8
 スカウト Lv25
 セージ Lv1
Str:62 Vit:60 Dex:199
Int:47 Pow:22 Luc:136
おそらくミナトに関する情報が記載されているのだろう。しかし――
「まあ、私には読めないのだが」
「分かってるよ! ただちょっと、オレだけ見せてないのは不公平かなって思っただけだ!」
少し顔が赤くなっている。照れているのだろうか?
「おお、実に律儀だな。私の好感度がさらに上がったぞ?」
「いや、そんなものは上げて欲しくないんだけども」
何故だかうんざりした表情に変わった。不思議である。
「とにかく! オレの実力、目ん玉かっぽじってよく見やがれ!!」
少女は銃を両手で構えると、
「<ピアッシング・ショット>!!」
その“言葉”と共に、銃口から弾が発射される。
(ん? 前と少し形状が変わっているな)
昨日見たよりも、弾の先端が鋭く、構成する金属の種類も違っていた。弾丸の速度も速い。込めた弾薬が異なるのだろうか。
弾は過たず人形に当たり、その次の瞬間――
「――文字が浮き出た?」
起こった事実をそのまま口にする。人形の表面に、何やら文字らしき模様が現れたのだ。それが何なのかを質問するよりも前に、ミナトが口を開く。
「あの人形はこっちが叩き込んだダメージを数値化してくれるんだよ。オマエにゃ読めないだろうから言っとくと、3172って書いてある」
「そんな機能が付いているのか」
ただの木人形かと思っていたが、高性能な装置だったようだ。新たな驚きに目を見開いていると、隣のハルがさらに説明を追加してくれた。
「むふん、実のところ<スキル>を使えば人形相手でなくともダメージの数値は見えるのでござる。ただ、他人の攻撃に関する数値は見えないので、この人形が重宝されている訳でして」
<スキル>というのは、本当に色々できるらしい。羨ましいことだ。
「ちなみにですが、<ピアッシング・ショット>は中級スキルに分類されていましてな。威力の方はまあ、そこまで高く無かったり。ただ、ローコストで溜め時間も少なく装甲無視攻撃ができるので、使い勝手が大変良好なんですぞ。実際ミナト殿はこのスキルだけで上級のモンスター倒せますからなぁ」
「ふむ」
意味が理解しにくい単語はあったが、なんとなく理解はできた。つまるところ、一撃の威力よりも手数を重視した戦闘スタイルをミナトは好む、ということか。
「では僭越ながら、次は拙者が」
今度はハルが前に出る。腰に携えた剣を――その出っ張ったお腹を苦にせず、すらりと抜いてから、
「<ディヴァイン・スマイト>!」
その声と共に刀身が輝き始めた。ハルは光る刃を大きく振りかぶると、全身のバネを使って思い切りソレを叩きつける。
「……また人形に文字が浮かんできたな」
「ハルのは8835だ」
「ほーう」
ミナトの翻訳に深く頷く。
(凡そ見立て通りの値だな)
アスヴェルが<ピアッシング・ショット>と<ディヴァイン・スマイト>を見比べて下した威力評価と人形が示す数値は一致していた。ならば、この人形はかなり精密な測定ができているということだ。
この大陸が持つ技術力の高さに舌を巻いていると、再びハルから解説が入る。
「数値上は拙者の方が上ですが、これは今のが上級スキルだからなのでござる。正直なところ、攻撃は苦手でしてなぁ。ぬふふ、拙者、敵の攻撃を防ぐのがお仕事のメイン盾でありますからして。ダメージを稼ぐのは主にミナト殿なのでござるよ。ぬふぅ、まあ、機会を貰えれば拙者もこういう<スキル>を使える、ということで一つ」
「なるほどな」
納得のいく役割分担である。今ハルが使った<スキル>は隙が大きく、実戦で使うには相応の工夫が必要だ。そしてそんな<スキル>の違いを差っ引いても、昨日見た所感としてミナトは戦闘時の動きやセンスが段違いに良い。ハルが前衛に立ち敵の攻撃を防ぎ、ミナトは戦場全体を駆けながら敵を倒す、という戦法はかなり効率的と言えた。
そんな感想を抱きつつ、アスヴェルは木製人形を見据える。
「さて、最後は私の番か」
「あ、ちょい待ち」
満を持して――という程、仰々しいものでもないが――青年が動こうとすると、少女が待ったをかけた。
「なんだ? 私の実力を測るんじゃなかったのか?」
「そうなんだけど、オマエの得意技って<合気>だろ? だったら相手が動いてないとやりにくいんじゃないか?」
合気とは、やはり敵の攻撃を流し返した技法のことを指すらしい。それはともかく、
「いや、そうは言っても人形は動かないだろう」
「動かせるぞ」
さらっと口にする少女。数瞬、彼女の言っていることを吟味して、
「……動くの?」
「動くよ」
「そっかー」
動くのだそうだ。高性能な測定システムを搭載した人形だと思っていたが、実はウッドゴーレムだったらしい。ただの訓練場にゴーレムを配置するとは、豪勢な話である。
「んじゃ、動かすぞ」
「……分かった」
やや納得いかないところはあるものの、動いてくれるのならそちらの方がいい。より実戦に近くなる。
ミナトが<ステータス>や<アイテムボックス>のような“窓”を空中に生み出すと、その窓をアレコレ操作(?)し始める。すると――
「――ヴァ!」
変な声と共に人形が動き出した。アスヴェルに向かってゆっくり歩いてくる。
「オマエにパンチ繰り出すように命令したからなー」
ミナトの言う通り、人形は弓を引き絞るかのように身を捩ると、反動をつけて拳を繰り出してきた。
なかなかの勢いで人形の手が己に迫るのを、青年は冷静に見つめながら、
(では、期待に応えるとしよう)
すぅっと全身から力を抜いて自然体に近い構えをとる。襲い来る人形の拳へ柔らかい動きで掌を沿えると、
「フッ」
軽く息を吐く。次の瞬間、人形がものすごい勢いで後方へ吹き飛んだ。2転、3転と地面を転がり、柵にぶつかってようやく止まる。
先程までと同じく、人形には数らしき文字が表示されている。その数値を見たミナトとハルは息を飲んだ。
「9999ってマジかよ!? 綺麗そっくり攻撃を返しやがった!?」
「いやそれ以前に最大ダメージを設定って、ミナト殿殺意を込めすぎなのでは――!?」
驚きの声を上げる。驚いている点がそれぞれ違うような気もするが。
2人はひとしきり騒いでから、
「ま、まあ、とにかくこれでオマエの実力は分かった。
……ダメージを100%返せる<合気>とかチートにも程がある」
「熟練度を最大まで上げても理論上8割程度しか返せない筈ですからなぁ……」
驚きが抜けきっていなようだけれども、アスヴェルの力を理解はしてくれたらしい。
とはいえ――
「――私はどちらかと言えば魔法の方が得意なんだがなぁ」
「え?」
「へ?」
アスヴェルの呟きに、ミナトとハルが揃ってきょとんとした顔を返した。
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