無自覚聖女、魔女になる。
なな
「ここだよー、この部屋にライいるよー!」
リューナの借りていた部屋と反対側の廊下を進み、何度が曲がった先の扉の前でピステルは声をあげた。
道を覚えようと進んでいたはずなのに、たどり着くまでの道順を全く理解できなかった。
確かに廊下を進んでいたのだ。廊下のはずなのに、ピステルに指示されるままカーテンの裏側を通ったり、花瓶を飾っている飾棚の下をくぐったり、階段を後ろ向きに登ったり。この建物、二階建てじゃなかったんだ。
「案内ありがとう、お願いだから元の部屋にも案内してね……」
正直、一人で戻れる気がしない。
コンコンと扉を叩く。中からの反応はない。続けて、コンコン。
「ほんとに中にいるの?」
「さっきいたの見たもの。ラーイー!」
コンコンコンコンッ! と、ピステルは小さい手を力一杯振り上げて扉を連打する。中からの反応はない。
「これだけ叩いて気づかないはずないんだから! いいよ、入っちゃおう」
言うが早い、ピステルは取手に近づき全身で引っ張る。小さい隙間が開くのかと思いきや、しっかりリューナも通れるだけ開いた。
そのまま先行して、ラーイー! と声を上げなら中へと進んでいく。
廊下に取り残されても困るので、その後ろをリューナもついていく。
入った瞬間から、別世界へと紛れ込んだようだった。
書物を痛めないように明かりを抑えた薄暗い中で、絶妙に背表紙の文字は判別できる。奥の明るい方、薄いカーテンのかかった窓際のソファで、彼はピステルに突かれながらも手にしている書物から目を離さない。
あぁ。とか、うん。とか、のらりくらりと相槌をしながら、髪も引っ張られている。
さすがに、リューナが目の前までくると顔をあげた。
「やっと起きてきたのか」
「おかげさまで、ぐっすりよ。遅くなってごめんなさいね」
「せっかくの玩具が早々にダメになったのかと思ったが……壊れてるところもないなら別に構わない。まだ寝てなくていいのか?」
「普段以上によく眠れた気がするし、ありがとう。ご心配おかけしました?」
「お前一人、居てもいなくても変わらないからな。心配ならピスが十分してるだろうから俺はしない」
もー! またそんなこと言って! ずっと不機嫌だったくせに!
ピステルが大声で否定するのにも、表情を変えずにそんなんことないと否定する。
たぶん、これが普段通りの二人のやりとりなのだろう。
ちょっと微笑ましくなって、つい笑ってしまった。
「ところで。私まだ、自己紹介もしてなかったわね。改めまして、リューナです。これからよろしくお願いします」
「ライだ。散々ピスが叫んでるからすでに知ってるだろうけど。日々に飽きてる悪魔だ」
「その悪魔だって自称、ほんとなの?」
改めて対峙しても、牙やツノがあるわけでもない。
人間離れした精巧さは確かにあるが、違いといえばそれくらいに見える。
「ヒトとしての理を離れてるんだ、悪魔と称されても間違いじゃないだろう」
「ヒトよりもちょっと長生きしてるだけなのにね」
なんでもないことのように、ピステルが相槌を打つ。
「そんなに年寄りなの?」
せいぜい、リューナよりも少し上、三十代にも見えない。童顔なの?
「聞いてるだろうけど、ここは外の世界とは時間の流れがまず違う。基本的に関わりも遮断してるから、今更何を言われようが正直どうでもいいが。今は神歴何年だ?」
「八〇九年」
「俺の生まれは二五八年だ」
「五五一歳!?」
「お、計算早いんだな」
「ありがと。……っていや、そうじゃなくて! 見えない! 仙人か何かなの!?」
「だから悪魔だってば」
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