無自覚聖女、魔女になる。
ご
ゲームをしようと男は笑う。
「ルールは簡単だ、俺の敗北条件を当てること。何度回答してくれてもいいし、俺も初めに決めた条件からは変更しない。あんまり当てずっぽうに答えられると面白くないから、回答権は一日三回まで。それでも期限は決めないでいてやるから優しいだろう? 行動範囲はこの敷地内で途中棄権は認めない」
そのかわり、と人差し指で上をさしながら続ける。
「この屋敷で好きに過ごしてくれてかまわない。良識の範囲内なら何をしたって許してやろう。どうだ、のるか?」
「そのゲーム、私にメリットしかなくない?」
衣食住が保証されるのだ、このまま承諾していいのではないか。リューナ自身、疲れも溜まっていて思考は働いてない。
「いいのか、行動範囲が限定されてるんだぞ? 出ていけないぞ?」
「それでも、身の安全は保証されるっていうなら、寝床が確保できるなら願ったり叶ったりだったりだけど」
「よーし、言ったな? 契約してからやっぱりやめますは聞かないからな?」
男は親切にも念押しをしてくる。
「あなたに殺されることもないなら、いいわ、その遊びに付き合ってあげる……うっ!」
リューナが了諾を返すと、彼はスッと腕を引っ張った。急なことでバランスを崩したリューナは、勢いに任せて前のめりになる。そのまま、人形のような顔と唇同士が触れると、刺されたのかと思うほどの鋭い痛みが胸を襲った。
「……ん! ぅぅん!」
目を見開いて叫ぼうにも、口は依然として塞がれたまま。腰を抱きかかえられ身動きができない状態で、胸の痛みは熱を帯びていく。
舌を吸われていることに驚けばいいのか、熱く痛くなる胸に嘆けばいいのか、初対面で抱きしめられていることに怒ればいいのか。
感情がぐるぐると動いて、酸欠から目にたまる涙で視界もぼやけた頃にようやく解放された。
「契約完了。ってことで、ウブなお嬢さんはしばらく休んでな。あとのことはそこで顔赤らめてる妖精さんにでも聞いてみな」
息も絶え絶えな彼女を、先ほどまで自身が寝転がっていたベンチに預けると、呼吸も乱れているリューナとは対照的に、平然としたままその場を後にする。
顔を赤らめていた妖精さんは、先ほどまでの怒りの感情はなく、ただただかわいそうなものを見る目でリューナが落ち着くのを待っていた。
いくらなんでも、さすがに今のは不意打ちすぎるよ……
せめて一言、契約方法ぐらい伝えてあげてからにすればいいのに。
しばらく時間をおいて、それでもリューナがぴくりとも動かないのをみかねて声をかける。
「そろそろ落ち着いた? なにから聞きたい?」
「……さっきのなに?」
「今回の契約。あなたたち互いの名前も知らない状態で契約しようとするんだもの。誓約もなにもあったもんじゃない、無茶苦茶よ。人の話は最後までよく聞きましょう、警戒心は手放すべからずってところね」
「あ〜……そうね、油断してた私が悪い」
相手は悪魔を自称していた、そんな人外の話を鵜呑みにして受けれているようでは、なにがあろうと自業自得もいいとこだ。
キスなんて初めてだったのに。と、感傷に浸るよりも気になるのはさっきの激痛だ。
「ところで、ものすごい痛かったんだけど、あの胸の痛みも契約に関係があるの?」
「今は痛みもないでしょ? さっきの痛みはそのままあなたへのペナルティだと思っていいわ。行動範囲が限定されるって話してたのは覚えてる? ルールから逸れたら、それだけ苦痛を伴うくらいに思ってたらいいわ」
「直接じゃないけど、立派に殺しにかかってるじゃない」
「和やかなだけのお遊びだと思ったの? 暇を持て余してるライに気に入られちゃったんだから仕方ないわよ。命の一つや二つ掛けてみなさいよ」
「普通の人間には命は一つしかないのよ……」
今更ながら、早まったかなと頭を抱えるリューナだった。
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