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無自覚聖女、魔女になる。

宮下ほたる


 二人きりの間に散々脅したおじさんが青白い顔をしたまま、村の東口でそう待つこともなく。
 護身用のつもりか、鍬や鋤の農具を肩にかけたおじさん連中がやってきた。一人猟銃を持って混じっている青年は村長の息子だったか。普段から余計なことばかり茶々を入れてくる人間としか私は思ってない。たしか......アランとかいったっけ。

「……逃げなかったんだな」
「ご丁寧に見張り役までたてられて、逃げられるもんですか」
「それもそうだよな。まだ暗いが松明はなしだ、このまま出発する。祭壇の場所は極秘なんでな、森の花嫁様には目隠しをさせてもらう」
「私も歩きなんでしょ? 危ないじゃない」
「出発が早まってるんだ、速度くらいゆっくりあわせてやるさ」

 悪戯っぽくニヤっと笑った表情を見たのを最後に、私は目隠しをされた。
 続けて、紐を握らされる。

「本当なら途中で行方不明にならないように縛った方がいいんだろうけど。それは最後にするから、離さずに歩けよ?」

 彼なりの配慮らしい。
 私には所持品なんてものは何もなく、着の身着のままに奥方からいただいた服だけを身にまとっている。
 今から死にに行くような人間は、余分な物を持つ必要もないだろうと思ったから。遺せるものは置いてきた。

 森の花嫁。
 それは雨乞いのための生贄、とすればまだ罪悪感も湧きそうだが程のいい口減らしだ。
 まだ呪術が一般的に知れ渡っていたような古い時代の名残りを、都合のいいように解釈して悪用しているだけ。
 私はそう認識していたし、知っている限り実行されてることもなかったのに。
 行かず後家のような私は、そんなに村に迷惑をかけていただろうか。
 身に覚えはないけれど、確かに理不尽な扱いを受けていた気はする。
 同世代の女子たちの輪に入れてもらえず爪弾きにされていたり、区分けられている耕作地が村の端の一番遠いところだったり。
 いや、でもそれは今に始まったことでもないか。割と幼いころだ。
 おかげさまで、私は世間の流行にも疎い自覚はあるからその分、身なりは整えておこうと気をつけた。移動に時間を取られる分、耕作地での作業時間が足りなくなるなら、手をかけずに育てられる作物を探したし、森の浅いところで採れる野生の果実も収穫していた。
 賢く生きる術を学べたのは、感謝してもいいだろうか。

 目隠しをされていても、次第に明るくなってきているのは肌に感じる日差しでわかる。
 どこまで歩かされるんだろう。
 踏みしめる地面はまだ均されているし、聞こえてくるの葉の擦れる音と遠くからの鳥の鳴き声、複数の足音。
 紐を引かれているから、正面に少なくとも一人、残りは後方だろうか。左右から足音はしない気がするから、一列で進まないといけないような道を進んでる?
 同行人たちの声は全く聞こえない。みんな黙々と歩いてる。
 森を進んでるはずなのに、緑の匂いがしない。乾燥していて喉が痛くなってくる。

 不意に前方のアランから止まれと言われた。
 素直に立ち止まると、私を追い越して行く気配がする。
 ザクッと鈍い音がして、そのまま打ち付ける小気味のいい音が続く。
 カツーン、カツーンという音が止んだと思えば、おもむろに両腕を正面で縛られる。

「俺たちはここまでだ。しきたりに則って、ここからは花嫁様一人で森の主に嫁いでくれ。そのうちお迎えがくるだろうから、せいぜい雨乞いを頼むな」
「……ったー!」

 摑まされている紐を引かれたので数歩進んだら、勢いあまって何かにぶつかった。おでこが……痛い。
 ぶつけたおでこに手を伸ばそうにも、縛られた両手はちゃっかり動かなくされている。
 達者でな、の一言を残して足音が遠ざかっていく。
 何事か、と呆けていたが、次第に怒りがわいてくる。

 ……ほぉ。推定森の奥に? うら若き乙女の視界を塞いで? 直射日光を浴びる場所で動けないように固定して? 皆さま退散されると?

 せめて次に引き継ぎしなさいよ!!

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