魔族の契約者
第二話 侵入
今日。とうとう魔界からの留学生がやってくる。
私立第一魔法学園は平日ではあるが、留学生のために一日授業はないらしい。
俺の学校はもちろん関係なくある。ずるいね。
とはいえ俺はこの学校に来るために休んだ。欠席理由は自分探し。担任から折り返しの電話が何度もかかってきたが、無視して俺はここにいる。
魔族のお嬢様の名前は……うん、覚えていないが恐らくは銀色の髪である。
彼女の姉や親の写真だけはあり、それらはどれも美しい銀色の髪なのだ。
俺はばれないように侵入するために短い脚立を持って俺は学校の周りをうろつく。
相変わらず広い学校だ。俺がいるこの街はどちらかというと田舎だったらしい。大量にある田、畑の土地を買った大富豪が作った私立の学校。
今では国内でも有名な学校だ。この学校のおかげで、俺たちの町は田舎から一気に発展したとも言われている。
この学校に入っているだけで人生におけるある種のステータスでもあり、こうして魔族の留学生も入学してくれるようになっている。
こんな場所に侵入すれば俺もただではすまないかもしれない。
それでも、やるしかない。
「……啓吾、何してるんだ?」
冷静な口調の中に戸惑いが混じっている。この声は、聞き覚えがあるぞ。
俺の知り合いだ。
「く、邦彦か?」
俺は黄色のヘルメットで隠した目元をあげて確認する。
手には竹刀袋。中に入ってるのはたぶん真剣だけど。
刀の名手として名高い大井家の次男である大井邦彦。国内有名ランク(俺の勝手な決め付け)ではA、いやSクラスかもしれない。
ちなみに俺の幼馴染だ。
鼻水をたらしていた昔と違い、イケメンになりやがって。
「何……ってみて分からないか?」
三脚を左の脇で挟み込むようにして持ち、右手を腰に当てて胸を張る。
「……工事か? 何かのアルバイトか?」
訝しんだ両目が俺の頭からを足先までを見てくる。
よかった、変装はしっかりできているみたいだ。
「ちっちっちっ。変装だっ」
「変態か?」
「ちゃう、変装。今日ここで歓迎パーティーが開かれるんだろ?」
妹に聞いて分かっている。妹は歓迎パーティーの後ならもしかしたら会えるかも知れませんねと言っていた。
「ああ、そうだが。関係者以外は入れないぞ?」
「だから、侵入するために変装してんだ! 天才だろ?」
「……」
どうやら俺の弁舌に息を巻いてしまったらしい。
俺はどこから侵入するのが一番ラクなのか捜す。
……邦彦の冷たい視線が痛い。
耐えられないよ。
「何か用か、ゴラァッ!?」
邦彦の胸倉を掴んでガンを飛ばすと邦彦はふっと呆れたように口元を歪める。
な、なんだこの余裕ぶった態度は。
「お前のやろうとしている以外にも中に入る方法はある。警備員を倒すとか」
「実現したら逮捕される!」
「いや、お前は今侵入しようとしてるよな?」
「え? ばれなきゃ問題ないでしょ」
邦彦もどうやらあまり頭がよくないらしい。
やっぱり、俺の友だな。
邦彦は眉間をマッサージしている。
「それ、犯罪すべてに言えるからな。とにかく、無茶な方法はやめてくれ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
正直、もう限界だぞ。俺の脳は理解の限界を超えている。
「今回のパーティーに呼ばれているのは在校生だ。さらに入ることが許されているのは在校生の執事やメイドとして入ることが許されている。まあ、いわゆる従者だな」
中には警備の人間などもいる、と付け足す。
邦彦の言いたいことは分かった。
「なるほど。だけど、俺、男だからメイドはちょっと……」
「バカが。執事ならできるだろ」
「……おお、そういやそんなこと言ってたな」
「……話を聞いてくれ、頼むから」
「気にすんなって」
「気にしてくれ……」
邦彦の顔がどんどん疲れていく。
なんで、疲れてるんだよ。ああ、寝不足か。今期のアニメは面白いのが多いからな。
「それで、じゃあ俺を雇ってくれるのか? いくらだ?」
「帰ってくれ」
邦彦が帰ろうとするので、俺は慌てて腕を掴む。
「え、雇ってくれないの?」
「誰も金は払わない。それで、いいだろ?」
金を払ってくれというのは冗談だけど。
「……まあ、中に入れるなら」
「なぜ、不満そうな顔なんだ」
俺は脚立を持ったまま、邦彦の後ろについていき、正門へ。
そこには両端を守るように二人の黒服がいる。どちらも顔に傷跡などがある。
なんつー、迫力だ。サングラスをかけた黒服の男二名はかなりガタイがいい。
正門に見えないバリアが張られているような謎の威圧を感じる。
「こいつはおれの従者です」
警備員に軽く言う邦彦。
警備員の人が怪訝そうに俺の頭を見てくる。
サングラスの先にある目は俺の何を見ているのか……あ、ヘルメットか。
慌ててヘルメットを外して愛想笑いを浮かべながら頭をかく。
すると、警備員の人がにこっと笑う。
「パーティーももうすぐ始まりますので、早めに着替えたほうがいいですよ」
強面の見た目とは裏腹に声、超高い。
声変わりしなかったのかと聞きたくなる。
「声高いですね?」
「……地味に気にしてるんです。言わないでください」
「……す、すいません」
ああ、なんとも言えない結末となってしまった。
邦彦は中に入ってから、くるりと振り返る。楽しそうに笑っている。
「ほんと、だれかれ構わず空気読めないな、お前」
「バカにしてんのか!」
「ああ、お前、バカだろ」
くそ、最悪だ。
「脚立は邪魔だから目立たないところにおいて置けよ」
「……後で取りに戻るからな」
邦彦に言われて、俺は近場の木々が生え渡る一帯に入れる。
外から見たら何があるのか分からないほどに木と花が生えているので、見つかる心配もない。
「何しに来たんだ? お前って有名人とかに興味あったっけ」
「いつもはないんだよ。今回が特別なだけ」
「魔界の令嬢だからか? 姉がかなりキレイらしいからな。だけど、それでもどうにも怪しいんだよな。お前、女を見るためだけに来たのか?」
付き合いが長い邦彦には何もかも見抜かれているような気がする。
契約のことを話すか?
一瞬頭をよぎるが、ダメだ。
こいつはきっと俺のことを心配する。
それで、止めようとするだろうな。
「カワイイコ、キレイナコ。オレダイスキ!」
「なんで、片言なんだよ。まあ、いい。事件は起こさないでくれよ」
建物に入る。本校舎ではないようだ。小さい。
「ここはどこだ?」
「衣装なんかが置いてある部屋だな。さすがにその格好はまずいだろ」
確かに、作業員らしいこの格好で執事と名乗るはおかしいか。
執事といえば燕尾服だっけか?
まあ、なんか堅苦しい服なんだよな。
制服でさえも動きにくいと俺の中ではあまり着たくない服の類だ。
そもそも、着方も分からない。
キレイな廊下を歩いているとぴたりと止まる。
そこには入り口の上部分に男子衣裳部屋と書かれている。
ドアを押し開けると、たくさんの服が並び、隅には着替えのための個室もずらっと並んでいる。
ここだけで、俺の学校の教室三つ分くらいあるぞ。
衣装も執事が着るようなものから、子どもが着るような簡素な私服みたいなものまである。
「ここが、衣装部屋だ。今日は人の入りが多いから、全員ここで決まった服に着替えることになっている。あそこの列にある服に着替えてくれ」
指で示した場所に俺のイメージする服が置かれている。
「わかった」
「おれはこれからパーティーの開会式に出席しなきゃならないから。着替え次第連絡くれ」
邦彦は「くれぐれも問題を起こすなよ」と再度念を押してくる。どんだけ俺が信用できないんだよ、あいつ。
邦彦が扉を閉めてから、俺はよしっと服の列を歩き、遊び始めた。
私立第一魔法学園は平日ではあるが、留学生のために一日授業はないらしい。
俺の学校はもちろん関係なくある。ずるいね。
とはいえ俺はこの学校に来るために休んだ。欠席理由は自分探し。担任から折り返しの電話が何度もかかってきたが、無視して俺はここにいる。
魔族のお嬢様の名前は……うん、覚えていないが恐らくは銀色の髪である。
彼女の姉や親の写真だけはあり、それらはどれも美しい銀色の髪なのだ。
俺はばれないように侵入するために短い脚立を持って俺は学校の周りをうろつく。
相変わらず広い学校だ。俺がいるこの街はどちらかというと田舎だったらしい。大量にある田、畑の土地を買った大富豪が作った私立の学校。
今では国内でも有名な学校だ。この学校のおかげで、俺たちの町は田舎から一気に発展したとも言われている。
この学校に入っているだけで人生におけるある種のステータスでもあり、こうして魔族の留学生も入学してくれるようになっている。
こんな場所に侵入すれば俺もただではすまないかもしれない。
それでも、やるしかない。
「……啓吾、何してるんだ?」
冷静な口調の中に戸惑いが混じっている。この声は、聞き覚えがあるぞ。
俺の知り合いだ。
「く、邦彦か?」
俺は黄色のヘルメットで隠した目元をあげて確認する。
手には竹刀袋。中に入ってるのはたぶん真剣だけど。
刀の名手として名高い大井家の次男である大井邦彦。国内有名ランク(俺の勝手な決め付け)ではA、いやSクラスかもしれない。
ちなみに俺の幼馴染だ。
鼻水をたらしていた昔と違い、イケメンになりやがって。
「何……ってみて分からないか?」
三脚を左の脇で挟み込むようにして持ち、右手を腰に当てて胸を張る。
「……工事か? 何かのアルバイトか?」
訝しんだ両目が俺の頭からを足先までを見てくる。
よかった、変装はしっかりできているみたいだ。
「ちっちっちっ。変装だっ」
「変態か?」
「ちゃう、変装。今日ここで歓迎パーティーが開かれるんだろ?」
妹に聞いて分かっている。妹は歓迎パーティーの後ならもしかしたら会えるかも知れませんねと言っていた。
「ああ、そうだが。関係者以外は入れないぞ?」
「だから、侵入するために変装してんだ! 天才だろ?」
「……」
どうやら俺の弁舌に息を巻いてしまったらしい。
俺はどこから侵入するのが一番ラクなのか捜す。
……邦彦の冷たい視線が痛い。
耐えられないよ。
「何か用か、ゴラァッ!?」
邦彦の胸倉を掴んでガンを飛ばすと邦彦はふっと呆れたように口元を歪める。
な、なんだこの余裕ぶった態度は。
「お前のやろうとしている以外にも中に入る方法はある。警備員を倒すとか」
「実現したら逮捕される!」
「いや、お前は今侵入しようとしてるよな?」
「え? ばれなきゃ問題ないでしょ」
邦彦もどうやらあまり頭がよくないらしい。
やっぱり、俺の友だな。
邦彦は眉間をマッサージしている。
「それ、犯罪すべてに言えるからな。とにかく、無茶な方法はやめてくれ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
正直、もう限界だぞ。俺の脳は理解の限界を超えている。
「今回のパーティーに呼ばれているのは在校生だ。さらに入ることが許されているのは在校生の執事やメイドとして入ることが許されている。まあ、いわゆる従者だな」
中には警備の人間などもいる、と付け足す。
邦彦の言いたいことは分かった。
「なるほど。だけど、俺、男だからメイドはちょっと……」
「バカが。執事ならできるだろ」
「……おお、そういやそんなこと言ってたな」
「……話を聞いてくれ、頼むから」
「気にすんなって」
「気にしてくれ……」
邦彦の顔がどんどん疲れていく。
なんで、疲れてるんだよ。ああ、寝不足か。今期のアニメは面白いのが多いからな。
「それで、じゃあ俺を雇ってくれるのか? いくらだ?」
「帰ってくれ」
邦彦が帰ろうとするので、俺は慌てて腕を掴む。
「え、雇ってくれないの?」
「誰も金は払わない。それで、いいだろ?」
金を払ってくれというのは冗談だけど。
「……まあ、中に入れるなら」
「なぜ、不満そうな顔なんだ」
俺は脚立を持ったまま、邦彦の後ろについていき、正門へ。
そこには両端を守るように二人の黒服がいる。どちらも顔に傷跡などがある。
なんつー、迫力だ。サングラスをかけた黒服の男二名はかなりガタイがいい。
正門に見えないバリアが張られているような謎の威圧を感じる。
「こいつはおれの従者です」
警備員に軽く言う邦彦。
警備員の人が怪訝そうに俺の頭を見てくる。
サングラスの先にある目は俺の何を見ているのか……あ、ヘルメットか。
慌ててヘルメットを外して愛想笑いを浮かべながら頭をかく。
すると、警備員の人がにこっと笑う。
「パーティーももうすぐ始まりますので、早めに着替えたほうがいいですよ」
強面の見た目とは裏腹に声、超高い。
声変わりしなかったのかと聞きたくなる。
「声高いですね?」
「……地味に気にしてるんです。言わないでください」
「……す、すいません」
ああ、なんとも言えない結末となってしまった。
邦彦は中に入ってから、くるりと振り返る。楽しそうに笑っている。
「ほんと、だれかれ構わず空気読めないな、お前」
「バカにしてんのか!」
「ああ、お前、バカだろ」
くそ、最悪だ。
「脚立は邪魔だから目立たないところにおいて置けよ」
「……後で取りに戻るからな」
邦彦に言われて、俺は近場の木々が生え渡る一帯に入れる。
外から見たら何があるのか分からないほどに木と花が生えているので、見つかる心配もない。
「何しに来たんだ? お前って有名人とかに興味あったっけ」
「いつもはないんだよ。今回が特別なだけ」
「魔界の令嬢だからか? 姉がかなりキレイらしいからな。だけど、それでもどうにも怪しいんだよな。お前、女を見るためだけに来たのか?」
付き合いが長い邦彦には何もかも見抜かれているような気がする。
契約のことを話すか?
一瞬頭をよぎるが、ダメだ。
こいつはきっと俺のことを心配する。
それで、止めようとするだろうな。
「カワイイコ、キレイナコ。オレダイスキ!」
「なんで、片言なんだよ。まあ、いい。事件は起こさないでくれよ」
建物に入る。本校舎ではないようだ。小さい。
「ここはどこだ?」
「衣装なんかが置いてある部屋だな。さすがにその格好はまずいだろ」
確かに、作業員らしいこの格好で執事と名乗るはおかしいか。
執事といえば燕尾服だっけか?
まあ、なんか堅苦しい服なんだよな。
制服でさえも動きにくいと俺の中ではあまり着たくない服の類だ。
そもそも、着方も分からない。
キレイな廊下を歩いているとぴたりと止まる。
そこには入り口の上部分に男子衣裳部屋と書かれている。
ドアを押し開けると、たくさんの服が並び、隅には着替えのための個室もずらっと並んでいる。
ここだけで、俺の学校の教室三つ分くらいあるぞ。
衣装も執事が着るようなものから、子どもが着るような簡素な私服みたいなものまである。
「ここが、衣装部屋だ。今日は人の入りが多いから、全員ここで決まった服に着替えることになっている。あそこの列にある服に着替えてくれ」
指で示した場所に俺のイメージする服が置かれている。
「わかった」
「おれはこれからパーティーの開会式に出席しなきゃならないから。着替え次第連絡くれ」
邦彦は「くれぐれも問題を起こすなよ」と再度念を押してくる。どんだけ俺が信用できないんだよ、あいつ。
邦彦が扉を閉めてから、俺はよしっと服の列を歩き、遊び始めた。
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