魔族の契約者
第四話 息抜き
俺たちは近くの公園まで走ってきていた。
普段から魔法の代わりとばかりに筋トレなどをしている俺は走りこみもよくやっていたので、このくらい屁でもなかった。
逆にフラスターナは慣れていないのか、膝に手をつき今にも倒れそうな勢いで呼吸をしている。
「どっか行きたい場所ってあるか?」
「……はぁ、はぁ。ど、どこでも、いい、わ……よ」
「俺は腹減ったな」
携帯を取り出すと時刻は12時ちょっと前。
さすが俺の腹。授業中にぐぅぐぅうるさいだけある。
ポケットから財布を取り出し、札束を確認するが、ない。
慌てて小銭を見ると500円玉が4枚入っている。
よかった。一度家に戻ろうかとも思ったけど問題なかったな。
「飯食いに行こうぜ」
「そうね。案内をお願いするわ」
俺が先に歩いていくと、横に並んだフラスターナは何かを言いたそうにもぞもぞする。
トイレだろうか。
さっきの公園に戻れば一応あるが、あまりキレイじゃない。
少し歩けばデパートなどもあるので、そこまで我慢してもらおう。
「ね、ねぇ。あんた」
「トイレか?」
「なんでよ! 違うわよ!」
「へ、へ?」
俺のさりげない気遣いが見事に間違っていたようだ。
フラスターナは俺のトイレ発言が恥ずかしかったのか頬を染め、怒るように口を開きながらこちらをジーっと見てくる。
ここまで怒られるとは思わなかった。ちょっと反省だな。
頭をぽりぽり掻いていると、フラスターナは意を決したように両目をきつく閉め、
「さっき、蹴っちゃったけど……大丈夫?」
へ?
蹴ったって……ああ、脱出のときに足から飛び降りてきたな。
なんていうか、無駄に日々痛めつけられているだけありあの程度の傷は蚊に刺される程度にしか感じていなかった。
「ああ、まあ大丈夫だな。俺、頑丈だから」
ふふんっと両腕で力こぶを作ってみせる。
フラスターナは安心したようにため息をついた後に、かぁぁと赤くなりぷいっと顔をそっぽに向ける。
「あっそ。別にあんたがどうなろうと別にいいけどね、別に」
別にばっかりうるさいなこいつ。
フラスターナは俺の横にぴたりと並び、目を子どものように輝かせてあちこちを見ていた。
食事が終わったら、好きな場所にでも連れて行こうか。
って、俺の目的ってなんだっけ?
うーん、はっ。契約のことだった。
まあ、いいか後でも。ひとまずはフラスターナの息抜きにでも付き合うか。
ハンバーガーショップにたどり着いた俺は100円で買えるハンバーガーを二つとドリンクの一番小さいサイズを購入。
それらを持って席に座る。
お昼ではあるが平日だけあってすいてるな。
休みの日になると学生がわんさかいるんだが。
「ほら、食べろ。えさだぞー」
「ぐーと平手どっちがいい?」
「悪かった。はい、ドリンク」
俺はジュースが嫌いだから麦茶なんだが。
フラスターナは期待に目を光らせ、手に持ったハンバーガーを見つめる。
「ナイフとフォークは?」
そんな高級な食材じゃありません。
「ない。これは手で持って食べるんだよ」
俺の説明を受けると、案外素直にフラスターナはハンバーガーを手に取る。
果たして、魔界のお嬢様の口に合うのだろうか。別に俺の店ではないが、少し緊張して彼女が口に運ぶのを見守る。
ゆっくりと近づき、え? ちょ、ちょっと!
俺が慌てて制止しようと思ったが、フラスターナはそれよりもさきにガブリ。
「まず……こんなもの食べてるの普段?」
フラスターナはなんていうか凄まじいボケをかましていた。
ハンバーガーを包む紙ごと食べやがった。今も噛み切れずに、むしゃむしゃしている。
もしかしたら、魔界にはこういった食べ物は存在しないのかもしれない。
前に、ハンバーガーショップが店を開くとかニュースになった気がするが。
「待て、フラスターナ。これはな、こうやってめくるんだ」
俺は自分の分のハンバーガーを手に取り、ぺらと包み紙をめくる。
するとフラスターナは自分のモノと俺のモノを見比べ、自分の犯した過ちに気づいたのかかぁぁと顔を染める。
赤面が得意なようだ。
「先に教えなさいよ! なんかあたし変な子みたいじゃない!」
「そこまで世間知らずとは思わなかったんだよ。悪い、えっと、こうやって食べるんだぞ?」
俺がハンバーガーに噛み付く様子を見せると、
「そのぐらいわかるわよ!」
なんて面倒な子なんだ。
涙目になりながら、フラスターナはハンバーガーをぺろりと食べつくした。
「まあまあ、おいしかったわね」
「そのわりに凄い勢いで食べてたな」
ストローでちゅうちゅう飲み物を飲んでいたフラスターナがキッと少し赤い目で睨んでくる。
「あんたって、バカとか言われたことない?」
「どちらかというと天才って言われたことはいっぱいあるぞ」
「そう。あんたの周りの人って見る目ないのね」
なにやら酷いことを言われた気がしないでもない。ま、いいか。
食事も終わったしこれからどうするかね。
ふと時間が気になり、携帯を開くとたくさんの着信とメール。
主に桃と邦彦からだった。
電話をしたら絶対にフラスターナのことだろう。
邦彦からのメールを試しに開くと、
『お前! 本当に何もやってないよな! フラスターナのお嬢様が行方不明なんだがっ!』
桃のメールを開くと、
『兄さん、まさかフラスターナのお嬢様と一緒にいるなんてことありませんよね?』
よし、見なかったことにしよう。
携帯の電源を切ろうか迷ったが、時間がわからなくなるのでそのままにしておく。
「それで、これからどこに行く?」
「え? どこって言われても、あたし知ってる場所なんてないわよ」
「好きな場所どこでもいいよ。俺だって別に行きたい場所があるわけじゃないし」
今日はもう、完全に彼女に付き添うと決めた。
別にやることもなかったので、俺としてはフラスターナの意思のままに、的な感じだ。
「そ、そう。ならね、別にあたしはどこでもいいのよ? だけど、ちょーっとあっちの方に行けってこう、天から声が聞こえるのよ」
「医者行くか?」
「正常よ! とにかく、あっちに行くっ」
俺の手を掴み、強引に引っ張られる。
連れてこられたのはここらでは有名なデパートだ。
「ほんと、日本って高い建物が多いわね」
「魔界はないのか?」
「そりゃ、時々ドラゴンが通るから。高いとぶつかって危険なのよ」
「恐ろしいところだな」
「こっちから危害を加えなければ何もしないわ。それより、ここって何を売ってるのよ」
「色々」
「詳しく」
デパートなんて本当に何でも置いてあるからな。
俺はとりあえず思いついた品をあげていく。
「食品とか、電化製品とか、服とか、だな」
「色々あるのね」
「だから、そう言ったじゃん。何か見たいモノとかあるのか?」
「そうね……服とかは見てみたいわね」
服がおいてある場所はっと。
俺なんて服は適当に近くの店で安いモノを買うだけだからな。
着れるのなら常識的に考えておかしくなければ何でもいい。
無地の黒シャツと白シャツを交互に着まわすのが俺の主な服装だ。
「ねぇ、あれ、エレベーターって言うのよね。乗ってみたいわ」
「そうだな。なら、屋上にでも行ってみるか?」
「そうね。別に服が見たいわけじゃないからいいわよ」
休みの日なんかはまれにヒーローショーとかあるが、今日は何もないだろう。
屋上についたフラスターナはすぐに駆け出した。
風が吹き荒れる。
フラスターナはそれでも構わずに屋上から身を乗り出すようにして近くの金網に張り付く。
「凄いわね。こんなに高い場所から見下ろすなんて初めてよ」
感動しように声を漏らすフラスターナはなぜか魔王のように見えた。
ここは放課後とかにカップルが景色を楽しみに来るくらいだから今の微妙な時間帯には人もいない。
カップル。
ふーむ、今の俺たちはどうなのだろう。
フラスターナの無邪気な笑みとかはなんというか桃に似ている。
つまりは妹と一緒にいるような感覚に近い。
今ならなんとなくだが、言える気がした。
「フラスターナ」
景色を楽しんでいた彼女はくるりと振り返る。
「なによ」
「1つ頼みごとがあるんだ」
「……なに?」
フラスターナは既に俺のする質問が何かわかっているようにどこか、つまらなそうに笑みで応対してくれ。
言ってはいけないような気分だ。
だけど、ここまで来たんだ。退くつもりはない。
「俺とけきゃくしてくれ」
か、噛んだー!
フラスターナはふふっと笑い、
「ねえ何かしら。今変な声が聞こえたのだけど」
どこか小ばかにしたように睨んでくる。
俺はごほんと咳払いをしてから、
「俺と契約してくれ」
今度は言い切ってやった。
普段から魔法の代わりとばかりに筋トレなどをしている俺は走りこみもよくやっていたので、このくらい屁でもなかった。
逆にフラスターナは慣れていないのか、膝に手をつき今にも倒れそうな勢いで呼吸をしている。
「どっか行きたい場所ってあるか?」
「……はぁ、はぁ。ど、どこでも、いい、わ……よ」
「俺は腹減ったな」
携帯を取り出すと時刻は12時ちょっと前。
さすが俺の腹。授業中にぐぅぐぅうるさいだけある。
ポケットから財布を取り出し、札束を確認するが、ない。
慌てて小銭を見ると500円玉が4枚入っている。
よかった。一度家に戻ろうかとも思ったけど問題なかったな。
「飯食いに行こうぜ」
「そうね。案内をお願いするわ」
俺が先に歩いていくと、横に並んだフラスターナは何かを言いたそうにもぞもぞする。
トイレだろうか。
さっきの公園に戻れば一応あるが、あまりキレイじゃない。
少し歩けばデパートなどもあるので、そこまで我慢してもらおう。
「ね、ねぇ。あんた」
「トイレか?」
「なんでよ! 違うわよ!」
「へ、へ?」
俺のさりげない気遣いが見事に間違っていたようだ。
フラスターナは俺のトイレ発言が恥ずかしかったのか頬を染め、怒るように口を開きながらこちらをジーっと見てくる。
ここまで怒られるとは思わなかった。ちょっと反省だな。
頭をぽりぽり掻いていると、フラスターナは意を決したように両目をきつく閉め、
「さっき、蹴っちゃったけど……大丈夫?」
へ?
蹴ったって……ああ、脱出のときに足から飛び降りてきたな。
なんていうか、無駄に日々痛めつけられているだけありあの程度の傷は蚊に刺される程度にしか感じていなかった。
「ああ、まあ大丈夫だな。俺、頑丈だから」
ふふんっと両腕で力こぶを作ってみせる。
フラスターナは安心したようにため息をついた後に、かぁぁと赤くなりぷいっと顔をそっぽに向ける。
「あっそ。別にあんたがどうなろうと別にいいけどね、別に」
別にばっかりうるさいなこいつ。
フラスターナは俺の横にぴたりと並び、目を子どものように輝かせてあちこちを見ていた。
食事が終わったら、好きな場所にでも連れて行こうか。
って、俺の目的ってなんだっけ?
うーん、はっ。契約のことだった。
まあ、いいか後でも。ひとまずはフラスターナの息抜きにでも付き合うか。
ハンバーガーショップにたどり着いた俺は100円で買えるハンバーガーを二つとドリンクの一番小さいサイズを購入。
それらを持って席に座る。
お昼ではあるが平日だけあってすいてるな。
休みの日になると学生がわんさかいるんだが。
「ほら、食べろ。えさだぞー」
「ぐーと平手どっちがいい?」
「悪かった。はい、ドリンク」
俺はジュースが嫌いだから麦茶なんだが。
フラスターナは期待に目を光らせ、手に持ったハンバーガーを見つめる。
「ナイフとフォークは?」
そんな高級な食材じゃありません。
「ない。これは手で持って食べるんだよ」
俺の説明を受けると、案外素直にフラスターナはハンバーガーを手に取る。
果たして、魔界のお嬢様の口に合うのだろうか。別に俺の店ではないが、少し緊張して彼女が口に運ぶのを見守る。
ゆっくりと近づき、え? ちょ、ちょっと!
俺が慌てて制止しようと思ったが、フラスターナはそれよりもさきにガブリ。
「まず……こんなもの食べてるの普段?」
フラスターナはなんていうか凄まじいボケをかましていた。
ハンバーガーを包む紙ごと食べやがった。今も噛み切れずに、むしゃむしゃしている。
もしかしたら、魔界にはこういった食べ物は存在しないのかもしれない。
前に、ハンバーガーショップが店を開くとかニュースになった気がするが。
「待て、フラスターナ。これはな、こうやってめくるんだ」
俺は自分の分のハンバーガーを手に取り、ぺらと包み紙をめくる。
するとフラスターナは自分のモノと俺のモノを見比べ、自分の犯した過ちに気づいたのかかぁぁと顔を染める。
赤面が得意なようだ。
「先に教えなさいよ! なんかあたし変な子みたいじゃない!」
「そこまで世間知らずとは思わなかったんだよ。悪い、えっと、こうやって食べるんだぞ?」
俺がハンバーガーに噛み付く様子を見せると、
「そのぐらいわかるわよ!」
なんて面倒な子なんだ。
涙目になりながら、フラスターナはハンバーガーをぺろりと食べつくした。
「まあまあ、おいしかったわね」
「そのわりに凄い勢いで食べてたな」
ストローでちゅうちゅう飲み物を飲んでいたフラスターナがキッと少し赤い目で睨んでくる。
「あんたって、バカとか言われたことない?」
「どちらかというと天才って言われたことはいっぱいあるぞ」
「そう。あんたの周りの人って見る目ないのね」
なにやら酷いことを言われた気がしないでもない。ま、いいか。
食事も終わったしこれからどうするかね。
ふと時間が気になり、携帯を開くとたくさんの着信とメール。
主に桃と邦彦からだった。
電話をしたら絶対にフラスターナのことだろう。
邦彦からのメールを試しに開くと、
『お前! 本当に何もやってないよな! フラスターナのお嬢様が行方不明なんだがっ!』
桃のメールを開くと、
『兄さん、まさかフラスターナのお嬢様と一緒にいるなんてことありませんよね?』
よし、見なかったことにしよう。
携帯の電源を切ろうか迷ったが、時間がわからなくなるのでそのままにしておく。
「それで、これからどこに行く?」
「え? どこって言われても、あたし知ってる場所なんてないわよ」
「好きな場所どこでもいいよ。俺だって別に行きたい場所があるわけじゃないし」
今日はもう、完全に彼女に付き添うと決めた。
別にやることもなかったので、俺としてはフラスターナの意思のままに、的な感じだ。
「そ、そう。ならね、別にあたしはどこでもいいのよ? だけど、ちょーっとあっちの方に行けってこう、天から声が聞こえるのよ」
「医者行くか?」
「正常よ! とにかく、あっちに行くっ」
俺の手を掴み、強引に引っ張られる。
連れてこられたのはここらでは有名なデパートだ。
「ほんと、日本って高い建物が多いわね」
「魔界はないのか?」
「そりゃ、時々ドラゴンが通るから。高いとぶつかって危険なのよ」
「恐ろしいところだな」
「こっちから危害を加えなければ何もしないわ。それより、ここって何を売ってるのよ」
「色々」
「詳しく」
デパートなんて本当に何でも置いてあるからな。
俺はとりあえず思いついた品をあげていく。
「食品とか、電化製品とか、服とか、だな」
「色々あるのね」
「だから、そう言ったじゃん。何か見たいモノとかあるのか?」
「そうね……服とかは見てみたいわね」
服がおいてある場所はっと。
俺なんて服は適当に近くの店で安いモノを買うだけだからな。
着れるのなら常識的に考えておかしくなければ何でもいい。
無地の黒シャツと白シャツを交互に着まわすのが俺の主な服装だ。
「ねぇ、あれ、エレベーターって言うのよね。乗ってみたいわ」
「そうだな。なら、屋上にでも行ってみるか?」
「そうね。別に服が見たいわけじゃないからいいわよ」
休みの日なんかはまれにヒーローショーとかあるが、今日は何もないだろう。
屋上についたフラスターナはすぐに駆け出した。
風が吹き荒れる。
フラスターナはそれでも構わずに屋上から身を乗り出すようにして近くの金網に張り付く。
「凄いわね。こんなに高い場所から見下ろすなんて初めてよ」
感動しように声を漏らすフラスターナはなぜか魔王のように見えた。
ここは放課後とかにカップルが景色を楽しみに来るくらいだから今の微妙な時間帯には人もいない。
カップル。
ふーむ、今の俺たちはどうなのだろう。
フラスターナの無邪気な笑みとかはなんというか桃に似ている。
つまりは妹と一緒にいるような感覚に近い。
今ならなんとなくだが、言える気がした。
「フラスターナ」
景色を楽しんでいた彼女はくるりと振り返る。
「なによ」
「1つ頼みごとがあるんだ」
「……なに?」
フラスターナは既に俺のする質問が何かわかっているようにどこか、つまらなそうに笑みで応対してくれ。
言ってはいけないような気分だ。
だけど、ここまで来たんだ。退くつもりはない。
「俺とけきゃくしてくれ」
か、噛んだー!
フラスターナはふふっと笑い、
「ねえ何かしら。今変な声が聞こえたのだけど」
どこか小ばかにしたように睨んでくる。
俺はごほんと咳払いをしてから、
「俺と契約してくれ」
今度は言い切ってやった。
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