Unlucky!
最終話 アンラッキー
「ここ、最上階? もう、足痛いよぉ……」
とヒメは座りこんでしまう。
俺は油断なく、周囲を見回し。
「頭を伏せろっ」
全体をなぎ払うような斬撃が飛び、ぎりぎり回避する。
他の仲間も遅れずに反応できているようだ。
「いやいや、さすがうちの会社の人間を何人も倒しただけはあるな」
拍手をしながら、空間から浮かび上がってきたのは人だ。
普通のどこにでもいそうな顔。ラスボスにしては印象が薄い。
「もっと強面の人間が出てくると思っていたんだがな」
「ならば変えてあげようか?」
男は自分の顔に触れるとゲームだけあってころころ変わっていく。
強面の男、そうなったと思ったら女へ。
最終的には元の姿に戻ったが。
「あんたがこのゲームの製作者のリーダーってところか」
「まあね。さて、ここまで来たということはゲームもエンディングに近いってことだ。オレはラスボスのアバルだ」
アバルは拍手しながらゆっくりと語っている。その様子に最初のような不意打ちをする気配はない。
俺はここまで何度か考えていた、疑問を訊ねてみる。
「エンディングを迎える前に訊きたいことがあるんだが」
「オレに答えられる範囲ならどうぞ」
「あんたはなんで、この世界をログアウト不能にしたんだ?」
考えても出なかった。
金銭的な要求をするのなら分かりやすくていい。
何を考えているのか分からないヤツが一番恐ろしい。
「私はゲームの中で一つの世界を作り出した」
アバルは何もない丸いこの階を歩く。
「だがその世界の危機を救ってくれるモノはいない。物語にしてもそうだ。途中で挫折し、そのまま終わる」
そしてこちらを見て、
「こんなに悲しいことがあるか? 本気で作ったものを途中でやめられる」
「それはあんたにも問題があるんじゃないか?」
バカかよ、コイツは。アバルの言うのはゲームを作った人間の身勝手な考えだ。
寝ぼけたことを言っている。
「消費者の求めるゲームは自分に有利な世界だ。あんたの作るゲームは俺たちのような体をある程度動かせる層にしか人気はないんだ」
「ああ。だが、こちらとしても努力すれば十分に出来るよう作っている」
「努力が嫌いなんだろ。そもそも、ゲームで努力できたら現実でも出来るだろ」
アバルのどこか悲しそうな表情を見て、俺は指を突きつける。
「安心しろよ。あんたの世界はここで終わりさ。俺が終わらせてやるよ」
「そうか……。なら、やって見せろ」
アバルは片手を振ると、瑞希たちが吹き飛ぶ。
同時に俺とアバルだけを取り込むように青い半円上の壁が生まれる。
「一対一ってことか」
「そうだ。もちろんオレの能力に改造する要素はない。お互いにスキルはない、両手に持った剣と銃だけだ」
「分かりやすくていいぜ」
俺とアバルはどちらからともなく笑い出す。
強者に出会えた感動が体を震え上がらせる。
「はぁぁぁあああ!」
「おぉぉぉおおお!」
俺が叫ぶと相手も声をあげる。
駆け出し、全力の剣を叩きつける。
打ち合い、顔が近づく。先に弾いたのは俺だ。
横に逸らすようにして、左手に持った拳銃を相手の額に打ち込もうとするが、横に弾かれる。
今度はアバルが俺を狙うが、右手で払う。
拳銃を剣で、剣を拳銃で。それぞれが相手に攻撃をさせないように零距離での攻防。
相手の戦闘スタイルは自分と同じだ。剣と銃による近、中距離戦。
「はぁっ!」
相手が声をあげ、剣を振るう。回避しながら剣を返す。
一歩も譲らない。
銃弾が空を舞い、剣が大地で踊る。
剣がぶつかり、銃弾はぶつかり落ちる。
「らぁっ!」
隙のない攻撃の中でようやく一つのほころびを見つけた俺は、穴をつくようにけりを放つ。
相手が顔を歪め背後に飛び、すぐに態勢を立て直して銃弾を放つ。
拳銃の位置にあわせて銃弾を放ち、打ち落とす。
アバルの手を狙うように銃弾を撃ち、相手も同じように放つ。
お互いの銃弾はすれ違い、そして。
「つぅっ!」
痛みを伴い俺の手から拳銃が離れる。
アバルの手を見ればそこにもない。
だが剣がまだある。両手で持ち、すべての力を乗せるように振るう。
何度も打ち合っていると、手が痺れてくる。
今だけはたぶん、現実と変わらない状態だ。この空間がそうなるように設定されているのだろう。
面白い。
現実の身体なら負けるわけにはいかない。
手が痺れようが構わず打ち合う。
やめたほうが負けるのは分かっている。
疲労が蓄積する。痛みも少しずつ溜まっていく。
先に崩れたのは相手だ。
最後に振るった一撃により、双方の剣が飛ぶ。
だが相手は膝をつき、限界の様子だ。
「どうやら、ここまでみたいだな」
アバルにも明らかな疲労が見える。俺はそれでもまだまだ余裕だ。
顎へと流れる汗を拭う。
「そう、だな。さすがに、強い、な」
アバルは肩で息をしながら、それでも立ち上がる。
「最後に残るのは身一つだな」
アバルはそう呟きながら拳を構える。ボクサーに似ているが、明らかに違う。
「武器がなくて負けましたなんて、悲しすぎるよな」
俺は腰に左手をあて、挑発するように片手でくいくいとアバルにむける。
それを見て不敵な笑みをこぼし、そのまま大声で笑いあげる。
「最後に強いヤツに出会えてよかった」
「もう負け発言かよ。やる気がそがれるぜ」
負けが分かっているような口ぶりにイラッとしたが、俺も負けるつもりはない。
「はっ!」
アバルが鋭い拳を放ち、俺はそれを避けながら顔面に拳を叩きつける。
それで終わりだ。現実なら鼻の骨が折れているかもしれない威力をくらったアバルは倒れる。
「あんたとは生身の体で戦いたかったぜ」
仮想世界の甘い環境ではない、現実世界で。
「それは無理だな。オレはこの世界とともに朽ちる」
「そうかよ。大好きなんだな、俺にはわからないね」
ゲームは好きだが、死ぬのが仮想世界なんて嫌だ。
「分からなくていいさ。楽しかったよ」
アバルは口元を緩めて、目を閉じた。
ゆっくりと青い壁が消えるのを確認しながら、
「まあ、この世界は俺にとっても色々貴重な経験だったな。楽しかったぜ」
そういい終わると同時に瑞希たちがこちらにやってくる。
「終わったのね」
壁の外から一部始終を見ていたが、瑞希はそう呟いていた。
瑞希の発言と同時に、足場から無数の光が浮かび上がる。
「ああ、終わりだ。これでつまらない現実にようやく戻れるんだ」
「……おなか、すいた」
「おう、現実に戻ったら体重落ちてるだろうから食いまくっとけ」
「はっ! ペットに餌あげないとっ! 使用人はちゃんとあげたかなぁ……」
「相変わらずのん気だなヒメ」
「師匠っ、現実に戻ったら手合わせしなさいよ」
「現実に戻ったら師匠はやめろ」
「ふふん、よくやったのだ、ソラソラ。それでは現実に戻ったら遊びにでも行きましょ」
「なんで上から目線なんだよ。まあ、いいぜ」
一通り会話をすると、脳が揺れるような感覚と共に倒れる。
それからコタツにもぐったような暖かさが体を包み、俺は瞳をゆっくりと閉じた。
「知らない天井だ」
目を覚まして最初の感想はそれだった。
体を起こすと、体に何かがついている。栄養でも補給していたのだろうな。
病院のようだ。
俺は立ち上がり、体にまとわりつくうざい物体を引き離す。
体はふらつくが、動けないほどではない。何年もあっちにいたとかじゃなくてよかった。
見舞いなど誰もいないだろうと思っていたが、入り口が開く。
「親父、久しぶりだな」
「こっちでは一週間ほどしか経っていないがな。それで、ゲーム世界はどうだった?」
「悪くなかったな。うざい親父もいないしな」
「それはよかった。小鳥遊様も今目を覚まされた。お前にしては中々よくやった」
それだけを言い残して親父は去っていった。
何しに来たのだろうか。
瑞希に会いに行ってみたいが、まだ力もうまくだせない。
戻るのも億劫だった俺はその場でぶっ倒れるように眠った。
誰かが運んでくれるだろう。
VR事件が起きてからもう大分経ち、夏休みも終わりだ。VRによる事件もすでに治まりつつあり、俺の体も本調子に戻った。
宿題もどうにか終わり、途中瑞希たちと一緒に海に行ったり、祭りに行ったりした。
現実世界に戻ったにもかかわらず、瑞希たちと関わるのは面倒ではあったが。
まあ、楽しい夏休みだったな。これだけ素直に笑えた夏休みは初めてかもしれない。
そんな楽しい夏休みを送っていたからか、俺も寝ぼけていたのかもしれない。
今日はもう夏休みじゃない。
登校一日目。俺は寝坊した。
(よし、今日は休もう)
登校時間は9時まで。
すでに10時だ。
昨日店で見つけた新作のVR恋愛ゲームにはまってしまい時間を忘れてやっていた。
寝たのは午前の3時くらいだったと記憶している。
それにしても、まさか一日間違えていたなんて。
夏休みを勝手に一日増やして計算していた俺のミスだ。
さて、と制服に袖を通し拳銃、ナイフを装備する。
このまま本当に休むつもりはない。なんとなく、真面目に学校に通うのも悪くないと思えるようになった。
鞄に教科書などをつめてから、家をでる。
今の時間は微妙だからか人通りの少ない街を歩く。
とはいえ、駅が近くにあることもありそれなりに活気付いている。
そんな場所を鼻歌交じりにのん気に歩いていると、
「……番号42740、赤羽空栄、発見」
「あぁ?」
いきなり誰かに声をかけられて振り返る。
そこにはこちらを見て微動だにしない人間がいた。人、か? いや、人じゃない。これはロボットだ。
かなり精巧に作られており、一瞬分からないが瞬きもなしにこちらを見続けるのはロボットくらいだ。
ロボットはこちらに指を向け、
「これより、排除にかかります」
駆けた。人間など目ではないスピードで迫り腹部を殴られる。
寸前に手を入れてガードする。俺は久々の強敵に目を光らせながら、ロボットの肩を掴み引きちぎる。
血などはでない。精々オイルくらいだろう。
複雑に入り組んだ線がロボットの肩の辺りに出る。
「……右肩を負傷。戦闘の継続――」
「黙れよっ」
拳銃を抜き去り、両目と額を打ち抜くとロボットは後ろに倒れる。
周りにいた民間人はこちらを見て驚くが、俺の制服を見てすぐに安堵の息を漏らす。
同時に、近くの家電量販店に置かれているテレビに気になる文字が出ている。
「おいおい、こりゃなんだよ」
そのテレビを囲むように人が集まり、俺は思わず呟く。
『現在、日本中でロボットが暴走しています。さらに戦闘用ロボットまでも投入されていて、大規模なテロ行為です。民間の方はすぐに避難を――』
それ以上は聞いても意味がない。
「まったく、アンラッキーだぜ」
同時に楽しさがこみ上げてくるのを抑えられない自分もいた。
とヒメは座りこんでしまう。
俺は油断なく、周囲を見回し。
「頭を伏せろっ」
全体をなぎ払うような斬撃が飛び、ぎりぎり回避する。
他の仲間も遅れずに反応できているようだ。
「いやいや、さすがうちの会社の人間を何人も倒しただけはあるな」
拍手をしながら、空間から浮かび上がってきたのは人だ。
普通のどこにでもいそうな顔。ラスボスにしては印象が薄い。
「もっと強面の人間が出てくると思っていたんだがな」
「ならば変えてあげようか?」
男は自分の顔に触れるとゲームだけあってころころ変わっていく。
強面の男、そうなったと思ったら女へ。
最終的には元の姿に戻ったが。
「あんたがこのゲームの製作者のリーダーってところか」
「まあね。さて、ここまで来たということはゲームもエンディングに近いってことだ。オレはラスボスのアバルだ」
アバルは拍手しながらゆっくりと語っている。その様子に最初のような不意打ちをする気配はない。
俺はここまで何度か考えていた、疑問を訊ねてみる。
「エンディングを迎える前に訊きたいことがあるんだが」
「オレに答えられる範囲ならどうぞ」
「あんたはなんで、この世界をログアウト不能にしたんだ?」
考えても出なかった。
金銭的な要求をするのなら分かりやすくていい。
何を考えているのか分からないヤツが一番恐ろしい。
「私はゲームの中で一つの世界を作り出した」
アバルは何もない丸いこの階を歩く。
「だがその世界の危機を救ってくれるモノはいない。物語にしてもそうだ。途中で挫折し、そのまま終わる」
そしてこちらを見て、
「こんなに悲しいことがあるか? 本気で作ったものを途中でやめられる」
「それはあんたにも問題があるんじゃないか?」
バカかよ、コイツは。アバルの言うのはゲームを作った人間の身勝手な考えだ。
寝ぼけたことを言っている。
「消費者の求めるゲームは自分に有利な世界だ。あんたの作るゲームは俺たちのような体をある程度動かせる層にしか人気はないんだ」
「ああ。だが、こちらとしても努力すれば十分に出来るよう作っている」
「努力が嫌いなんだろ。そもそも、ゲームで努力できたら現実でも出来るだろ」
アバルのどこか悲しそうな表情を見て、俺は指を突きつける。
「安心しろよ。あんたの世界はここで終わりさ。俺が終わらせてやるよ」
「そうか……。なら、やって見せろ」
アバルは片手を振ると、瑞希たちが吹き飛ぶ。
同時に俺とアバルだけを取り込むように青い半円上の壁が生まれる。
「一対一ってことか」
「そうだ。もちろんオレの能力に改造する要素はない。お互いにスキルはない、両手に持った剣と銃だけだ」
「分かりやすくていいぜ」
俺とアバルはどちらからともなく笑い出す。
強者に出会えた感動が体を震え上がらせる。
「はぁぁぁあああ!」
「おぉぉぉおおお!」
俺が叫ぶと相手も声をあげる。
駆け出し、全力の剣を叩きつける。
打ち合い、顔が近づく。先に弾いたのは俺だ。
横に逸らすようにして、左手に持った拳銃を相手の額に打ち込もうとするが、横に弾かれる。
今度はアバルが俺を狙うが、右手で払う。
拳銃を剣で、剣を拳銃で。それぞれが相手に攻撃をさせないように零距離での攻防。
相手の戦闘スタイルは自分と同じだ。剣と銃による近、中距離戦。
「はぁっ!」
相手が声をあげ、剣を振るう。回避しながら剣を返す。
一歩も譲らない。
銃弾が空を舞い、剣が大地で踊る。
剣がぶつかり、銃弾はぶつかり落ちる。
「らぁっ!」
隙のない攻撃の中でようやく一つのほころびを見つけた俺は、穴をつくようにけりを放つ。
相手が顔を歪め背後に飛び、すぐに態勢を立て直して銃弾を放つ。
拳銃の位置にあわせて銃弾を放ち、打ち落とす。
アバルの手を狙うように銃弾を撃ち、相手も同じように放つ。
お互いの銃弾はすれ違い、そして。
「つぅっ!」
痛みを伴い俺の手から拳銃が離れる。
アバルの手を見ればそこにもない。
だが剣がまだある。両手で持ち、すべての力を乗せるように振るう。
何度も打ち合っていると、手が痺れてくる。
今だけはたぶん、現実と変わらない状態だ。この空間がそうなるように設定されているのだろう。
面白い。
現実の身体なら負けるわけにはいかない。
手が痺れようが構わず打ち合う。
やめたほうが負けるのは分かっている。
疲労が蓄積する。痛みも少しずつ溜まっていく。
先に崩れたのは相手だ。
最後に振るった一撃により、双方の剣が飛ぶ。
だが相手は膝をつき、限界の様子だ。
「どうやら、ここまでみたいだな」
アバルにも明らかな疲労が見える。俺はそれでもまだまだ余裕だ。
顎へと流れる汗を拭う。
「そう、だな。さすがに、強い、な」
アバルは肩で息をしながら、それでも立ち上がる。
「最後に残るのは身一つだな」
アバルはそう呟きながら拳を構える。ボクサーに似ているが、明らかに違う。
「武器がなくて負けましたなんて、悲しすぎるよな」
俺は腰に左手をあて、挑発するように片手でくいくいとアバルにむける。
それを見て不敵な笑みをこぼし、そのまま大声で笑いあげる。
「最後に強いヤツに出会えてよかった」
「もう負け発言かよ。やる気がそがれるぜ」
負けが分かっているような口ぶりにイラッとしたが、俺も負けるつもりはない。
「はっ!」
アバルが鋭い拳を放ち、俺はそれを避けながら顔面に拳を叩きつける。
それで終わりだ。現実なら鼻の骨が折れているかもしれない威力をくらったアバルは倒れる。
「あんたとは生身の体で戦いたかったぜ」
仮想世界の甘い環境ではない、現実世界で。
「それは無理だな。オレはこの世界とともに朽ちる」
「そうかよ。大好きなんだな、俺にはわからないね」
ゲームは好きだが、死ぬのが仮想世界なんて嫌だ。
「分からなくていいさ。楽しかったよ」
アバルは口元を緩めて、目を閉じた。
ゆっくりと青い壁が消えるのを確認しながら、
「まあ、この世界は俺にとっても色々貴重な経験だったな。楽しかったぜ」
そういい終わると同時に瑞希たちがこちらにやってくる。
「終わったのね」
壁の外から一部始終を見ていたが、瑞希はそう呟いていた。
瑞希の発言と同時に、足場から無数の光が浮かび上がる。
「ああ、終わりだ。これでつまらない現実にようやく戻れるんだ」
「……おなか、すいた」
「おう、現実に戻ったら体重落ちてるだろうから食いまくっとけ」
「はっ! ペットに餌あげないとっ! 使用人はちゃんとあげたかなぁ……」
「相変わらずのん気だなヒメ」
「師匠っ、現実に戻ったら手合わせしなさいよ」
「現実に戻ったら師匠はやめろ」
「ふふん、よくやったのだ、ソラソラ。それでは現実に戻ったら遊びにでも行きましょ」
「なんで上から目線なんだよ。まあ、いいぜ」
一通り会話をすると、脳が揺れるような感覚と共に倒れる。
それからコタツにもぐったような暖かさが体を包み、俺は瞳をゆっくりと閉じた。
「知らない天井だ」
目を覚まして最初の感想はそれだった。
体を起こすと、体に何かがついている。栄養でも補給していたのだろうな。
病院のようだ。
俺は立ち上がり、体にまとわりつくうざい物体を引き離す。
体はふらつくが、動けないほどではない。何年もあっちにいたとかじゃなくてよかった。
見舞いなど誰もいないだろうと思っていたが、入り口が開く。
「親父、久しぶりだな」
「こっちでは一週間ほどしか経っていないがな。それで、ゲーム世界はどうだった?」
「悪くなかったな。うざい親父もいないしな」
「それはよかった。小鳥遊様も今目を覚まされた。お前にしては中々よくやった」
それだけを言い残して親父は去っていった。
何しに来たのだろうか。
瑞希に会いに行ってみたいが、まだ力もうまくだせない。
戻るのも億劫だった俺はその場でぶっ倒れるように眠った。
誰かが運んでくれるだろう。
VR事件が起きてからもう大分経ち、夏休みも終わりだ。VRによる事件もすでに治まりつつあり、俺の体も本調子に戻った。
宿題もどうにか終わり、途中瑞希たちと一緒に海に行ったり、祭りに行ったりした。
現実世界に戻ったにもかかわらず、瑞希たちと関わるのは面倒ではあったが。
まあ、楽しい夏休みだったな。これだけ素直に笑えた夏休みは初めてかもしれない。
そんな楽しい夏休みを送っていたからか、俺も寝ぼけていたのかもしれない。
今日はもう夏休みじゃない。
登校一日目。俺は寝坊した。
(よし、今日は休もう)
登校時間は9時まで。
すでに10時だ。
昨日店で見つけた新作のVR恋愛ゲームにはまってしまい時間を忘れてやっていた。
寝たのは午前の3時くらいだったと記憶している。
それにしても、まさか一日間違えていたなんて。
夏休みを勝手に一日増やして計算していた俺のミスだ。
さて、と制服に袖を通し拳銃、ナイフを装備する。
このまま本当に休むつもりはない。なんとなく、真面目に学校に通うのも悪くないと思えるようになった。
鞄に教科書などをつめてから、家をでる。
今の時間は微妙だからか人通りの少ない街を歩く。
とはいえ、駅が近くにあることもありそれなりに活気付いている。
そんな場所を鼻歌交じりにのん気に歩いていると、
「……番号42740、赤羽空栄、発見」
「あぁ?」
いきなり誰かに声をかけられて振り返る。
そこにはこちらを見て微動だにしない人間がいた。人、か? いや、人じゃない。これはロボットだ。
かなり精巧に作られており、一瞬分からないが瞬きもなしにこちらを見続けるのはロボットくらいだ。
ロボットはこちらに指を向け、
「これより、排除にかかります」
駆けた。人間など目ではないスピードで迫り腹部を殴られる。
寸前に手を入れてガードする。俺は久々の強敵に目を光らせながら、ロボットの肩を掴み引きちぎる。
血などはでない。精々オイルくらいだろう。
複雑に入り組んだ線がロボットの肩の辺りに出る。
「……右肩を負傷。戦闘の継続――」
「黙れよっ」
拳銃を抜き去り、両目と額を打ち抜くとロボットは後ろに倒れる。
周りにいた民間人はこちらを見て驚くが、俺の制服を見てすぐに安堵の息を漏らす。
同時に、近くの家電量販店に置かれているテレビに気になる文字が出ている。
「おいおい、こりゃなんだよ」
そのテレビを囲むように人が集まり、俺は思わず呟く。
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