Unlucky!

木嶋隆太

第五十話 泣いちまいそうだ





「ウィンドドラゴン討伐?」


 フィリアムと一度別れた俺は瑞希の連絡を受けて、第一の街の食堂にやってきていた。
 俺が到着するなり、手を掴んで近くの席に座り、ウィンドドラゴンの名前をあげたのだ。


 俺の疑問に答えるように瑞希が話し始める。


「現在ウィンドドラゴンだけが残っているのは知っている?」


「そういえば、フィリアムがそんなことを言ってたな」


「ウィンドドラゴンは空中都市スカイの神殿にいるわ。居場所がわかっているにもかかわらず、なぜか討伐できない。理由は分かる?」


 空中都市スカイ。
 俺が解放したエリアだ。


 確かおっちゃんが言ってたな、このエリアはレベルが高いって。


「単純に」


「違うわ。戦える人間がいないのよ」


「怖くてか?」


「地形的によ」


「なんだ、マグマの中で戦ったりでもするのか?」


「それはファイアドラゴンよ」


 マジかよ。どんな過酷な戦場だ。
 瑞希は腕を組み、


「敵は空なの。他のドラゴンは飛ぶことはなかったけど、ウィンドドラゴンはずっと空を飛んでいるの。攻略するために、様々なギルドが銃、弓、魔法を使い戦闘を行ったこともあるけど倒しきるほどのダメージは与えられなかったのよ」


「ご苦労なことだな」


「そして、気づいたのよ。空中戦闘を得意とする職業が必要ってことにね。現在、見向きもされていなかった空戦士のジョブを持っている人をギルドは探し出して育成しているわ」


「なるほどね」


 恐らくはそれほど人数のいない職業。現在トップギルドは募集して、空戦士の職業を選んだ人間のレベルアップを手伝う。


 初めからちゃんとパーティー組んでやればよかったのにな。


「今まで私たちはあまりドラゴン討伐に力を出せなかったわ。だけど、今私たちにはソラというカードがある」


「誰が手伝うなんて……」


「このドラゴンを討伐すれば、この世界から解放されるまであとちょっとでしょ」


「ああ」


「これ以上この世界にとどまるのはよくないわ」


「まあな。確か、ゲーム世界に一生いたいとか叫んでる人間がいたよな」


 事実見てきた、フィリアムと一緒に。


「ええ……」


 瑞希も知っているようだ。このゲームの世界は現実に比べればラクだ。
 自分の好きなようにモンスターを狩り、好きな食べ物を食べる。


 レベルをあげ、武器、防具を購入して。そうやっていくらでも強化していける。
 現実と違い、努力をすればある程度の強さが約束された世界。


 とはいえ、だ。現実の身体だって永遠に持つわけじゃない。いつかは朽ち果てるのだから、


「さっさと戻ったほうがいいだろうな」


「そうね。いつまでもこの世界にいるのはダメよ」


 長い夢も終わりにしたほうがいい。


「ウィンドドラゴンは空中都市」
 俺は立ち上がり、食堂の出口に向かう。


「どこに行くの? 一緒にパーティーは組みたくないのかしら?」


「組むさ。だけどその前に、一人で様子でも見てくる。もしかしたら倒してくるかもしれないけどな」


「そう。まあ、さすがに一人は無理だと思うけれど、情報収集ならアキ兄一人のほうがいいかもしれないわね。攻撃パターンをなるべく掴んできて」


「勝てないのが前提かよ」


「まあ、勝てるのなら勝ってもいいわよ」


 瑞希に返事をする代わりに微笑む。
 それから食堂を出て、ギルドへ。


 魔法陣に乗り、移動した場所は天空都市スカイ。
 天空都市とは言っても街の造りは基本的に変わらない。


 俺が初めて来たときに比べて、人通りが多い。
 プレイヤーのレベルもここを攻略するまでになったようだ。


 すれ違うプレイヤーたちを尻目に俺は地図に表示される神殿を目指す。
 立派な神殿の中に入ると、大きな魔法陣がある。


『ウィンドドラゴンの根城に移動しますか?』


 魔法陣の上に乗るとそんなメッセージが浮かびあがる。
 わかりやすい。


 YESを選択すると景色が変わる。


 そして、ウィンドドラゴンだろう。
 ダンジョンの中央には緑色のドラゴンが座ってこちらを睨んでいる。


「人間よ。我に挑むとは哀れだな」


「こいつが、最後、ね」


 レベルは48。ヤバイほど強いわけでもない。
 ウィンドドラゴンは翼を羽ばたかせながら、空中へ。


 すでに戦闘は始まっている。まずは先制攻撃するために、駆け寄ると。
 ウィンドドラゴンが風の槍を吐く。


 不意打ちをなんとか横に避けたが、ウィンドドラゴンは空中に上がりきってしまう。
 高い。


 さすがにジャンプスキルなしでは戦闘の続行は不可能だ。
 俺はスキルを発動させて、ウィンドドラゴンを追う。


 足場を作り出して、そこからウィンドドラゴンに肉薄する。
 すれ違いざまに剣をかすめる。


 ウィンドドラゴンは空中にいるが、空中での動きは大きい。
 だからといって油断はできない。足場を作って着地すると、風の槍が飛んでくる。


 剣で弾こうとすると、着弾と同時に小さな爆発を起こす。


「なっ!?」


 風の刃が周囲に沸き起こり、身体を傷つける。HPが半分近くまで減る。ふざけやがる。
 足場は破壊されなかったが、俺はすぐにジャンプスキルを発動させフェイントを入れながら、ウィンドドラゴンの背中に飛びかかるが避けられる。


 ウィンドドラゴンは大きく後退して、風の玉を出現させる。
 動きは遅い。だが、どのような攻撃を見せるのかはわからない。


 俺は距離を取るが、玉は追尾してくる。
 銃弾を放ってみるが、攻撃は吸収される。


 一定時間がして爆発した。


 丸い風の玉が一番弱い攻撃のようだ。それでも、直撃すればやられる。
 シビアな攻撃だな。


 ウィンドドラゴンが翼を強く動かす。
 発生した風に飛ばされ、足場を攻撃はダメージはないが吹き飛ばされる。


 慌ててスキルを使って空中に戻り、銃弾を放つ。
 足場を作り、安定を図る。コイツ、マジで強いな。


 敵のHPは全然減らない。勝てる気がしない。


 遠くからの攻撃に痺れを切らすようにウィンドドラゴンがタックルしてくる。くそ速い。
 ギリギリ飛び上がり、直撃はまぬがれたが翼にかすってしまう。


 そのまま爪で前を切り裂かれる。
 剣で受けるが、地面に叩きつけられる。


 HPは落下ダメージも加わり、ほとんどない。


「こいつは、強えな」


 ウィンドドラゴンは余裕と言った様子で、滞空しながら口元に風の塊を集める。
 レーザーのような魔力砲が放たれる。


 そうして、俺はウィンドドラゴンのブレスに直撃し、死んだ。




「さて、何が原因だったと思う?」


 死んで目を覚ますと、どこかの地面に寝転がっていた。
 目をあけてすぐに瑞希の顔が見えた。


「ゲームバランスの崩壊だな」


「一人で挑んだからでしょ」


 なぜか死んだ先に呆れ顔の瑞希がいた。


「なんでここがわかったんだ?」


「今まで死んだことなかったの、アキ兄?」


「仲間が死んだことはあったな」


「……仲間なんていたの?」


「ああ」


 おっちゃんだ。あの人死んでも夢落ちで終わらせるから死んでいないのかもしれないが。


「死んだ後に復活する場所は近くの街の決まった場所なのよ。一人じゃ無理ってわかったわよね?」


「もしかしたら、無理かもしれないな」


 俺は顔をそっぽに向ける。


「諦め悪いわね、一緒にやるわよ。さすがに、アキ兄でも一人じゃ無理でしょ?」


 瑞希が腰に手を当て呆れたように息を吐く。


「まあ、レベルが全然足りていないのはわかったな。だからって人数増やしてどうなるんだ?」


 ソロよりも人数があがれば多少は難易度があがる。
 まあ、ソロよりは全然ラクという話だが。


「今私が用意できる最強のメンバー」


 瑞希がふふんと笑うと、


「アキタカぁー! 探したよっ」


 ヒメが飛びついてくるのを明後日の方向に投げつける。


「……やほー」


 オレンジが小さく片手をあげる。


「師匠、昨日振りね」


「だから、それはやめろって」


 フィリアムが相変わらずロールプレイの状態でやってきた。


「ふふん、呼ばれて参上、ぷにゃんぷにゃんちゃんです。巷で有名の鍛冶師とはそう、私のことだ、ふははー」


 ピースを浮かべ、不敵に笑っているのは葵。


「なんでお前までいるんだよ」


「以前スイスイさんと会話したことありましたでしょ? なんか、その時に覚えてて連絡してくれたんですよ。いやいや、あなたのやられた姿を見れて最高です」


 葵に対して、俺は肩を竦める。


「六人パーティー。最強でしょ?」


「ああ、文句なしにな」


(俺にとっての苦手な連中5人でもあるんだがな……)


 一体誰に対して最強なのだろう。


(泣いちまいそうだぜ)



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