Unlucky!

木嶋隆太

第四十七話 なんとなく助けたい



『戦い方を教えなさいです!』


 そんなタイトルのメールがヒメのメールに埋まるようにして届いていた。
 中を開くと、フィリアムだ。


 用件は、『強くなりたいからあたしに戦い方を教えろ』とタイトルそのままだ。
 返事は出しておくか。


 ヒメのようになる前に、フィリアムにはまともな状態でいてほしい。


『俺は他人にモノを教えるのは苦手だ』


 メールを送ってから朝食を食べて、宿を出る。


『ねぇ、みかんちゃんとクエストに行ったの? ずるいっ』


 おっと開くメールを間違えた。
 俺はすぐにそれを消去してからフィリアムから届いたメールを見る。


『あんたが戦ってる様子を見せてです。今どこよです』


 なるほど。見て覚えるってことか。
 フィリアム、か。


 少し訊きたいことがある。
 なぜそこまで強くなりたいのか。


 オレンジを敵視していた、強さに嫉妬していたフィリアム。
 ゲーム世界でも楽しむことよりも自分が強くなることを優先している。


 彼女は一体何がしたいのか。


『戦いを教えるつもりはない。俺も聞きたいことがある場所は――』


 メールをしてから指定した場所に向かう。
 すでにフィリアムがいた。


 わりと近くにいたようだ。
 腰に手を当て、フィリアムはつまらなそうに立っていた。


 その姿はゲームの世界なのにどこか幻想的だなと感じた。
 フィリアムがこっちを見てから、近寄ってくる。


「遅いわよっす」


「メールのときから思ってたけどなんだその口調は」


「い、一応教えてもらう立場だから、敬語を使ってるのよ! ……っす」


「別にいい。むしろ苛立ってくる」


「……その発言にイラっと来たけど、敬語はやめるわ」


 あれで敬語だと思えるこいつの脳はちょっとアレかもしれない。
 俺がここに来た目的は一つだけだ。


「お前はなんで強くなりたいんだ?」


 オレンジのこともあり、多少はどうにかしてやりたいと思っていた。
 オレンジも表には出さないが、結構気にしているはずだ。


「……話さないといけない?」


「無理に聞きだすつもりはない。それじゃあ、聞きたかったことはそれだけなんだ」


 俺が片手をあげて去ろうとすると、手を掴んでくる。


「話したら、手伝ってくれるのね?」


 上目遣いに睨んでくる。


「いや、そんなことは言ってないが」


 どれだけ自分に都合のいい解釈をしているのだろう。


「なら、話すから手伝いなさい」


「俺が聞きたいというよりもオレンジが悲しんでたぞ、フィリアムが私を嫌っているかもしれないって」


「……それは、その。嫌いじゃないのよ。でも、あの子、生まれたときから天才的に強いってだから、ちょっとその……」


「嫉妬か、醜いヤツめ」


 ぶちっと何かが切れるようにフィリアムが睨んでくる。


「嫉妬じゃないわよっ、うっさいわね! あたしは昔誘拐されたことがあるの、それでもっと自分が強かったらどうにかできたんじゃないかって思って、あたしは強くなりたかったの! わかったわよね、これでいい!? 満足!? わかったらちゃっちゃっと手伝ってください、お願いっ!」


 フィリアムは顔を真っ赤にして腕をぶんぶか振り回して一気にまくし立てた。
 あまりの叫びに俺は、


「お、おう」


 驚いて曖昧に返事をしてしまった。


「やたっ。……別に喜んでないから」


 一度小さくガッツポーズを作って嬉しそうな声をあげたのを聞き流せと。


「喜んでないなら教えるつもりはねえよ」


「嘘です、喜んでるわよっ! 誰が喜んでないなんて言ったのかしらねっ」


 フィリアムがよくわからない。
 生意気なヤツだと思っていたのだが、案外そうでもないのかもしれない。


 面白そうなヤツだと俺は目を光らせるようにして、一つだけ伝えておく。


「ただし、教えるのは苦手だ。戦ってる様子を見て、簡単に口を出すだけだぞ」


「別に、あたしが師匠の動きを見て勝手に覚えるからいいわよ」


「ちょい待ち。師匠ってなんだ?」


「技能とかを教える存在じゃない?」


「言葉の意味を聞いてんじゃねえ。なんで師匠って呼んでんだよ」


 フィリアムはそんなの決まってるじゃないと胸を張る。
 おお、意外とあるじゃないか。瑞希とヒメにもわけてあげたらどうだろうか。


「あたし、師弟関係に憧れてたのよ」


「俺が師匠でもいいのか? なら、もっと敬え。足とか舐めろ」


「やだ、気持ち悪い。弟子っていつか師匠を越えるじゃない。師匠を殺して、旅に出る、みたいな」


「俺を殺す気満々ということかよ」


 フィリアムはふふんと腕を組んでいる。
 パーティーを組み、それから、どこの狩り場に向かうか考える。


 とはいえ、俺は全然わからないのでフィリアムに任せよう。


「どこの狩り場がいいんだ?」


「あたしは45だけど、あんたは?」


「同じだ」


「だったら、ゾンビの狩り場に行きましょう」


「場所を知らないから案内を頼むぞ、弟子よ」


「ねえ、その弟子って言い方やめなさいよ、ムカつく」


「なら、お前もやめろっ、敬ってもいねえのに師匠って言うんじゃねえ」


「敬ってるわよっす、師匠」


 ダメだこりゃ。


 フィリアムの案内に従い街の外に出る。第三の街を南に下っていくとどんどん景色が悪くなっていく。
 そして荒廃したフィールドには毒の沼のようなものも出現する。


 途中魔物が襲ってきたが、適当にやり過ごす。
 フィリアムは戦闘中でも武器を切り替えるスキルを利用した戦闘だ。


 弾が切れたら二丁拳銃、ショットガン、アサルトライフルに武器を切り替え、戦闘が終了したらすべて再リロードをするといった戦闘スタイルだ。


 そこにスキルも組み合わさり、連戦が続くとナイフなども使用する。
 動きはいいのだが、銃を扱うのは不慣れなのか、または変なクセでもついているのか、撃つときは変な態勢で撃つのでほとんど銃弾が敵に当たらない。


 ショットガンが唯一マシだが、近くにいる俺にまで当たり一時的に行動不能にさせられてしまう。
 怖いので、ワンディフェンスはOFFにしてある。


 フィールドを進むと、洞窟が見える。中に入ると魔法陣がありワープした。


「ここが、ゾンビがうごめく狩り場。中々効率がよくて人気ね」


 フィリアムの話を聞き、俺は道中で気づいたことを伝える。


「まずだな、二丁拳銃やめろ」


 フィリアムはあからさまに嫌そうな顔をする。


「お前、一丁がどうかは知らないけど二丁拳銃だとほとんど当たってないぞ。慣れるまではやめておけ」


「……だってこっちのほうがかっこいいじゃない」


「戦いにかっこよさを求めるなよ。ためしに一つにして、それで、あとはちゃんと狙いをつけてみろ」


 フィリアムはしぶしぶと言った様子で拳銃をホルスターに仕舞い、右手で一つ持つ。


「両手でちゃんと狙いをつけろよ」


「わ、わかってるわよ」


 片手でやろうとしていたので、さらに忠告すると地団駄を踏む。
 子どもだ。


 それからダンジョンを歩き、敵が来るのを待つ。
 オークゾンビ、リザードマンゾンビ、マミーゾンビの三体がやってきた。


 どれも腐食した身体がリアルで気持ち悪い。
 まずはフィリアムの練習のために、二体をサクッと倒し、一番動きの遅いオークゾンビを残す。


「ほら、やってみろ」


 指示を出すと、フィリアムが戦闘態勢に入る。


 近づいてきたオークゾンビの身体に撃つ。
 敵がでかいこともあり問題なく当たる。


「少し離れて撃ってみろ」


 オークゾンビが走ってきたので、俺が軽く攻撃して注意を引く。
 フィリアムがバックステップしてから再度拳銃を構える。


 二丁拳銃に比べるとかなり当たっている。
 オークゾンビが怯んだところで、俺が銃と格闘技で仕留めた。


「わかったか?」


「……そりゃ、わかってるわよ。けど、二丁拳銃のほうが強いじゃない。師匠だってうまく使いこなしてるし」


 だから師匠はやめてくれよ。なんか背中の辺りがむずむずするから。
 新たな魔物の軍団が現れ、フィリアムが突っ込もうとするのを俺は止める。


「ちょっと待ってくれ。俺も試したいことがある」


「え、何よ。あたしが戦いたくてうずうずしてたのにっ」


 確かになんだか身体がうずうずってしている。
 だが俺は一睨みして、フィリアムを引かせる。


 試したかったのは新たなスキルだ。


 俺は新たに取得したグラウンドスカイを発動させる。フォースジャンプが一定レベルになり解放され、フォースジャンプから進化もできるのだが、ジャンプスキルを失うことになるのでやめた。


 空中に僅かに光を放つ透明に近い足場が出現する。


 人が3人くらいは乗れそうで、それなりに長い。


「それって何かのスキルなの?」


 みたことがないのか、訝しんでいる。


「空戦士専用のスキルのはずだ」


 スキルの説明を見た限り、この足場に乗っている間は空中扱いになるので空中攻撃による威力アップも見込める。


 地上からわずか数センチだけの位置にスキルを使ってやってくる敵を銃で痛めつけると確かにいつもより早い気がする。


 それから昼の時間まで狩りをする。
 一度昼飯を食べに行かなければならないので、俺たちは戦いを中断する。


「帰りはどうするんだ?」


 ダンジョンの近くには転移石があるので、戦闘を行うつもりがないのならさっさと戻るほうが時間短縮になる。


「もうちょっと戦いたいわね」


 肩を回すフィリアムは暴れたりないようだ。昼飯を食べに戻るだけなので、それでもいいだろう。
 俺も別に早く戻るつもりはない。


 道中、またかっこよさを求めるような態勢で銃を使おうとしていたフィリアムに注意を飛ばしながら南の腐敗エリアを抜ける。


 フィールドを歩いていると、いつもとは違う光景を目撃する。


 魔物と人間が戦っているのではなく、人間と人間。
 つまりはプレイヤーキラーだ。


 フィリアムも気づいたのか、敵がいる方向を指差す。


「アレって、初心者狩りよね」


「初心者じゃないだろ、このエリアは適正レベルが40くらいなんだろ?」


 とはいえ、一方的なのは変わりない。
 六人パーティーが二つ。合計十二人で一つのパーティーに襲い掛かる。


 迎え撃とうとしているパーティーは六人。
 数に倍の違いがあるのだ。


「そうよ。でも、アレって酷いわよ。自分より弱い人間を狩ってレベルをあげたり、アイテムを手に入れたり」


 弱いものいじめは何が楽しいのかわからない。


 強い相手と戦うから、戦いは楽しいのだ。
 俺からしたらどうでもいいが。人それぞれ自由に楽しめるのがゲームだ。


 特に知り合いがどうこうされてるわけでもないしな。


「無駄な正義感だな。ゲームの世界で」


「……あんたって、襲われる恐怖を知らないのね」


「そんな恐怖を味わう前に鍛えられたからな」


 誰かに喧嘩を吹っかけられても返り討ちにできる。
 とはいえ、恐怖を知らないわけじゃない。


 小さい頃は怖いものもあった。だから、わからないでもないのだが。


「助けてどうする。ゲームなんだから」


「ゲームをたかがって言葉で片付けたくはないのよ」


「お前もか……」


 ヒメみたいなことを言いやがる。
 ある意味おかしいよな、ゲームは、たかがゲームって言葉で終わらせればいい。


 類は友を呼ぶか。


「ゲームでも、怖い思いをすればトラウマになるでしょ」


 確かにな。


「あいつらをどうこうする力はお前にはないだろ?」


「だったら何? あたしは止めても助けるから」


 俺の掴む手をフィリアムは叩き落として歩いてく。
 さて、俺も手伝うか。


「なんであんたも来てるのよ」


「弱いものいじめが好きだからだな」


「さっきと言ってたことと矛盾してるわよ」


「理由なんていいだろ、なんとなく助けたいと思ったからだ」


 フィリアムがなぜあいつらを助けるのか、その理由が知りたいと思った。
 近づき、先制攻撃とばかりに敵の頭を掴み地面に叩きつけた。


 フィリアムも一人を蹴りとばし、挨拶は終了だ。


「なんだテメェらはっ!」


 残った襲っていたプレイヤーたちがこちらを見て声をあげる。


「正義の味方参上ってところだ。そこの六人パーティーさんも俺たちを手伝ってくれ。こいつらを潰す」


 相手のリーダーが驚きで口を開いている間に、足元にいた二人にガンエッジを突き刺しマグナムスラッシュにより一気に爆発させて蹴散らす。 


「なっ、テメェらもゲーム攻略しようとしてるヤツらかよ! クソどもが、殺してやるぜ!]


 そこから少々混戦状態になる。
 俺に突っかかってくる敵はすべて撃退する。


 フィリアムも苦労しているが、それなりにうまく立ち回れている。
 襲われていたパーティーも始めは驚いていたが、段々と落ち着きを取り戻しあっという間に形勢は逆転。


 残り一人となったリーダーがこちらを懇願するように見るが、俺は笑顔で顔面を踏み潰してやった。


「大丈夫だった、あなたたち?」


 フィリアムがどこか優しい声音で襲われていたパーティーに近づく。
 話すのが面倒なので、俺は傍で待機している。


 話に一区切りがついたようなので、俺は最後に一言だけ伝える。


「ここにある装備とかはいらないから全部やるよ、フィリアムはいるか?」


「別にいらないわね」


 プレイヤーたちは戸惑っていたが、特に返事を聞かずに街へと歩いていく。
 あいつらが装備を拾おうが放置しようがどうでもいい。


 別に金に困ってるわけでもないし、いつかはこの世界ともお別れだ。
 こうして俺たちは街に無事戻ってこれた。

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