Unlucky!

木嶋隆太

第四十一話 共同戦闘





 所詮ゲームだ。気張っていても仕方ない。
 海で遊ぶのが悪いわけではない。


「……楽しかった」


 隣を歩くオレンジは後ろで手を組む。


「よかったな」


「ソラは……楽しくないの?」


 さっきの遊びか? 
 それとも、このゲームのことか。


「まあ、どうかな。楽しくないといえば楽しくないな」


 どうにも、その態度がオレンジには受けたようでくすくすと笑う。


「ふふ。ソラって、子供っぽいところあるよね」


「無邪気で可愛げがあるって言いたいのか?」


「……はいはい」


 なんだか、ムカつくな。
 俺たちは砂浜を歩いていた。


 空は夕陽に染まり、景色は最高だ。
 さっきバカにされたこともあり、俺は少々からかってやろうと思った。


「まるでデートみたいだな」


「誰にでもそういうこと言ってるの、発情期?」


「それなりにな」


「そのわりに無愛想」


「悪かったな」


 負けた気分だ。
 どうにもこいつのマイペースは嫌いだ。


 俺たちは別に適当に歩いているわけじゃない。城を作り終えてから地図を確認し、俺たちがあがった砂浜からちょうど反対側に建物があるのが分かったのだ。


 この島は円型だ。
 砂浜も円型にあり、砂浜は全部安全地帯のようだ。


 砂浜から島の中心に向かおうとすると森に入る必要がある。
 直接行くなら近いが絶対に魔物が出るだろうとやめたのだ。


 歩き出して30分ほど。
 結構遠かったが目の前には建物がある。


 中に入ると、店員だと思われるおっちゃんが一人いた。


「泊まるのかい? 一人500マニーだよ」


 宿屋のようだ。高いが、とりあえず部屋を借りる。
 オレンジと同じ部屋だ。どうせ何かできるわけじゃないしな。


「食事も買えるみたい」


 食いしん坊なのか、オレンジは真っ先にそれを確認していた。
 念のために買い込んだ食事はいらなかったようだな。


「魔物でも狩りに行くか?」


 ここを拠点に魔物を狩りに行き、まずは俺たちが敵のレベルに並んだほうがいいだろう。
 一緒に戦うというのは少々、かなり面倒だが。


 オレンジには後ろに待機してもらい、俺が一人で狩りをすればいい。
 それで納得しないのなら、パーティーを組んでいるが別々に狩りをする。


「夕方は敵が強くなるけど、平気?」


「そうなのか。なんとかなるだろ」


「あんまり夜遅くに戦ったことはないの?」


「まあな。健康に生活してるからな」


 ゲームの世界に来てからは9時くらいに寝るのが基本だ。
 一日中戦っているとさすがに飽きてくるのだ。


 この世界が完全にゲームだと割り切れていれば、それもないのかもしれない。
 実際、一日近くゲームをしても問題はなかった。


 だが、現実に戻ることがなくなり、まるでこの世界が現実のようになってしまった。
 そうなると、疲れてくるのだ。


 やはり、ON/OFFの切り替えがないのは駄目だ。ゲームは適度にやるのがちょうどいいようだ。


「深夜が一番のピークで昼間に比べて4レベルくらい高い。夕方は+1。9時過ぎくらいからは+2。11時からは+3。掲示板ほんとに見てないの?」


「開くのが面倒なんだ。それにどうにかなるだろ?」


 夕方に戦ったことはあったが、1レベル高くなっても気づかない。
 元々フィールドの魔物は全部固定されてるわけじゃないし。


 葵と森に行ったこともあったが、あそこだってそういうモノだと思っていたからな。
 そもそも夜に狩りをすることがあまりない。


「……どうにかなるならいいと思う」


 オレンジがじーと見てくる。


「それで、俺は狩りに行く。あんたはどうするんだ?」


「私も行く。私のほうがレベルはあげる必要がある」


 ……聞いたはいいが、できれば残ってほしかった。


「別々に狩りをしてもいいか?」


「パーティーの経験値が分配されるのは一定範囲だけ。あまり離れるとソロと変わらない。一緒は……イヤ?」


 オレンジは捨てられた子犬のような瞳で俺を見上げてくる。
 やめろ、俺はその顔に弱いんだよ。


 部屋を照らす光が、揺れる。
 それを合図に、俺は顔を手で押さえため息をつく。


「……勝手にしろ」


「ありがと」


 薄く微笑む。
 女ってのは卑怯だ。ちょっと弱い表情をされると男にはどうしようもなくなる。


 軽く休憩をしていると、


「私の職業は……知ってる?」


「みかんか?」


「あったら、嬉しい。私はアイテムハンター。サポートが得意な職業。回復なら任せて」


 よく分からんが、


「頼もしいな」


 戦いになればどういう効果か分かるだろう。
 俺たちは宿屋を出る。


 宿は一回借りれば、一度眠りにつくまでは何度も出入りができる。
 それでも、最大24時間経てば新しく金を支払う必要があるのだが。


 宿屋を出て、足早に森の中に入る。
 武器は切り替えようか迷ったが、多少狩りをしたら戻るつもりなので、ガンエッジをメインに使ってもMPは切れないだろう。


 元々スキルはあまり使わない。空戦士の得意の空中戦は未だに微妙性能だ。
 ジャンプの回数も問題だし、クリティカルアッパー自体は足止め専用といった印象しかない。


 いつか、空中で舞うように戦いたい。


 そういえば、俺は完全な前衛職をみたことない。
 葵は主に魔法だし、そもそもあの職業はトリッキーでどれだけ強いのかわからない。


 瑞希とも共に狩りをしたがあいつは魔法だ。
 ヒメもウルフに戦わせるだけだし、フライも動きは素人のままだった。


 いわゆる廃人が使う前衛職がどのようなモノか見てみたいと思った。あわよくば戦いと。
 俺がどれだけ強いのかは分からないが、職業を活かしきれてはいないだろう。


 そんな風に思考にふけりながら森に入ると。


 早速お出ましだ。
 サハギンランスが五体。


 さっさとガンエッジを発動。これは通常攻撃の威力があがる。器用も防具で補正したので、安定したダメージが期待できる。


 迫ってきた三体。二体は背後で立ったまま。魔法か……。
 詠唱を妨害に行きたいが、目の前の三匹が邪魔だ。


 瞬間火力ははっきり言うと、誰にも負けていないと思う。
 ウィギリアとガンエッジ、それに今はワンディフェンスにより防御力を攻撃力に回している。一撃喰らえば死ぬ危険もあるが。


 ウィギリアを発動。水中では目立つエフェクトはなかったが、陸地では体から赤い光があふれ出す。
 これで、サハギンランスの攻撃を受ければ俺はお陀仏だ。


 サハギンランスの攻撃を見切り、一体ずつ切り裂く。それで、突撃の効果は消える。
 残ったウィギリアを活かすために、ガンエッジで二体のサハギンランスへ乱射する。


 大分精度があがった俺の銃弾は両方を捉えたが、後から攻撃した方は魔法を放った後だった。
 水の矢が飛んでくる。……水か。


 正面で受けても、飛び散った水飛沫がうざい。
 俺は無理やりに体を捻り、ガンエッジを水の矢と平行にする。


 剣の腹を滑らせるようにして水の矢の軌道をそらして、回避する。
 崩れた態勢だが、スキルを使えばどうにでも立ち直らせられる。


 ガンエッジで斬りつけながら、銃弾を放つと死ぬ。
 最後の一体からランスが振り下ろされるのを視界の端で捉える。


 柄部分を左手でキャッチする。くるっとまわすようにして奪い、突き刺す。 開いたわき腹に剣と銃の二段攻撃をぶつける。すでにウィギリアはなくなっていたので、3回ほど攻撃する必要が出てしまった。


 3回。あまり効率がいいとは言えない数字だ。


「どうした?」


 こっちをぼーと突っ立って見てくるオレンジ。


「動きが人間じゃない」


 小さな人差し指が向く。
 ……なんだ、そんなことか。


「別に普通だ。慣れれば誰にでも出来る」


「天性の才能だと思う」


「ゲームか? いらん、才能だ」


 そんなモノあっても将来飯を食べていける自信がない。


「あなた、戦うの慣れてる?」


「これでも戦闘訓練が通常授業に入ってる学校に通ってるんだぜ?」


「それでも学校での成績は最低だって」


「つまり俺以上のヤツが学校にはうじゃうじゃいるってことだ」


「……そう、なの?」


「そうだ」


(そういや、新しいモンスターだから少しはりきっちまったな)


 なるべく、力を出すつもりはなかったんだがな。まあ、うまく誤魔化せたみたいだしいいか。
 水中で戦ったが、地上はまた別だ。


「HPとMPは大丈夫?」


「MPは少し不安だな」


「だったら、回復する」


 そういって彼女は腰につけた袋から青のポーションを取り出して、飲む。
 おい、なんだ。優雅にドリンクタイムか? ダメージなんて食らっていなかったはずだ。


 奇行に出たオレンジをいぶかしんでいたが、すぐに俺の疑問は氷解した。
 俺の体力が回復したのだ。


「おいしい。……不思議?」


「わりと」


「アイテムハンターには、アイテム効果拡大とアイテム効果アップという非常にありがたいスキルがあるの」


「なるほどな。これで回復はHP、MPすべてできるってわけか」


「お金はかかるけど、優秀な職業」


「みたいだな」


 俺のMPはMAXだ。
 そのタイミングでサハギンランスが3体出てきた。サハギンマジシャンが2体でてきた。


「今度は私も参加する」


「足は引っ張るなよ」


 よく分からないが、胸を張り楽しそうだ。俺はほとんど見ているだけだ。
 戦いながら、オレンジの様子を見る。


 彼女の武器は拳だ。迫る敵を得意の格闘術で撃退している。一応、グローブという武器をつけているらしい。
 蹴りと拳による舞はかなり強い。動きも素早く、葵と同じくらいの強さであるのはわかる。


「スローイングナイフ!」


 敵が魔法を放とうとすれば、投げナイフを三つ投げるスキルで中距離もしっかりカバーしている。
 怯んだサハギンマジシャンに加速した力を腕に乗せるように叩きつけて倒した。


「強いなっ」


 ぜひとも戦ってみたい。


 これなら気にする心配はないので、俺もやりやすい。
 ウィギリア、ガンエッジを中心に攻撃。マグナムスラッシュも使用する。数が多いときはクリティカルアッパーで敵を少しでも減らす。


 普通の狩りではない大赤字ではあるが。効率はかなりよかった。俺も一度攻撃を喰らってしまったが、一回なら耐えられるのは分かったし。


 宿に戻り、ベッドで横になる。午後9時だ。寝るにはちょうどいい。最後にレベルを確認しておく。
 俺のレベルは44。オレンジも42になったと嬉しそうにしていた。

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