Unlucky!

木嶋隆太

第三十五話 結果発表



『結果発表! まずは1000位以外の人にメッセージを送ります』


 その文字と共にどこかで聞き覚えのある声が響く。
 何かの合成音声だろう。どこかなじみがある。


 メッセージが届いたのか、何人かの人が叫び始めた。嬉しさではなくて、悔しい叫びだ。
 中には後少しで1000位内に入ってたのに! という声も届く。


「アキ兄は届いた?」


「いや、お前も届いてなさそうだな」


 俺の知っている人たちは誰もいないようだ。
 広場の人間が治まる前に、新しい文字がウィンドウに浮かぶ。


『続いて、1000位から101位までの人にメッセージを送ります』


 それでまたもや広場が騒がしくなる。
 俺も、瑞希たちも誰も騒がない。全員100位内に入っているのか。


 このゲームのプレイヤーが何人いるのか知らないが、これって結構凄いことなのかもしれないな。


『それではこれより100位から91位までの発表を行います』


 十人ずつの発表のようだ。ていうか、このペースだと面倒すぎるな。
 さっさと俺のところにもメッセージを飛ばしてくれよ。


 さっきよりも大きなウィンドウになって、名前が表示されていく。
 90~51まで、誰の名前も出ないで飽きてきた俺たちは、全員でしりとりなどをして遊ぶ。


 まあ俺は一人知り合いの名前を見つけてしまったのだが。
 ぷにゃんぷにゃん――葵が89位だった。


 意外とフィリアムも混ざったのが驚きだ。俺の前で一生懸命終わりを『る』にしてしりとりを回してくる。
 地味な嫌がらせだ。


 気晴らし程度にウィンドウへ視線を送ると、


 36位 ミリフィ


 31位 フライ


 あっ、知り合いの名前だ。あいつらとはワープのときにはぐれたのでどこにいるのか分からないが、よかったな。
 と思ったら、遠くでフライが大はしゃぎしているのをたまたま見つけてしまった。


 見なかったことにしよう。
 その後も時間は流れていく。


「あ、私……」


 フィリアムの口を半開きにした声。しりとりによる暇つぶしももう終わりだな。
 フィリアムの順位は26位。


 かなりいいほうだろう。
 瑞希たちがほめているが、苦笑い気味でフィリアムはありがとうと言っている。


 俺は彼女の雰囲気が、少し気になった。俺も何か言おうと思ったが、まだ順位の発表がない俺が言っても嫌味にしか聞こえないだろう。


 フィリアムは俺を嫌っている節もあるしな。
 そこからはすぐだった。


 ミズミズ 18位
 オレンジ 16位


 ちょ、ちょっと待ってくれ。ベスト10に入っちまったのか。


「ミズミズに……勝ったっ!」


 ヒメがわーいわーいと両手を振り上げ、それを見た瑞希が顔のあちこちを引きつらせている。
 予想外だったようで、キッと瑞希は俺を睨み髪をかきあげる。


「さて、何をしたのかしら? アキ兄がいい順位なのはなんとなく予想は出来ていたけれど、あの足手まといをどうやって引っ張りあげたのかしら」


「ふふーん。負け犬の遠吠えほど聞いてて楽しいものはないんだねっ」


「む、か、つ、く、は!」


『ここからは一人ずつの発表になります。それでは、第10位!』


 アナウンスの声が大きく盛り上げる。


 派手な音楽と共に表示された文字は、装飾が施された『ヒメ』という字。


「やったっ! 私だよっ、ソラ!」


「あ、ああ。分かったから飛びついてくるんじゃねえよっ」


 何とかジャンプする前に押さえつけたからいいが、こんな公衆の面前で抱きつかれたら涙がちょちょ切れそうだ。
 周りの全員がこちらを見ている。


 そのまま、発表が行われ――。


『第四位!』


 『ソラソラ』。ウィンドウにその名前が表示される。
 ヒメが喜びの声をあげようとしたのをすかさず口を押さえつけることで対処する。


 予め決めていたからな。
 強いヤツとの出会いを潰すのは嫌だが、目立って自由な時間がなくなるのも嫌だ。


 だったら、ぽつんと一人で遊んでるほうが俺の性に合っている。 


 予想していたので押さえ込むのは簡単だった。もがもがと暴れるが、そのうちに大人しくなり俺を背もたれにする。


 幸せそうな顔つきだ。
 ……逆効果だったかもしれん。


「アキ兄! やったわねっ、さすが私の夫っ!」


「俺の努力がぁっ!」


「……おめでとう」


 オレンジの小さな拍手。


「なん、で、あんたが……」


 フィリアムの絶望したような表情、そして次にはキツイ睥睨。


 こ、こいつらっ。
 ヒメを押さえつけたのに意味がねえ!


 そのヒメも俺が瑞希たちに気を取られている間に手から逃れて、こちらに純真無垢な笑みを見せる。
 や、やめろ。俺の心が浄化される。


「お、おいあいつなんだ」


「ソラソラだってさ。知っているか?」


「いや、それよりも。周りの女たちは? 全員美人で、おまけにあまりいじっていなそうだぞ」


『……』


『リア充がッ!』


 あー、なんだか面倒な方向に流れてしまったな。
 その後、二位、一位はどちらも都市解放戦でかなりの活躍をした人たちだったらしく、凄まじい盛り上がりと共にイベントは終わりを迎えた。


 イベントが終わってすぐに、通常の広場に戻される。


『イベント終了に伴いいくつかの武器、防具、素材、クエストなどが新たに解放されました。レベルアップに必要な経験値も少なくなりました。身体的接触も一部解除されました。それでは、みなさんゲームクリアを目指してください』


 前半はいいのだが、後半は少し首を捻りたくなる。
 身体的接触を解除して、どうするつもりなのか意図が分からない。


『入賞おめでとうございます。メッセージによりアイテムを配布しました』


 俺の思考を妨害するようにメッセージが届く。中を開くと二つのアイテムが入っている。


 銃器強化パーツ 『グレネード』
 武器 銃 『スピリームスパロウ』


 武器の銃が気になる。
 ウィンドウを開いて見――


「ソラ、ちょっと来て」


 そこで俺の動作は阻まれる。ヒメに服を掴まれるくいくいと瑞希たちの元へ連れて行かれる。何なんだよ、ほんとお前。


「アキ兄はこれからどうするの?」


 隣にいるヒメについては全く触れるつもりはないようで、俺にだけ視線を集中させる。


「ランキング報酬で武器を手に入れたからな、試し撃ちにでも行って後は休憩でもしようかなと思っている」


 ボス並みの強さを持つ相手と戦ったのだ。後は休んでおきたい。


「あ、私も武器手に入れたんだよ。これから、一緒に行こうねっ」


「いかん」


「むー……恥ずかしがりなんだからぁ」


「なるほど、この口がおかしいみたいだな」


 ヒメの頬を挟み込むように片手で潰すと、絵で描かれるタコのようになりながらヒメが俺の手を掴んでくる。


「ひゃめてぇっ」


「だったら、もう俺のことで嘘を吐くな。いいな?」


「わ、わひゃったから、ひゃなしてよぉ」


 ヒメの小さな脳で理解できているとは思えなかったが、一応は彼女を信用して手を離す。
 両頬を撫でながら、こちらをきょとんとした目で見てくる。


「嘘って、なに?」


 どうやら彼女の中では俺に関する出来事すべてが真実になっているようだ。
 あー、なんだろう。頭が痛い気がする。


 こめかみを押さえるように頭に手をやると。
 ヒメが思い出したばかりに立ち上がり、尊大に腕を組み瑞希を見下す。


「言いたいことがあったのよ、ミズ」


「そう、また今度ね」


「今、ききなさいーっ!」


 だるそうに瑞希はジト目をヒメにぶつける。
 ふふんとヒメはびしっと指をつきつけて、


「アキタカは私の物だからねっ! もう、決めたからっ」


 とうとう、リアルの名前出しやがった。
 まあ、名前を知られたからどうしたという話でもあるのだが。


 俺の場合事件に巻き込まれるのではなく、事件に首を突っ込むことのほうが多い。
 瑞希がポカンとして、それからこちらを睨む。


「……アキ兄。私の想定では見直したくらいになると思ってたんだけど、べた惚れじゃない」


 なんてむちゃくちゃなんだ。


「べ、別にべた惚れじゃないっ! 近くに置いておきたいだけ」


 ヒメが見えみえの嘘を吐くと、


「……べた惚れ」


「みかんちゃん黙って!」


 確信してしまった。
 ……何がきっかけか知らんが彼女に気に入られてしまったようだ。


 俺ははぁと空を仰ぎ、今日も快晴なのを確認してから。


「おいとまさせていただきます」


 スキルを発動して羽ばたいた。どこまでも自由に飛んで行こう。
 どうにも、ヒメは苦手だ。

コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品