Unlucky!
第三十四話 好意
一段落ついた俺たちはそれぞれ広間に座り込む。
すでに、いい時間だ。
イベントの残り時間も10分しかないので、今さら地上に戻って狩りを続ける気力も起きない。
「んじゃこら!?」
俺は視界の端に映る☆の数に声を荒げる。
するとフライが驚いたようにこちらに向く。
「どうしたのソラソラさん、珍しく大声をあげましたね」
「ああ、テメェに盾で殴られたぶりだな」
助かったが、地味に衝撃があったからな。お返しとばかりに頭を片手で潰す。
「痛い! 頭が割れるっ。あ、あれは仕方なかったんだよっ!」
「そうか、まあ、助けてくれたのは感謝する」
確かに助けてもらったのだ、このくらいでやめようか。
頭から手を離すと、フライはふうと安堵の吐息をつく。
「まあ、でも、わりと楽しかったね」
「よし、殴らせてくれ」
「ひどいっ!」
そのまま、喧嘩が勃発しそうなところで、
「ええ!?」「なんですか、これは!」
ヒメ、ミリフィからも同様に吃驚が届く。
俺は頭から手を離し、
「え、え、何が起こってるの?」
「お前の顔を殴ろうとしてるんだ」
「そこじゃないっ! あの二人なんで驚いてるのさ」
まだ気づいていなかったのか。
「星を見てみろ。原因が分かるから」
「またまた、そんな誤魔化し効かな……なんじゃこりゃあ!」
獲得した星が凄いことになっているのだ。俺たち四人の情報を集めると、さっきの魔物は約一万くらいだったのか?
フライとヒメは自分がいくつ☆を獲得していたのか覚えていないが、フライはミリフィのを元に計算し、ヒメは俺のモノを元に計算した。
俺が4000ほど増え、ミリフィは2000、フライは3000。
ヒメはサモンモンスターのおかげで大分攻撃も与えていたから、たぶん2000くらいだろう。
地上で戦っていた俺は、二時間かけて3000くらいしかなかった。二時間以上の価値があるなんてな。
「これならランキング入賞もあり得るかもしれませんね……」
「そうなのか。どのくらいがボーダーラインとか分かるか?」
「オープンベータの時は確か……6000以上でランキング一桁に入れましたね」
「覚えているのか、すげえな」
「聞いておいてその言い草ですか。そして、私を廃人ゲーマーのように見ないでください」
「え? ミリフィって休みの日って一日ゲームしてなかったっけ? 新作のゲームが発売するときは学校も休むよね?」
「余計なこと言わないでください、フライくん!」
相変わらず余計なことを言っているなフライは。
素直なのはいいことでもあるが、完全に空回りしている。
二人が仲良く喧嘩を始めたので、俺はその二人を暖かい目で見守る。
この二人が無事にくっつきますように。
二人が付き合ったら、からかってやろう。
俺はウィンドウを開いて、時間を確認する。
残り、二分か。
「……さっきから、何でジロジロ見てるんだ」
意図的に反応しないように無視していた、喋る相手がいなくなってしまい関わらずにはいられない。
ヒメは俺の顔をジーッと少し頬を赤くしながら見ている。
「み、見てないから! 勝手に妄想しないでっ」
ばりばり見ていただろうが。ヒメはすぐに顔を背けるが、つつーっと視線が動く。
ばっちりと目が合う。
「なんで、ジロジロ見てるのよ」
「お前がさっき見てたんだろ。お返しだ」
「そんなに、私のことが見たいの?」
「……。悪かった。もう見ないでおくよ」
「なにそれ!」
じゅわっと涙を目元に溜める。
……嫌な感じがするんだ。アレだ。さっきの目つきとかが、瑞希が俺を見るときのような。
自分で言うのもアレだが、初めと比較すると好意を抱かれていないか?
がしがしと頭を掻き、これからはなるべく距離をとろうと決意する。
「ねえ、ねえ」
「うぉ! びっくりした」
俺の決意とは裏腹に彼女は俺に接近している。
いつの間にか俺の横に座り、その整った少し幼さの残る顔を目の前に近づけていた。
「ひやぁ! いきなり、キスしようとしないでよっ!」
「お前が、呼んだから向いただけだぞ! 言いがかりつけんじゃねえっ」
「人のせいにするのはよくないんだよ」
「そっくりそのまま、納豆もつけて投げつけてやる」
「やだ、臭い! じゃなくってっ!」
ヒメは歳相応とは言えない、幼い笑みを浮かべる。
決して、バカにはできない可愛らしい微笑を直接見てしまい俺は目をそらせなくなる。
魅了されたように彼女を見つめてしまった。
「助けてくれて、ありがとね」
「うん? あ、ああ、別にいいさ」
「……ふふふ」
頬が紅潮して、俺へと物凄くとろけた笑みを浴びせ続ける。それを見て、俺は背筋の辺りがぶるるっと来た。
こいつの純粋な笑みはなんか、怖い。
少し、ドキッとしてしまった自分を殴りたい。
こいつに、ドキッとするなんて、末代までの恥だ。
顔面を手で押さえて、うなだれる。
俺とヒメは違う世界の住人なんだ。ドキッとすることさえも無駄なことだ。
「ねえ、ソラ」
「なんだ?」
「……うへへ」
「人の顔を見て笑うなんて失礼なヤツだな」
「だって、ソラの顔見るとなんか安心できるんだもん」
うっ。
俺は初めて知ったかもしれない。
瑞希のようなタイプは大丈夫だ。あれはなんかもうギャグみたいに思っている。
葵のようなヤツも苦手ではあるが、なんだかんだで対等だ。
だが純粋な心に、弱い。特にヒメはたぶん、自分で気づいていない。
ヒメの純粋な好意に俺は普段のペースをかき乱されている。
ああ、くそ。二度とコイツには関わらねえ。
俺にぺたっと張り付いた状態で、離れないヒメの重さを感じながら俺はため息を吐き続ける。
『12時になりました。イベントはこれで終わりです。これより特殊フィールドでランキングの発表を行います。15秒後にワープします』
「ワープするってさ。何が起こるかわからないから離れてようぜ」
「え……? じゃ、じゃあ、危なかったら嫌だから、ソラ一緒にいて守ってね」
ぎゅっ。手を握ってくる。
「あれれ、ソラソラさん。どうしたんですか?」
ニヤニヤとようやくミリフィから解放されたフライが口元を隠して芝居がかった笑みを見せてくる。
「ふふん、いいだろう」
ヒメにペースを乱されたとはいえ、フライのアホにまで遅れをとるような真似はしない。
「付き合ってたんですか? なんていうか、犯罪チックな匂いがしますね」
ヒメが一瞬ぽかんとして、それから言われた言葉の意味に気づき声を荒げる。
「これでも、俺の一つ年下だぞ?」
「……付き合ってるんですか、ヒメさん?」
フライは目を丸くしながら、ターゲットを変える。まあ、ヒメはこの手の話が苦手そうだ。
赤面しながら、否定するだろう。
「え、えぇと別に付き合ってないけど……でも、ソラが前に付き合ってるって言ってたし。たぶん、付き合ってるよね」
ヒメさんあなたに何があったんですか!
「普通に嘘ついてんじゃねえ!」
「え、前言ってくれたのにっ! ひどい、ソラ! ソラの就職先全部潰して、私の夫以外の道をなくしてやる!」
マジでやりそうだぞ、おい。
こいつの家も、瑞希の家も無駄に権力だけはある。
やろうとすれば俺なんていう小さな人間を簡単に路頭に迷わせることだって不可能じゃない。
はははと愛想笑いを浮かべて、これ以上言及はしない。
「あ、ワープの時間ですね」
確かにそうだな。
「ソラっ」
ヒメが飛びついてきやがった。反射的に胸倉を掴んで、投げようとしたが。
すぐに身体が強く光り、そのままワープ。
次に目を開けると、広場に俺たちはいた。
周りにもたくさんの人たちがいる。
「……ヒメ、なんで張り付いてるんだ?」
「あへへっ」
頬を染めて笑うだけで誤魔化せると思っているのか。
投げるのに失敗した、技を失敗するなんて何だか屈辱だ。
「アキ兄、どうだった?」
「いきなり後ろから声をかけるな、心臓に悪いだろ」
どうやって居場所を特定したのか分からないが、すでに瑞希たちのパーティーも揃っている。
オレンジが小さく手を振ったので、俺も片手をあげておく。
フィリアムは、知らん。無視だ。
「結果発表一緒に見ましょ。ヒメ、あなたの泣き顔を拝みたいモノ」
「ふん、ミズに負けるわけないよーだっ! こっちにはソラがいるんだもんっ」
「……なんだか、距離が激しく縮まってる気がするのだけど、今は置いておくわ」
置いておかないでくれ。
これ以上一緒にいると、俺の精神に悪い影響を与える。
ヒメを引き取ってくれ。
広場に中央に大きなウィンドウが表示されたので、俺たちは顔を上げる。
『それでは、これより結果を発表します』
結果の発表も始まるようなので、一端ヒメのことは忘れよう。ヒメ自身も食い入るように見ている。
さて、どのくらいなんだろうな。
ランキングに載っている可能性もあるかもしれない。
名前が目立てば強いヤツが戦いを挑んでくれるかもしれない。
だが、逆に目立ってしまってゲーム攻略を優先してるヤツらに目をつけられるのはよろしくないな。
……悩ましい。やはり目立たないほうがいいかもしれない。
どっちが最高の選択肢なのか、わからない。
今回は下手に盛り上がらないようにしておこう。
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