Unlucky!
第三十二話 一対一
洞穴に逃げ込み、息を潜ませながら膝たちになる。
「作戦としてはあいつを倒すか、スルーして逃げるかだな」
ひとまずは大丈夫そうだな。足音は広間で右に左に動いているだけだ。俺たちをまだ見つけていない。
俺は二人にパーティー登録を飛ばすようにヒメに命じ、一時的にパーティーを組む。
「ですが、相手はLv31です。それにボスですよ」
「HPバーが少なかったが?」
「恐らく中ボスです。私はオープンベータでこのイベントに参加したことがありますが……確か中ボスやボスがいました。それらのボスを倒せた人は、ランキングの上位に入っていました」
かなり強かったイメージがありますと付けたし、神妙な面持ちで続ける。
「逃げるのが正しい選択です」
俺も同意見。
俺個人としては戦いたいので、こいつらを逃がしたら戻って戦うつもりだが。
「とはいえ、誰かが囮にならなければ逃げられそうにないな」
そこで、ミリフィはヒメへと視線を向ける。
正確には、ヒメの腕に埋まっているサモンモンスターにだ。
「サモンモンスターなら、囮としては十分だと思えます」
「だそうだ。焼いて、食べようぜ」
「誰も食べません。あの、ヒメさん、どう……でしょうか?」
ヒメの表情はみるみる曇っていく。
サモンモンスターに愛着があるのか、中々許可を下ろさない。
「……いや」
ヒメは首を子供のように左右に振る。
「でも、それが一番被害が少ないんです」
「……いやっ。ゲームだからって、何かを犠牲にして生き延びたくない! そういうのいやだっ」
ヒメは頑固として、サモンモンスターを抱きしめて離さない。
困ったようにミリフィは、俺のほうを向いて、顔を引いた。
ああ、笑っていたからか。俺は耐えられない笑みを隠さずにヒメに近づく。
俺から異様な気配を感じたようで、ヒメは怯えたように瞳を揺らす。
「く、くくははっ! お前、最高だっ」
「え……?」
たかがゲームだから。その言葉で終わらせる人間は多い。
だが、彼女はゲームだろうと自分の信念を絶対に曲げない。
最初からこうなるだろうとは思っていた。こうならなくても、俺が自分から志願していただろう。
「お前ら全員俺が相手してる間に逃げな」
「え? でも、それだと……危なくない?」
きょとんといまいち現状を理解していないフライが、やはりどこかおかしい指摘をする。
危ないで済んだらいいほうだぜ。ステータスやレベルが関係するこの世界で、勝ちをもぎ取るのは難しいかもしれない。
ヒメは自分の意見が通るとは考えていなかったのか目を丸くして、俺を見つめてくる。
なんで、驚いているんだか。
「ヒメ、純粋な心は大事だぞ。今時珍しいからな、気に入った」
「……アカバネ」
「作戦は分かったな。俺が相手をひきつける。後はタイミングを見計らって逃げてくれ。入り口は大丈夫だよな?」
残り二つあったうちの片方から男が出てきた。つまり、出口に繋がる場所は一つしかない。
「……はい。私たちが穴に入ったらすぐに追いかけてください」
ミリフィもすぐに理解する。
話もまとまったようで、さて行こうかと思ったときにフライが手をあげる。
「僕も……のころっか?」
「理由は?」
「一人より二人のほうが、時間を稼げるでしょ?」
「バカはいらん」
「誰がバカだとぉ!?」
フライが聞き捨てならないと立ち上がる。ミリフィも怒り気味に強く睨んでくる。
「そうですっ。フライくんはバカじゃありません。確かによくテストで赤点をとったり、昨日言ったことも覚えていなかったり、ゲームのセーブデータを間違えて上書きしたり……バカなんです! ごめんなさいっ!」
「結局そこに行きつくのかよ!」
俺が思わず声を荒げてしまうと、フライが慌てたようにミリフィを止める。
「待って! 僕に否定させてっ」
「紛れもない事実だろうが」
「……さて、それはどうかな?」
「不敵に笑っても、バカな臭いは消えないぜ?」
フライは疲れたようにうなだれ、僕はバカですと呟いている。
ミリフィも何もフォローできずにおろおろとしている。
「それじゃ、行ってくる」
「アカバネ、ちゃんと戻ってきてよ」
元気がないな。
「別にゲームなんだからな、そんな暗い顔してんじゃねえよ。辺りまで暗くなるぜ」
「それはただ単にこのエリアが暗いだけ!」
久しぶりのヒメの怒ったような顔。
俺はそれを見届けてから、洞穴を出た。
ブラッディクロウはすぐに俺に気づいて、黄色い目で睨みつけてくる。
「来いよ化け物! 俺を楽しませてくれよっ!」
駆け出し、爪の一撃を紙一重で回避し交錯する。すり抜けざまにガンエッジで斬りつける。
爪の振り下ろしを回避し、サードジャンプで敵の頭上へ。
銃撃しながら、落下し脳天をかち割る。
敵はひるまない。コマのように回転しようとしたので、ブラッディクロウを足場にサードジャンプ。
「グルアァッ!」
まるで読んでいたように飛び上がりやがる。
チッ! 残っていたジャンプを一度使い爪攻撃を避けるが、敵は口から酸のようなモノを吐き出す。
ラストのジャンプで軌道から逃れる。だが、完全には逃げられず、かすかに酸がかする。
痛みはほとんどないが、HPは減っている。
着地と同時に、ブラッディクロウの腕を斬る。
相手も蹴りや爪により反撃してくる。軌道を見切り、完璧に回避する。
バックステップで回避すると、敵は爪をわずかに持ち上げて叩きつける。
衝撃波のようなモノが地面を這い、俺に襲い掛かる。
横に跳ぶと、避けるタイミングを狙っていたようにタックルされる。
体に僅かな痛みが走る。ゲーム内だから痛みは少ない。
弾き飛ばされた俺へさらなる追撃をしようと思ったのかブラッディクロウが再び走る。
受身を取り、顔を敵へ向けたときには目の前だ。
爪が振るわれる。それを足場にしてブラッディクロウの顔面に剣を突きたてる。
これでも、ひるまないのか。
爪ではない左手により殴り飛ばされる。
受身を取りながら、レッドポーションを体に叩きつける。
ポーションはまだまだある。
ガンエッジの効果が終わり、普通の拳銃で射撃する。
横に飛んで突進してくる男から逃れ、至近距離でトリプルショットを連射する。
弾が終わったので、すかさずリロード。
爪による突きを拳銃の側面で受けながし、相手の腕に手をつけ回し蹴り。
相手がそこでようやく一度怯む。
蹴りと銃弾の嵐をぶつけるが、HPはまだ8割ほど残っている。
こりゃあ、面倒すぎる敵だな。
このタイミングだ3人が駆けていく。よし、問題なさそうだな。
不安そうにこちらを見ているヒメに片手をあげるだけで応じる。
ガンエッジが使用できるようになったので、もう一度使う。
なぎ払われた爪を上体を屈めてさけ、足を斬る。
相手の背後に回り、斬りつける。
ブラッディクロウの裏拳が迫り、紙一重で回避。
剣を敵の首へ振る。
当たる直前に、カートリッジブレイクを発動。
拳銃部分がスライドし、薬莢が排出される。
火の力を得た刃が敵の首にくいこみ、振り切る。
今のは大きなダメージとなったのか。HPの減りが多かった。
……首が弱点なのか。
「グルルアァッ!」
突進からの爪なぎ払い、回し蹴り。
一連の動作は見慣れた。
爪の振り上げ具合により放たれる攻撃も分かった。
衝撃波だろ?
予想通りだ。既に攻撃範囲から逃れていた俺は隙だらけのブラッディクロウへ何度も剣を振るう。
そして、ようやくHPが6割を切ったところで。
「グルルルルア!」
絶叫するとブラッディクロウの体が黒く光る。
鈍い光を纏ったブラッディクロウの両目が黄色に変化し――加速。
(嘘だろ……)
さっきよりも早くなる。
爪攻撃をのけぞり。蹴りをバク転で回避する。
バク転の途中に銃弾を打ち込むが、ダメージなんてないようなモノだ。
速すぎる一撃を転んで回避する。
それでも、ヤツのほうが速い。
爪のない腕に殴られ、俺は拳銃を手からこぼして派手に転げまわる。
俺を踏みつけるように太い爪が眼前に迫る。
白刃取りとは、言えないが、それに似た状態で受ける。両足で弾き返すように受け止める。
両腕に目一杯力を込めて、爪を受け止めるが……クソ。
この状況を打破する手段が思いつかない。
脳内を様々な対処法が駆け巡るが、どれもボツだ。
(ここで、負けるかよ、ボケがっ)
全身から力を振り絞る。それでも、この均衡は変わらない。横に逸らすことも考えたが、逃げ切れるとは思えない。
どうにか、隙を作る必要がある――。
「作戦としてはあいつを倒すか、スルーして逃げるかだな」
ひとまずは大丈夫そうだな。足音は広間で右に左に動いているだけだ。俺たちをまだ見つけていない。
俺は二人にパーティー登録を飛ばすようにヒメに命じ、一時的にパーティーを組む。
「ですが、相手はLv31です。それにボスですよ」
「HPバーが少なかったが?」
「恐らく中ボスです。私はオープンベータでこのイベントに参加したことがありますが……確か中ボスやボスがいました。それらのボスを倒せた人は、ランキングの上位に入っていました」
かなり強かったイメージがありますと付けたし、神妙な面持ちで続ける。
「逃げるのが正しい選択です」
俺も同意見。
俺個人としては戦いたいので、こいつらを逃がしたら戻って戦うつもりだが。
「とはいえ、誰かが囮にならなければ逃げられそうにないな」
そこで、ミリフィはヒメへと視線を向ける。
正確には、ヒメの腕に埋まっているサモンモンスターにだ。
「サモンモンスターなら、囮としては十分だと思えます」
「だそうだ。焼いて、食べようぜ」
「誰も食べません。あの、ヒメさん、どう……でしょうか?」
ヒメの表情はみるみる曇っていく。
サモンモンスターに愛着があるのか、中々許可を下ろさない。
「……いや」
ヒメは首を子供のように左右に振る。
「でも、それが一番被害が少ないんです」
「……いやっ。ゲームだからって、何かを犠牲にして生き延びたくない! そういうのいやだっ」
ヒメは頑固として、サモンモンスターを抱きしめて離さない。
困ったようにミリフィは、俺のほうを向いて、顔を引いた。
ああ、笑っていたからか。俺は耐えられない笑みを隠さずにヒメに近づく。
俺から異様な気配を感じたようで、ヒメは怯えたように瞳を揺らす。
「く、くくははっ! お前、最高だっ」
「え……?」
たかがゲームだから。その言葉で終わらせる人間は多い。
だが、彼女はゲームだろうと自分の信念を絶対に曲げない。
最初からこうなるだろうとは思っていた。こうならなくても、俺が自分から志願していただろう。
「お前ら全員俺が相手してる間に逃げな」
「え? でも、それだと……危なくない?」
きょとんといまいち現状を理解していないフライが、やはりどこかおかしい指摘をする。
危ないで済んだらいいほうだぜ。ステータスやレベルが関係するこの世界で、勝ちをもぎ取るのは難しいかもしれない。
ヒメは自分の意見が通るとは考えていなかったのか目を丸くして、俺を見つめてくる。
なんで、驚いているんだか。
「ヒメ、純粋な心は大事だぞ。今時珍しいからな、気に入った」
「……アカバネ」
「作戦は分かったな。俺が相手をひきつける。後はタイミングを見計らって逃げてくれ。入り口は大丈夫だよな?」
残り二つあったうちの片方から男が出てきた。つまり、出口に繋がる場所は一つしかない。
「……はい。私たちが穴に入ったらすぐに追いかけてください」
ミリフィもすぐに理解する。
話もまとまったようで、さて行こうかと思ったときにフライが手をあげる。
「僕も……のころっか?」
「理由は?」
「一人より二人のほうが、時間を稼げるでしょ?」
「バカはいらん」
「誰がバカだとぉ!?」
フライが聞き捨てならないと立ち上がる。ミリフィも怒り気味に強く睨んでくる。
「そうですっ。フライくんはバカじゃありません。確かによくテストで赤点をとったり、昨日言ったことも覚えていなかったり、ゲームのセーブデータを間違えて上書きしたり……バカなんです! ごめんなさいっ!」
「結局そこに行きつくのかよ!」
俺が思わず声を荒げてしまうと、フライが慌てたようにミリフィを止める。
「待って! 僕に否定させてっ」
「紛れもない事実だろうが」
「……さて、それはどうかな?」
「不敵に笑っても、バカな臭いは消えないぜ?」
フライは疲れたようにうなだれ、僕はバカですと呟いている。
ミリフィも何もフォローできずにおろおろとしている。
「それじゃ、行ってくる」
「アカバネ、ちゃんと戻ってきてよ」
元気がないな。
「別にゲームなんだからな、そんな暗い顔してんじゃねえよ。辺りまで暗くなるぜ」
「それはただ単にこのエリアが暗いだけ!」
久しぶりのヒメの怒ったような顔。
俺はそれを見届けてから、洞穴を出た。
ブラッディクロウはすぐに俺に気づいて、黄色い目で睨みつけてくる。
「来いよ化け物! 俺を楽しませてくれよっ!」
駆け出し、爪の一撃を紙一重で回避し交錯する。すり抜けざまにガンエッジで斬りつける。
爪の振り下ろしを回避し、サードジャンプで敵の頭上へ。
銃撃しながら、落下し脳天をかち割る。
敵はひるまない。コマのように回転しようとしたので、ブラッディクロウを足場にサードジャンプ。
「グルアァッ!」
まるで読んでいたように飛び上がりやがる。
チッ! 残っていたジャンプを一度使い爪攻撃を避けるが、敵は口から酸のようなモノを吐き出す。
ラストのジャンプで軌道から逃れる。だが、完全には逃げられず、かすかに酸がかする。
痛みはほとんどないが、HPは減っている。
着地と同時に、ブラッディクロウの腕を斬る。
相手も蹴りや爪により反撃してくる。軌道を見切り、完璧に回避する。
バックステップで回避すると、敵は爪をわずかに持ち上げて叩きつける。
衝撃波のようなモノが地面を這い、俺に襲い掛かる。
横に跳ぶと、避けるタイミングを狙っていたようにタックルされる。
体に僅かな痛みが走る。ゲーム内だから痛みは少ない。
弾き飛ばされた俺へさらなる追撃をしようと思ったのかブラッディクロウが再び走る。
受身を取り、顔を敵へ向けたときには目の前だ。
爪が振るわれる。それを足場にしてブラッディクロウの顔面に剣を突きたてる。
これでも、ひるまないのか。
爪ではない左手により殴り飛ばされる。
受身を取りながら、レッドポーションを体に叩きつける。
ポーションはまだまだある。
ガンエッジの効果が終わり、普通の拳銃で射撃する。
横に飛んで突進してくる男から逃れ、至近距離でトリプルショットを連射する。
弾が終わったので、すかさずリロード。
爪による突きを拳銃の側面で受けながし、相手の腕に手をつけ回し蹴り。
相手がそこでようやく一度怯む。
蹴りと銃弾の嵐をぶつけるが、HPはまだ8割ほど残っている。
こりゃあ、面倒すぎる敵だな。
このタイミングだ3人が駆けていく。よし、問題なさそうだな。
不安そうにこちらを見ているヒメに片手をあげるだけで応じる。
ガンエッジが使用できるようになったので、もう一度使う。
なぎ払われた爪を上体を屈めてさけ、足を斬る。
相手の背後に回り、斬りつける。
ブラッディクロウの裏拳が迫り、紙一重で回避。
剣を敵の首へ振る。
当たる直前に、カートリッジブレイクを発動。
拳銃部分がスライドし、薬莢が排出される。
火の力を得た刃が敵の首にくいこみ、振り切る。
今のは大きなダメージとなったのか。HPの減りが多かった。
……首が弱点なのか。
「グルルアァッ!」
突進からの爪なぎ払い、回し蹴り。
一連の動作は見慣れた。
爪の振り上げ具合により放たれる攻撃も分かった。
衝撃波だろ?
予想通りだ。既に攻撃範囲から逃れていた俺は隙だらけのブラッディクロウへ何度も剣を振るう。
そして、ようやくHPが6割を切ったところで。
「グルルルルア!」
絶叫するとブラッディクロウの体が黒く光る。
鈍い光を纏ったブラッディクロウの両目が黄色に変化し――加速。
(嘘だろ……)
さっきよりも早くなる。
爪攻撃をのけぞり。蹴りをバク転で回避する。
バク転の途中に銃弾を打ち込むが、ダメージなんてないようなモノだ。
速すぎる一撃を転んで回避する。
それでも、ヤツのほうが速い。
爪のない腕に殴られ、俺は拳銃を手からこぼして派手に転げまわる。
俺を踏みつけるように太い爪が眼前に迫る。
白刃取りとは、言えないが、それに似た状態で受ける。両足で弾き返すように受け止める。
両腕に目一杯力を込めて、爪を受け止めるが……クソ。
この状況を打破する手段が思いつかない。
脳内を様々な対処法が駆け巡るが、どれもボツだ。
(ここで、負けるかよ、ボケがっ)
全身から力を振り絞る。それでも、この均衡は変わらない。横に逸らすことも考えたが、逃げ切れるとは思えない。
どうにか、隙を作る必要がある――。
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