Unlucky!

木嶋隆太

第二十二話 ケルベロス

「人間がここに訪れたのはいつ振りだったか……」


「おととい来ました」


「そういうこと言うのはやめてやれよ。ケルベロスだって一生懸命なんだよ」


 ケルベロスは三つの頭のうち真ん中のだけが喋る。左右も起きているが、口を全く動かさない。
 犬だけあって横に長い。高さはそれほどでもないな。


 体は真っ黒だが、所々に氷のようなものが張り付いている。完璧に氷属性だな。


「冥界に迷い込んだ哀れな人間たちよ。ここで死ぬがいいっ!」


「哀れなのはあなたの頭です」


「お前、ほんとやめてやれって」


 ケルベロスがセリフを言い終えると周りにいた二頭も吠え出した。


 ケルベロスは開幕同時に氷のブレスを吐き出す。一直線に発射されたレーザーを回避する。
 分断されたが、問題ない。


 ここに来る前に決めていた作戦通り俺は接近して、ケルベロスの注意を引く。
 その隙にマジックスタイルの葵がファイアーサークルを唱えるだけだ。


 接近させまいと放たれた氷球に銃弾をぶつける。
 それでも逸らしきれなかったので、スライディングで氷球の下を通過してふたたび走る。


 一気に距離を詰める。
 右頭が噛み付いてくる。


 横に回り、拳を叩き込む。
 爪による切り裂き攻撃をバックステップで回避する。回避しながらもしっかり銃弾は打ち込ませてもらう。


「ファイアーサークル!」


 三つの頭を巻き込み敵をひるませる。
 火がよく効くようだ。


(リロード火弾っ)


 心の中で呟くと空いている左手にマガジンが発生する。
 すでにハンドガンのマガジンは抜き捨てたので、すかさずリロードをする。


 爪の振り下ろしを横に転がり、脇腹へ打ち込む。
 火が弱点なケルベロスは数発喰らうとひるんだ。着弾と同時に赤いエフェクトがでるのはいいな。


 一気に駆け寄り、全体重を乗せた拳による突き。
 そこから連撃を入れて再び退避する。


 そこへまたファイアーサークルが襲い掛かる。


「ぐ、ぐぐ。我は火が苦手だ……」


 弱点ありがとよ。


 葵へ狙いを変えたのか、中央の頭が氷ビームのチャージを始める。
 させるかよ。


 左の頭が邪魔してきたが、関係ない。
 振られた右腕を跳び箱に見立てて逆立ちをして飛び越える。


 重力と合わせて頭上から中央のケルベロスを踏みつける。
 すると、氷ビームが地面に向かって放たれた。


「ほらほら、どうしたんだ? 吐けるモノなら吐いてみろよ」


 両手をくいくいと動かして、挑発すると左右の頭が噛み付いてきたので、犬の背中に上って回避する。
 ここって安置じゃないか? と思った次の瞬間に体を激しく揺らして落とされた。


 転がって着地し、放たれた氷球を避けながら片手で射撃。
 敵がでかいので外しはしない。


 撃ち続けているとケルベロスが前足で地面を掘るような動作を見せる。
 あれは、イノシシが走る前に似ているな。


 サードジャンプを使用し、二回のジャンプで逃げる。俺がいた場所をケルベロスが通過した。
 残りの一回でケルベロスの背中に降りて、踏みつけながら銃弾を雨のように浴びせる。


 落とされる前に自分から下りて、リロードする。
 俺が攻撃し、葵のファイアーサークル。


 弱点属性だからかあっという間に体力が削られていく。
 10分もすれば、犬の体力は残り20%ほどまで減っている。


 基本的に攻撃は避けやすい。


「こざかしいわーんっ!!」


「無様に犬だな」


 HPが残り僅かになったからか、犬が吼えて全身に氷が広がっていく。
 その隙にダブルショットを撃ちまくってやる。


「そうですね。もう少し小さければペットにしてあげてもいいんですけどね。あなたみたいに」


「誰がペットだよ……って、なんでお前前衛にいるんだよっ!」


 気づけば隣に何食わぬ顔をした葵がいた。
 武器は普通の剣だ。このダンジョンでレベル上げをしているときに数回だけ見た。


 作戦を考えて、やたらと自慢していたクセに自分で壊しやがったよ。


「運よくパーフェクトスタイルが出ましたから。今の私は全能力が神がかってます」


 チートな戦闘スタイルだ。
 チェンジャーという金のかかる職業の最高の楽しみとも言えるスタイルだ。


「なら、一気にたたみかけるか」


 葵が剣で切りつけると、赤い色が映る。
 火属性なのか。


 俺も銃弾で弱らせる。
 敵の攻撃を避け、二人で踊るように足や頭へダメージを蓄積させていく。


 防御力も上昇したようだが、葵の火力が大幅上昇したことにより結果的に減るスピードは変わらない。
 ケルベロスが両前足をあげる。


「掴まってろっ、舌を噛むなよ」


「え?」


 どんな攻撃が来るのか予想できた俺は、葵を抱え上げてサードジャンプを発動。
 限界まで跳んだところで、ケルベロスが足を地面に叩きつける。


 すると衝撃波のようなモノが地面を這う。


「衝撃波……よく予想できますね」


 ぷいと俺から顔を逸らす。僅かに見える頬はほんのり赤くなっている。
 ガラにもなく恥ずかしがってるのか。戦闘中じゃなければからかってやったが、今は見逃してやるよ。


「まあな。言っただろ? ケルベロスと戦うのはこれが初めてじゃないって」


 他のゲームでも似たような攻撃をしてくる。見た目や大きさが違ったりするので、効果はだいぶ変わるがある程度予想は出来る。


 というかあれだけでかいモーションでただの踏みつけ攻撃だけだと考えるヤツのほうが少ないだろ。


 着地して、葵を地面に下ろしてから再び向き合う。
 ケルベロスは距離が出来た俺たちへゆっくりと迫ってくる。


 拳銃を持つ腕ごとそちらに向けると葵も剣を持った腕をケルベロスへ向けた。


「あなたとこうして一緒に戦うのは初めてですね」


「さっき、雑魚を倒しまくってただろ。それに、学校でも模擬戦とかで一緒に戦っただろ」


「あの時も本気ではなかったじゃないですか」


(今も本気じゃないんだけどな)


「気に食わなかったか?」


「ええ、そうですね。こうやって一緒に戦ってみたかったですから」


「どんな夢だよ。女ならお嫁になりたいくらい言ってくれよ」


「どうやら、覚えていないようですね」


「何がだよ」


「いえ、何でも」


 ワケの分からんヤツだ。


 ケルベロスが近づいて、腕を振るう。
 しゃがんで回避すると頭上を突風が吹き荒れる。氷をまとっているからかちょっぴり肌寒い。


 残りの体力はほとんどない。これが最後だな。
 葵はスキルを発動したのか、剣が光る。


 俺もサードジャンプでケルベロスの眼前に飛び出して拳銃を構え、ダブルショットを発動。


「Unlucky!」「いい素材を落としてくださいっ」


 俺と葵は同時にそれぞれの攻撃をぶつける。
 両方を喰らったケルベロスは上体をのけぞらせて数歩後ろによろめいて、倒れる。


「我は……犬ではない」


 最後にワケの分からない言葉を残して、データに分解されていく。
 体の残った場所には多くの素材が残されている。


「素材の山分けは?」


「何を言ってるんですか。寝ぼけているんですね。ボスのドロップはそれぞれに分かれています。あなたが全部とっても私の分は減りません」


「喧嘩とかしなくて済みそうだな」


「でも、全員が同じドロップアイテムではありませんが」


「うまい話はないもんだな」


 ケルベロスが落とした素材は多くあるが、これが一体何に変化するのかはわからない。
 敵のレベルを考えればある程度いい素材になりそうだが、今の装備に不満があるわけでもないので当分はアイテム欄で眠ってもらおうか。


「ところで、聞きたいことがあるのですが」


「付き合ってる彼女はいないぞ」


「知ってる。最後の言葉何ですか。なぜ、英語」


「お前こそ、がめついぞ。俺みたいに決め台詞の一つくらい持っておけよ。ちなみに、運がなかったな、的な意味として俺は使っているぞ」


 途端に葵の瞳から放たれる温度が下がっていく。


「中二病恥ずかしっ」


「そう言われるのは嫌いじゃねえな。今ぐらいしかそんなこともできねえし」


「凄い度胸ですね」


「当たり前だ。むしろ、そんな言葉ではくくりきれない所まで突き進んでやるさ。生涯中二病」


「立派な目標ですね。いつか、自分の行動を思い出して赤面する日を、私はあなたの痛い行動を録画しながら気長に待ちますよ」


「無駄な努力だな。永遠にこないさ」





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