Unlucky!

木嶋隆太

第二十一話 弾薬師



 レベルは23にあがり、葵は25だ。
 かなり効率がよかった。


 とにかく魔物の出現が多い。俺と葵でなければ、二人でここを切り抜けるのは厳しいだろう。
 しっかりとしたパーティー編成が要されるダンジョンだ。


 俺は敵の頭を、足を、腕を潰して葵に近づく敵を虐殺し、葵は巨大ハンマーと範囲魔法による一掃で経験値を大量に獲得した。


 なんとか狩りを終え今、俺たちは安全地帯――ダンジョンが墓地だけあり、ここにも壊れた墓などがそこかしこに点在している――に行き、葵は生産スキルにより装備を強化していた。


 作成鍋がなければフィールドでは生産ができないらしい。
 俺はせっかく弾薬師のスキルを取得したにも関わらず一度も作ってはいない。


「あれれー? どうされたんですか、ボーっと突っ立って。銅像のモノマネですか?」


 葵は作成鍋を取り出して、素材を混ぜ合わせている。
 こちとらやることがないんだ、暇なんだぞ。


「筋トレだ。お前は装備でも作っているのか? 既にいい装備に身を包んでいた気がするが」


 作成鍋の蓋を閉じると、動き出す。
 ぶるぶると震えて、煙をあげる。一段落がついたようで、葵がふふんと大きな胸を強調するように腕を組む。眼福。


「小さな脳ミソにしっかり詰め込んでくださいね。装備などは三回まで強化できます。ゴーストが落とす『死者の布』で装備を強化しているところです」


「俺の武器と防具も頼めるか?」


「ええー、めんどくさい」


 手早く言い返されてしまう。そもそも、借金を返しきっていないのに頼むのもアレか。
 何もやることがなく、うろうろと歩いていると、


「目障り、埋まっててください」


 そう言われてしまったら何も出来ない。
 地面に座り込んで、それからスキルやステータスの割り振りを行う。


 スキルか……。
 メニューを開くと、『新たなスキルが解放されました』とメッセージが出る。


 『セカンドジャンプをサードジャンプに進化できます。進化しますか? スキルポイントが1必要となります』


 おお、もちろん進化だ。すると、セカンドジャンプから棒のようなモノが伸びてサードジャンプにくっつく。


 スキルツリーとか言うのだろうか。恐らく、セカンドジャンプの上位スキルという意味を強めるためだ。


 サードジャンプになると再びLv1になる。セカンドジャンプと付け替えて、サードジャンプを装備する。


 解放されたスキルはこれだけではない。ポイントはまだ3残っている。面白いスキルなら取得するのもアリかもしれない。


 解放されたスキルは三つ。腕力アップ、敏捷アップ、器用アップ。どれもステータスを強化するモノだ。
 どんな条件があるのかは不明だが、腕力は剣、敏捷は戦闘中の動き、器用は拳銃。これらが条件なのかもしれないな。


 通常攻撃強化、剣強化、銃強化スキルも欲しいんだよな……さて、どうしようか。


 ステータス強化は常にかかるし、取得するだけで+5の補正だ。
 現在装備している拳銃にも器用の補正で+3されている。


 このスキル、かなり強いんじゃなかろうか。
 これを、三つ取得してしまおう。


 三つを取得し、つけようと思ったが枠がない。
 まあ、微量だけど経験値が入るようになったからいいか。後でスキルセットは見直すほうがいいかもしれない。


「あなた、弾薬は作ったことありますか?」


 俺の生産スキルを知っている葵が訊ねる。


 お前とずっといたんだから、分かるだろうが。なんとなく話の流れが見えた俺は出来ればこの会話を切り上げたかったが、いい逸らし方が思いつかない。


「ねえよ。嫌味か」


「銃弾も作成鍋で作れます。そして、私のアイテム欄に作成鍋Lv2が眠っています」


「だからなんだよ」


「ほしいか?」


 どうせそんなことだろうと思ったよ。


「タダでくれるならな」


 葵はニコッとそれはもう音符でも浮かび上がりそうなほどの上機嫌で、 


「ふふん、神と崇めなさい。そうすれば私が以前使っていた作成鍋Lv2をあげましょう」


「他人のお古なんざいらねえよ」


「ちなみに一つ一万」


「神様ください」


 もらえるものはもらっておけ。
 奪えるものは奪っておけだ。


「肩を揉んだら考えてあげよう」


「胸なら揉んでやるぞ」


「優しくしてね」


「……俺が悪かった」


「分かればよろしい」


 こくこくと上下に頭を揺らす。
 手を滑らかに動かして、目の前に作成鍋を出現。両手で持ち上げて俺のほうに渡してくる様。


 整った顔が俺を見つめている。ほんと、黙っていればキレイであり、可愛くもある。


「なに見てる」


「お前ほんと黙ってれば可愛いな」


「惚れた?」


「喋らなければな」


 ふふんと得意げに笑ってから、大きめの鍋を渡してくる。
 ありがたく受け取り、地面に置いて腰掛ける。


 新しくもらった『ドンゴブリンガン』は通常弾Lv0~2、火弾ひだんLv2、毒弾どくだんLv1が使える。
 葵は作成鍋を展開した俺の背後に回り、細くキレイな指を伸ばす。


「弾薬師はよく知りませんが、作成鍋にはコツがあります。必要な素材をいれて、蓋をします。鍛冶師の場合はさらに途中で増やしたりしますね。タイミングがいいと、より効果の高い装備ができます」


「……お前、時々優しくなるよな。普段からその性格ならさぞかしモテるぞ」


 それだと俺がつまらなくなるから嫌ではあるが。
 葵とつるんでいるのははっきりと言う性格だからだ。


「知らん男にモテても嬉しくありません。それに、誰でもではありませんよ」


 葵は一瞬小ばかにするような笑いを潜め、くすっと可愛らしく微笑む。


「好感度MAXですから」


「攻略する気にはなれねえな」


「冗談に決まってるじゃないですかー」


 「ドキッとした?」とニヤニヤしながら何度も訊ねてくる。
 ……。俺は何とも微妙な気持ちだった。


 敵と交戦する際、相手の動きを予測するために相手の心を覗くように表情から読み取る。
 今の体はVRではあるが、限りなく表情の動きは現実そのものだ。


 俺の勘違いであればいいんだがな。今葵が言ったのが友人としてではなくて、男としてだったら。
 まあ、自惚れだな。


 瑞希には気に入られているが、俺が誰にも好かれるような性格じゃないのは自分が一番わかっている。


 嘘か本当かはどちらでも、葵はよき友人としての方が性に合う。
 普通じゃないからな。


 基本健全で普通な学生である俺と葵では住む世界が違う。
 さて、バカな思考はやめだ。


 これからは銃弾精製に力を入れよう。


 使う素材は分からない。
 作り方を確認していると自動精製というコマンドを見つける。


 だが、一度自分の手で作る必要があるようだ。ちくしょう。


「どんな素材でも出来るみたいだな」


 試しにゴブリンの皮を取り出す。そのときに少し気になるアイテムを見つける。強化の珠『橙』というアイテムが6つあった。


 アイテムドロップは適当に行っていたからな。俺と葵、どっちがどんなアイテムを取っているのかなんて気にしていなかった。


 特に俺は敵を倒すのに夢中になっていたからな。葵はもっと持っているんじゃなかろうか。
 こんなに手に入るんだ。確かに独占したい気持ちも分かる。


「俺の装備に強化の珠っていくつ使ったか覚えているか?」


「武器に3つ×2、防具は1つ×4。あわせて?」


「10か。とりあえず、いま6つ持ってるから渡しておく。だいぶ借金のたしになるだろ」


「……意外としっかりしてますね。受け取っておきます」


 驚いたようにしやがって、心外だぞ。
 俺はモノの貸し借りとかちゃんとしてるんだ。そういう細かいのを忘れ、後で苦労した犯罪者を何人も見てきたからな。


「ん? なんで一つ返してきたんだ」


「それはプレゼントです。弾薬師で使うとどんなことが起こるのか興味あるから」


「俺の借金の珠は後4つだぞ?」


「別に構いません。それに、そんな不名誉な名前じゃありません」


 とりあえず、珠を使った精製はまだしない。まずは普通の精製に慣れたい。作成鍋に手を触れるとどのスキルを使うか聞かれたので、弾薬師を選択する。


 手に持ったゴブリンの皮を鍋に入れて、スタートと書かれたボタンを押す。


 鍋が湯気をあげて、ぶるぶると震えだす。
 ひとまずはこのまま様子を見て、終了だな。


 すぐに震えは治まり変わり果てたアイテムが出現する。
 通常弾Lv1×6。


 ……いらねえよっ!
 街で大量に買ったわ!


 心の中で絶叫すると、くすくすと心地よい音色の声で笑われる。


「よかったですね」


「うるせえっ!」


 今度は油断しない。まず使うのはゾンビウルフの肉だ。料理するわけではない。
 放り込み、さらにウルフの牙を入れる。


 それでスタート。途中にゴブリンの皮を放る。
 もう俺に出来ることはない。腕を組み、緊張した面持ちで鍋の揺れを見守る。


 これ、少し酔いそうだ。
 今度出来たのは、火弾Lv1×15だ。


「ふふん」


「なぜ、ドヤ顔」


「これで俺も弾薬マスターだな」


「なに寝ぼけたことを言っている。それよりも慣れたのならさっさと強化の珠を使用してみてください」


 もう少しほめてくれてもいいだろうに。一度作ったものはレシピに登録される。通常弾は皮を利用すれば作れるみたいだ。


 火弾の作成は、どうやら牙を使えばいいようだ。
 ……二つ素材を無駄にした。


 いや、そうでもないのか?
 通常弾を作ったときよりも多く銃弾が作成された。


 もしかしたら、素材を多く入れるとその分、数が出来るのかもしれない。
 後で実験してみるのもいいかもしれない。


「強化の珠も入れるタイミングがあります。感覚で覚えるしかありませんがね」


「分かったよ」


 俺は現在持ってる最高の素材と思われるスケルトンが落とした骨を入れる。
 鍋の震えるタイミングを見守る。後5回くらい震えたら、強化の珠を入れよう。


 ぶる、ぶるぶる、ぶるぶる。
 さっとあ蓋をあげて、強化の珠を入れてすぐに閉める。


 後はただ待つだけ。
 震えが収まり、俺はごくりとツバを飲み込みながら蓋を開けてアイテムを拾い上げる。


「マ・グ・ナ・ム弾!」


 精製されたのはマグナム弾Lv1×50。サイズは知らんが、これは嬉しい。強化の弾の効果は凄いな。
 使える拳銃がないのが残念だが、これは後に取っておこう。必殺の一撃、みたいな。


「そういえば、あなたの好きな銃はマグナム弾を使用した拳銃でしたね」


 お前に見せた覚えはないんだが、なぜ知っている。
 別に隠していたつもりもないので特別訊ねたりはしない。武器を知られているのは脅威ではあるが。


「まあな。マグナム弾って格好良くないか?」


「さあ? 第一、私たちは基本的に犯罪者を殺さないんですよ? 威力の高い拳銃なんて使っても百害しかありません」


「効率よりもロマンが大事なんだよ」


 銃弾をしまい、それからは火弾Lv1をメインに作る。
 早速実験してみると、牙一つでは5発しか作れなかった。


 色々な素材を投入した場合何の銃弾が出来るのだろうか、という疑問が浮かんだ。
 例えば、牙と皮だけを入れた場合、火弾、通常弾のどちらが出来るのか。


 この実験はすぐに分かった。
 一番最初に投入した素材で決まる。皮を入れた後にどれだけ牙を入れても、通常弾しか出来ない。


 逆に牙一つでも皮を入れまくれば、大量に火弾を量産できる。
 ゾンビウルフの肉だけを入れると、毒弾Lv1が出来上がる。


 これも使えるかもしれないので、ゴブリンの皮を利用して大量に作っておく。
 余っていた魚も試しに投入すると、水弾すいだんLv1が出来る。カブトムシもやけくそ気味に入れると土弾つちだんLv1になる。


 全部で500発ほど作ると、いい加減素材も減ってきてしまう。


「お前は何してるんだ?」


「メッセージのチェックです。普段はもっと早くにするんですけどね」


 へえ、意外と友好関係があるんだな。
 確かに猫かぶりモードは葵のスタイルの中で一番脅威だからな。


「彼女の携帯とか知りたがるタイプ?」


「放任主義だ。お前に友達がいることに驚いてるんだよ」


「武器の作製の依頼ですよ。とりあえず、今日はボスを倒したらお別れですね」


「清々するぜ」


「そんなに寂しがらないでくださいよ」


「カケラも感じてねえ」


 それから葵は自分の持つ素材で武器を作り始めていた。
 商売状態になった葵を邪魔するわけにもいかず、俺も平行するように作成鍋に向き合う。


 葵が予定していた3時30分になるまで、火弾Lv1を精製しまくった結果火弾は1000発ほど出来上がった。
 弾薬師のスキルもLv11になる。


「ここのボスはケルベロスです。ケルベロスって知ってますか?」


「頭三つある、冥界の番犬だろ。ってことは相手は氷属性か」


「何故分かる。私は初め火属性だと思いましたよ。あれですか、チートですか」


「この会社は結構ゲーム発売してるだろ。時々魔物で出てくるケルベロスは全部氷属性なんだよ。冥界の番犬だから、寒そうなイメージあるしな」


「むしろ、私は地獄の業火で焼き払うようなイメージがありますが。まあ、火弾積極的に使っていくのを期待してます」


「任せろ」


 安全地帯を抜けて、一直線にボス部屋へ。
 俺としては連続でのボス戦みたいなものか。


 ……わくわくするな。

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