Unlucky!

木嶋隆太

第十八話 謎解き

 俺たちは今パーティーを組んでいるので、俺だけに経験値が入るわけじゃない。
 何十匹倒しても、俺が葵を抜かすのは不可能だ。


 経験値を貢いでいるようなムカつく状況だな。
 まあ、いい。後で何かしらの仕返しをしてやる。


 葵は完全に無視して、石碑に手を当てている。くそ、サボりやがって。
 俺から脱退してやろうかと思っていたが、またゾンビウルフが沸く。


 飛び掛ってきた前足を掴んで、地面へ叩きつける。
 残った体力を削るように、顔面を何度も殴りつける。


 血が出ないのが、少し物足りない。遠くにいるのをダブルショットを連発して討伐。


「終わりましたよ、殺人鬼空栄。銃弾結構撃ってるけど持つ?」


「通常弾Lv1を2000発ほど購入したからな。それに、メインは格闘だ」


 石碑から立ち上がった葵は両手に黒い珠を二つ持っている。
 黒い珠?


「なんだどこから黒い珠を出したんだ」


「石碑に約15秒ほど触れていると黒い珠が出現するんですよ」


「だったら先に言えよ。俺はマジでサボってるのかと思ったぜ」


 戦っていなかったのにもちゃんと理由があったようだ。


「どうしましたか? そんなに見られるとこう、スパーンってしたくなります」


 葵の言葉は無視する。


「何かの謎解きでもしているのか」


「ええ、まあ、そんなとこ。次の石碑はあっちだから、ちゃんとついて来ますように」


「へいへい」


 移動中もゾンビウルフは波状攻撃のように迫ってくる。
 倒したと思ったらすぐに新しいヤツ。パーティーを組んでいるせいか一度の出現数も多い。


「行けー私の手となり足となり敵を撃退しろー」


「テメェも少しは戦ってくれませんかねぇ!」


 襲ってくるゾンビウルフすべてをカウンターとダブルショットを駆使して倒す。
 そろそろ剣スキルが欲しい今日この頃だ。


「無駄なことはしたくありませんから」


「何が無駄だ。そこでぼけーっと立ってる時間のほうが無駄だろうが」


「ゾンビウルフは普通のウルフよりもレベル、体力が高く、攻撃力もあります。そして、経験値は通常のウルフよりも低い」


「……この森に人がいないのはそれが理由か」


「ただ単に夜遅いからです」


 いや、少しくらい魔物も原因だろ。
 それからはなるべく倒さずに逃げるのを優先し、石碑に到着。


「今度は十か」


「アホですね」


「喋るだけで、それかよ……」


 『十』とかかれた石碑にも白い珠が置かれている。
 またもや葵が石碑に触れて黒い珠を三つ取得する。


「はい、行きますよー」


 次は『三』。ここでは二つの黒い珠を手に入れた。


「このダンジョンは円形の森か?」


「どちらかというと長方形に近い形ですね」


 どちらにせよ、ダンジョンの南、西、東の辺りに石碑が置いてあったのか。
 以外と距離があり、午前2時を先ほど越えた。


「つきましたよ。魔物の警戒は怠らないように」


 すっかり見張り役を任されるようになった俺は見回しながらも石碑で何かをしている葵へ視線を送る。


「あまり、こちらを見ないでください。セクハラで訴えますよ」


「安心しろ。お前を性の対象として見た試しはねえ。何やってんだ?」


 『二』という文字が刻まれた石碑から黒い珠を一つ獲得。
 ……いや、あれは二じゃないのか?


「謎解きです。今集まった9個の黒い珠を何に使うと思う?」


 石碑の前に座りっぱなしなのを見るに、移動はない。
 ここで何かをするのだろう。


「石碑にぶつけるのか」


「暴力的な解決は禍根を残すだけ」


「なら、一つ質問させろ」


「却下」


 即答かよ。俺は指を突きつけて、少し睨む。


「受け入れろ。『じゅう』の石碑は本当に十か?」


「……へえ、以外と早く気づきましたね。少し、見直しました。少しというのは、三日坊主の人が日記を四日までつけたときくらいの見直しレベルです」


「五日めは?」


「もちろんつけませんよ」


「本当に微妙な見直しだな。バカにしてるだろ」


「気づきました?」


 ニヤリと笑う葵は放っておいて、頭をかきながら考える。
 二は二じゃないってことだな。


「用は、足し算なんだろ。六+三=九ってことだろ?」


「正解」


 葵はいそいそと黒い珠を並べ、「六+三=九」と言う。
 すると、石碑が光をあげ、まぶしさに目元を手で隠す。


 光が治まった頃にはそこは墓地だった。ウルフの森と同じような形状ではあるが、景色はまるで違っていた。
 おどろおどろしいぜ。


「ここは生産職のためと言ってもいいダンジョンです。その代わり生産職系のスキルをつけていないと、中に入れませんし、中に入ってから外すとダンジョンから追い出されます」


「試したのか。追い出されたら、また全部集めなおしか」


 コクリと機械的に頷く。


「おまけに、午前2時から4時までの二時間しか入れません。そして、ここはアップグレード素材が通常よりもドロップ率が高く設定されているようです。ここを知ってるのはたぶん、私だけ」


「そして儲けたと」


「ぴんぽーん」


 つまり、こいつはここでアップグレード素材を多く獲得して、売りつけた。
 それも大量に売り出さずに、小出しにして少しずつ稼いだ。


 余ったモノは自分の好きな武器、防具へ使用し、攻略組の人にはしっかりと売りつける。
 金は入るし、スキルは上がるしで儲けまくりだろうな。


「面倒なエリアだが、時間をかければ誰でも気づきそうなモンだがな、このぐらい」


 俺は葵がいたから分かったのだけど。


「白い珠覚えていますか? あれが全部の場所に置かれているのが盲点らしいです。明かりとして使う、補助アイテムみたいな扱いですからね。石碑の数字に何か意味があるのかもしれないと考えている人もいますが、今のところは私が独占できています」


「公表しないのか、なんて訊くまでもねえか」


「自分に有利な情報をただで公表するなんてバカげてる。あなたならどうしますか?」


「独占して、入手したレアアイテムを高値で売りつける」


「人のこと言えない」


 葵のジト目が俺を見据える。
 多くの人間がそうだろう。せっかくの場所なのだから、存分に有効活用するに決まってる。


 俺の場合は売りつけられる人間がいないのだが。


 公表するとしたら、自分が搾取しまくったところでだろう。それももちろん情報料を奪う。
 殺した人間の持ち物をすべて奪うのと同じだ。


「なら、なんで俺に教えたんだよ。もしかして、好きだからか?」


「妄言はやめてください。気持ち悪くて気絶しそうになりました」


「気持ちに気づいてもらえて嬉しいからだろ?」


「その、異様な自信はどこから来る。私はここのボスを攻略するためにあなたを連れてきました」


「俺の力が必要ってことか」


「憎たらしいですけど、そういうことですね」


 葵は嫌そうな表情を作るが、どこか楽しそうでもあった。
 よく分からんヤツだ、相変わらず。


「もっと強いヤツなんているだろ。前線組の連中なら喜んでついてくるだろうさ」


「それじゃ独占できない」


「だからと言って、俺に教えるのもどうなんだ。俺が独占するかもしれないぜ?」


「それは別に構わないですね、いつかはばれるし。それに、あなたならいいと思いましたから」


 ニコッと優しく微笑みながら、腕を組む。


「随分と信用されてるんだな」


「友達いなそう」


「嫌な信用だぜ」


 返事は予想できていた。ははと苦笑いと共に俺は肩を竦める。
 葵の条件通りの人間である俺は不運だったってワケだな。


 ここまで来たら、バトルを楽しませてもらおうか。


「じゃあ、そのボスの元まで案内しろ。俺も強い相手と戦いたかったからな」


「戦闘狂ですね」





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