Unlucky!
第十五話 知り合い
ドン・ゴブリンを討伐した俺は第一の街に戻り、伸びをしながら歩いていた。
ドン・ゴブリンの落とした素材は有用なモノが揃っているので、鍛冶師の知り合いがいれば何か作ってもらえるかもしれない。
知り合いか……。
いないな。
NPCにお世話になるか。それとも……自分で取得するか。
Lvは19になり、スキルポイントも2余っている。
だが……鍛冶師のスキルよりも欲しいモノがあった。
弾薬師。
その名の通り銃弾を精製することができるスキルだ。
実は以前購入した拳銃は通常弾Lv1と火弾Lv1が使用できる。
街で売っているのは通常弾Lv1のみだ。とりあえずこれは2000発ほど購入しておいた。
弾薬師はかなり使えるスキルだと思う。
うーむ、歩きながら腕を組んで考えていると広場に出た。
広場は基本的にプレイヤーの売買所として利用されている。
初めてログインした頃よりも人が溢れていて、人酔いしそうだ。
スキルについては後で考えるか。何か掘り出し物があるかもしれないと見て回ることに。
店は基本的にプレイヤーが販売用の布を敷き、商品を並べる形式だ。
ああいうアイテムは結構高いので、今ここで店を出せている人はかなり儲けているのだろう。
布などの上にアイテムだけが置かれている店もある。直接交渉などはできないが、プレイヤーも販売だけに拘束されずに済む。
店によってはそれに付け足して、『値段交渉受け付けます』と書かれたメモなどがおいてあったりもする。
風で飛ばされないのが不思議だ。
人がいない場所なら、誰かと関わる必要がないな。
俺は人がいない店だけを見て回ることにする。
現在手持ちは6000ポイントほど。ドン・ゴブリンの素材も売り飛ばせばさらに増えるかもしれないが、まだお金に困ってはいない。
あっ……まだ、魚やカブトムシが眠っていたな。
生臭そうだ。
それにしても拳銃を置いている店が少ない。アサルトライフルやスナイパーライフルがあるのに、なぜハンドガンはないんだ。
銃弾を売っている店もない。これはやはり自分で取得するべきかもな。
次に移動した店は人がいない。
少し気になり、俺も前に移動した。
「おい、あんたこの店はやめたほうがいいぜ?」
「ああん?」
声をかけられたので優しく微笑みながら振り返ると、
「ひぃい! なんだ、あんたこの店の人かっ?」
驚かれた。
そこには、液体のような体をした男がいた。スライム人という種族だ。水のような体をしているが、見た目以外は人間と変わらない。
全身を鎧に身を包み、頑丈そうだ。
「いや、違うが」
「だ、だったら何でそんな目つき悪いんだよ」
「いつもへらへらしてるヤツって信用できなくないか?」
「だからって睨むのもどうかなぁ……?」
「それで。この店がどうしたんだ。あれか、営業妨害か?」
「違うよ。この店かなりいい品が置かれてるからさ、俺欲しくて連絡したんだよ。いくらで売ってもらえるか交渉しようと思ってさ。そしたら、なんて返事が来たと思う?」
俺はちらと並べられた品物の金額にぴくりと眉を揺らす。
すべての商品に0が10個くらいついている。とてもじゃないが買えない。
値段交渉を考えている商品には『応相談』の値札がついていたりするモノなのだが。
この店の品物は売る気がない高額。装備には製作者の名前『ぷにゃんぷにゃん』。
柔らかそうだ。
「その値段で買えってところか?」
「違う。『自慢するために並べているだけですが?』だよ。結構イラッときちまったよ」
そりゃあイラっと来て当然だな。適当に店の商品を掴みとり、じーと眺めると能力値が出現する。
俺の身につけている装備の数段上だ。確かに欲しくなるな。
くるくるとでナイフを弄び、それから置いた。
「まあ、相談の連絡はしないほうがいいぞ」
「ああ、元々見にきただけだからな」
スライムの男が親切に教えてくれ、雑踏の中に戻っていった。
改めてよく見ると色々な種族が入り混じっていて、ファンタジーだ。
人間も結構いるが、あの半分以上は武器人なのだろう。
種族に決定的に違いが出るのは20レベルからだ。そこから種族ごとにクエストを受けて、種族ごとの特性などを取得できる。
俺ももう少しだな。
もう一度、店に並べられた装備たちを見やる。
どれも、ランクの高い装備品だ。
これらを製作したヤツは、前線組にパイプでもあるのだろうな。
その店に別れを告げて、適当に他にも回るが特にいいモノは見つけられなかった。
俺としてもボスを倒した息抜きだったからな。
「……?」
広場を後にしようと思ったところで、誰かに見られている気がした。
そちらへ視線を送るが、視線の主は人波に消えて誰だったのかわからなくなる。
俺に惚れたか?
ふざけながら、夕食をとり雑魚を狩る気も起きなかったので眠ってしまった。
起床はなんと午前1時ちょっと前。いつも7時間設定で眠っているので、昨日は18時くらいで眠ったってことか。
まだ、朝の2時にもなっていない。風がほどよく冷えていて、過ごしやすい時間帯。
まだまだ闇は残り、太陽が出るまで待つ必要がある。
俺は人の少ない通路を歩いていると、こんな時間に誰だ?
一人の人間が歩いているのを見かけ、即座に隠れる。
夜ずっと狩りをして、今戻ってきたのだろうか。夜の狩りは色々と大変そうだな。
どんな時間帯に人がいても、おかしくないだろう。
基本無視の俺はしかし、つい凝視してしまう。
胸が……でかい。自然、どれだけの美少女なのか気になり顔を上げると……可愛かった。
ロボットのような無表情ですたすた歩く彼女は黒髪のポニーテールだ。外見に特徴がないことから、武器人か人間だと思われる。
髪を見ていたからか、名前も目に入り息を呑む。
『ぷにゃんぷにゃん』
おいおい、昨日のぼったくり装備屋じゃねえか。方角的に広場の店へ向かったのか。
特にやることもなかったし、プレイヤーが巨乳の美少女だったので暇つぶしにつけてみた。巫女服に近い格好。可愛らしい。
ストーキング……ではなく、追跡はあまり得意じゃない、むしろ苦手だ。
それでも、たかが素人に見つかりはしない。
曲がり角に消えたのを見て、すぐに移動を開始する。
飛び出す、銀色。……ナイフだ。顔は下がっており、見る余裕はない。
咄嗟に体を斜めにして攻撃を避けながら、腰を捻って回し蹴りをかます。
かかとが相手の体にめり込む。腕を掴み背中側に捻り上げながら、頭を壁にたたきつける。
「ストーカーに力がつくと、ロクなことになりませんね」
相手は、『ぷにゃんぷにゃん』だ。
今のナイフの突き出し、学校で習った物に似ている。
……嫌な汗が頬を伝う。癖で、反撃してしまったが街中ではPKは出来ない。
殴られても、刺されても、痛みはない。喧嘩の元になるくらいだろう。
「昨日、私の店を見ていましたね? 泥棒ですか? 強盗ですか? 強姦ですか?」
「どれもちげえよ」
女を解放して、薄暗い中その顔をはっきりと視認する。
……チッ。
体を解放してやる。
「なにしてるんだ、葵」
同じ学校の、しかも同じクラスの女だ。これだけ広いゲーム世界で出会ってしまうなんて、なんという不幸だ。
成績の悪い俺にも普通に会話をしてくる珍しい女だ。嫌いだが。
ほとんど現実と容姿が変わらない。元の体を全くいじっていないのが分かる。
それにしても、目の色以外何も変わっていないぞ。さすがに浅はか過ぎないか?
水色を基調とした、動きやすい服装だ。
戦闘をする癖に膝上のスカートを穿くのはどうなんだろう。パンチラを期待してもいいのだろうか。
何色なのだろうか。
「それはこちらの台詞ですね。あなたがゲーム好きなのは知っていましたが、MMOは大嫌いでしたよね? 友達ゼロだから」
ニヤリと歯を少し見せて、挑発するように笑う。
「それにしてもこれはちょっと驚き。殺すつもりで攻撃したのに、逆にやられるなんて」
やはりそこに行き着くか。できればこのままどこかに行って欲しかった。
「……運がよかっただけだ」
「仮にも、私は学年二位の実力を持っていますが? 運だけで勝てるような相手ではないですね。それとも、私には運さえあれば勝てると言いたいんですか、最下位くん」
俺とよく話すのは、たぶん、バカにしたいからだ。こいつの性格は苦手だ。からかっても普通に返してくるからな。
言い争っても勝てる気がしないので、なぜこのゲームをしているのかを訊ねることにした。
「なんでこのゲー――」
「好きだからですが?」
単純な思考回路ですねとでも言いたげな目だ。
「そ、そうか……」
俺が困ったように口ごもるとニヤニヤァとムカつく笑みを装備した。
代わりに俺も言ってやる。
「事件とは関係ないのか? 外で何かしらの手立てを考えて、お前が投入されたのかと勘ぐっていたんだが」
「あなたにそんな深い物事を考える力があったんですね。世界中のミジンコがびっくり」
「俺はそんなにミジンコ業界で有名なのか」
「そりゃもう。ミジンコたちの希望のミジンコ、赤羽空栄 」
「まるで俺がミジンコから人間になったみたいだな」
ああ、ダメだ。始まっちまった。
「知らなかったんですか? 顔とか脳ミソとかミジンコ似なのに? ミジンコ世界から人間を滅ぼすためにやってきた、愚者空栄」
「俺をどこまでバカにすれば気が済むんだよ」
「空栄が飽きるまで」
「飽きた」
「愚者空栄はミジンコたちを引き連れ、人間を滅ぼそうと企む空栄」
「聞こえなかったっ!?」
葵はうるさいなーと眉根をよせながら、ナイフをボールのように上に放り遊んでいる。
手に刺さればいいのに。
「あなたは、こんな時間に何をしていたんですか。何を終えたんですか」
「今起きたんだよ。どんどん寝るのが早くなってな。そんなお前は何してるんだ。何を終えたんだ」
「エッチなこと」
「……ほんと、お前そういうのもうちょっと恥ずかしさを持てよ。こっちも興奮しないだろうが」
「興奮したら困ります。私は店の状態の確認です」
「ああ、そういや売る気のねえ店構えてるんだろ。なんでだよ」
やけに印象に残る名前だったからな。
「人は自分よりも劣っている相手をバカにして、心の安寧を図ります。人間は自分より下の人間がいると安心しますからね。それはあなたが一番分かっているはず」
「ああ、毎日侮蔑の視線がマシンガンの如く放たれてたぜ」
「私があなたと一緒にいるのはまあ、だいたいそんな感じ」
「素直なヤツだな。まあ、俺も楽しいから別にいいんだが」
実のところ嫌いではない。自分の感情をぶつけまくってもしっかり返してくる友人だからな。
「ドM」
「前言撤回。二度と関わるな」
俺が親指を下にして突きつけると、ニヤヤァと口角がつりあがる。綺麗に並んだ白い歯が憎たらしい。
「この世界でいい品作って見せつけるのもそんな感じ」
「最低だな」
分からないではないか。現実と仮想世界は違う。現実ではヒーローになれなくても、仮想世界ではなれる場合もある。
だからこそ、ゲームなんかは売れるんだろうしな。楽しみ方は人それぞれだ。
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