Unlucky!

木嶋隆太

第十三話 ボス

 今朝は珍しく午前5時くらいに起床した。この世界に来てからは寝るのが早かったので、これでも遅いほうだ。


 食堂でご飯を頂く。毎日のように女性NPCには声をかけるが、返事は同じ。好感度とかはないのだろうか。会うたびにどんどんあがるモノじゃないのか。


 ああ、どこかにロリな狐っ子でも落ちていないモノだろうか。
 そろそろ飽きてきた頃だ。ナンパ相手を変える必要があるかもしれない。


 食事も梅おにぎりと鮭おにぎりのローテンション。他のおにぎりはあまり自分が食べたいモノはなかった。
 ツナマヨとかあったけど、マヨネーズ食べられないし。卵は大好きだけど。


 仕方なく今日は梅おにぎりを選び、これからどうしようか考える。


 おにぎり片手にウィンドウを操り、クエストを調べていく。また……ムキムキのおっちゃんの依頼があったぞ。あいつとバトルでも出来るのだろうか。


 そう考えると、やる気が一気にあがってくる。
 近いし、それを受けにいくか。


 ぶっ潰してやる。


 食事を終えた俺はしばらくカウンター席に座って、タダの水を飲みながら休息をとっていた。
 やはり、朝早い時間はいい。心が洗われるようだ。


 と、のん気にしていると食堂に5人ほどのパーティーが入ってくる。 
 案外こんな時間でも人が来るモンなんだな。


 夜に狩りを行う人も結構いるから、今帰ってきたとも考えられるか。だとしたら朝帰りだな。
 どちらにしろそいつらは俺とは関係ない。


 水を飲んでいると、さっき入ってきたプレイヤーたちが……お、俺の近くにきやがった。
 嫌な予感がしなくもないが、たぶん、近くに座るだけだろう。5人もいるのだから、テーブル席に座れよ。


 店員のため息がかかるぞ。


 俺はそのまま水に意識を集中する。極力そちらは見ないようにする。不良をじろじろと見ているといちゃもんをつけられる。


 こっちが意識を向けなければ、相手だって何もしないのだ。
 カウンター席だっていくつか余っているのに男はわざわざ俺の隣に座り、くるっとこちらに体が向く。


 まさか、やめろ。俺に話しかけるな。全身から話しかけるなとオーラを発する。


 面倒なんだ。向こういけ、殴るぞ。
 気さくそうな男が笑みを浮かべ、


「なあ、俺たち5人なんだよ。それで、お前一緒に組めねえか? ダンジョンのボスを倒して素材が欲しいんだけどさ。やっぱり6人まで組めるから後一人増やしたくてさ~。ドン・ゴブリンなんだけど、大丈夫か?」


 話しかけやがった。俺の実力よりもお前の空気の読めなささを心配してくれ。
 つーか、朝早いな。


 どこにでもいるような普通な男の背後には女性二人に男性二人。手を振ったり、頭を下げたりと俺に好意的だ。
 パーティーか……。正直面倒なんだよな。


 ソロでも別に困ったことはない。ボスだって、ソロでも攻略可能なゲームなんだ。


「悪い」


 ぷいっと目線を外しながら、水を口に運ぶ。
 ところが、男は俺に何かを感じたのか肩を組んでくる。


「そういうなって、なっ。いいだろ?」


(いやだな、こういうグイグイ来るヤツ)


 俺の不快全開な表情を見てくれよ。
 断ったんだから、あきらめてくれよ。


「空戦士だ。それにヒューマンだ」


 誘われにくいはずだ。
 ところが、男は俺が遠慮していると思ったのか、落ち着いた様子で苦笑する。


「別に、気にしないって。空戦士も結構修正入ったんだろ? まだ、死にやすいらしいけど、無理しなければいいからさ」


 それだと意味なくないか?
 敵のステータスがあがるだけじゃねえか。


「誘うのなら、人が多い場所に行ったほうがいいだろ?」


「いや、今の時間帯だとあんまり人もいないんだよ」


(だったら、もっと時間ずらせよ……)


「悪いな。基本的にソロでやりたいんだよ」


 ここまでしつこいとは思っていなかった。
 最初から言えばよかったよ、ほんと。


「……そっか。いやいや、ごめん。こっちも無理に誘ってさ」


「ああ、別にいい」


 全然よくないが。


 ようやく去った男。まあ、多少は話の分かるヤツでよかった。
 俺の態度に怒らない辺り、心の広い人間なのだろう。


 ……だからMMOは嫌なんだ。
 脱出したら二度とやらない。俺は恋愛ゲームで幼女攻略に向かうんだ。ぐふふ。


 小さな事件こそあったが、俺は今日も依頼を受けに行く。
 なんだか、仕事に就いたような気分だ。この世界なら俺はいくらでも生きていける。


 職業冒険者。
 うさんくさいな。ちょっとバカなにおいもする。


 食堂を出てすぐのギルドショップにいるムキムキのおっちゃん。
 今日もひたすら腕を組んでいる。


「よっ」


 片手をあげて話しかけると、おっちゃんがこちらに気づく。


「依頼を受けに来たのか?」


「ああ」


「そうか……だったら話は早い。ドン・ゴブリンを倒してきてくれないか?」


(え?)


 依頼はモンスターの討伐。おっちゃんとの決闘ではなかった。


 つーか、どこかで聞いたぞ、デジャブか? デジャブだな。
 クエストの説明を簡単に聞く。


 ドン・ゴブリンとはゴブリン基地というダンジョンのボスで、レベルは10程度。ボスという点を考慮しても俺より低いレベルなので、狩りに困る必要はないだろう。


 このMMOが一人で攻略可能なのは分かっている。体力削るのが面倒だけど問題ない。常に狙われる危険もあるが、回避すればいいだけだし。


 というわけで依頼を受注。


 昨日武器やその他諸々は買い換えたので、問題はない。
 一つ問題があるとすれば、食堂であったメンバーと鉢合わせる可能性か。


 時間をずらそう。
 午前中は昨日同様ウルフ狩り、少し第一の街から離れた場所で狩りを行った。


 MMOの基本は自分よりも低レベルのモンスターを狩りまくる。
 だが、単純作業で飽きてくる。時々自分よりも強い魔物も倒す。


 よし、ポイントもとうとう5000に達した。
 記念に、武器屋で一番強い剣を購入し、ハンドガンの修理も行う。合計3000ポイントが消えた。


 素材も店売りで適当にばらまくと、ポイントは3000まで回復した。
 ポーションなども念のため確認したが、モンスターもたまにドロップするおかげで結構ある。


 購入はまだいいだろう。


 太陽が天辺を通り過ぎ、後は沈んでいくだけの時間帯。昼飯もなるべく高いのにして、ステータス補正を狙った。
 たらこスパゲティーを食べると、腕力+3、敏捷+2の効果だった。中々だ。


 切られた海苔がパスタの上に乗り、いい香りがした。
 ほどよい柔らかさの麺でバクバク食べてしまった。また機会があったら食べよう。


 そういえばたらこスパゲッティーにマヨネーズをかけるとうまいなんて聞いたことがあるな。俺は絶対にやらんが。


 機は熟した。
 今朝のパーティーもドン・ゴブリンを討伐してはしゃいでいるだろう。または負けて、うなだれているはずだ。


 俺も今からはしゃぎに行くとするか。
 街の北門からお試しの草原を経由して、ダンジョン『ゴブリン基地』に到着。


 洞窟のようなそこに入ると、ダンジョンが俺を出迎える。
 ダンジョンはほとんど円に近く、一番奥に魔方陣のようなものがある。魔方陣に乗れば次のフロアに行け、三階の魔方陣に触れるとボス部屋に行けるのだ。


 迷ったりするようなことはない親切な設計だ。すべてのダンジョンがこうなら迷わなそうなんだがな。
 敵の平均レベルは12くらいだ。


 ここには、様々な職業のゴブリンがいる。剣士、マジシャン、格闘家、弓兵などなど。
 魔法以外はすべて対処可能なので、そのままどんどん先に進む。ここのマジシャンゴブリンはちゃんと杖を持っているので、真っ先に叩けば問題なし。


 ハンドガンで頭を撃てばひるむしな。


 三階。地下なのかゴブリン基地は普通にレベル上げの場としても使えるので、結構人がいた。
 やだな……。


 なるべく、視線を合わせないように一目散に魔方陣を目指す。途中静止の声がかかった気がするが無視する。
 どうせ「ソロで挑むには危険すぎる……!」とかだろう。構うモノか。


 魔方陣に乗る。光を放って、俺が次に目を開けると特殊な丸いフィールドにいた。
 そして、中央には。


「愚かな人間よ。一人で挑みに来るとはな」


 ドン・ゴブリンと思わしき魔物がいた。
 ボス戦は初めてだ。体がふつふつと喜びの熱をあげはじめる。





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