Unlucky!
第八話 釣り
さて、まだクエストは受けられそうだな。メニュー画面の時間は大して経っていない。
おっちゃんの財布事情を想像しながら、俺はさらに依頼を受ける。
こうなったら、空にしてやる。路頭に迷わせてやる。
「次のクエストはスキルの発動だ。スキルの発動は、声に出すのが一般的だぞ。凄いヤツは心の中でイメージしながら使用できるらしいけど、そんなのおっちゃんには無理」
無理ーと両手でバッテンを作る。ガキか。うざい。
とりあえずスキルを使えばいいらしい。
あの後ポイントがまた入ったので、2ポイントでダブルショットのスキルを取得した。1ポイントはまだ悩んでいて使っていない。
早めに取得したほうがいいのは分かってるんだがな。別に効率よくプレイしたいとも考えていないので、いいんだが。
攻撃スキルはダブルショットだけなので、これを使おう。
銃系のスキルは、威力はあまりないが連発できるところに強みがある。
他のスキルは再使用時間があるが、銃は基本的に再使用時間がない。
瞬間的な攻撃力は高いが、MP消費が多くおまけに銃弾も消費する。
『通常弾Lv0』は攻撃力0の最弱であるが、無限にあるので弾がなくなることはない。リロードする手間はあるが。
ゲーム開始時に貰っているので銃を撃ちたいだけなら、これで使用できる。
俺は『疲れた剣』を外し、『疲れたハンドガン』に切り替える。手に収まった拳銃はステータスの筋力が高いからか重くはない。銀色の銃で、かっこいいが、所々に虫食いのような汚れがあり、なんとなく疲れていそうだなと思った。
無限の弾をハンドガンに装備し右腕を伸ばして、左手は下から支えるようにハンドガンを構える。
おっちゃんの頭へ照準を合わせて、ダブルショットと心で念じる。
スキル、ダブルショットは引き金を引いた際に玉が二発出るという効果だ。現実にある三点バーストと似たようなモノだ。
あちらは三発だが、最近では二点バーストなるモノもあるから、ダブルショットは二点バーストってことか。
この世界の銃はセミオート――撃つたびに引き金を引く必要がある――ばかりなので、このダブルショットのスキルも使える。
現実なら人間なんて一撃で倒せるかもしれないのに、モンスター相手だと撃ちまくる必要がある。
フルオートの銃があったら、このスキルは微妙な性能になったかもしれない。今でも結構微妙なんだけどな。連続使用できるのが強みではあるが、MPをがりがり消費していく。
現実世界でも何度も射撃練習はさせられたし、この程度問題ない。二丁拳銃でもいける。
心でスキルを発動したが、効果はしっかりと現れる。
二発同時により、ハンドガンは僅かに上にぶれたが連射してもすぐに立て直せるレベルだ。
放たれた銃弾がおっちゃんの頭へと向かい、当たったと思う一瞬前に――画面がぶれた。
何かがおっちゃんの顔の前を横切った。ゆっくりと視線を下げると、おっちゃんの手から湯気のようなものが。
そして、人差し指と中指、中指と薬指の間に銃弾が二発収まっている。
少し経つと、霧のように消える。
……なんだ、こいつは。
「よし、スキルも使えたな。スキルはモンスター相手に非常に有効な手段だ。決定打になり得る場面も多いだろうから積極的に使っていけ!」
あっけらかんと言ってのけるおっちゃんは、ポーションを今度は20個と500マニーをくれた。
だが、まださっきの銃弾を止めたおっちゃんの動きに驚いていた俺はまともに行動できない。
頬に冷や汗が伝う。同時に笑みがこぼれる。マジで戦いてぇな。
「とりあえず今はこれで、終わりだ! よく頑張ったな! セーユー!」
片手をあげるおっちゃん。
一瞬何を言ったのか分からなかったが、状況から意味を察した。
「……いい発音だな」
これでクエストを三つクリアした。
やり遂げた達成感に俺は一つ伸びをする。
さて、帰るか……。ではなくて、まだ起きたばかりだ。
今日の目的は魚の捕獲だ。
まずは食堂でおにぎりを持ち帰りで注文。朝食にしてはまだ早いのでアイテム欄にぶちこみ、それから川に向かう。
どれだけ時間がかかるか分からないからな。途中でも戻るのも面倒だ。
橋の上に一度向かい、糸を下ろすが……川に届かねえ。どんだけ短いんだよ、この釣竿。
ここから釣りをするのはムリなので、土手へ。
釣竿をとりだし、餌をつけて川に放り投げる。
それから、座り込み浮きが沈むのを待つ。釣竿は細長い木に糸を結び、浮きをつけただけの作ろうと思えば誰にでも出来るようなシンプルな出来だ。
小魚くらいしかつれそうにない不安たっぷりの釣竿をしばらく見つめる。
大体10秒ほどだろうか。飽きた。だから、釣りは嫌いなんだ。
俺の怒りを察して、プログラムがやばいと感じたのかポチャン。浮きが溺れ、水しぶきがあがるのを俺は見逃さない……かかったな。
リールなんて高尚なものはついていない。ひたすら筋力で引っ張るだけ。
このゲームには一応筋力などのステータスはある。だが、上昇方法は分からない。装備により補正をかけるのが一般的だ。あとはスキルなどか。
プレイヤースキル重視なだけあり、そこまでゲーム側からサポートがない。精々装備で補うくらいだ。
もしも現実の体が元なら、魚ごときに遅れをとる俺ではない。力強く引っ張るだけで、魚が宙に現れる。
とりあえず、土手に落として目で長さを測る。
18cmくらいのサケだな。これで成魚みたいだし、現実の大きさを再現しているわけではないようだ。
まあ、あまりにも大きいのはプレイヤーとしても困る。たぶん、誰でも楽しめるようにということなのだろう。見た目も少し可愛い感じに作られている。
触れるとアイテム欄に入り、サイズを確認すると17.9cm。だいたい合ってる。
後釣りに成功したときも僅かに経験値が入ったぞ。レベルって結構あげやすいのかも。
まあ、この調子ならすぐにレベルもあがるし、クエストも終わるだろ。
これが終わったら今日は何しようか。可愛い普通の女の子とデートにでも行きたいな。
……あれから1時間が経った。
さっきから地面を破壊したい衝動に何度駆られているだろうか。
魚はかなり釣れる。現実では想像できないほどに、これなら釣りを趣味にしてもいいかもしれないと思えるほどに。
だが、20cm以上の魚がでない。
最高では19.8cm。おまけにここにはサケとなぜかヒラメしかいない。
もしかしたら、海釣りに切り替えたほうがいいのかもしれない。サメとか釣ったほうが早いかもしれない。
時々俺に話しかけるプレイヤーがいたが、俺の顔を見てすぐにどこかに消えた。
そりゃそうだろうな。今の俺、人を殺さんばかりに怒ってるからな。
次出なかったら、このクエストは保留だな。
あぐらを組み肘をつき顎をささえながら、片手でやる気なさげに浮きを睨み続ける。
浮きが深く沈み、とたんに釣竿が手から抜けそうになる。
右手に伝わる衝撃が凄まじく、一瞬川に持ってかれそうになる。
今までで一番の手ごたえだ。俺に喧嘩を売るなんてな、分かってるのか。
しなる釣竿に頑張って堪えてくれと念を送りながら、俺は両腕に力を込める。
一進一退の攻防。普段の力勝負なら負けることはないが……今回ばかりは苦しいぞ。
だけど、ここまで待ったんだ。絶対ににがさねえ。
刃のように瞳を細めて、笑う。
釣竿にかかる負担が緩んだ!
ここだっ。持てる全力で釣竿を放り上げると、そこには35cmほどのサケがいた。
土手に打ち上げ、素早くタッチしてアイテム欄に入れる。
くくく。
「くくく、くははは! どうだ、魚めっ、この俺に勝てると思っていたか、これでテメーらとはお別れだっ。全員バター醤油で焼いてやるぜ」
川に向かって指を突きつけて、高らかに叫び感動の余韻を味わっていた。
おっちゃんの財布事情を想像しながら、俺はさらに依頼を受ける。
こうなったら、空にしてやる。路頭に迷わせてやる。
「次のクエストはスキルの発動だ。スキルの発動は、声に出すのが一般的だぞ。凄いヤツは心の中でイメージしながら使用できるらしいけど、そんなのおっちゃんには無理」
無理ーと両手でバッテンを作る。ガキか。うざい。
とりあえずスキルを使えばいいらしい。
あの後ポイントがまた入ったので、2ポイントでダブルショットのスキルを取得した。1ポイントはまだ悩んでいて使っていない。
早めに取得したほうがいいのは分かってるんだがな。別に効率よくプレイしたいとも考えていないので、いいんだが。
攻撃スキルはダブルショットだけなので、これを使おう。
銃系のスキルは、威力はあまりないが連発できるところに強みがある。
他のスキルは再使用時間があるが、銃は基本的に再使用時間がない。
瞬間的な攻撃力は高いが、MP消費が多くおまけに銃弾も消費する。
『通常弾Lv0』は攻撃力0の最弱であるが、無限にあるので弾がなくなることはない。リロードする手間はあるが。
ゲーム開始時に貰っているので銃を撃ちたいだけなら、これで使用できる。
俺は『疲れた剣』を外し、『疲れたハンドガン』に切り替える。手に収まった拳銃はステータスの筋力が高いからか重くはない。銀色の銃で、かっこいいが、所々に虫食いのような汚れがあり、なんとなく疲れていそうだなと思った。
無限の弾をハンドガンに装備し右腕を伸ばして、左手は下から支えるようにハンドガンを構える。
おっちゃんの頭へ照準を合わせて、ダブルショットと心で念じる。
スキル、ダブルショットは引き金を引いた際に玉が二発出るという効果だ。現実にある三点バーストと似たようなモノだ。
あちらは三発だが、最近では二点バーストなるモノもあるから、ダブルショットは二点バーストってことか。
この世界の銃はセミオート――撃つたびに引き金を引く必要がある――ばかりなので、このダブルショットのスキルも使える。
現実なら人間なんて一撃で倒せるかもしれないのに、モンスター相手だと撃ちまくる必要がある。
フルオートの銃があったら、このスキルは微妙な性能になったかもしれない。今でも結構微妙なんだけどな。連続使用できるのが強みではあるが、MPをがりがり消費していく。
現実世界でも何度も射撃練習はさせられたし、この程度問題ない。二丁拳銃でもいける。
心でスキルを発動したが、効果はしっかりと現れる。
二発同時により、ハンドガンは僅かに上にぶれたが連射してもすぐに立て直せるレベルだ。
放たれた銃弾がおっちゃんの頭へと向かい、当たったと思う一瞬前に――画面がぶれた。
何かがおっちゃんの顔の前を横切った。ゆっくりと視線を下げると、おっちゃんの手から湯気のようなものが。
そして、人差し指と中指、中指と薬指の間に銃弾が二発収まっている。
少し経つと、霧のように消える。
……なんだ、こいつは。
「よし、スキルも使えたな。スキルはモンスター相手に非常に有効な手段だ。決定打になり得る場面も多いだろうから積極的に使っていけ!」
あっけらかんと言ってのけるおっちゃんは、ポーションを今度は20個と500マニーをくれた。
だが、まださっきの銃弾を止めたおっちゃんの動きに驚いていた俺はまともに行動できない。
頬に冷や汗が伝う。同時に笑みがこぼれる。マジで戦いてぇな。
「とりあえず今はこれで、終わりだ! よく頑張ったな! セーユー!」
片手をあげるおっちゃん。
一瞬何を言ったのか分からなかったが、状況から意味を察した。
「……いい発音だな」
これでクエストを三つクリアした。
やり遂げた達成感に俺は一つ伸びをする。
さて、帰るか……。ではなくて、まだ起きたばかりだ。
今日の目的は魚の捕獲だ。
まずは食堂でおにぎりを持ち帰りで注文。朝食にしてはまだ早いのでアイテム欄にぶちこみ、それから川に向かう。
どれだけ時間がかかるか分からないからな。途中でも戻るのも面倒だ。
橋の上に一度向かい、糸を下ろすが……川に届かねえ。どんだけ短いんだよ、この釣竿。
ここから釣りをするのはムリなので、土手へ。
釣竿をとりだし、餌をつけて川に放り投げる。
それから、座り込み浮きが沈むのを待つ。釣竿は細長い木に糸を結び、浮きをつけただけの作ろうと思えば誰にでも出来るようなシンプルな出来だ。
小魚くらいしかつれそうにない不安たっぷりの釣竿をしばらく見つめる。
大体10秒ほどだろうか。飽きた。だから、釣りは嫌いなんだ。
俺の怒りを察して、プログラムがやばいと感じたのかポチャン。浮きが溺れ、水しぶきがあがるのを俺は見逃さない……かかったな。
リールなんて高尚なものはついていない。ひたすら筋力で引っ張るだけ。
このゲームには一応筋力などのステータスはある。だが、上昇方法は分からない。装備により補正をかけるのが一般的だ。あとはスキルなどか。
プレイヤースキル重視なだけあり、そこまでゲーム側からサポートがない。精々装備で補うくらいだ。
もしも現実の体が元なら、魚ごときに遅れをとる俺ではない。力強く引っ張るだけで、魚が宙に現れる。
とりあえず、土手に落として目で長さを測る。
18cmくらいのサケだな。これで成魚みたいだし、現実の大きさを再現しているわけではないようだ。
まあ、あまりにも大きいのはプレイヤーとしても困る。たぶん、誰でも楽しめるようにということなのだろう。見た目も少し可愛い感じに作られている。
触れるとアイテム欄に入り、サイズを確認すると17.9cm。だいたい合ってる。
後釣りに成功したときも僅かに経験値が入ったぞ。レベルって結構あげやすいのかも。
まあ、この調子ならすぐにレベルもあがるし、クエストも終わるだろ。
これが終わったら今日は何しようか。可愛い普通の女の子とデートにでも行きたいな。
……あれから1時間が経った。
さっきから地面を破壊したい衝動に何度駆られているだろうか。
魚はかなり釣れる。現実では想像できないほどに、これなら釣りを趣味にしてもいいかもしれないと思えるほどに。
だが、20cm以上の魚がでない。
最高では19.8cm。おまけにここにはサケとなぜかヒラメしかいない。
もしかしたら、海釣りに切り替えたほうがいいのかもしれない。サメとか釣ったほうが早いかもしれない。
時々俺に話しかけるプレイヤーがいたが、俺の顔を見てすぐにどこかに消えた。
そりゃそうだろうな。今の俺、人を殺さんばかりに怒ってるからな。
次出なかったら、このクエストは保留だな。
あぐらを組み肘をつき顎をささえながら、片手でやる気なさげに浮きを睨み続ける。
浮きが深く沈み、とたんに釣竿が手から抜けそうになる。
右手に伝わる衝撃が凄まじく、一瞬川に持ってかれそうになる。
今までで一番の手ごたえだ。俺に喧嘩を売るなんてな、分かってるのか。
しなる釣竿に頑張って堪えてくれと念を送りながら、俺は両腕に力を込める。
一進一退の攻防。普段の力勝負なら負けることはないが……今回ばかりは苦しいぞ。
だけど、ここまで待ったんだ。絶対ににがさねえ。
刃のように瞳を細めて、笑う。
釣竿にかかる負担が緩んだ!
ここだっ。持てる全力で釣竿を放り上げると、そこには35cmほどのサケがいた。
土手に打ち上げ、素早くタッチしてアイテム欄に入れる。
くくく。
「くくく、くははは! どうだ、魚めっ、この俺に勝てると思っていたか、これでテメーらとはお別れだっ。全員バター醤油で焼いてやるぜ」
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