Unlucky!

木嶋隆太

第七話 クリティカル

 朝起きると瑞希からメールが届いていた。時間は昨日の21時くらい。何度かコールもされていたが、俺は20時には寝てたからな。


 メールを開いてみると、簡単に文が綴られている。


『明日の午前10時に第二都市解放戦が行われるわ。平均レベルは19辺りよ。アキ兄も来る? 来る、来ないに限らず、永遠を誓った瑞希へという言葉をつけて返事をしなさい』


 レベルは全然追いついていない。それにフィリアムとヒメから煙たがられるだろう。オレンジは……よく分からない。
 ゲームは楽しんでやるモノだ。俺一人のせいで他のヤツらが不快になったら、な。


 悩むまでもねえ。


『行かない』


 少し味気ないか。語尾に☆でもつけて置くか。


『行かない☆』


 これでいいや。
 返事を送ったところで質素な布団を蹴り上げる。どうせ、俺がこの部屋を返したら自動で直っているだろう。


 鏡を見て、ぱっと身だしなみをクセで確認し、皺ができた服に気づく。
 だが、数秒して皺はすべて消える。現実らしさと非現実が混ざり合っているな。


 7時間設定で眠ったので、もうすぐ3時。どこかで鳥の鳴き声が聞こえる。空気は冷たく、すごしやすい。
 太陽はまだ昇っていないが、段々と空は明るみ始めている。


 宿の近くにギルドショップがあったので、入り口の扉を見ながら過ぎていく。
 ここでギルドを作れるが、金がかかる。まだ、誰も中に入っていく人はいない。


 というか、ほとんど人がいない。


 ギルドショップを守るように筋骨隆々のおっちゃんが立っている。上半身裸で黒光りした筋肉が太陽の代わりとばかりに輝いている。
 なぜあんなに眩しいのか。きっと彼のハートが燃えているのだろう。


 あいつを倒さなければ、中には入れないとかそんなことなのだろうか。
 強いのか? ぜひ、戦ってみたい。


 俺が気になってじーと見ていても、特に目立った動きは見せない。俺は記憶を整理しながら、あることを思い出す。
 確か、ギルドショップ付近で受けられるクエストが合ったよな?


 メニューを開き、クエスト一覧を開く。脱出クエストのドラゴン退治は無理でも、通常クエストなら俺でもできるだろう。


 誰でも自由に受けることができる通常クエスト。大抵はNPCの悩みを聞き、解決するとクリアだ。
 すでに昨日、釣りのクエストを受けているが、時間制限があるわけではないので簡単なモノなら受けておこう。


 それに、この世界に慣れたとは言い難いしクエストで基礎を学ぶのも悪くない。基礎をおろそかにすると、応用できないからな。すべての原点だ。


 クエストの必要性はあまりないと言われている。攻略サイトではクエストをやる価値はほとんどないと載っていたはずだ。


 それでも、何かしらのアイテムや多少のポイントがもらえるだろうしな。


 さっそくクエストを受けるために、依頼人を探す。
 1、アイテムを使ってみよう。依頼人、ギルド前にいる半裸の男。


「あれか……」


 偶然に見つけたのがまさかクエスト相手だったとは。


「おう、ボウズ! 依頼を受けに来たのか!?」


「ああ」


 頭に響く声だなと俺は眉を動かす。ずっと聞いていると耳が遠くなりそうだ。


「よし、それじゃあ元冒険者のおっちゃんが教えてやる。まずはアイテムの使い方だ。お前にレッドポーションLv1を渡すから使ってみてくれ」


 おっちゃんがポケットからレッドポーションを取り出したので受け取る。
 そういえば、使ったことはなかったな。


「使い方は飲むか、体にぶつけるかだ。うっかり敵の魔物にぶつけたら相手が回復するから気をつけろよ?」


 渡されたのはレッドポーションLv1。効果は最大HPの5%を回復する。


 体にぶつけたほうが速そうだが、どんな味がするのか気になったので、口に含んでみる。
 手の平大のビンに収まったレッドポーションは、一口飲んだだけですべてなくなる。


 手品師もびっくりな嚥下えんか力だ。
 味はトマトだ。トマトジュースだ。トマトは好きだが、ケチャップはダメな俺だ。


「よし、出来たな。そんじゃこれは報酬だ」


 そういうと、ウィンドウが現れてレッドポーションLv1×10、ブルーポーションLv1×10を入手しましたと出る。
 ブルーポーションはどんな味なのだろうか。機会があれば飲んでみよう。


 クエストをクリアすると、経験値も僅かにもらえるようだ。ちょっと増えていた。
 とはいえ、ゴブリン一体分よりも少ないくらいだ。


 このぐらい早くできるのなら、効率はいいかもしれないが……確かにやる必要性はなさそうだな。


「次のクエストも受けるか?」


 アイテムを見ていたので、俺は心で「ああ」と返事をする。それでもちゃんと話は進んだ。


 VRRPGをやっていると、いちいち口で技名を言っている余裕がなくなるときがある。
 だから、心の中で発動するようにするのは最低限の能力だ。瑞希曰く「そんな簡単なものじゃない」だそうだ。


 毎日やってれば知らない内にできるようになってる。
 口に出すほうが楽なので戦闘中以外は声に出すか。


 おっちゃんは力強く腕を組み、なぜか頷きながら説明を始める。


「次は魔物の倒し方だ。まずは魔物には弱点部位がある。ここを攻撃すると通常よりもダメージが通りやすくなるからな。白い光が出たらそれはクリティカルだ。弱点部位への攻撃はクリティカルが出やすい。威力も半端ないからそりゃもう、うひゃひゃと言いたくなるくらいのダメージをたたき出す」


「そうか」


「そんじゃ今からスライムを出すから、弱点部位の目玉を攻撃してくれよ」


「……出すのか、出せるのか?」


 一体どんな職業だったのだろうか。彼の冒険者時代が気になる。


「でりゃっ!」


 気合の一声と共に、おっちゃんが拳を突き出すと確かに目の前にブルースライムが現れた。
 丸に近い体をべちゃべちゃと弾ませながら、白い目のようなものがこちらを見つめてくる。


 始まりの草原にも出るらしいが、俺はまだ出会っていなかったモンスターだ。


「弱点は目だぞ~、忘れるなよ~」


 おっちゃんは呪いをかけるような感じで何度もつぶやく。
 ブルースライムは上下に跳ねてから、


「スラッ!」


 声をあげて、突撃してくる。大して速くはない。
 スライム系の攻撃は、剣で正面から受けると柔らかい体のせいで形が歪み、完全に防御できない。


 だから剣を突き刺すようにして、ブルースライムの突進の横に添える。
 これにより、スライム類は剣の腹を滑る。


 だからと言って、剣の鍔までいくと危険だ。
 頃合を見て、剣を振り上げると、スライムはミサイルのように打ち上げられる。


 ブルースライムは勢いよく宙に投げ出され、俺は着地点に合わせて突っこむ。
 ダメージがどれだけ増えるのか分かりやすくするために、まずは弱点ではない場所を斬る。


 水を斬る何とも微妙な感触と共にスライムの体力は3分の1ほど減る。


「だから、弱点は目だって言ってるじゃん! 聞いてっ」


 黙れ露出野郎。
 命令に従うのはかなり嫌だったが、予定通り二つの白い目の片方に剣をつきつける。


 ゼリーにスプーンを入れるような感触。


 白い目に当たるとガラスを割るような音と共に、スライムがのけぞり体力バーがなくなる。
 運がいいのか、剣が白い光を放つ。クリティカルだ。


(……うひゃひゃ)


 そういえばゴブリンとの戦闘中にも、白い光が出ていたな。あれはクリティカルだったのか。
 一つの疑問が氷解したところで、満足そうに頷いているおっちゃんの前に移動する。


 クリティカルが出てしまったので、正確なダメージ量は分からないが1.5倍か2倍程度だと考えておこう。


「よし、お前にはポーションをやろう!」


 また同じポーションを10個ずつもらった。
 Lv1のポーションなんてそれほど高くないぞ。このおっちゃん実は貧乏か?



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