Unlucky!
第二話 ログイン
広い平原に立っていた。
ここはまだキャラクターを決める世界なのだが、平原はかなり作りこまれている。
時々吹く風、それに揺れる木々。相変わらずVR世界は凄い。もう一つの現実と表現される理由も頷ける。
景色を楽しんでいる場合ではない。俺の眼前にはメニュー画面がある。
『フィニスオンラインへようこそ。ここではあなたの名前と容姿と種族を決めてもらいます。[トリップ]に登録されている容姿データを選択してください』
頭の中で容姿データに登録されているアキタカを選択する。
赤羽空栄が俺の本名だ。
パッと目の前に現れたのはデータの俺だ。
現実と同じで、髪が目元にまでかかっている。切ろうと思っていたらそのまま夏休みになってしまったのだ。
こうなれば夏休みの終わりまでは切らない。
身長は179cm、太っているわけでも痩せているわけでもない普通の男がそこにいた。
毎日学校で訓練をさせられるだけあって、筋肉はしっかりとついている。膨れ上がったような筋肉ではないが。
さすがにそのまま使うのは現実世界で生活を送る際に、何かしらの事件に巻き込まれる危険性があるので、面倒だが多少いじるか。
性別なども変えられるらしい。体が変わると戦いにくいのでそんな無茶はしないが。
太っている人なら痩せた体型にできるが、俺にそれは必要ない。身長も多少はいじれるようだが、大きく変化は出来ない。
大きな変化を与えると操作が難しくなる。下手をすれば、仮想世界の体に慣れてしまい、現実世界でうまく動けないなんてこともある。
体をいじると多少違和感も生まれるんだよな。それで、あ、この人いじくったなってなんとなく分かる。
俺が変えるのは目と髪の色程度か。
ベースは黒だが、僅かに赤色を混ぜる。
瞳は、灰色と青の中間のような色にして完成。
あまり、変わっていないがこれでいいのだろう。
名前はソラを選択するとまだ誰も選択していなかったのか、これで決まりだ。
空栄の空をとって、ソラ。分かりやすいのは好きだ。ひねくれた問題は嫌いだ。
『その名前は既に使われています』
ダメらしい。
チッ、やめてやろうか。面倒なのでソラソラにした。
今度は……大丈夫なようだ。
新たな画面に進む。青色のウィンドウには、
『種族はどうしますか?』
八つの中から迷いなく人間を選ぶ。
選択する際に種族の人口がグラフで出ている。一番多いのは獣人、次点で竜人だ。
瑞希の言っていた武器人は三番で、人間は圧倒的なビリだ。
それでも僅かにいるようだ。
『武器を選んでください』
ウィンドウには様々な武器のマークが映っている。
俺は剣とハンドガンを選択する。最初のお試し武器か。個人的にはナイフのほうが経験は多いのだが、まあ、後でも変えられるだろう。
いくつでも選んでいいらしいが、後で破棄するのが面倒なので二つでやめておく。
『武器をアイテム欄に入れておきましたので、街についてから確認ください』
『続いて職業を決めてください』
迷わず空戦士を選ぶと説明が出る。
空戦士
HP、MPのバランスがよくどんな戦場にも対応できる。
公式の説明は随分と過剰に書かれているんだな。その実態は器用貧乏なのに。
『続いて、スキルポイントの割り振りです』
チュートリアルを受けるかどうか聞かれたので、いいえを選択。だいたいやり方は分かっている。
1のスキルポイントが貰えるが、割り振りは後にする。一度戦闘を行ってどんなモノか調べたい。
『最後に、初心者応援金として3000ポイントが贈られます』
ポイントとはゲーム世界の金だ。
これでようやく終わりか。首を捻り、軽く運動をしていると、
『現在、このゲームはログアウト不能になっています。ゲームクリアと共に解放されます。クリア条件は世界にいる四体のドラゴンを討伐し、ラストダンジョンへの道を開き、ラストダンジョンをクリアする必要があります』
設定と現状の説明が終わると、景色が変わった。
なるほどな。本当にクリアすることで脱出できるのか。そうなると犯罪者が何を考えているのか予想できない。
ゲームに閉じ込められた人間を使い脅迫でもするのかと考えていたが、そうじゃないとなると目的が想像できない。
……細かいことは外の人間に任せればいいか。
さっきまでどこぞの荒野にいた俺だが、ログインが終わり、今はファンタジー風の街中にいた。
長方形の石を敷き詰めて造ったような道。どの建物も茶色に近い色だ。
高層ビルなんてないが、立派な外観の石の建物がいくつも並ぶ。リアルすぎる建物だ。
試しに触れてみると、ざらざらとした感触の後。続いて襲ってくるのは冷たさ。
実にリアルだ。ずっと触っているとじんわり熱も持つし。
道を歩いているプレイヤーが視界に入る。着ている服は青のTシャツに青の短パン。靴はサンダルで、海にでも行くのかと不思議になるくらいにラフな格好だ。
そういう俺も黒のTシャツに黒の短パン。どうやら、容姿データに登録しておいた好きな色がそのまま初期装備の色になっているようだ。
アイテム欄を確認すると、『疲れた剣』、『疲れたハンドガン』、それと『通常弾Lv0×∞』が消費アイテム欄に収まっている。
とりあえず剣を装備してから、ウィンドウを閉じる。鞘に収まった剣が腰に出現する。軽く手に持ってみるが真剣に比べると軽い。
鞘から抜き、空を斬る。『疲れた剣』だけあって、銀色の刀身の所々に泥がついたような微妙な色をしている。
まずは街について知っておくか。
地図を意識すると視界の隅に出現。さらに集中すると周囲だけが表示された簡易な地図から、街全体を表す地図に切り替える。
地図の隅には簡単に街の特徴が書かれている。
『第一の街ファスト。東と西が川で分かれている都市。冒険者の拠点として知られている』
だそうだ。
全体地図を見ると、確かに中央には川があり何本か橋があるのも分かる。
瑞希は名前はスイにするとか言っていたか。
コールを選択すると、電話かテレビ電話か選択できるのでとりあえず電話にして、相手の名前を入れる。
数回のコール音の後にスイに繋がる。
「あーあ、瑞希か?」
『ええと、誰ですか?』
帰ってきたのは聞き覚えのない男の声だ。男としてログインできるわけもないので、考えられるのは名前が先をこされてしまったのだろう。
「悪いな。知り合いと合流する予定だったんだが、名前が違ったみたいだ」
『あ、いえ、大丈夫ですよ。その、頑張ってください』
特に文句を言われることもなく、コールを終了する。いい人だ。いちゃもんつけられたら、どうしようかと楽しみにしていたんだが。
それよりも、人がそれなりにいる。このままここで佇んでいるのもあれだ。
どこに向かうか地図を開く。近くに中央広場があるのでひとまずそこを目標にする。
西地区と東地区に分かれたこの街はそれぞれの地区に中央広場がある。これから俺が向かうのは西地区の中央広場だ。
案の定すぐについた。
広場の中央には噴水があり、ベンチなどもあり休憩所としても利用できそうだ。噴水広場でいいな、ここは。
食事の際に使ったりするといいかもしれない。
広場に踏み込むと、人が多くいるのが分かる。噴水を囲むようにして、店を構えている人たちだ。
ここは商売場所として利用されているようだ。
様々な種族の人間が近くの客に対して呼びかけを行っている。
(ん……?)
噴水の向こう側――俺に背を向けた状態で三人ほどの女性がいるのが分かった。それぞれが、露天の商品へ目を向けていて、俺ががん見しているのに気づいていない。いい尻だ。
その一人であるショートカットの髪を赤く染めた女性の後ろ姿は、
(瑞希……か?)
どうにも似ている。普段から何度も見かけているので、そう簡単に間違えるとも思えない。
俺は反射的に噴水の水を受け止める部分に、目から上だけを出した状態で身を隠してしまう。
三人か。
(まさか。あれがネトゲ友達か?)
人数は聞いていないが、瑞希があれだとすると可能性はゼロじゃない。……最悪だな。
いや会おうと思っていたんだが、瑞希だけだ。他のヤツらとはあまり関わりたくない。
瑞希の友達というのなら、全員金持ち仲間である可能性が高いからな。
あまり関わりたくない。厄介な事件に巻き込まれる危険がある。
瑞希は俺と二人だけで合流するというわけではなく、初めからこういうことだったらしい。
さて、どうするか。いくら瑞希の勝手な行動だからって、他の人間は悪くない。
(……勝手な)
逃げるか。瑞希以外と会うのは面倒だ。どうせ、金持ちの友達だろう。
「……NPC?」
逃げ出そうとした、俺の背中に声がかかった。
小首を傾げながら、オレンジのサイドテールを揺らした女の子だ。
ここはまだキャラクターを決める世界なのだが、平原はかなり作りこまれている。
時々吹く風、それに揺れる木々。相変わらずVR世界は凄い。もう一つの現実と表現される理由も頷ける。
景色を楽しんでいる場合ではない。俺の眼前にはメニュー画面がある。
『フィニスオンラインへようこそ。ここではあなたの名前と容姿と種族を決めてもらいます。[トリップ]に登録されている容姿データを選択してください』
頭の中で容姿データに登録されているアキタカを選択する。
赤羽空栄が俺の本名だ。
パッと目の前に現れたのはデータの俺だ。
現実と同じで、髪が目元にまでかかっている。切ろうと思っていたらそのまま夏休みになってしまったのだ。
こうなれば夏休みの終わりまでは切らない。
身長は179cm、太っているわけでも痩せているわけでもない普通の男がそこにいた。
毎日学校で訓練をさせられるだけあって、筋肉はしっかりとついている。膨れ上がったような筋肉ではないが。
さすがにそのまま使うのは現実世界で生活を送る際に、何かしらの事件に巻き込まれる危険性があるので、面倒だが多少いじるか。
性別なども変えられるらしい。体が変わると戦いにくいのでそんな無茶はしないが。
太っている人なら痩せた体型にできるが、俺にそれは必要ない。身長も多少はいじれるようだが、大きく変化は出来ない。
大きな変化を与えると操作が難しくなる。下手をすれば、仮想世界の体に慣れてしまい、現実世界でうまく動けないなんてこともある。
体をいじると多少違和感も生まれるんだよな。それで、あ、この人いじくったなってなんとなく分かる。
俺が変えるのは目と髪の色程度か。
ベースは黒だが、僅かに赤色を混ぜる。
瞳は、灰色と青の中間のような色にして完成。
あまり、変わっていないがこれでいいのだろう。
名前はソラを選択するとまだ誰も選択していなかったのか、これで決まりだ。
空栄の空をとって、ソラ。分かりやすいのは好きだ。ひねくれた問題は嫌いだ。
『その名前は既に使われています』
ダメらしい。
チッ、やめてやろうか。面倒なのでソラソラにした。
今度は……大丈夫なようだ。
新たな画面に進む。青色のウィンドウには、
『種族はどうしますか?』
八つの中から迷いなく人間を選ぶ。
選択する際に種族の人口がグラフで出ている。一番多いのは獣人、次点で竜人だ。
瑞希の言っていた武器人は三番で、人間は圧倒的なビリだ。
それでも僅かにいるようだ。
『武器を選んでください』
ウィンドウには様々な武器のマークが映っている。
俺は剣とハンドガンを選択する。最初のお試し武器か。個人的にはナイフのほうが経験は多いのだが、まあ、後でも変えられるだろう。
いくつでも選んでいいらしいが、後で破棄するのが面倒なので二つでやめておく。
『武器をアイテム欄に入れておきましたので、街についてから確認ください』
『続いて職業を決めてください』
迷わず空戦士を選ぶと説明が出る。
空戦士
HP、MPのバランスがよくどんな戦場にも対応できる。
公式の説明は随分と過剰に書かれているんだな。その実態は器用貧乏なのに。
『続いて、スキルポイントの割り振りです』
チュートリアルを受けるかどうか聞かれたので、いいえを選択。だいたいやり方は分かっている。
1のスキルポイントが貰えるが、割り振りは後にする。一度戦闘を行ってどんなモノか調べたい。
『最後に、初心者応援金として3000ポイントが贈られます』
ポイントとはゲーム世界の金だ。
これでようやく終わりか。首を捻り、軽く運動をしていると、
『現在、このゲームはログアウト不能になっています。ゲームクリアと共に解放されます。クリア条件は世界にいる四体のドラゴンを討伐し、ラストダンジョンへの道を開き、ラストダンジョンをクリアする必要があります』
設定と現状の説明が終わると、景色が変わった。
なるほどな。本当にクリアすることで脱出できるのか。そうなると犯罪者が何を考えているのか予想できない。
ゲームに閉じ込められた人間を使い脅迫でもするのかと考えていたが、そうじゃないとなると目的が想像できない。
……細かいことは外の人間に任せればいいか。
さっきまでどこぞの荒野にいた俺だが、ログインが終わり、今はファンタジー風の街中にいた。
長方形の石を敷き詰めて造ったような道。どの建物も茶色に近い色だ。
高層ビルなんてないが、立派な外観の石の建物がいくつも並ぶ。リアルすぎる建物だ。
試しに触れてみると、ざらざらとした感触の後。続いて襲ってくるのは冷たさ。
実にリアルだ。ずっと触っているとじんわり熱も持つし。
道を歩いているプレイヤーが視界に入る。着ている服は青のTシャツに青の短パン。靴はサンダルで、海にでも行くのかと不思議になるくらいにラフな格好だ。
そういう俺も黒のTシャツに黒の短パン。どうやら、容姿データに登録しておいた好きな色がそのまま初期装備の色になっているようだ。
アイテム欄を確認すると、『疲れた剣』、『疲れたハンドガン』、それと『通常弾Lv0×∞』が消費アイテム欄に収まっている。
とりあえず剣を装備してから、ウィンドウを閉じる。鞘に収まった剣が腰に出現する。軽く手に持ってみるが真剣に比べると軽い。
鞘から抜き、空を斬る。『疲れた剣』だけあって、銀色の刀身の所々に泥がついたような微妙な色をしている。
まずは街について知っておくか。
地図を意識すると視界の隅に出現。さらに集中すると周囲だけが表示された簡易な地図から、街全体を表す地図に切り替える。
地図の隅には簡単に街の特徴が書かれている。
『第一の街ファスト。東と西が川で分かれている都市。冒険者の拠点として知られている』
だそうだ。
全体地図を見ると、確かに中央には川があり何本か橋があるのも分かる。
瑞希は名前はスイにするとか言っていたか。
コールを選択すると、電話かテレビ電話か選択できるのでとりあえず電話にして、相手の名前を入れる。
数回のコール音の後にスイに繋がる。
「あーあ、瑞希か?」
『ええと、誰ですか?』
帰ってきたのは聞き覚えのない男の声だ。男としてログインできるわけもないので、考えられるのは名前が先をこされてしまったのだろう。
「悪いな。知り合いと合流する予定だったんだが、名前が違ったみたいだ」
『あ、いえ、大丈夫ですよ。その、頑張ってください』
特に文句を言われることもなく、コールを終了する。いい人だ。いちゃもんつけられたら、どうしようかと楽しみにしていたんだが。
それよりも、人がそれなりにいる。このままここで佇んでいるのもあれだ。
どこに向かうか地図を開く。近くに中央広場があるのでひとまずそこを目標にする。
西地区と東地区に分かれたこの街はそれぞれの地区に中央広場がある。これから俺が向かうのは西地区の中央広場だ。
案の定すぐについた。
広場の中央には噴水があり、ベンチなどもあり休憩所としても利用できそうだ。噴水広場でいいな、ここは。
食事の際に使ったりするといいかもしれない。
広場に踏み込むと、人が多くいるのが分かる。噴水を囲むようにして、店を構えている人たちだ。
ここは商売場所として利用されているようだ。
様々な種族の人間が近くの客に対して呼びかけを行っている。
(ん……?)
噴水の向こう側――俺に背を向けた状態で三人ほどの女性がいるのが分かった。それぞれが、露天の商品へ目を向けていて、俺ががん見しているのに気づいていない。いい尻だ。
その一人であるショートカットの髪を赤く染めた女性の後ろ姿は、
(瑞希……か?)
どうにも似ている。普段から何度も見かけているので、そう簡単に間違えるとも思えない。
俺は反射的に噴水の水を受け止める部分に、目から上だけを出した状態で身を隠してしまう。
三人か。
(まさか。あれがネトゲ友達か?)
人数は聞いていないが、瑞希があれだとすると可能性はゼロじゃない。……最悪だな。
いや会おうと思っていたんだが、瑞希だけだ。他のヤツらとはあまり関わりたくない。
瑞希の友達というのなら、全員金持ち仲間である可能性が高いからな。
あまり関わりたくない。厄介な事件に巻き込まれる危険がある。
瑞希は俺と二人だけで合流するというわけではなく、初めからこういうことだったらしい。
さて、どうするか。いくら瑞希の勝手な行動だからって、他の人間は悪くない。
(……勝手な)
逃げるか。瑞希以外と会うのは面倒だ。どうせ、金持ちの友達だろう。
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