Unlucky!

木嶋隆太

第四話 登録



 彼女の名前は『スイスイ』。俺はソラソラ。


「初めは泣きたくなったわ。でも、今は幸せな気分よ」


 俺は現在進行形で泣きたいよ。お前と思考レベルが一緒だなんて。


「そうかい。深く聞くのはやめておく」


 瑞希が俺の家で言っていたことを思い出す。
 現実で知り合ったのが先がどうとか。


「そういえば、瑞――スイスイが現実でも知り合いだって言ってたな」


「ええ、同じ学校の生徒。中学が同じで、ゲームやってるのが分かって一緒に話すようになったのよ」


 そう言いながらもスイスイは手を虚空で動かす。動きが止まると俺の脳内にぴこーんと音がなる。


『スイスイさんからフレンド登録の申請が来ました。登録しますか』


 眼前にウィンドウが表示され、YESかNOか選択できる。


「NOだな」


「しなさい」


 瑞希は腰に片手を当てて、余った手で髪をかきあげるような格好で弱く睨んでくる。
 仕方ない。YESをタッチする。別段変わったことはない。


 メニュー画面を開き、フレンドを開くとスイスイが一番上に表示されている。


「これでいいのか? 何も変わったところがないんだが」


「大丈夫よ。コールするのが簡単になるくらいしか有効活用できないわ」


 言いたい放題だな。スイスイをタッチすると、電話かメールどちらかをするか聞かれるのでNOにする。
 また、脳内で音がなる。こちらに小さく片手を振っているのはオレンジ。


 ちゃっかりフレンド登録を送ってきたな。できる。
 何も言わずに登録しておく。


「そういえば、お前武器人って種族にしたんだよな? 他のヤツらと比べて変化が見られないんだな」


 悪魔人のオレンジは尻尾、森人の銀髪は耳が長い、金髪の子


「基本的には普通の人間よ。だけど、種族能力は高いわね」


「ふーん」


 ちゃっかりフレンド登録を送ってきたオレンジの方をちらと窺うと、視線がぶつかる。
 唇の辺りに人差し指を置いたオレンジは、


「……おなか、すいた」


 聞かなかったことにしよう。食料にされたら困るからな。


「ねぇ、アキ兄に聞きたいことがあるのよ」


「なんだ?」


「外とこの世界の時間が違うらしいのよ。ログアウト不能になったときに説明があったわ」


 それは初耳だ。瑞希は肩の辺りまでの髪をかきあげると、少し固い表情で、


「今、私たちはこっちに来てから一日が経ったわ」


 メニュー画面を開くと、二日目と表示される。
 ……どうやら、嘘ではないようだ。


「……そうなのか。俺は約束どおり午後の一時ちょっと前にログインしたぞ」


「そう……」


 なるほどな。ゲームと現実の時間がリンクしていないのは嬉しい誤算だ。
 ゲームクリアに何年もかかってしまえば、俺たちが現実に戻ったとき果たして体は無事なのかという事態に直面してしまう。


「少し聞きたいんだが、他のプレイヤーはどんな感じだ?」


 状況を知りたかった俺は、極力他の連中に聞かれないようにぼかしながら言う。
 付き合いが長い瑞希は敏感に察知し、俺の耳元に顔を近づけてくる。


「た、確かにログアウト不能だと分かったときは焦っていた人が多かったわね。でも、掲示板に発表された内容を見て比較的落ち着いてるわね。ゲームクリアが解放条件でデスゲームではないのだから、当然といえば当然よね」


 瑞希は言い終わると赤く染まった横顔をぷいっと俺に見られないように隠す。
 すでに見てしまったが、気づかなかったことにしてやろう。


 瑞希は俺に背中を向けながら、


「アキ兄はこれからどうするの? 私たちは明日の都市解放戦のためにレベル上げに向かうつもりだったのだけど、一緒に行動する? むしろしたいわよね」


「いや、遠慮しとく。レベル差をプレイヤースキルで補えるのは知ってるが……寄生したくはないからな」


「……わかったわ。なら、追いついたら言いなさい。私の今のレベルは14だから」


「あいよ。精々努力するさ」


 これで、会話も終わり俺たちは別々になる。と思いきや面倒そうな二人に睨まれる。オレンジと瑞希を除いたヤツらだ。銀髪のからかいやすい子に睨まれるのは理由が分かるが、もう片方は何もしてねぇぞ。


 瑞希があっと短く声をあげる。顔からすでに赤みは消えている。


「自己紹介してなかったわね。金髪の子がフィリアム。それで、銀髪の子がチビ」


 瑞希はニヤァと自分もあまり大きくないくせに嫌味たっぷりな視線だ。


「チビじゃないー! 私はヒメっ。お嬢様にふさわしい名前なの」


 えへんと絶壁を誇る。確かに頭上に表示されている名前はヒメだ。


「おい、チビ。フレンド登録が送れないぞ。名前間違ってるだろ」


「チビで送るなぁ! ヒメ、もうっ、私から送るっ」


「ヒメっと。知らないヤツのは拒否」


「私よー!」


「冗談だ」


「『拒否されました』って返事が来たっ!」


「おっと、うっかり手が滑っちまったようだ。よし、リトライだ」


「ムカつくなぁ、もう!」


 次はちゃんと登録する。
 疲れたように額の汗を拭う仕草をするチビの肩に手を置く。


「ご苦労様」


「ほんとにね!」


 キッと鋭く睨まれ、手を払われた。同時に回転してツインテールが俺の腹を打つ。ダメージはない。
 獣のような唸り声をあげながら、オレンジの後ろに隠れている。


「……よしよし」


 チビといわれるのは嫌なくせに、オレンジに髪を撫でられて喜ぶのはいいのだろうか。子供のような扱いをうけているんだが。


「フィリアム。あなたはいいの?」


 瑞希に言われ、ふんっと鼻を鳴らして顔を横に向ける。金髪ロングが綺麗に空に舞う情景は中々に幻想的だ。
 睨む水色の瞳がやけに彼女に合っている。


「……別にいいわよ」


 と言われたので、去ろうとすると。


「んじゃ、ばーい」


 片手をあげて、広場を後にしようとしたら。


『フィリアムさんから友達登録申請がきました。登録しますか?』


 別にいいって、登録してもいいほうかよ……。
 俺がチラとフィリアムの方へ視線をやると、強気な目とかち合う。


 ばちばちと火花のようなモノが飛んできたので回避する。


「あんたには絶対負けないからっ!!」


 金髪の髪を暴れさせ、怒鳴り去っていく。一方的なライバル宣言……勝手な。


「アキ兄。もしもレベルが15くらいまであがったら、明日の都市解放戦に参加するわよね?」


「あがらないように調整する」


「……はぁ。ちゃんと後でパーティー組みなさいよ」


「そのうちな」


 はぁと瞳を閉じて、眉根を寄せる。皺ができるぞ。


「……今のアキ兄はツンデレのツン期なのよ。ええ、そう。だから、いつかはきっとデレるはずだわ」


「ぼそぼそと言ってるつもりかもしれないが、丸聞こえだぞ」


 誰がツンデレだ。一生デレるつもりはねえぞ。
 さっと振り返り、セミロングの髪を風に乗せ、


「さっさとデレなさいっ!」


「ゲームと現実の区別をつけてくれ」


 犯罪者にならないことを祈る。


「言いたいことはそれだけよ」


「どう考えても最後の一言が余計だったな」


 瑞希は一応あれでもあのパーティーのリーダーなのか他の人間を引き連れていく。
 オレンジがちらとこちらを向いて、かすかに左右へ揺らす。手を振っているようだ。


「……ばい」


「きん」


「……まん?」


 ……オレンジは首を捻りながら瑞希についていった。あいつは、なんていうか独特な空気を持ってるな。
 これからどうするか、ね。


 ひとまずは適当にレベルあげだな。この世界にログインしただけで、俺の目的は達したようなモノだ。
 のんびり、まったりゲームを楽しむか。



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