黒鎧の救世主

木嶋隆太

第六十一話 ブラックオーク

「お前はどのくらい戦えるんだ?」


 先に聞いておかなければならない。智也がどれほどサポートするべきか、判断するためだ。


『精霊を体に纏わせて戦うんだよっ、ほら、こうやって』


 すると、彼女の体から青い光のようなものが放たれる。


『この状態だと、筋力があがるけどあんまり期待しないでね、か弱い乙女だからねっ』


 そういって、近くにある石を掴み握りつぶした。ぱらぱらと彼女の手から、石だったものがこぼれ落ちる。か弱い乙女は石を割れるらしい。


「援護できるような魔法は持っていないって感じか」


 それでもこれだけ戦えるなら、筋力だけならクリュ並みと考えられる。心配が減った。


『あたしの体を中心に放つ魔法はいくつかあるよ。接近戦魔法しかないってことだよ』
「分かった。お前は、とにかく自衛に専念してくれ。俺が敵は倒す」
『分かったよっ。バコーンってやっつけるね』


 意気揚々と、ハーモニアさんが拳を荒々しく振って精一杯やる気を表現している。


『あそこだよ』


 ハーモニアさんが指差した場所には確かに洞窟があった。近くの茂みに身を潜み、洞窟に注視する。


「確かに、敵の気配らしきものがあるな」


 何かが動くのが洞窟の中から感じられる。スキルで何かあるわけではないが、なんとなく分かる。智也の言葉を聞いて、ハーモニアさんがホッと息を漏らした。


『そ、そっか、よかったぁ。で、でもどうするの? あたしの予知だと魔物がどばーんっていっぱいいたんだよっ』
「あの洞窟は破壊しても構わないか?」
『うん、誰も使ってないしね』


 智也はそれを聞いてから、先程の手榴弾を右手に作る。左手には閃光手榴弾だ。どちらも真っ黒で目印は特にない。
 ハーモニアが首を捻る。


『それなに?』
「爆弾だ、いや、爆弾で分かるか?」


 ハーモニアさんは悩むように顎に人差し指をあて、ポンと手を打って目をきらきらする。


『どかーん?』
「どっかーんだな」


 両手に生み出した手榴弾を洞窟に投げ込む。一つ二つの煙があがり、中から悲鳴が漏れているのが分かる。何度も手榴弾と閃光手榴弾を投げ、敵の視界を潰しながら攻撃していく。
 せこいと思われようが、こちらの有利を最大限利用しない手はない。せっせと手榴弾を投げ込むと、中から生き残った数体の魔物が飛び出し、同時に洞窟は崩れ落ちた。


 出てきた敵へ同情の息を吐きながら、右手に剣を生み出して軽く振るう。


 ゴブリン、オーク――背丈は人間と変わらないが、以上に発達した筋肉が目立つ――ブラックオーク。
 そして、ゆっくりとした足取りで、周囲を睨むブラックオークの威圧感は鋭く肌を殴りつけてくる。体の半分が黒く、頭の左からは弓のような形をした角が生えている。その顔は人間にもっとも近い。


『ブラックオーク……強そうだね』
(確かに、そうかもしれないが)


 だが、不思議と恐怖はない。恐らく、実力にそれほど差はないのだ。
 クリュでもないのに、体がうずいてきそうで、人のことをバカにできないなと内心思う。
 ブラックオークは慌てた奇声をあげるオークとゴブリンを睨んで、黙らせる。魔物たちの力関係がよく分かる。


「そこか。出て来い、腐った人間よ」


 ブラックオークは気配を探る術に長けているようで、茂みに隠れていた智也はハーモニアと顔を見合わせる。


「戦いになったら、俺はブラックオークを吹き飛ばす。だから、雑魚は任せたぞ」
『まっかせて! ぶ、ブラックオークは怖いから任せたよ!』
「ああ、絶対に倒してやるよ」


 ハーモニアさんに約束をして、茂みを出てブラックオークを睨みつける。残ったオークとゴブリンが声をあげるが、ブラックオークの目によって止められる。


「人間か、まだ生き残っていたとはな。里から逃げたのか?」
「里に奇襲をかけたらしいが、あっちには優秀な人間が多いし今頃全員死んでいるんじゃないか? 様子を見に行きたかったら行けばいいさ。いや、死んでたなら、もうすぐ会わせてやるけどな」


 智也は後ろ手に剣を作り、ブラックオークに向けて、挑発するように笑ってやる。魔王に関する情報が手に入るかもしれないと、調査を発動すると、


 Lv? ライガル MP? 特殊技 ?
 腕力? 体力? 魔力? 速さ? 才能?
 スキル ? ? ?
 儀式スキル ?


(魔物なのに、ステータスがある? それに、ライガル、これは、人の名前なのか?)
「ライガル、あんたは人間なのか?」


 智也の発言にライガルは、表情に怒りを表す。


「調査か、他人を覗くくだらない技だな。ああ、そうだ、だがそれがどうした?」
「人間が、ブラックオークになって、人間を殺すのか? くだらない話だ」


 とにかく、挑発することが大事だ。冷静さを失えば攻撃は単調になり、捌きやすくなる。口に出すだけなら、いくらでもできるので、戦いを有利に進めるために智也は嫌味を存分に言ってやる。


「くだらない、か。それは人間だ。俺は死ぬまで、人間を助け、世界を回っていた。だが最後には人間たちに殺された。塔迷宮の中で、仲間たちに裏切られてな」
「それで、恨んで復讐ってか。小さい奴だな」
「圧倒的な力を持つ俺は、助けた人間に殺された。ふざけるなよ、俺の一生はなんだったんだ。一度死に、魂を魔王様に救ってもらった。俺はこの世界を破壊する」
(魔王様、ね。やっぱり、この世界に危険が近づいているんだな)
「誰かに感謝してもらいたくて、人助けなんかしてるからだろ。寝言は目を開けながら言うモノじゃないぞ」


 智也が言ってやると、ブラックオークの顔が僅かに動く。元、人間だっただけあり、思考が十分にあることが仇になっている。


「死ぬがいい人間、人間と魔物の力。ただの愚かな人間に止められると思うか!」


 ブラックオークが一際大きな声をあげたところを狙って、覚醒強化を発動する。
 大地を蹴り、砂を巻き起こす。ブラックオークの体を掴み、さらに加速する。離れた場所まで行き、木に叩きつける。これで分断に成功した。


 智也は一度距離をとると、ブラックオークの拳が迫る。上体をそらし、覚醒強化を活かして拳を放つ。頑強な体に殴った拳が悲鳴をあげる。
 左から右へ。体重を乗せた右回し蹴りが智也へ迫り、慌てて後方へ逃げる。格闘ではほぼ互角だと分かり、智也は引きつった笑みを浮かべながらも、内心勝つ方法を企てる。


「格闘では、時間の無駄だな」


 ブラックオークは背中に装備している長剣を抜き放ち、一度、二度素振りをする。智也も両手を後ろに回して、二本の剣を構える。
 ブラックオークは何も言わずに、瞳をつり上げる。口元に狂ったような笑みを貼り付ける。


 剣と剣がぶつかり、火花を散らせる。力負けし、剣が空中へ。智也は慌てずに弾かれた剣を解除し、敵の攻撃を避ける。回し蹴りを足へと放ってやるが、受け止められる。カウンターの一撃を横に転がって回避し、残した手榴弾で敵の左半分を攻撃する。
 覚醒強化を使用して力が負けている――違う。まだ智也はこの力を完璧に使いこなせていないのだ。


 迷わず黒の鎧を発動し、剣の舞を放つ。ブラックオークは顔を顰めながらも、すべてを捌く。返しの刃に智也の攻撃の手が止まる。
 重い一撃に腕が悲鳴をあげるのを感じながら、歯と歯を合わせて足に力を込める。ブラックオークの力を逸らし平行に両手の剣を振るう。ブラックオークの頬をわずかに掠める。


 飛び出した血が僅かに飛び出る。
 お返しに放たれた蹴りをもらうが、智也も横腹を蹴り飛ばしてやる。
 両者が弾かれ、近くの木に背中をぶつけながら立ち上がる。覚醒強化が切れてしまう。
 まずいと思いながらも、智也には勝てるだけの算段が立っていた。


 敵の攻撃に対してのカウンターを、連続で成功している。敵が攻撃をしてくれば、負ける可能性は少ない。
 そこを軸に戦えば、覚醒強化がなくても十分に戦える。


 口にたまった血を吐き出し、智也は手の甲で口元を拭う。右手の剣を銃に変え、ゆっくりと立ち上がるブラックオークの体に放つ。 
 魔物がぶち切れたように、瞳は真っ赤に染まっている。すべての銃弾を弾き落とし、剣を振り下ろす。横に移動し、拳銃を手榴弾に変えて放る。爆風に巻き込まれたブラックオーク、煙の中から剣が飛び出す。
 左腕の鎧で受け、衝撃を無視してしゃがみながら、左足へとハンマーを叩き込む。怒りに任せてくれるのなら、そっちのほうが楽だ。


 それでも敵は怯まずに智也は地面へ叩き潰される。痛みに空気を吐き出すが
 痛みに怯み、次には顔面に足が迫る。横に転がりながら拳銃を生み出し、左足へ発砲。数発当たるが、体に向けた瞬間にあっさりと剣で弾かれる。なおも迫る敵の拳を避けるが、首への刃に危険を感じ無理やり回避して、鎧のない部分を切られる。
 痛みはあっても、弱気は見せない。数度の攻撃により、ブラックオークの動きは少しずつ鈍っている。智也は剣を持ち、余裕そうに言葉を吐き出していく。


「終わりなんだよ、これで」


 覚醒強化を発動し、黒の鎧を再度発動する。両方の使用は相当に体力が削られてしまう。


「終わり? くはは、死期の近さに気づいたか?」


 ブラックオークの安い挑発だ。


「あんたのなっ」


 ブラックオークが何度も攻撃を放ってくるが、すべて見える。一番の大振りが来たところで、剣を隙へと差し込む。
 ブラックオークは不意の一撃に剣を受け、顔を顰めて体をぐらつかせる。
 押しつぶすように、ハンマーへ変更する。
 ――巨大化させて重みで潰してみせる。
 ブラックオークは額から赤い血を流しながらも、魔物としての膂力を見せるように押し返してくる。


 ブラックオークの拳が迫り、それを避けることはできない。
 智也は弾き飛ばされそうな体を何とか堪えて、その場で回る。回転の力を乗せてハンマーを左足に叩き込むと、今度は剣で右腕を浅く斬られる。
 痛みに顔を顰め、逃げながら大量の手榴弾をばら撒き、閃光手榴弾も混ぜておく。爆風に飲み込まれ、ブラックオークの姿は見えなくなる。


 智也は逃げるように、近くの絶壁の岩に剣を突き刺し、そこを足場にブラックオークを見下ろす。


「そんな場所にいて、どうするつもりだ」


 手榴弾をいくつも喰らったくせに、まだ立ち上がる。智也はふうと息を吐き出し、飛び上がる。黒い鎧、覚醒強化の力により強化された筋力。右手に一本の槍を生み出し、力を溜め込み投擲する。


 投擲した槍は、目標であるブラックオークが反応するよりも早く空気を切り裂き、突き刺さる。突き刺さった槍を巨大化し、智也は地面に着地する。
 意識を集中し、敵を地面に縫いとめた槍をさらに巨大化させる。
 ブラックオークの体は槍を押さえきれずに、弾け飛ぶ。べチャべチャと地面に肉片が飛び散る。血と肉の破片が集まった大地を一睨みしてから、槍を消滅させる。


 戦いは終わり、静けさが場を支配する。確かに力のある敵であったが、それほど強くはない。
 智也が一歩を踏み出したとき、


「……す……ないっ」


 声が聞こえた気がした。背中に蛇がはうような感覚が襲い、冷や汗をどっと噴き出して振り返る。最後のあがきとばかりに、唯一残った右手が智也の足を掴む。
 大した力はない。足を動かして、思い切り踏み潰せば完全に消滅した。


 脅威の生命力に、智也は荒い息をついて、もう動かないのを確認する。治まっていた息が乱れて、智也は深呼吸。
 それと同時に、近くの茂みからハーモニアさんが飛び出してきた。


「ハーモニアさん、怪我はないか?」
『うん、全然問題ないよ』


 ハーモニアさんの体はどこも傷がない。それから嬉しそうに笑った。


『終わったんだよね。これで、みんな大丈夫なんだよねっ』
「魔物の脅威は多分去ったよ。だけど、里にいる敵はどうか分からない。急いで戻ろう」
『バッと行くよ!』


 ハーモニアさんは、体に精霊を纏い走り出し智也もその背を追う。
 里の近くまで来ると、里が静かになっているのが分かる。


 もう全滅してしまったのか? そんな嫌な予感をしてしまい、ハーモニアさんも分かったのか涙がぽろぽろとこぼれ鼻水も出そうになっている。


 ハーモニアさんを後ろにして、慎重に里の中に入る。どんな景色が広がっていても、ハーモニアさんを守るために、智也は武器を持つ。
 中に入れば、心配は無駄なことなのだとすぐに分かった。
 耳長族の人たちがいて、ハーモニアさんは近くにいる人を見て、涙交じりに声をあげる。


『みんなよかったよぉっ! えぐぅ……』


 青服兵の服が脱がされ、縛り付けられている。耳長族の人たちが囲むように見張りをしながら、余った人たちで怪我した人間を運んでいる。
 すでに青服兵は倒し終わったようだ。負傷者、死傷者、ともに出てしまったようだが小数で済んだ。マシなほうではあるだろう。


「あんた、遅かったわね。敵が多くてそれなりに楽しかったわよ」


 クリュが頬を押さえて、体をくねらせるように恍惚に笑う。具体的な状況を聞きたかったので、さくっとアリスに視線をずらす。


「状況はどうなってるんだ?」
「青服兵は全滅です。ただ、こちらは何人か怪我をして、耳長族の人が数人死んでしまいました」
『えっ……そ、そんな』


 ハーモニアさんがくしゃっと顔を歪めて、涙を溢れだす。アリスがあわわと慌てるようにこちらに顔をずらす。人の死に敏感な彼女をどうにかする手段はない。これは、少ない被害なのだから、むしろ安堵するべきなのだ。


 そんな風に考える智也がハーモニアさんを慰められるわけもないので、アリスからは見えないようにハーモニアさんとアリスの間に入る。
 ハーモニアさんが涙を拭おうと、智也の背中を掴みぐしゃぐしゃと拭く。鼻をかんだような音をあげて、智也はひくひくと頬を引きつらせる。


「ムロリエさんはどこにいるんだ?」
「あっちの家で、作戦会議をしてます。」


 背中で鼻水を拭っているハーモニアさんを引っぺがす気はなかったが、一歩前に踏み出す。すると、ハーモニアさんもついてきて、しっかりと顔を拭っている。地球の服じゃなくてよかった、後で捨てられる。
 クリュとアリスの無事を確認してから、智也はムロリエさんがいる建物の前まで来てノックしてから中に入る。


「トモヤくん、よかった無事だったか」


 ムロリエさんがほっと息を漏らしてくれて、智也は帰りが遅くなったことを詫びる。


「敵は、あそこの洞窟から、さらに西に行ったところにいるそうです。実際に見てきましたが、既に敵の拠点は破壊されていて、魔物はいませんでした」
「ふむ、なるほど。一度様子を見に行きたいところだけど……とにかく、トモヤくんは帰って休んでいいよ」


 ムロリエさんが明るく手を振ってくれたので、智也は失礼しますと頭をさげて家を去る。


『何で言わないの?』
「多少、警戒してもらっておいたほうがいいんだよ。俺だって全滅に出来たとは思ってないし、青服兵の狙いは精霊樹なんだ。また襲ってくるかもしれない」


 いまいちよく分からないようにハーモニアさんが首を傾げて見せたので、もっと直接的な理由を言ってやる。


「それに、目立ちたくないからな。俺は守りたいものを守っただけなんだ。俺の自己満足でやったことを誰かに話すなんて、恥ずかしくないか?」
『そういうものなの?』
「そういうものなんだ。お前も家族のところに戻ってやれ。きっと心配してる」
『しゅばって行ってくるね!』


 ハーモニアがニコッと満開の笑顔を咲かせて、長老の家へと走り去っていく。それを見てから、怪我人がいると言われている家に向かう。
 床に布団をしいて、苦しそうに横になっているぺテルブラさんを見つけ、


「ぺテルブラさん……死んでしまったんですね」


 智也は泣き真似をして、横になっているぺテルブラさんの横に腰を下ろす。着ていたコートは隅に置かれ、上半身は何も着ていない。騎士だけあって筋肉はかなりあり、傷口と思われる部位に包帯を巻いていた。包帯には回復丸の材料でもある緑草が塗りこまれたもので、内部の傷の治療ができる。


「動けない、だけ、だ……!」


 強がって体を起こそうとしたぺテルブラさんは次には表情を歪めて、布団に戻る。
 傷のほとんどは治っているようだが、ダメージが大きくて体が満足に動かせないようだ。一日も休めば、大丈夫なようだが。


「おやおや、威勢がよかったわりには情けない姿ですね」
「テメェみてぇに、肝心のときにいなかったよりかはマシだろうがっ!」
「お腹の調子が悪くて、森の中でトイレの時間でしたから。それはそうと、アリスを守ってくれてありがとうございます」


 ぺテルブラさんは敵の攻撃を受けるのが得意な、防御特化型の人間らしい。アリスも助けられたらしいので、こうしてお礼を言いに来たのだ。後は、日頃の鬱憤をぺテルブラさんにぶつけることで、ストレスを解消しているだけだ。


「う、うっせえ。たまたま近くにいたから、たまたま守っただけだっつの」


 ぺテルブラさんは無愛想に言い放ち、そして、目を瞑る。


「とにかくオレは休むから、邪魔すんじゃねえ」


 ぺテルブラさんは近くに転がっていた毛布を取って体にかける。智也もこれ以上何かをするつもりもないので、クリュとアリスと合流する。


「魔物は、どこよ」
「いないみたいだな」


 クリュが鼻をひくつかせ、ジトッと疑うような睨み。


「あんたから、血の臭いがする。魔物のね」
「……犬かよ。気のせいだろ」


 智也はドキッとしながら、片手を振り上げる。


「背中が凄い汚れてます」
「勝利の代償って感じだな」
「なら、その服は一生大事に取っておいてくださいね」


 アリスがニコッと笑い、智也も答えるように笑ってから近くの服屋に向かった。

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